バイト面接、見学
私の名前は小鳥遊ことり。
私は親に言いたい。
どうしてこんな可愛い、可愛くなければ成り立たないような名前を付けたのか、と。
しかしそう言うと、親は可愛いだろう? と自慢気であった。
私は今20歳、大学生。
容姿普通、成績普通、運動普通。
眼鏡を外せば……ということもなく(確かに眼鏡はかけているが)、
実はドジっ子ということもなく、
料理だけ壊滅的に出来ない、ということもない。
兄弟は、姉、弟がいる。
仲が悪いこともないが、特別良いということもない。
友だちはそれなりにいる。
ザ・普通 というのが私である。
唯一目立つことがあるとすれば、姉が滅茶苦茶美人で、弟が天才児ということくらいだろうか。
そんなわけで多少やさぐれていても許して欲しい。
むしろよくぐれなかったと褒めて欲しい。
私は今日、バイトの面接に来た。
家の郵便受けにバイト募集のチラシが入っていたのである。
日給100万のかなりの高給である。
え? そんなのあるわけないって?
絶対怪しいって?
大丈夫大丈夫!
私、こう見えてかなり危機管理能力高めだよ?
バイト先に着くと、私は上を見上げた。
大きなビルである。
というか、ここ滅茶苦茶大手じゃん?
ウンウン、安心だね?
えっと、ビルの裏口から入ってと書いてあった。
エレベーターがあるからと。
バイト募集のチラシを見ながらビルの裏側に回った。
ウーン、こんなところから入る人っている?
誰もいないし、従業員もこんなところから入っていないみたいだけど。
私はそこで、エレベーターを見つけた。
「あっ、あった」
確かにそこにあったのである。
突然発見したのである。
エレベーターのボタンの横の液晶板に手を押しつけるっと。
指紋認証みたいだなあ。
でも、指紋登録もしてないし。
エレベーターの扉が開いて、私は中に入った。
世界秩序管理局のボタンをポチッと。
ボタンを押して扉が閉まってから、何か動いている感じはしたが、上に昇っているのか、下に降りているのか、分からなかった。
ポーンと音がして着いたのが分かった。
扉が開く。
その後、長い廊下を進んだ。
様々な色形のドアがあった。
でもどれも違う。
ウーン、あ、これじゃない?
似たようなドアは幾つかあったけど、コレなのだ。
分からないけど、コレだって分かった。
私はそのドアをノックする。
「どうぞー」
中から声がして私はドアを開けた。
「失礼します」
中はごく普通のオフィスである。
少数の部署なのか、10人程度しかいない。
忙しそうである。
どこもかしこも紙の山が積み重なっている。
「こっちこっち」
「あ、ハイ」
私は手招きする男性の元に向かった。
対面で座る。
その男性は私より少し上くらいの歳に思う。
若くて優しげなイケメンである。
「えっと、合格!」
「あ、ありがとうございます?」
何だかよく分からないけれど合格である。
「それではまず、名前を決めようか」
「え?」
「ここでは皆愛称で呼び合っているんだよ?」
「そうなんですか」
「ここは上下関係も年も全く関係ないんだ。
皆ため口だし、ことりちゃんもため口でいいよ?」
「? そうなん?」
「ウンウン」
社風、というヤツなのだろうか……?
そのイケメン、通称『補佐っち』は、オフィスにいた人たちを集めて私の愛称を決めた。
「ことりってそのままで充分愛称っぽいからねえ」
という感じで結局私は『ことり』そのままとなった。
ことり、ことちゃん、鳥ちゃん等と呼ばれることになった。
「仕事はほとんど外なんだ。
じゃあ、鳥ちゃん、今日は実際に現場に行って、見学してもらうね!
ミオたんについて行って」
そう言って紹介されたのは、見た目小学3年生くらいの女の子。
「ミオよ。言っておくけど、私はことりよりもずっと年上なのだからね!」
「ウン、よろしくお願いします。ミオたん」
かなりの童顔のようであった。
「じゃあ、これを授けよう」
補佐っちは私の首に古めかしいネックレスを通した。
「何コレ?」
「今回の任務で必要なものなんだ」
「フーン?」
ミオたんは言う。
「じゃあことり、現場に行くからついてきなさい」
「はあい」
オフィスから廊下に出る。
様々な色形のドアが並ぶ廊下である。
その中でミオたんは迷いなく1つのドアに入っていった。
私も後に続いて入っていく――――――
――――
――
――――そこは、何か神殿のような場所であった。
というか、何故かめっちゃ注目浴びてるんですけどおおぉ…………。
中世ヨーロッパのような格好の10人くらいの外国人が私たちを囲むように見ているのであった。
そしてとても困惑している様子。
「――貴方方が、神の使徒…………ですか?」
髭の長い老人が私を見てそう聞くのに、ミオたんはハッキリと答えた。
「ええそうよ」
私はそんなミオたんを呆然と見る。
ミ、ミオたんんん!?
