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紅い月  作者: ソムク
15/31

3日目 午後

「ここです」

 司と別れ15分程歩いただろうか。

 前を歩いていた白が足を止め、目線の先を指で指す。

 段々と強まってきた雪に少し視界を遮られながらも、山の中に洞窟のような空洞になっている部分が見える。

「あれは?」

 ボソッと呟く月夜。   

 目を凝らすと、空洞の中に何かが動くのが見えた。

「あたりです」

 声を潜めながら、白が目配せしてくる。

「大白熊たち、ここに居たんだな」

 そこには複数の大白熊の姿があった。昨日のような子熊ではない、遠目だが中には自分達の倍はあろうかという大人がいる。

「穴の奥で寝てる、のかな? 普段からあんな風だったの?」

「いえ、彼らは集団では行動しないので、こんな光景は珍しいですね」

「じゃあ、あそこに食べ物があるって事?」

「うん? どうでしょうね。よく見えないですが」

「少し照らしてみる? 気づかれない程度に」

 月夜は雪の結晶のような光の粒を生み出し、慎重に洞窟の中に送り込む。

「あれは、餌?」

 少し照らし出された洞内には、木の実などの餌が見える。

「いや、でもあれって」

 さらに月夜が集中して見えた物は、さっき見たのと似た真っ黒な木の実。

「さっきの木の実ですかね?」

「たぶん違う」

 雷太の言葉を月夜が否定する。

 月夜にも確信がある訳ではないが、本能的に違うものだと感じる。

「さっきのよりも質が悪いかも」

 司曰く、さっきのは魔力を喰う木の実。

 大白熊達は魔獣だ。司の言葉を信じるなら、そんな木の実を持ち運んだりしないはずだろう。

 それなのに、木の実は洞窟の中にある。

 月夜は直感的に、あの木の実が大白熊達の騒動の原因ではないかと感じていた。

「……あれは、おかしい。すごく嫌」

 珍しく雪野も脅えたような声を出している。

「少なくとも、今までの山ではあんな物見た事はありません」

「たしかに、なんか纏わり付くような嫌な気配は感じます」

 白と雷太も警戒している。

 あんな怪しい物が中にあるという事は、大白熊達はあれを食べているという事だろう。

 それにより大白熊達にどんな影響があるかと想像し、月夜は背筋がゾッとする感覚を味わう。

「でもさっきの木の実が怪しいから、食料を求めて村に下りてくるようになったんですよね?」

「そう思ってたけど」

「じゃあなんでもっとヤバいあれが、さも餌のように置いてあるんでしょう」

 雷太の言葉を受け、月夜は司の言葉を思い出す。

 認めたくはなかったが、やはり何者かが悪意を持ってそうしたという事だろう。

「情けない」

 思い詰めたように月夜が呟く。

 月夜らしくない声音、感情が乗ってしまったのか、偵察に使っていた魔法が少し強く輝く。

「月夜さん!」

 雷太の忠告に魔法を消したが、その寸前洞窟の中の複数の大きな影が映し出される。

「グウウウウウウ!」

 突然脅かされた寝所に、大白熊の唸り声が響く。

 洞窟の中から外の様子を見に、1匹の大白熊が出てくる。

 優に2メートルはあろう巨体に、全身を覆う真っ白な毛、なぜか片腕の毛だけ黒く染まっている。

「ごめん。皆気をつけて」

 自分のミスを反省しつつ、大白熊に見つからないように息を潜める月夜。

 光の正体を探し、巣穴の周りをうろうろしながら鼻をひくつかせる大白熊。

「あいつら鼻は良いんですかね」

「並の動物くらいには」

「でも雪で匂いが薄れるかも」

