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03. 八丁坂と乗鞍浄土

途中で野草を見つけては図鑑と見比べる次女にうふふってなりながら、八丁坂を登っていく。

登山道にはロープウェイに乗っていたほどの人混みはない。

カールの底、広場周辺を巡るだけでも結構な観光にはなる。そちらに流れる人も多いのだろう。

カールの先端部は、氷河が取り込んでいた砂や岩が残されて、ちょっとうず高くなる。その堆積物をモレーンと呼ぶ。

モレーンのため、こんな山の上にも池ができ、下界では見られない高山植物が数多く生えている。


しかしやっべ登山くそきっつい運動不足40代にいきなりこれはきつい。

次女はひょいひょいと、積まれて金網がかぶせられている石畳を登っていく。アスレチック感覚か。


挿絵(By みてみん)

... 八丁坂


30分ほど石畳を登っていくと最後の最後には金属の階段がある。あんまり親切な設計ではない。

ほぼ肩で息をしている俺に対して次女は超元気。生命力。


「……ここ、マジで気を付けろよ?」

「そういちろうこそ気を付けろよ?」


親の威厳なし。でも言うことはちゃんと聞くいい子ちゃんと手すりを握ってゆっくり登っていく。

まあ普通に命の危険を感じるからそれで正しい。


階段を上り着くと乗越浄土に到着する。そして振り返る。

千畳敷カールの全貌と、その奥に遠く見える下界。素晴らしい景色だ。

「おお……」

次女、階段のすぐそばに立つんじゃない、邪魔になるから。

お腹に手を当てて左の方へと誘導する。そのあいだも次女は何も言わない。ただカールを見下ろしている。


挿絵(By みてみん)

... 振り返り千畳敷カール


わかるぞ、これはすごい景色だと俺も思う。こんなところに楽に来れるって、

文明ってすごいよな、楽じゃなかったけどな。


俺も景色を楽しみつつ、次女の後ろ姿も眺める。

うん、連れてきてやってよかった。次女がいまどんな気持ちを抱いているのかは分からない。

だけど、きっといい経験になったに違いない。まあまだ先はあるがな。


5分ほどそうやって2人でカールを眺めていた。

ややあって次女が言う。

「……そういちろう、ここすごい」

なにその漠然とした感想。でも分かるよ。

「お姉ちゃんと弟にも見せたかったな」

お前の優しさ大好きだよ。我ながらよくできた娘すぎる。

「そうだな。写真撮っとくか」

「あっ、じゃあ私も写して!」

くるっと振り向いて満面の笑顔でピースしている。現金。

カールの地形が分かるアングルで、スマホで何枚か写真を撮ってやった。

撮ってやるたびにポーズ変えてきやがる。かわいい。

「あっちの山とも一緒に撮って」

進行方向とは逆の宝剣山。乗越浄土は砂礫と低い高山植物しかない殺風景な場所だが、

次女が写っていればそれだけで華が咲くな。俺ってほんと親ばか。

次女は今度はキメ顔で立っているかわっえええ。

「撮れましたよ」

「はるかにも送っといてね」

「すぐ送る」

電波は届くのだ。さっと送って、次女に言う。

「そこそこ疲れたろ。あそこの山小屋でソフトクリーム食べる?」

「ソフトあんの!?」

「ある。食べよう」

「そういちろうおっさんなのにソフト食うの? こどもー」

「おっさんもときにはそんな気持ちになるの」

次女と手をつないで山小屋に向かう。


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