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紅い月  作者: ソムク
21/31

夜夜中夜夜① 顔合わせ②

 翌朝、学院に向かう準備を月夜がしている所に、司が何処かから帰宅してくる。

「司、おかえり」

「まだ居たのかよ」

 司とは遠征から帰ってきて会って以来、久しぶりに顔を合わせる。

「もう少しで出るとこだよ」

 いつも通りの面倒そうな司の態度は無視して会話を続ける月夜。

「そういえばさ、昨日の夜、変な子に助けられたの?」

「そうか」

 興味なさそうに適当に相槌を打つ司。

「自分の事を、美少女子高生だって言ってたかな」

「あ? マジか。そいつは学院に向かったのか?」

「そうだね。たぶん学院の方に歩いていったかな」

 全く興味を示さなかった司が、月夜の言葉を聞いた途端心底嫌そうな表情をする。

「やっぱり、司、あの子の事知ってるんだ」

「ッチ。うざいのが戻って来たのかよ」

 司のリアクションを見て、昨夜思い至った人物に間違いがなかったと確信する月夜。

「あの子名乗りはしなかったんだけど、もしかして、夜夜中(よるよなか)さんじゃない?」

「そうだな。自称美少女子高生なんて巫山戯た事言う奴、俺は夜夜しか知らない」

 夜夜中(よるよなか) 夜夜(やよ)

 一応、月夜達と同じチームという事になっている、未だ会った事のないクラスメート。

 学院長の孫娘で、実力は折り紙つきだとりんかが言っていたが、司もりんかも揃って苦い表情になっていた人物。

「でも昨日助けてくれたし、そんなに悪い子には見えなかったよ」

「良い奴なのは、良い奴なんだろうよ」

「確かに、テンションは高かったけどさ。司嫌いすぎじゃない」

「別に嫌ってる訳じゃないさ。ただただウザいんだよ」

「それは嫌ってるとは違うの?」

「嫌いではないが、会いたくはないって感じだな」

「そっちの方がひどいんじゃ」

「むしろ俺に嫌われる方がすげえよ。ほとんどの奴は無関心だからな」

「そういう所、司らしいね」

 呆れたように、優しい微笑みを浮かべる月夜。

「まあ、お前も会ってみれば分かるさ。どうせ今日は登校してるだろうから洗礼を受けてこい」

「そうしてみるよ。司も一緒に行かない?」

「なんで面倒だと分かってる所に行かないといけないんだよ。それに俺は今帰ったばかりで眠いんだよ」

「だよね、知ってた。ちょっと聞いてみただけ」

 眠そうに欠伸をする司と、話しながらも準備をテキパキと進める月夜。

「それじゃ、私は行くね。司もたまには登校するんだよ」

「気が向いたらな」

「あ。司、行ってきます」

 玄関を出て行こうとして、一瞬考え、振り返り改めて挨拶する月夜。

「ああ」

 司には素っ気ない返事で返されたが、何故か嬉しそうに月夜は玄関を出て行った。


☽☽☽


 学院に着き、教室に入ろうとした月夜は少し違和感を感じる。

 いつもより何処か教室がざわついているような気がした。

 少し逡巡して、意を決して扉を開けた月夜を元気の良い声が迎える。

「あ! もう待ちくたびれたよ。昨日ぶり、オハオハ!」

 見慣れた教室の、いつも空席だった場所に昨夜の人物が座っていた。

「いやー、暇だったから皆に片っ端から挨拶してたんだけど、賑やかすぎて引かれちゃったみたいで絶賛ぼっち中だったんだよね。ハ! これが高校デビュー失敗ってやつ!」

 月夜が言葉を返す隙もないくらいに、話続ける夜夜。

「おはよう。初めましてもおかしいかな。私、紅月夜です。よろしくね、夜夜中さん」

「お? もう私の名前知ってらっしゃる? でも一応自己紹介はするけどね。てことで、改めて通りすがりの美少女子高生こと、夜夜中夜夜です。名字じゃ呼びにくいでしょ。名前でいいよ」