 ひそひそと会話する月夜達。

 緊張しつつ大白熊の様子を見つめていたが、向こうもこちらを見つけられなかったのか、洞窟に戻っていく。

 月夜達が安堵したのも束の間、ズシンと足音がしたかと思えば、一際大きな真っ黒い毛の大白熊が姿を現す。

 先ほどの大白熊の倍はあろうかという巨体。あれがこの集団のボスだろうか、偵察していた大白熊と何やら言葉を交わしている。

 あまりの威圧感に月夜達が圧倒されていた次の瞬間、ボスが低く唸ったかと思うと、偵察に出ていた大白熊の体をその凶悪な爪で切り裂く。

 巨体が宙を舞い、真っ白な雪が血で染まる。間髪入れず、首元に牙を突き立てるボス。

「え!? ヤバい、止めないと!」

 目の前の光景に動揺し、焦って飛び出そうとする雷太。

「雷太君!」

 そんな雷太の腕を必死で掴んで止まる月夜。

 今出て行った所で、月夜達ではあの巨体の熊には敵わないだろう。

「でも、彼らは白ちゃんの・・・・・・」

「分かってる! 分かってるから。堪えて」

 自身も悔しいのか強く口びるを噛みしめつつ、白の方を向く月夜。

 雷太が白に視線を移すと、手から血が滲む程強く拳を握り、身を震わせながら耐えている姿が目に入る。

「すいません。取り乱しました」

「ううん。あれがたぶんこの集団のボスだ。今は一刻も早くここから離れよう」

「今のうちに、離れましょう。足元に気をつけて、静かに行きましょう」

 大白熊が味方への攻撃に気をとられている隙に、月夜達はその場を離れる。

 目を離さないように、後ずさりしながら十分な距離を取る。

「まさか急に同族を襲うなんて」

「今まではあんな事なかったのですが」

「毛が黒く染まっていた事と関係あるのかな」

「だとすると、絶対あの実の仕業ですよね」

「たぶん凶暴化してるんだと思う。それに魔獣としても強くなってるかも」

「俺達でも勝てるかどうかですよね」

「そうだね。それに」

 中途半端な所で言葉を句切り、白の方を申し訳なさそうに見る月夜。

「私達は今日までだから」

 現状の大変さを知ってしまった後だと残り少ない時間が惜しい。

 だが焦って対処しようとした所で無駄な犠牲が増えるだけ。

 月夜は歯がゆさに嘖まれる。

「現状を確認出来ただけでも十分です。あまり気にしないで下さい。これは私達の問題ですから」

「白ちゃん。学院長に事情を話してどうにか出来ないですかね」

「……出しゃばりすぎ。1学生が背負える問題じゃない」

 心配する雷太に向けて、雪野から厳しい現実が突きつけられる。

「そうですよ。さっきも言いましたが大丈夫ですよ」

 安心させる為に強がった笑顔を浮かべる白。

「ほらそれより早く下山しちゃいましょう。クマも待ってるかもしれません」

「うん。・・・・・・そうだね」

 明らかに気を遣われてる状況を情けなく思い、肩を落とす月夜。

 なにか自分達に出来る事はないのか必死に考えるが良い案は浮かばない。

 雪野の言った通り、1学生に過ぎない自分達が学院の決めごとに逆らってまでここに残ったとて、何か出来る具体案がある訳ではない。

 だが、雷太が言ったように学院長に事情を話して滞在を延ばして貰えば、何かしらは出来るのではないかとも思う。

 何より月夜の心情として、明らかに困っている人達をこのまま見過ごすなんて出来ない。

 黙り込み思考を巡らす月夜、その様子を見てこれからの事は一端月夜に任せ、白の精神的負担を減らせるようにたわいない会話をしにいく雷太。

 月夜達はそのまま下山し村の近くまで来る。さっきまで強まっていた雪は不思議なくらい弱まっていた。

 

