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紅い月  作者: ソムク
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プロローグ④ 予感、ランキング戦

「はぁー、メンドくさ」

 フードを深々と被った不気味な少女、西神マカは盛大に溜息を吐く。

 小柄で華奢だが、深い海の底のような暗い目と背中に見える大きな鎌は死神を連想させる。

 正直普段なら喜んでやる仕事だが、お兄ちゃんに会えるのが目前に迫ったこのタイミングでは億劫でしかない。

「ねえ生業が代わりに言ってよ。行かないなら殺させて」

「命は有限なんですよ。もっと大切にしないと」

 ピエロの仮面を被った、長身痩躯な男が心外そうな声を発する。

「どの口が言うの」

「いやいや私だって決して不死という訳ではないですから。作戦はいつだって命大事にですよ」

「あーあ。そもそも狂夜がお兄ちゃんに殺されなかったのが悪くない? 意地汚く生き残りやがって」

「むしろ私が愚考するに、お兄ちゃんにも会えて、狂夜も殺せるのならあなたにはメリットしかないのでは?」

「そうだけどそうじゃないんだよね」

 生業の言葉に、マカは分かってないなとでも言いたげに肩を竦める。

「例えるなら、今日は絶対ハンバーグ食べようと思ってたのに、とんかつしかなかった感じ。いや両方好きなんだけど、今はその気分じゃないんだよなみたいな」

「なるほど。つまり我が儘ですね」

「何? せっかくの家族水入らずを邪魔しようって言うの?」

 軽口を言ったつもりの生業だったが、マジなトーンの威圧が返ってきて少し焦る。

「1回は我慢ですよ。1回は。ほら、落ち着いて」

「チッ。むかつくし我慢とかいいや」

 生業の言葉など無視して、マカは背中の鎌に手をかけ一瞬で道化の首を飛ばそうとする。

 諦めの表情を浮かべていた生業の首はしかし胴体と繋がったままでいられた。

 マカは首をはねる直前に受信したスマホのメッセージに釘付けになっていた。

「お兄ちゃんからだ。じゃあ、マカもう行くから」

 画面を見て、パーッと花が咲くような笑顔になるマカ。その勢いのままマカは何処かへと消えてしまう。

「ふぅ。なんとか助かりましたか。全くあの子と居ると心臓に悪い」

 というか連絡先を知っているのなら、さっさと連絡とって会いに行けばいいのでは? という疑問は考えなかった事にする生業。

 マカは圧倒的に常識が歪んでるが、変な所で乙女なんだなと思い1人笑みを浮かべる道化。

「クフフ。相変わらず退屈しない世の中ですね」

 そのまま道化は仮面の下で、くつくつと不気味に笑っていた。


☽☽☽


「俺にとっての世界。愛する人だ」

 以前聞いた司の言葉を脳内で何度も反芻する月夜。

 季節はすっかり夏めいてきて、じっとしていても汗ばむ陽気になってきた。

 雲1つない青空、爽やかな風が吹き抜ける絶好のお出かけ日和だが、月夜にはそんな事を気にする余裕などなかった。

 そもそも平日だし出かけられないとかも思い当たる余裕はなく、ここには居ない司の台詞の事を考えていた。

 あの日司は意味深な事を言うだけ言って、その後は何も言葉を発さずに早々に何処かへ行ってしまった。

 そして例に漏れず、その日以降司には会っていない。勿論学院にも居ない。本当にいつも何処で何をしているのだろうか。

「おはよう。月君の事について悩み事かい?」

 自分の中の考えだけに集中していた月夜は、いきなり掛けられた声に肩をビクッと震わせて振り返る。

「ああ。りんかちゃん、おはよう。よく分かったね」

「ふふん。何でも知ってるお姉さんにかかればこのくらい余裕だよ」

 自称何でも知ってるお姉さんのりんかは鼻息荒く胸を張る。

「その様子だと宵ちゃんの事もちらっと聞いたかな」

「本当に何でも知ってるお姉さんだね。感心しちゃった」

「やっぱりね。月君の魔法についてはどの辺りまで聞いた感じ?」

「よく分からないけど。司は分解と再構成をする力だって」

「ふーん。なるほど、月君も意地悪な言い方をするな」

「その言い方だと何か違うの?」

「何も間違いではないけど、月君の魔法の3割も説明してないって感じかな」

「薄々そんな気はしてたけどね」

「分解や再構成って段階で十二分にチート魔法なんだけど、あの魔法の本質はそんな物じゃないんだよね。まあ、また今度詳しく話そうか」

 今度と言われ勿体ぶるなと思う月夜。

「そういえば、月夜ちゃんはもう聞いた? あの狂夜さんって人一応目覚めたらしいよ」

「一応?」

 歯切れの悪い言い方に首を傾げる月夜。

「それがさ一瞬目を覚ましたんだけどね、周りを見回して自分の状況が理解出来たら、急に死神が来る! 助けてくれ! って騒ぎ出しちゃって。今は1回眠って貰ってるの」

「そっか。でも目覚めたのなら良かったのかな」

「それはもう鬼気迫る焦り様だったらしいよ」

 死神とは司の事だろうか。たしかにトラウマになってもおかしくないくらい打ちのめしていたとは思うがと思う月夜。

「それにしても月夜ちゃんは優しいな。さっき本当にホッとしてたでしょ。自分達を殺そうとした人なのに。正直に言うと少しだけ怖いな」

 怖いという言葉を使うりんか。月夜は何が怖いのか全く理解出来ないのだが。

「いや、ほらそのままの勢いで行っていたら月夜ちゃんの命がいくつあっても足りないかなって」

 つまり自分が向こう見ずに突っ走るのを心配してくれての事だったのか思う月夜。

 しかし、先ほどのりんかの言葉には何かを取り繕ったような違和感も感じる。

「私の事は心配しないで大丈夫だよ。それよりも困ってる人を助ける方が大事だし、罪を犯した人にも新しく踏み出す機会はあげないと」

「流石、月夜ちゃんは強いな。でも、そういう所だよ」

 後半は言葉を濁すように誤魔化すりんか。

 なんとなく聞き返さずにそのまま流す月夜。

「ま、そういう事だから、また狂夜さんが目覚めたら色々聞きながらその時に月君の事も話そうか」

 パンッと手を叩き、空気を切り替えるりんか。

「うん、そうだね。雷太君達にも声をかけておくよ」

「よろしくね」

 そのままヒラヒラと手を振り、自分の教室へと向かうりんか。

 その後ろ姿を見送りながら月夜は少し羨ましいなと思う。

 自分の知らない司の事をりんかは知っている。というか、自分が司の事を知らなすぎるのか。自分勝手な人だとは思うが、この間話した後からはそれだけでない気もする。

 どちらにしろ、そこら辺の事を今度りんかは話してくれるのだろうか。早く話しは聞きたいが今は目の前の事に集中しないといけない。

 そう司の事以外にも新たな問題は次々と出てくる。目下の所、そろそろ始まるらしい校内のランキング戦が一番の悩みの種だった。

 ランキング戦と聞いて、そういえばそんなのあったなと思い出した月夜だったが、よく考えてみれば自分達のチームは3人しかいない。しかもたぶん8割方そういう状態が続くだろう。

「はぁー」

 これからの事を考え少し憂鬱になる月夜だった。


こんな文章を読んで下さりありがとうございます。

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