「一応、司に聞いてたから」

「そっかそっか。そういえばツッキーとルームメートなんだっけ? お婆ちゃんがそんな事言ってたような。でも大変じゃない? ツッキー独特の生活リズムじゃん?」

「そうだね。ほぼ1人部屋って感覚だよ。夜夜ちゃんは司と仲良いの」

「もちもち。もうマブだね。まあ、私が一歩的に絡んで話し続けてただけだから、向こうはそうは思ってないだろうけどね」

 底抜けに明るい笑い声をあげる夜夜。

「おはようございます。あ、その子、昨日の」

「……おはよ」

 夜夜と月夜が話している所に、雷太と雪野が入って来る。

「お、お2人さん。朝から一緒に登校とは熱いね。ヒューヒュー。出会いは何処でですか? 告白の台詞は?」

「……昔から、家が隣同士で」

 夜夜の絡みに、何故か少し嬉しそうに雪野が答える。

「答えるんかい。 あ、いや、月夜さん、その子その席って事は」 

「さっきもしたけど、もう1回いっとく? 自己紹介」

「あ、うん。夜夜中夜夜ちゃんです」

 雷太に向け、自己紹介しようとした夜夜の言葉を、月夜が遮る。

「あれ? 月夜ちゃん? もしかして今少しウザいって感じた系」

「あ、いや、そういう訳じゃなくて」

「昨日も感じましたが、テンション高いですね」

「まだまだだよ。私のポテンシャルを舐めてもらっちゃ困りますね」

「恐ろしいな」

 元気いっぱいと身振り手振りで表す夜夜に、呆れたように笑う雷太。

「あ、夜夜ちゃん。そういえば、昨日は言えなかったし、改めて助けてくれてありがとう」

「ん? ああ。そんな事良いよ。困ったときはお互い様でしょ」

 改まってお礼を述べる月夜に、何事もなかったかのように返す夜夜。

「たしかに凄い魔法だったな」

「まあね。自分で言うのもなんだけど、中々私を超える人なんていないよ。夜にはね」

「夜には?」

「そだね。別に秘密って訳じゃないし、これからチームで一緒にやってくんだから教えてこうかな。私の魔法知りたい?」

 夜夜の問いかけに、雷太と月夜が首肯する。

「OK。私の魔法は、星座魔法だよ。端的に言うと、星座から力を借りられる魔法」

「星座魔法? 力を借りる?」

「星座にさ、それぞれ神話とかあるでしょ? 簡単に言うと、そんな星座の英雄達と同じ事が出来るようになるっていうか、その逸話を再現出来る時もあるみたいな」

「なにそれ、チートじゃん。本当に凄いね」

「まあ色々の制限とかなんやかんやあるけどね。さっきも言ったけど、ほぼ夜限定だし、星座がちゃんと見えてないとあまり力が出ないんだよね。でも逆に言うと好条件下なら、ここの生徒でトップ3に入る実力だね」

 自慢げに胸を張る夜夜。

「トップ3? さすが学院長の孫だな。羨ましい」

「ちなみに、私以外の2人は生徒会長とツッキーね。そういう意味じゃこのチームは素晴らしいね、私とツッキー2人が揃ってるんだもん。向かう所敵無しと言っても過言ではないかな。ま! ほぼほぼ私達はチームにはいないけどね」

 1人声を上げ笑う夜夜。

「会長と司?」

「あり? 想定してた反応と違うにゃ。もしかして口を滑らしちゃったっぽい。私ったらうっかり子ちゃん?」

 楽しそうにしていた夜夜は、神妙な月夜の様子を見て、顔に汗を浮かべる。

「司が強いのは知ってるけど、もしかして夜夜ちゃん司の強さの秘密知ってるの?」

「知ってるか知らないかで言えば知ってるけど、こればっかりはほら個人情報保護法に抵触すると言いますか、私もお婆ちゃんから無理矢理聞き出しただけでツッキーには顔向けしにくいと言いますか、詰まるところ、気まずくなるから言いたくないです」

 目を逸らしながら、まくしたてる夜夜。

「まあでも1つだけヒントをば。今まで皆が見てきたツッキーは全部事実だよ。魔力測定の時のツッキーも、戦ってるツッキーも」

 つまり魔力はないけど、強いと言いたいのだろうか。

 意味深な事を言われ、首を傾げる月夜。

「そんな事よりも、これからよろしくって話。まあ、今回は少ししか居られないけど、居る間は仲良く楽しくやろうよ。て言っても、昼は無能極まりないんだけどね」

「あれ? またすぐ何処か行っちゃうの?」

「そだね。何処か行くというよりは、今だけ戻って来ててまた帰っちゃうって方が個人的にはしっくりくるけどね」

「そういえば、どうして今は戻って来てるの?」

「あり? 月夜ちゃん達何も聞いてないの? ほら、そろそろ3年生達が少し学院離れるでしょ。だから、その前のお婆ちゃんの準備を手伝いにって感じだよ」

「何それ? 何かあるの」

「月夜ちゃん達もやったでしょ、遠征。3年生はそれの長いバージョンだね。付き添いでお婆ちゃんも少しの間学院を留守にするから、その隙を狙われない為に準備するんだよね。私は結界張りのお手伝いって感じかな」