☽☽☽


 白達の沈んだ雰囲気を察しクマは足元にすり寄ってきた。

 他に村の人達も口々に心配の言葉を掛けてくれた。

 白は一様に大丈夫と返すだけで、詳しい事情は話さない。

 無駄に心配も掛けたくない。それに無駄な被害も出したくない。

 月夜達は真っ直ぐ宿に向かい、上辺だけの会話をしながら夕食を手早く済ませていた。

 そのままそれぞれ部屋に戻る。

 雪野は先にお風呂に行って、月夜は部屋で1人明日の帰りの支度をしている。

 このままお別れでいいのだろうか。そんな心配ばかりで片付けの手は進まない。

 誰かに相談しようか悩みスマホを持っては、手放しを繰り返しているとタイミング良く着信を告げる。

 電話番号を見ると、学院からの着信だった。

「はい。紅月夜です」

「ああ、遅い時間にすまないね。今大丈夫かい?」

 電話の向こうからは学院長の声がした。片手間に電話してるのだろうか、何やら周りで話し声が聞こえる。

「はい。大丈夫です」

「ん? 何かあったかい? 随分と元気がないじゃないか」

 月夜としては気をつけたつもりだったが、余程声音に乗っていたのか、学院長が心配そうに訊いてくる。

「あ、えっと、大丈夫です」

「あのね、一応私だって教育者の端くれだよ。そんな不安そうな声の生徒放っておける訳ないだろ。何でもよいから取り敢えず話してみな」

 1度は断った月夜だったが、学院長に優しく諭され、ぽつぽつと今日の出来事を話していった。

「なるほどね。この状況は良いのか悪いのか」

 月夜の話を聞いた後、電話口で頭をかき悩む音が聞こえる。

「実はだね。今日電話したのは、あんた達の滞在を延ばせないか相談しようと思ってね」

 学院長からの願ってもない言葉に、一瞬月夜の思考が止まる。

「完全にこちらの都合で申し訳ないのだけどね、実は結界の作成が間に合ってなくてね。ここ2日程少し込み入っていて、今は落ち着いてきたから、あと2日程そちらで過ごせないかというお願いだったんだけどね」