どゆこと!??
ミオたんは言う。
「魔物を退治すればいいのでしょ? 案内しなさい」
その言葉に老人は困ったように私を見る。
私がミオたんの保護者か何かだと思っている様子。
それにミオたんは少し苛立ったように言う。
「私が退治するのであって、その子は助手なの」
「ハイ、助手です」
私は素直にそう言った。
「そんな子どもが退治出来るわけがない」
誰かが失笑して言う。
「召喚は失敗したのか……」
「ああ、どうすれば…………」
何だか皆騒がしくなるのだった。
「どうでもいいけど、誰か早く案内してくれないかしら。
こっちは仕事で来てるのよ」
ミオたんがため息交じりにそう言うと、緊張した面持ちで一人の魔術師らしき人が近づき、皆に言う。
「魔術師である私には分かる! この子どもは途轍もない魔力を秘めている! 神の使徒、つまり天使なのだ。私は神殿の者ではないが、確か天使とは、子どものような姿ではなかったか!?」
その言葉に、髭の長い老人は言う。
「確かにそうだ!! 確かに天使様はそのように描かれることが多い! この方は天使様なのだ!!」
「我らは助かるのか!!」
「ああ、天使様!!」
「ご無礼をお許しください!」
再びざわつくのだった。
「別に構わないから、早くしてくれないかしら」
「はい! 今すぐに!!」
「こちらへ、どうかついてきてください」
そうすると、腰に剣を携えた鎧に着た騎士のような人が5人が先導してくれた。
そんな中、私はミオたんにコッソリ聞く。
「ミオたん……、私って何すればいいの?」
「これ、持ってて」
ミオたんは、亀の置物を取り出すと私に渡した。
「甲羅の真ん中が、スイッチになっているの。
押すと結界が張れるから、皆の所にいてこれ持ってて」
「ミオたんは……?」
「だから、私は魔物を倒すの!」
「大丈夫なん……?」
「楽勝よ」
「――ねえ、ミオたん、私、何だか色々とおかしなことに気づき始めたのだけれど、どうしよう……。私、何で、このバイトに何の違和感もなく入ったんだろう。
違和感だらけだよおお。ってか、ミオたん、童顔ってレベルじゃないじゃん!! ねえ、人間じゃないの!? もしかして、本当に天使様なの!?――――」
「――――うるさい!!!」
私の仕方がないので色々混乱してはいたが、今は大人しくついていくいくことにした。
その後…………
「うそーーーーん」
私は大声を出すでもなく、ただ思わず漏らすように言った。
もう10メートルはあろうかという化け物にミオたんは巨大な炎やら氷やらを放っている。
先に言っておく。
――――――一方的な攻撃である。
私は同じく呆けて見ているだけの騎士たちと一緒に、安全地帯、結界内でミオたんの勇姿を見守っているのみである。
時々、ミオたんの放った炎やら氷の破片やらがこちらに飛んできては、結界に当たって散っていく。
この結界って、魔物から守るんじゃなくて、ミオたんの攻撃魔術の余波から守るためだったのですねえ~。アハハ……
そして最後、絶対ヤバいだろ、というような黒い炎を浴びると、その化け物、魔物は燃えカスになったのだった。
◇◇◇
「――――どうだった? 凄かったでしょ? やっていけそう?」
「へ…………?」
目の前の補佐っちが聞いた。
私は気が付けば、オフィスに戻って来ていた。
「補佐っち……? 何がどうなっているのか……。
夢だったのかなああ………………???」
「夢じゃないよ」
「あの、私辞め――――」
「――――そうだ鳥ちゃん、これどうぞ?」
「へ?」
補佐っちは私に封筒を差し出した。
補佐っちははとても良い笑顔で、開けてみて、と言う。
私は封筒を開ける。
そして固まるのだった。
「今日のお給料ね。
見学だったけど、ちゃんと結界はって仕事したってことで」
お、お給料…………?
確か、日給…………――――
「ひ、ひ、ひゃ……………………………………」
「鳥ちゃん、どうかな?」
「いやあ!! 働くって素晴らしいなあ!!」
「そうだよねえ、ウンウン」
◇◇◇
「給料、銀行振り込みも出来るけどどうする?」
「ああ、そうして欲しいな」
「了解。通帳とカードはコッチで用意しておくから」
「ありがそう、補佐っち」
本人がいなくて大丈夫なのだろうか……? とか、もう、気にしないことにした。