02. 千畳敷カール
ロープウェイに乗るまでに30分は列に並んでたな。やっぱ人多い。
長女は割と素直に待てるが、次女はこういう待ち時間に耐えられないタイプ。
併設の土産屋を観たり、またロープウェイの架線を見に行ったりしていた。
そうしてついにロープウェイに乗る。東京の朝ラッシュ程度に満員だ。
なんとか次女に外の景色を見せてやるために、人を掻き分けて窓際に立つ。
これ観ないのは人生の損失だからな。ごめんな他の人たち。でも俺の娘が一番なんだよ。
やがてロープウェイが出発する。乗車時間は15分ほどだ。
「うおおぉ……」
次女は窓にぺったり張り付いて意味不明な歓声をあげている。
ロープウェイは山の木々よりも高いところを登っていく。
車内には観光用のアナウンスが流れていたりするが、それも耳に入ってないっぽい。
やがて木はまばらになっていき、森林限界を越えて、ついに草本だけの世界となる。
ロープウェイは千畳敷の駅へと到着した。さすがに1km上昇しただけあり、かなり気温は下がった。
「すげー涼しい!」
分かるぞ娘よ。6度は下がってるはずだからな。
ロープウェイ乗り場の外はちょっとした広場になっていて、登山道へと続いている。
快晴でいい感じだ。しかし山の天気はすぐ変わる。油断はできない。
「……そういちろう!」
1分ほど立ち尽くして景色を眺めていた次女が振り返る。
「私ここ見たことある!」
前世の記憶か? 前々々世の記憶か?
いやわかるよ、ここよく写真に撮られる場所だからな。
... 千畳敷カール
「千畳敷カール! 氷河でできた地形!」
意外と知ってるな。そう、ここは千畳敷カール、半球状のくぼ地となっている。
川で作られる谷はその形からV字谷と呼ばれる。一方、氷河が削る谷はこのように丸みを帯びていてU字谷と呼ばれる。
千畳敷カールは日本でも特に有名なU字谷だ。
「よく知ってるじゃん」
「そういちろう! 私はいまとても興奮している!!」
無視するな。でもそういう感情を素直に言えるお前のこと大好きだよ。
時刻は10:00、往復6時間と見積もって、無理のないペースだ。最悪、山小屋に泊まることもできる。高いけど。
「では行きますかね」
「ゴーゴー!!」
次女と登山道を歩き始める。