幕間 一方その頃
真っ黒な闇に包まれ、ぽつぽつと灯りがともっている部屋で、司達の一部始終を見ていた影が2つ。
神代玄と、そのお付きである。
「なんですか、あの化け物。あれを素手で倒すなんて有り得ない」
「ほんまにな、恐ろしいわ。あれでまだ無能力やさかい、とんだ化け物やね」
「あれは結構な自信作だったのでは?」
「せやね。残念やわ。ほんま、堪忍してほしいわ」
玄は言動ほど悲しんでいるようには見えず、気味の悪い微笑みを浮かべている。
「でもあのくらいの魔獣でも、ある程度コントロール出来ましたし結果は良い感じじゃないですかね。それにしても雪崩ってあんなに激しいなんて知りませんでしたよ」
「そうやんなあ。でもあれはちいと違うよ」
「どういう事ですか?」
「見えへんかったんならそれでええわ。うちとしては天使の吠え面が見えて気分ええさかい」
上品に意地悪い笑みを浮かべる玄。
そこに突然元気な声が割り込んでくる。
「たっだいま! ああ、疲れた」
「お帰り。どうやった?」
「あ、お姉ちゃん。こいつウザすぎ。もうマカと一緒にするの止めてよ」
「まあまあそう言わずに。俺は君といるの楽しいよ」
暗闇から現れたフードを目深に被った少女は、後ろの細身で薄気味悪いピエロ仮面の男を指さしながら玄に不満をぶちまける。
「お前がどうとか聞いてない。マカが嫌って言ってるの。ついうっかり殺しちゃいそうになるし」
「そう言って、もう今日は3回ほど殺られてますがね」
不満を言うマカを煽るように、生業は大袈裟な身振り手振りで話す。
「うるさいな。上限まで殺ってもいいんだよ」
「ああ、おっかない。それは流石に困りますので道化は黙りますね」
「一生黙ってろ」
本気の殺意を向けるマカの視線にも、生業は飄々とした態度を崩さない。
「マカ、生業はんはこんなでも家の幹部やさかい堪忍え」
「お姉ちゃんがそう言うなら、もう少し善処する」
唇を尖らせながら、しぶしぶと頷くマカ。
「ええ子ええ子。そういや1つ良い知らせがあるよ」
「え、何々?」
「あんたのお兄ちゃんから伝言やわ」
「え!? お兄ちゃんから! 会ったの?」
お兄ちゃんと聞いて、さっきまでの不機嫌さが嘘のように、喜ぶマカ。
「ちょっと用事でな」
「いいな。それでそれで何て言ってた?」
「元気か心配してはったよ」
「流石お兄ちゃん。相変わらず優しいな」
「あと、預けてた物そろそろ返しに来い、言うてはったわ」
「それは会いに来いって事だよね! 嬉しいな、いつ行こうかな。久々の再会だし、お土産いるかな? あ! お洒落していかないと。話したい事一杯あるな、どうしようどうしよう。わくわくが止まらないよ、お姉ちゃん」
興奮を隠しきれない子犬のようにはしゃぎながら玄に詰め寄る少女。
「マカの行きたい時に行ってええよ。仕事はうちらで何とかしとくさかい」
「ありがとう。お姉ちゃん、大好き」
テンションの高いマカを優しく見つめる玄に、甘えるように飛びつくマカ。
「そうと決まれば早く準備しないと。じゃあ、私もう部屋に戻るね」
そのままパタパタと暗闇の中に消えて行くマカ。
「ああしてると、ただの年頃の女の子のようですね」
生業がポツリと呟く。
「生業はんも、ああは言うたけどあんまマカを弄らんようにな。いつかほんまに殺されはりますえ」
「俺もそう思いますけど、あの子弄ってるの楽しいんですよ。ちゃんと殺してくれますしね」
「相変わらずの死にたがりやね。ほんまうちから見ても気持ち悪い性格してんね」
「いえいえ、イノチダイジニ。俺だって死ぬの楽しいなんてそんな変態じゃないですよ」
ニマニマと笑いながら、薄気味悪い態度は崩さない生業。
「ほんま、あんたはんみたいな人材がうちに来てくれて心強いわ」
少し引きつった笑みになりながら嫌みを言う玄。
「あれ、引いちゃいました? それではお後がよろしいようで、道化もそろそろ消えますね」
丁寧なお辞儀を見せて、マカと同じように暗闇に消える生業。
「はあー。あの2人といると息が詰まりますね。何をしでかすか分からない異物感が凄いです」
「なんやかんや働き者やし、良い子達やけどね。性格以外は」
「にしても、生業さんも言ってましたが、マカさんってあんなにテンション上がるんですね」
「せやね。あの子にとってお兄ちゃんは全てやからね。唯一の家族言うてはったし」
「混沌の死神がブラコンですか。普段は世界全てが敵みたいな人ですのに。実の所彼女が生業さんと姉さん以外と話してる所見た事ないですし」
「誰にだって好きな事の1つや2つあるやろ。あの子の良く言う、1回は我慢、ってのもお兄ちゃんとの約束らしいわ」
「あんなのに言う事聞かせる兄とは。なんて思ってましたが、さっきの見て妙に納得しました」
「まだ底が知れへんけどね。1回仕掛けてみようか」
意地悪を思いついた子供のように無邪気な笑みを浮かべる玄。
「何か良い考えが?」
「使えそうな子もおるし。たしかキョウヤ辺りが暇してはったね? あの子なら相性も良いし、丁度ええやろ」
「寒いの次は熱いですか。あの子達も大変ですね」
次の計画が思い浮かんだのか、玄達は怪しく笑いながら暗闇に消えていった。
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