表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い月  作者: ソムク
10/31

遠征準備②

 学院長との打ち合わせが終わり、3人は廊下を歩いていた。

「初めての遠征か。なんか緊張しちゃうね」

 月夜が笑顔を作り、口を開く。

「そうですね。でも簡単そうな内容で一安心です」

「確かにね。それに雪山って事は、雪野ちゃんは得意分野かな」

「……雪は好き」

「心強いね。頼りにしてるよ」

 屈託なく微笑む月夜に、少しうつむきながらも嬉しそうに頬を緩める雪野。

 その光景を見て、雷太が嬉しさのあまり目を潤ませる。

「雪野が俺以外の人と普通に話せてる。良かったな」

「……雷太大袈裟。月夜はもう大丈夫」

 ムッとして雷太に抗議の眼差しを向ける雪野。

「そうかそうか」

 雪野の髪をわしわしと撫でる雷太。

「……ヘッドフォンが落ちる」

 雪野は煩わしそうな態度を取りながらも、嬉しそうに目を細めている。

「2人は本当仲良しだね」

「付き合いが長いですから。それよりも、早く帰って準備しないと」

 2人を微笑ましそうに見つめていた月夜の言葉に、雷太は恥ずかしくなったのか話題を変える。

「準備か。でも私持ってる物少ないから、すぐ終わりそうだよ」

「女の子なのに。珍しいですね」

「むしろ足りない物があったらどうしようか。司の勝手に使ったら怒るかな」

「ちょっと、なんですかその彼女っぽい台詞! 羨ましい」

 何気なく出た言葉に、思いがけない圧で返され困惑する月夜。

「……同棲してるから」

「その通りだけど、言葉のチョイスに悪意を感じる」

 冗談っぽい笑みを浮かべる雪野と、沈痛な面持ちの雷太。

「私としても、同棲って言われるとなんか気恥ずかしいかな」

 月夜も、雪野の言葉にはにかんでいる。

 そのまま3人が階段に差し掛かった時、ばったりと見知った人物に出会う。

「あれ、りんかちゃん?」

「チャオチャオ。3人揃って、差し詰め遠征の話の帰りって所かな」

「よく分かったね。りんかちゃんはどうしたの?」

 月夜が気になったように、りんかはいつもの出で立ちとは少し違っていた。

 と言っても、大きな荷物を抱えているくらいだったが。

「私達はもう遠征に出発だよ。全く人使いが荒いったらないよ」     

 冗談っぽく笑いながら、不満を口にするりんか。

「今日の今日で出発の人達もいるんだね」

「善は急げって言うしね。情報は多いに越したことはないんだよ」

 ふふんと胸を張り、自慢げにするりんか。

「それより、月夜ちゃん達は何処に行くの?」

「私達は、常冬の村って所みたい」

 月夜の言葉を聞き、一瞬驚いたように目を見開くりんか。

「どうかした?」

「あ、ううん。何でもないよ」

 月夜はりんかの不自然な態度が気になったが、愛想笑いで逃げられてしまう。

「りんかちゃんは、常冬の村って知ってる?」

「簡単にはね。そこで何をするの?」

「魔獣から村の護衛だって」

「そうなんだ。月夜ちゃん達なら楽勝だね」

 りんかは一瞬雪野に視線を送り、すぐに月夜に戻す。

「そうだといいんだけど」

「大丈夫大丈夫。初めての遠征でそんなにきつい案件は任せないって。気楽に行こう」

 軽い調子で語りながら、親指を立て、安心をアピールするりんか。

 それでも、月夜の不安そうな表情は拭い去れない。

「ごめんね。私そろそろ時間だから行くね。月夜ちゃん、轟君に雪野ちゃんも健闘を祈るよ」

 3人に向け笑顔で敬礼して、急ぎ足で去って行くりんか。 

「そうだ、月君によろしくね。それと部屋に残ってる物なら、月君のでも勝手に持ってちゃっていいと思うよ」

 去って行く途中、ふと思い出したかのように振り返り、そう告げるりんか。

 言い終わると、りんかは返事は待たずに、今度こそ姿を消してしまった。

「アハハ。司は来ないんだけどな」

 少し困り顔で呟く月夜。

「でも、荷物の件は解決しましたね」

「さすが、自称なんでも知ってるお姉さん、だね」

 りんかが本当に察していたのか、それとも適当に言った言葉が的を射ていたのかは分からない。

