魔力測定とチーム決め②
「うーん」
月夜は、1人教室で悩み考えていた。
魔力測定から少し日が経ち、今日はそれぞれのチームを決めて提出する日だ。
月夜たちのチームは、轟雷太、冬季雪野、紅月夜の3人は決まっている。
測定の後も2人とは一緒に過ごしていた。向こうも月夜とチームになりたがっている以上問題はないだろう。
では何に悩んでいるのか? 今の悩みの種は2点。
司は同じチームに入れていいのか? という事と、もう1つは、依然として一度も顔を合わせた事がない、夜夜中夜夜を同じチームに入れて欲しいと、先生から頼まれた事。
同じ部屋だというのに、測定以来司とは一度も会っていない。
一応部屋には戻ってきているみたいだが、月夜が帰る頃にはまたいなくなっている。
仕方がないので、少し気は引けたが、りんかに司の連絡先を教えてもらい連絡を取ってみた。
「久しぶり。紅だけど、そろそろチームを決める期限なんだけど、司は私達と一緒でいい?」
「好きにしろ。どうせ俺は関わらないからな」
この返答である。出会ってからこれまで、何となく察してはいたが、身勝手が過ぎると月夜は思う。
好きにしろという事なので、チームには入れるが、本当に一切の活動に参加しないかもしれないと思うと、もう1点の悩み事の答えに困る。
以前りんかから少し話しは聞いたが、夜夜中夜夜について、月夜は何も知らない。
なので、りんかに相談してみたところ。
【やよちか。うん、まあ、良い子ではあるよ】
と、歯切れの悪い答えが返ってきたので、何か問題でもあるのか聞き返したら
【問題ね、登校が不定期な事と、後はなんていうか会えばよく分かるんだけど、性格かな。テンションについていけないんだよ】
そう返答した時の実に苦々しいあの表情が今も頭に残っている。
テンションについていけないとはどういう事なのだろう?
司みたいに身勝手なのか、陰鬱すぎて困るのか、何にしろこれからずっと行動を共にするかもしれない人の話だ。月夜の独断では決められない。
「おはようございます。かなり悩んでるみたいですけど大丈夫ですか」
1人考え込んでいると、いつの間にか近くに雷太と雪野がいた。
「2人ともおはよう。チームの事でちょっと考えてて」
「そうですか。俺と雪野は紅さんが決めたことなら反対しませんよ」
「ありがとう。そういえば轟君さ、紅さんじゃなくて月夜でいいよ。私達チーム組むんだし、私も雷太君って呼ぶね」
「な!? 滅相もない。名前呼びなんて緊張します」
「そう言わずにさ、ね。雷太君」
小首を傾げる可愛らしい仕草の月夜を見て、雷太が息をのむ。
「それはずるいですよ、つ、月夜、さん」
恐る恐る月夜の名前を口にする雷太。
「・・・・・・バカ」
赤面している雷太の裾をチョコンとつまみ、雪野が頬を膨らませる。
「どうしたんだよ、雪野」
訝しむように雪野を見る雷太。
「・・・・・・なんでもない」
「そうか」
少しだけジト目な雪野の事など意にも介さない雷太。
「そんな事より、悩み事は月導の事ですか?」
「それもあるんだけど、とりあえず司は入れようと思うの。今悩んでるのは、夜夜中さんについてかな」
「俺も彼女についてはよく知らないですけど、実力はあるらしいので、問題ないかと」
「そうだよね。私としても、先生からの頼みだし入れてあげたいんだ。でも、司と夜夜中さんがいない時は私達3人で活動する事になるでしょう? それが不安なの」
「なるほど。それに関しては大丈夫でしょう。俺はAランクだし、雪野と月夜さんはSランクですから。それに3人とも広範囲をカバー出来る魔法ですし。人数の不利は十分カバー出来るかと」
月夜の不安を拭おうと、雷太は自信がある様子を見せる。
「確かにその通りなんだけど、私が気にしてるのは何か不測の事態が起きた時の事。3人と5人では対処出来る範囲がまるで違うの」