「え、いえ、それは願ってもない事ですけど」

「だけどさっきの話を聞いてしまったらね、あんた達をそこに残しとくのは危険な気もしてきたよ」

「もしかして、学院長も現状に心当たりがあるんですか?」

「あると言えばある。大白熊達に起きてる事はおそらく狂化だろうね」

「狂化、ですか?」

「正気を失って、能力も底上げされた状態だよ」

「そんな事があるんですか?」

「そうだね。最近よく聞く状況だから、間違いないよ」

 学院長の声が苛立ちを含んでいる。

 よく聞くという事はもしかしたら、結界作成が遅れてる状況と関係があるのだろうか。

「まあ現地の子には酷な話だけど、その大白熊達は諦めた方がいい。結界を作り終わったらこっちで人員を出すからあんた達もじっとしてることだね」

 暗に自分達では敵わないから余計な事はするな、と言われた事を察する月夜。

「それよりまずは滞在を延ばせるかだね。遅い時間だけど、依頼者に確認は出来るかい?」

 押し黙る月夜を慮ってか、学院長は一旦話題を変える。

「はい。確認してみます。あとで折り返しますか?」

「このままでいいよ」

 そのまま月夜が部屋を出ようとするタイミングで、雪野が浴室から出てくる。

「あ、雪野ちゃん。今学院長から電話が来てて」

 月夜は学院長から言われた事を雪野にも伝える。

「そういう事だから、ちょっと白ちゃんに確認してくるね」

「……うん。先に寝てる」

「了解。もし遅くなって起こしちゃったらごめんね」

「……大丈夫」

 疲れ気味の雪野と言葉を交わし、月夜は廊下に出る。

「すいません、学院長。今から訊きに行きます」

「さっきのは冬季だね。問題なくやってるかい?」

「? ええ。いつも通りですけど」

「ならよかった。轟も元気かな」

「そうですね。元気ですよ」

「問題ないならいいさ。これからも冬季達と仲良くしてやってくれ」

 2人の事を心配してるのかと月夜は思ったが、声音に何か違和感も感じる。

「そういえば、あのクソガキもそっちに行ってるだろ? 会ったかい?」

「司が来る事知ってたんですか?」

「北条に聞いてね。その様子だと会いはしたってとこだね」

「はい。でもいつも通り1人で何かしてます」

「ハハ。あのガキは何処でも変わらないね。あんた達は学院外だからってあまりハメを外すんじゃないよ」

「はい」

「ちゃんと2日間静かに、じっとしてるんだよ」

 不自然に繰り返す学院長の言葉の意図が分からず、月夜は首を傾げる。

 司じゃないのだから、そんな身勝手な事はしないのだが、心配されている訳ではなさそうだ。

「本当にあのガキは、私が何言っても聞かないから嫌になるよ」

 もしかして、そういう事かなと何かを察する月夜。

「分かりました。私達は真面目にやります」

「無茶だけはするなよ」

 意図が伝わったのか、学院長は少しだけ楽しそうに話す。

 話しながら1階に下りた月夜だったが、辺りを探しても白の姿が見えない。

 よくよく見ると、玄関の鍵が開いている。もしかして外に行ったのだろうか。

 学院長に一言断り、月夜は上着を持ってきて外に白を探しに行った。


☽☽☽


 月夜が学院長からの電話を受ける少し前。

 白はなんとなく寝付けず、クマの様子を見ようと村の入口に向かっていた。

 慣れているとはいえ、流石に夜となると冷える。

 月明かりに照らされ舞い散る雪の中、ざくざくと積もった雪を踏みしめ歩く。

 足音に気づいたのか、クマが白の方を向き歩みよろうとしている。

 クマに駆け寄り、優しく抱く白。寒い雪の中生き物の暖かみを感じ、少し強く抱きしめる。

 色々あった1日だった。ずっと気になっていたが1人では行動出来なかった所に行けた。

 大白熊達に起きている異常の一端を知れた。学院に依頼している結界が完成すれば知る事が出来なかったかもしれない事柄。

 月夜達は優しいし、とても協力的だ。白は感謝してもしきれないと思っていた。

 だが、あの惨状を見てしまって放っておくなんて身が引き裂かれる思いだ。だからといって白達に何が出来る訳でもない事は自覚している。

「?」

 思いの外強く抱きしめていたのだろう。クマが心配し、頬を舐めてくる。

「すいません。クマも大変なのに私がメソメソしてたら駄目ですよね」

 優しくクマの頭を撫でる白。

 気持ちよさそうに頬ずりしてくるクマ。

「せめてクマのお母さん達は探さないとですね。全部終わったらまた皆で仲良く遊びたいですね」

 クマと話ながら戯れていると、後ろから雪を踏む足音が近づいてくる。

「あ、ここに居たんだ」

「あれ、轟さん? どうされました?」

「いや、白ちゃん大分ショック受けてたから。その、大丈夫かなって」

 恥ずかしそうに目を泳がせながら答える雷太。

 雷太の言葉を聞き、暫くキョトンとした顔をしている白。

「あの、なにかリアクション欲しいかな」

「あ、すいません。雷太さんは本当に優しいですね」

 真っ直ぐに屈託なく微笑む白。

「だからといって、そんなに真っ直ぐに褒められると面映ゆいな」

「あ、いえ、うっかりすると泣いてしまいそうだったので」

「やっぱり、ナイスタイミングだった? 普段もこれくらい出来ればモテるのかな」

「ええ、雷太さんはモテると思いますよ」

 冗談っぽく場を和ませようとする雷太。

「いや、でもあれだな、ごめんね、力になれてなくて」

「そんな事ないです。雷太さん達には感謝しかないです」

「そういう事じゃなくて、明日でお別れだろう? 本当に中途半端につらい現状だけ残していくし、ごめん」

「ハハ。大丈夫です、大丈夫ですけど、おかしいですね、涙が」

 雷太の優しさに触れ、緊張の糸が切れたのか、白の笑みを貼り付けた顔に涙が溢れてくる。

「すいません。ちょっと、昔の事思い出してしまって」

「我慢しなくていいよ。今は俺しかいない」

「そう、ですね。少し気を張っていたのかもしれません」

 白は自分の袖で涙を拭う。

「私、以前は大白熊達とよく遊んでいたんです」

「たしか昔は生活にも馴染んでたって言ってたね」

「はい。彼らは知能も高いですから。私が小さい時親とけんかして家を飛び出した時があって、山に入ったのですが道に迷ってしまい、寒くて震えた時に大白熊達が助けてくれたんです。私を暖めてくれて、村まで送ってくれました。その後、私は寂しくなったら彼らの元に行き一緒に遊んでいました」