「あ、遠征、か」

 遠征と聞き、暗い表情になる月夜。

「ん? どったの?」

 急に変わった月夜達の雰囲気を訝しむ夜夜。

「ああ。私空気読まないから言っちゃうけど、どんなに強力な魔力を持っていようと、人間には過去は変えられないんだよ。だって過去は結果だから。もう出ちゃってる結果は変わらないんだよ。だからさ、月夜ちゃん達が悩むのは、今までの行いをどうすればよかったかじゃなくて、これからの行いをどうしていこうかって事じゃん。まあそんなすぐには切り替えられないだろうけど、結局は前を向いて進んでいくしかないんだしさ」

 皆が落ち込んでいる原因を察してか、真面目に話す夜夜を見て、目を丸くする月夜達。

「お前、真面目な話も出来るんだな」

 驚きすぎて、つい正直な感想が零れる雷太。

「当たり前じゃん。私だって人だし、真面目な面だってバリバリにあるよ。むしろ普段のハイテンションぶりがキャラ付けみたいな所が無きにしも非ず的な。超ギャップ萌え系美少女だからね!」

「はいはい。美少女、美少女」

「雷太っち、急に辛辣! 私も月夜ちゃんや雪野ちゃんみたいに、姫扱いを希望するよ」

「あ? 月夜さんや雪野は特別だからな。君は違う感が凄い」

「今のリアクション、ツッキー味がすごいね。じゃあ潔く姫プは諦めるから、親友って感じでヨロ」

「ステージの登りが早いな。友達ってのもな、単にチームメートかな」

「かーらーのー」

「ま、まあ友達くらいなら」

「さーらーにー」

「なるほどな。皆のお前に対する反応の意味がよく理解できた」

「お褒めに預かり恐悦至極。じゃあ、これからは親友って事で。むしろ私と親友を名乗れるなんて雷太っちの方にもメリットしかないね」

 夜夜の言葉に唖然とする雷太。

「いや、ほんとお前、すごいな」

「ほんとにね。司にもこれくらい強引にいった方がいいのかな」

「月夜さん。それは止めた方がいいです」

「ニシシシシ。私は私、月夜ちゃんは月夜ちゃんだよ。無理するのはよくないし、楽しめる範囲で気楽にね」

 能天気に笑いながら、適当なアドバイスをする夜夜。

「そういう事だから、改めに改めまして、これからよろしくね、3人とも」

「どういう事だよ。まあお前みたいなのも偶には悪くないな」

「うん。よろしくね、夜夜ちゃん」

「……よろしく」

 4人仲良く挨拶をすませた所で、タイミングを見計らったかのように、教室のドアが開き先生が入って来る。

「あ! 夢てんてー、お久し!」

「はいはい、お久しお久し」

 唐突に掛けられた元気な挨拶を、あっさり流してホームルームに入る先生。

「流石先生、慣れてるぜ」

「まあね。なんせ夢ちゃんは去年も私の担任だったからね」

「なんで冷たくあしらわれて、誇らしげなんだよ」

 小さく呟く雷太に、嬉しそうに話す夜夜。

「はい。じゃあここから少し大事な話するので、ちゃんと聞いて下さいね」

 緩みかけた空気を、パンパンと手を叩き引き締める先生。

「皆様にもやって貰った遠征ですが、今度は3年生の番になります。それにあたり、3年の生徒の大半と学院長含む教員何名かが少し学園を空ける事になります」

 美音達が夜夜から聞いた話を、先生がもう1度する。

「だからあなた達に特別何かをやってほしい訳ではありませんが、一時とはいえ、最上級生になるので気を引き締めて下さいね」

「はーい。かしこまりだよ。夢たん」

「皆さん、こういう所ですからね」

 元気よく返事する夜夜を、笑顔で諫める先生。

「相変わらずの塩対応」

 派手なリアクションで崩れ落ちる夜夜を見て、クラスに少し笑いが起きる。