「でも、放ってはおけないでしょう? ならチームには入れて、何か起こったら頑張るって事で。大丈夫、俺がなんとかしますから」
「雷太君。ありがとう」
正直、一抹の不安は消えないが、ここは雷太のやさしさに乗じてチームを決めさせてもらう事にした。
一応出来上がった書類を雪野にも確認してもらう。
「これでいいかな」
「……いいと思う」
「じゃあ、これで行くね。改めて二人ともこれからもよろしくね」
「おう、こちらこそ」
軽くうなずく雪野と元気に返事する雷太。
そんな訳で、月夜達のチームは決まった。
リーダー:月導司
メンバー:紅月夜、轟雷太、冬季雪野、夜夜中夜夜
リーダーという役職がある事は予想外だったので、なんとなく司にしておいた。
☽☽☽
無事チームが決まった後、月夜が部屋に帰ると久しぶりに司が居た。
「ッチ、久しぶりだな」
月夜の顔を見るなり、忌々しげに舌打ちをする司。
「いきなり舌打ちされるのも、ルームメイトなのに久しぶりって挨拶なのもおかしいと思うよ」
月夜は呆れたようにしながらも、顔には笑みを浮かべている。
「安心しろ、すぐに出るから」
「司ってどこで何してるの? 学校来ないと駄目だよ」
「別に俺が何処で何してようが勝手だろ」
月夜としては当然の事を言ったつもりだったが、司には何も響かないらしい。
「今日だってチーム決めたんだから。司私達と同じチームだよ」
「そうか、まあ頑張れよ」
完全に他人事である。さすがに少しだけムッとする月夜。
「頑張れじゃなくて、司も一緒に頑張るの。司が来てくれないと3人になるかもしれないんだから」
「3人? 1チーム5人だろ。俺が居なくても4人いる」
「夜夜中さんも同じチームにしたから」
その名前を聞いて司の表情が曇る。
「お前、あいつも同じチームにしたのかよ。どうせ頼まれでもしたんだろうが、お人好しにも程があるぞ」
「でも実力や経験はあるって、測定の時に言ってたよね」
魔力測定の時のりんか達との会話を思い出す月夜。
「条件さえ揃えば、間違いなく最強の一角だろうな」
「条件?」
「あいつの魔法は夜しか使えないからな。日中は実質無能だ」
「そうなんだ。でも実力はたしかってりんかちゃんが言ってたよね」
「実戦に関してはな。夜じゃなければ無能って事は、夜まで待てばいいだけだろう」
「なるほどね。他にはどんな事知ってるの?」
「つーか、あいつの事なら俺に訊くよりもっと適任がいるだろ」
いい加減、面倒になったのかだるそうにする司。
「俺よりもあのクソババアに尋ねた方が早いと思うぜ」
「そういえば、学院長の孫娘なんだっけ? 学院長ってそんなに歳なの」
「驚く所そこかよ。あいつは見た目よりずっと歳だぜ。だからクソババアと呼んでいるだろ」
「単に貶してるだけだと思ってたよ」
半眼で司を見る月夜。
「ま、そんな事はどうでもいい。夜夜のことなら、あのババアに聞け。それじゃ俺は出かけるから」
司は気だるげにそう言うと、部屋から出て行こうと月夜に背を向ける。
月夜は1つ大事な事を伝え忘れている事に気付く。
「ちゃんとチーム活動には参加してよ。リーダーなんだから」
リーダーと聞いて、一瞬立ち止まる司。
「なんだよ、リーダーって」
「司が好きにしろって言ったから、リーダーにしといた」
「ッチ。自由すぎだろ。まあ、俺は俺のやりたいようにしかやらねぇよ」
面倒くさそうに、そう言い残し司は部屋を出て行った。
「また行っちゃった」
いつも通り1人になった部屋で、ポツリと呟く月夜。
どうやったら、司と仲良くなれるのか、そもそもどうやって学院に来させようか。
学院長に夜夜中さんの事を聞いておかないと。
チーム活動って何をするの。
考えなければいけない事が多すぎて、月夜は頭を抱えてばかりだった。
この物語を読んでくれた事に、最大の感謝を。