01. 木曽駒ケ岳に次女と登る
いやねー、次女が10歳のときだったな。
なんか「山と風景」っていう写真集にハマっててるのが見てて分かってさ。
まあ割り合い、ドッヂボールで6人殺した! って晩飯時に報告してくるようなアクティブな子だから、
山登りとかそういう外に出るの好きなのかなって。
でも風景写真も好きなんだな。やはり俺の血がこの子にも受け継がれている。
リビングで寝転がって写真集を読んでた次女に、
「その山、行ってみるか?」って唐突に問うてやったわけよ。
えっ? って感じで次女が顔を上げるのね。
行けるんだよ、その山は木曽駒ケ岳、天然記念物のコマクサが生える山。
だけど、2,700mあたりまではロープウェイで登ることができる。
そこからの登山は2,3時間かかって小4にはちょい厳しいかもな。
でもこの子のアクティブさならなんとかなるだろう。
「行こうよ、俺も昔、登ったことがあるんだ」
「え、そうなの? そういちろうが何歳の頃?」
「23,4くらいの頃かな。もう15年くらい前のことだな。大学の頃の合宿で登った」
「へー。私でも登れる?」
「だいぶ上の方までロープウェイで行けるからな。でもそこからはそこそこきついぞ。行くか?」
「行きたい!」
「行こうか! この週末は晴れっぽいし行けるだろ!」
「やったー、コマクサ見てみたいなあ」
コマクサは登山ルートから外れた人の手が入らない場所に生えているから、
たぶん見ることはできないだろう。でも、高山植物特有の珍しい植物も他に生えている。
まずは土曜日に次女に合う野装を買いに行った。
山を舐めるのは死に繋がる。値は張ったが、モンベルのいい外套を買ってやった。3万とんだ。
*
日曜、次女には予告しておいた、起床は4:00だ。
こいつ寝ぼすけだし小学生には早すぎる時間だよなー。
そう思ってたのにちゃんと4:00の目覚ましでパッと起きるの。
いつもはダルがってるのにすぐ顔も洗うし歯も自分から磨くの。好き。
嫁も誘ったが残念ながらお留守番だ。まあ息子を放っとくわけにもいかないしな。
でも嫁も4:00に起きてお弁当を作ってくれるわけ。ほんとこの人が嫁さんでよかった。
それで始発に合わせて準備が完了するわけよ。野装をばっちり着込んでリュックを背負った次女はなかなか決まっている。
それで目もキラッキラで、わが娘ながら超かっこかわいい。親ばかか。親ばかでーす。
出発。それで次女と手をつないで駅まで歩いた。次女はテンションキレッキレで、
まあいつももお喋りな子なんだがその3倍くらい喋るわけ。返事も追いつかねえ。
でも木曽駒のふもとまでは電車で3時間ほどかかる。思ったとおり途中で寝てやんの。かわゆ。
*
8:00頃には駒ヶ根駅についたね。次女も途中で目を覚まして、
いつもとは全く異なる車窓の風景に驚いているようだった。
そうだな、嫁の趣味でディズニーとかはよく行くけど、
こういう山の中に来るのは初めてかも知れないな
お前でもこないだ野活で長野とか行ってただろ。まあかわいいから関係ない。
ここからはバスでロープウェイ乗り場まで行く。1時間くらいだ。
がんがん山道を登っていって、周囲の景色もかなり森に近づいてくる。
次女もうワックワクよ。ほっぺたまっかっかやないけ。
お前こんなのでテンション使い果たしたらこのあと死ぬぞ。
バスはしらび平に到着する。ここですでに標高は1,500m程度、ここからロープウェイで2,600m地点まで一気に上がる。
さすがにシーズンで人が多い。まあもう放っておいても大丈夫な歳だし、
俺がロープウェイのチケット売り場の列に並ぶことにする。
「この辺好きに眺めてな。俺チケット買うから。20分後にここに集合」
「わかった!」
「乗り場の裏に回ってみるといい。ロープウェイがつたっていく線が見れるから」
「マジで!?」
次女、即座に走っていった。転ぶなよ
チケットも無事に買えてちょうど20分後に次女と落ち合った。
もう顔真っ赤。生命力ってこういうのを指すんだろうなってくらいにいっきいき。
「そういちろう!!!!」
「すごかったろ?」
「すごかった! 線がね! びゅーって山の方に上がってて! すごい! 見えないとこまで行ってた!!」
うふふ。そうなんだよ。なんせ1kmも上昇するわけだからな。到着駅は見えないほど遠くにある。
... 中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイの架線
「あとね!」
次女はリュックから何か本を取り出す。「高山の植物」ハンディタイプの植物図鑑だ。
そんなの持ってたの。次女の知らない一面。風景だけが好きなわけじゃなかったんだな。
何箇所かに付箋がつけてあって、そのページを開いては、
「これほんとにあったよ!」
と写真を見せてくる。ほんとにあるに決まってるだろ。
でも、おお、確かに20年前に俺もここで見た植物だ。
「自分で探したのか、やるじゃん」
「うえへへ」
次女の頭を撫でてやると誇らしげな顔で見上げてくる。
「摘んでないよな?」
「摘むわけないじゃん。山の植物、勝手に取っちゃいけないんだよ?」
倫理観も育ってるよくできた子だドッヂでボール当てるのを「殺す」って表現するのもやめような。
「よし、じゃあ登りますか」
「行こう!」
ロープウェイ乗り場の列に並ぶ。