「冗談は置いておいて、しっかりと意識だけはしておいて下さいね。褒める訳ではありませんが、夜夜さんはふざけた感じでも、ここにいる誰よりも実力はありますからね」

「からの、ツンデレ」

 崩れ落ちた夜夜が、ガッツポーズで立ち上げる。

「ふざけた感じですが」

「そしてやっぱり塩対応」

 再び夜夜が崩れ落ちた所で、チャイムが鳴り響く。

「チャイムが鳴ってしまったので、終わりますが、皆さん今日も1日よろしくお願いします」

 少し呆れたような笑顔を浮かべ、ホームルームを終える先生。

 先生が去った後に、月夜が夜夜に声を掛ける。

「次移動教室だけど、夜夜ちゃんは授業受けるよね?」

「ん? 学院に来てるんだし、それは受けるよ」

「あ、ごめん、そうだよね。司に慣れすぎてたみたい」

「アハハ。私もそこそこあれな自信はあるけど、ツッキー程じゃないからな」

 何故か少し残念そうな夜夜。

「なんで少しショック受けてんだよ」

「いや、キャラ付けでなんか負けてる気がしてさ」

「なんだ、そのどうでもいい勝敗」

「どうでもよくないさ。私みたいなポッと出には特にね」

「はいはい。文句は移動しながら聞くから」

 面倒くささから半ば投げやりな対応になる雷太。  

「何さ、雷太君私への対応を学び始めてない?」

「この対応で正解なのかよ」

 呆れながらも準備を進める雷太。

 月夜達も準備を済ませ、先に廊下に出て行く。

「ちょ、待って待って。私教科書とか何も持ってきてない」

「よくそれで、授業受けるとか言ったな」

「私見せてあげるよ」

 慌てて後を追う夜夜に、呆れ気味の雷太と優しい微笑みを浮かべる月夜。

 そのまま4人並んで廊下を歩く。

「それで次の授業って何系?」

「魔法学だよ」

「うえ~。あの魔素がどうこうとか言うやつでしょ。私苦手なんだよね。そんな理論的に理解しなくても、魔法使えてるんだしいいじゃんって思っちゃう」

 苦々しい顔で嫌そうにする夜夜。

「でも頭でしっかり理解するのとしないのとじゃやっぱり違うし、こういう座学も成長するには大事だよ」

「そんなもんなのかな」

 いまいち納得いってない夜夜。

「あ! ヤヨ、本当に来てる!」

 突然一同の後ろから、元気な声が響く。

「ほら。生のヤヨだぞ。珍しいなミカ」

「はい。生ヤヨ珍しいです、リナ」

 振り返った月夜達の目に、見知った人が1人と見知らぬ人が4人写る。

「お、リナ、ミカ! 元気してたか。りんか達もさしぶ! 相変わらず真面目そうな眼鏡してるな」

「真面目そうな眼鏡って何よ」

 面倒なやつに話かけやがって、と恨めしい視線でリナと呼ばれた少女を見るりんか。

「おはよう、りんかちゃん」

「あ、おはよう。月夜ちゃんご一行」

「それで」

 挨拶をして、りんかの周りの人物に視線をやる月夜。

「ああ。この子達? これが私のチームメイト」

「おす。お前が月夜か? 顔を見るのは初めてだな。私、雨音(あまね) リナ。こっちが双子の妹のミカ。よろしくな」

「あなたが月夜さんですか。私は雨音(あまね) ミカです。よろしくお願いします」

 目の前の少女2人を見つめる月夜。たしかに、そっくりで見分けがつかない。

 2人とも中学生と見間違う程に小柄で、少し癖のある黒髪を短く切りそろえている。

 見た目で違うのは、リナは髪の右側から尻尾のようにぴょこんと一束髪を出している。

 ミカは同じような尻尾髪を左から出している。

 それ以外は瓜二つ。強いて言えば、リナは無邪気で元気一杯。ミカは少し引っ込み事案そんな印象が違うという所か。

「それで、こっちのフード被った無口ちゃんが、御陵(みささぎ) 美音(みおん)