 彼女の事なので、おそらくは察していたのだろうと月夜は感心する。

「私もあのくらい、頭が回ればいいのにな」

 そうしたら、司の言うことももう少し理解出来るのかな、そんな風に考える月夜。

「月夜さんには、月夜さんの良さがありますから」

 月夜は自分で思っているより暗い表情になっていたのだろう。

 雷太が不器用なフォローの言葉をくれる。

「ごめんね、ありがとう」

 月夜は、気恥ずかしさでうつむきがちになりながら、お礼の言葉を口にする。

「あ、いえ、それより、俺達も早く準備済ませないとですね」

 頬を赤く染めた月夜に見つめられ、照れを誤魔化すように話す雷太。

「……照れてる」

 そんな雷太の様子を、雪野が微笑みながら指摘する。

「でも雷太君の言う通りだし、私達も帰って準備しようか」

 せわしない気もするが、明日には出発だ。

 慣れない事をするのだし、早く準備を済ませ英気を養っておくのがいいだろう。

 そのまま他愛ない会話をしながら、3人は帰宅していった。


☽☽☽


 翌日、月夜達3人は準備を整え、学園長室に集合していた。

 学院指定の鞄に荷物を纏め、それぞれ冬の装いをしている。

 月夜はたまたま部屋にあった、司のだと思われる黒のダウンジャケットを羽織っている。

 自分のではない為か、サイズがあってなく、ぶかぶかになっている。

 雷太は、派手な赤のダウンジャケットを着込み、雪野はいつもの装備にプラスして、一目見ただけで暖かそうなモコモコで雪のように白いダウンコートを着て、ふわふわのファーのついたフードを被っている。

「雪野ちゃん、いつにも増して重装備だね」

 そんな雪野の姿を見て、月夜が心配そうにしている。

「……寒いって聞いたから」

「でも、動きにくくない?」

「……大丈夫」

「心配しなくても大丈夫ですよ。こいつ冬はいつもこうなんで」

 本人達が大丈夫ならそうなのだろう。

「待たせたね。準備は万端かい?」

 部屋の奥から学院長が出てくる。

「依頼人に連絡して、今から送るって言ってあるからね。問題なければ早速出発といこうか」

 学院長の言葉を受け、もう1度自分達の荷物を確認する。

「はい。問題ありません」

「そうかい。ではそこの魔方陣の上に乗りな」

 月夜達は、部屋の中央に用意されていた魔方陣の上に、恐る恐る足を入れる。

「そんなにびびらなくても大丈夫だよ」

 3人が乗ったのを確認すると、学院長が魔方陣に魔力を込める。

「それじゃ飛ばすよ。初めての遠征だ、気負いすぎず頑張るんだよ」

 激励の言葉をくれる学院長。

「詳しい事は、現地で依頼人に聞きな。それと、一応は授業の一環だ。毎日活動が終わったら、簡単にメールで報告も頼むよ」

「わかりました」

「アドレスは生徒手帳に載ってるからね。もし何か不測の事態が起きたらすぐに連絡するように」

 学院長の言葉が終わると同時に、足下の魔方陣が光始める。

 だんだんその光は強くなり、月夜達を隠すほどに、激しくなる。

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 言い終わると同時、月夜達の体は光に包まれ、体が浮遊感を覚える。

 あまりの眩しさに目をぎゅっと閉じる月夜達。

 そのまま、光の輝きが収まった時、3人の姿は既に部屋から消えていた。

「失礼します」

 月夜達がいなくなった部屋に、担任の夢が入って来る。

「行きましたか」

「行ったね」

「何事もなければいいのですけど」

「大丈夫だろ。たった3日だ。心配しすぎさね」

 月夜達の事を案じてか、心配そうな夢。

「それより、そっちの案件はどうだい?」

「今すぐにという訳ではないでしょうが、警戒は必要でしょうね」

「やはりか。結界も作らないといけないというのに。やる事が多くて大変だよ」

「学院長なんですから。頑張って下さいね」

 やれやれと肩を落とす学院長を、微笑みを浮かべつつも叱責する夢。

 そのまま2人、意味深な会話を続けていた。


こんな文章を読んでくれて、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