「そっか。大白熊って優しいんだな」

「そうですよ。雪が積もり過ぎて木が倒れたりしたら、そっと邪魔にならないようにどかしててくれたり、村の人達の力仕事に協力してくれたり、本当に良い子達ばかりだったんです。でも」

 楽しそうに思い出を語っていた白だったが、突然顔が曇る。

「数ヶ月前に山に入った人が突然襲われて、その後村に来てた子達もぱったり来なくなって、1度人が襲われてからは皆手のひらを返したように、大白熊を怖がるようになって。実は私こっそり山に入って彼らを探してたのですが、村の人に見つかって連れ戻されちゃいまして」

「それで今日やっと彼らを見つけたと」

「そうですね。まあ、数ヶ月前のあの日から嫌な予感はしてましたし、何処かで決心がつかない所があったので、さっきも言いましたが雷太さん達に感謝してます」

 物寂しげに微笑む白を見ていると、雷太は何かをしてあげたい衝動に駆られるが、何をしたら良いのか分からない。

 思わず抱きしめそうになる雷太だったが、寸前で踏みとどまる。

「大丈夫だ。一応俺達は年上だし、魔法だって使える。もっと頼ってくれても構わないから」

 やり場のない思いは結果、白の頭を撫でる事で落ち着ける。

「え、雷太さん?」

 急に頭をポンポンされて困惑する白。

「あ、悪い。つい、雪野と同じ感覚で」

「あ、いえ、びっくりしただけで嫌ではないです」

 手の隙間から上目遣いの恥じらいの表情で見つめられ、少しドギマギする雷太。

「あ、ハハ。それにさっきの言葉は本心だから、白ちゃんが困ってたらいつでも駆けつけるから気軽に相談してよ」

「ありがとうございます」

 勢いで格好つけてしまい、なんとなく気まずい思いをしている雷太。

 救いを求めていると、背後から雪を踏む音が近づいてくる。

「あれ? 雷太くん? 白ちゃんと一緒に居たんだ。丁度良かった」

 雷太と白が音がした方を向くと、スマホを持った月夜が立っていた。

「月夜さん? どうしたんですか?」

「今学院長から電話が来てて、白ちゃんに訊きたいんだけど、私達あと2日ほどお世話になったら駄目かな?」

「え? 構いませんが、むしろ居てくれると助かります」

「ありがとう。詳しい事情は後で話すね」

 そう言って、スマホを耳にあて学院長と話始める月夜。

「あー、あと2日居られるみたいだし、明日からもよろしく」

 もうお別れと思い、さっきまで取っていた態度に赤面する雷太。

「はい。頼りにさせて貰います」

 そんな雷太を楽しそうに見る白。

「よし、学院長にも話せたよ。ところで2人はここで何してたの?」

「ちょっと、クマの事が気になって戯れてただけです」

「俺も、そんなとこです」

「ふーん。なら学院長から言われた事伝えたいし、寒いから戻らない?」

「そうですね。そろそろ体冷えてきましたし」

「はい。ではクマまた明日ですね」

 クマに別れを告げ、3人は宿に戻る。

 先を歩く月夜と、後ろを並んで歩く白と雷太。 

 少し心の距離が縮まったのか、白は雷太の服の裾をちょこんと摘まんで一緒に歩く。

 あと2日、雷太達はここに居られる。この2日で少しでも事態を好転させたい。

 そんな皆の思いに背くように、山の方では吹雪が吹き荒れていた。


こんな文章を読んで頂き、ありがとうございます。

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