 りんかが後ろに立っている、長身でフードを被った少女を紹介してくれる。

「よろし」

「え?」

「あ、ごめん。よろしくって言ってるみたい。ちょっと訳あってあまり喋らないんだ、勘弁してあげて」

「ハハハ。美音は相変わらず、訳わかんないままだな。ウェーイ」

 謎の言葉に気圧されていた月夜達を差し置いて、夜夜が美音の前で手を高く掲げる。

「ウエイ」

 ボソッと小さく呟いて夜夜とハイタッチする美音。

「ま、意味分かんないけど、このように悪い奴じゃないからさ」

 少し気持ちで負けて後ずさりした月夜の足元を何かが横切る。

「あれ? 猫?」

 唐突に現れた白猫に疑問を持つ月夜。

「あら、ごめんなさいね。猫さんがご迷惑を」

「あ、いや、とんでもない」

 りんかのチームメイトの最後の1人が話掛けてきて、なんとなく聞き覚えのある声だと思う月夜。

「お会いするのは初めましてですわね。華吹(はなすい) 着物(きもの)です。以前は電話超しだけで失礼を致しました」

「あ、その節はお世話になりました。とても助かりました」

 着物と名乗った少女はその名の通り、学院だというのに着物に身を包んでいる。

 大和撫子という言葉がしっくりくるような色白で、人形のように綺麗な髪を結んでる。

 猫を抱く姿にも雅さが滲み出す程に、所作一つ一つがとても嫋やかだ。

「改めまして、紅月夜です」

「轟雷太。よろしく」

「……冬季雪野」

 自分達の自己紹介が遅れた事に気付き、軽く紹介をすます。

「双子に着物に謎フード。ニシシシ。キャラ付けで選んだのかってくらい濃い面子揃えたね、りんかっち」

「そんなユニークな理由で、チーム選びなんてしないわよ」

「どうだ! 悔しいか、ヤヨ」

 億劫そうなりんかと、何故か自信満々なリナ。

「でも残念でした! なんとこっちには私の他にあのツッキーが居ますぅ。話題性ならウチの勝ち」

「いや、なんの張り合いだよ」

「っく。月導か。あの登校するだけで学院中の話題をかっ攫うという。流石にそれは強いな」

「リナも下らない事で張り合わない」

 謎の言い合いをする夜夜とリナに、呆れながらツッコむ雷太とりんか。

「ほら、リナ。そんな事より早く学院長室に行くわよ」

「そんな事とはひどいじゃん。りんかりん。私がここにいる事はそこそこ珍しい事だよ」

「はいはい。また今度ね」

「雷太君と同じ、塩対応」

 リナ、ミカを連れてその場を離れようとするりんか。

「りんかちゃん。学院長室に行くって何かあったの?」

「何かあったというよりは、何か起こる前の対策として打ち合わせに行くって感じだよ」

「そうなんだ。もし何かあったら言ってね。協力出来る事はするから」

「ありがとう。それじゃ、またね」

 そのまま去って行くりんか達の後ろ姿を見ながら、なんとなく不安に駆られる月夜。

「学院長に呼ばれるって、りんかちゃん達大丈夫かな」

「ニシシ。彼女たちなら大丈夫だよ。見た目にステ極振りじゃなくて、ちゃんと実力もあるから」

 月夜の不安を察してか、夜夜が明るく微笑む。

「あいつらの事知ってるのか?」

「大体はね、ネタばれに成っちゃうから魔法の事まではまだ言わないけど、たぶん私達の学年のチームでは最強だろうね」

「あんな子供と謎フードと和装がか」

「ふっふっふ。人は見た目によらないんだよ、轟君。私みたいにね! ま、冗談は置いといて、私達の最大のライバルはあそこのチームだろうね」

「ランキング戦ってやつでか」

「そ。ただ、幸か不幸か、りんかはツッキーの友達だしね。彼女達と本気でやり合うってなったら、ツッキーが出てくるんじゃないかな。そうすればもう勝ち確だからな」

「逆に言えば、司が出てこないと勝てないって事?」

「無理だろうね。たぶん、リナ、ミカだけで十分なんじゃない? 夜で私が居るならまだしもね。だとしても、りんかが居るってだけで相当厄介だし」

 あっけらかんと負けを認める夜夜。

「りんかちゃんか。たしか魔法は使えないって言ってたけど」

「そうだよ。ただ今の時代情報ってのは大きな武器じゃん」

「たしかに、本人が何でも知ってるお姉さんって豪語してる程だからな」

「そういう事。まあでも月夜ちゃん達だってポテンシャルは十分だし、努力次第じゃないかな。それよりさ、次の魔法学って今日はどんな事するのさ」

「たしか、天空魔法ってのの話をするとか言ってたかな」

「ふーん。ナイスタイミングだね」

 月夜の返答を聞き、小さく呟く夜夜。

「何か言った?」

「ニャハハ。途中参加だとよく分かりそうじゃないなって。ただりんかじゃないけど、色々知ってる風に意味深な事を言わせて貰うと、その内容はちゃんと聞いておいた方がいいかな。将来の為にね」

 何故か楽しそうにしている夜夜。

「ささ、早く教室に行こう。立ち話しちゃったし、遅れないようにね」

 そのまま足早に教室に向かう夜夜を追いかける月夜達。

 さっき言われた言葉は気になったが、確認はさせてくれそうにない。

 とりあえず真面目に授業を受けた後に、改めて聞いてみようと思う月夜。

 その後、チャイムと同時に慌てて席に着き、授業にはギリギリ間に合った。

 授業中ふと月夜が窓超しに見上げた空は、どんよりと曇り始めていた。  


こんな文章を読んで下さり、ありがとうございます。

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