身勝手少年と善人少女の出会い①
人生で初めてライトノベルを書きます。寛大な心で見て頂ければ幸いです。
「人を助けるのに理由なんているの?」
「馬鹿かお前。理由なく人を助けられるなんて、理由なく人を殺せるよりも狂ってる」
少女が何気なくした質問に少年はそう返した。
彼はずっと彼女の事だけを考えて、彼女の為だけに行動していた。ただそれだけだった。
そうこれはそれだけの物語。
ある少女の事だけを考え、行動していた少年が、世界を壊す。
ただそれだけの物語。
☾☾☾
――空を見ていた。
――ただ1人、空を見ていた。
――燦然と輝く星空と、禍々しくも美しい紅い月を見ていた。
少年は1人空を見上げていた。
痩身で、黒髪黒目。
夜だというのに、制服に身を包み、ネクタイをだらしなく緩めている。
髪は無造作に伸び、所々寝癖がある。
全体的に、かったるそうな雰囲気を醸し出す少年。
1つ特徴的なのは、髪の色。黒の中にメッシュを入れたように、所々赤色が混じっている。
突然、静寂を突き破るように、激しい音が鳴り響く。
空を見ていた少年が、音のした方向に目を向けると、
1人の少女が異形の魔物に追われていた。
月明かりに輝く銀色の髪に紅い目、遠目から見ても美人だと分かる少女。
少年は1つため息をこぼすと、
「面倒事に巻き込まれるのはごめんだな」
そうつぶやき、そっと家路についた。
ここで1つ問題なのは、少年の帰り道から少女が逃げてきているという事。
つまり、このまま帰れば、魔物と追いかけっこをする少女とぶつかる事になる。
だが、そんな事は気にしないという風に、少年はそのまま歩みを進める。
少し歩き、案の定少女とすれ違いそうになる。
遠目に見ても美人だったが、近くから見れば一層美人だ。
ミルクのように白い肌に、肩まで届く銀髪のセミロング。
瞳は紅く、釣り目ガチだが、キツイ印象は与えない。
少女を観察しつつ通り過ぎようとした所で、不意に声をかけられる。
「ちょっと、君! どこに向かって行ってるの」
緊迫したような少女の声
「何処って、自分の家に決まってるだろ」
何を当たり前の事を聞くのかと面倒そうに答える少年。
少女は怪訝そうに眉をひそめて、忠告を口にする。
「でもそっちは危ないよ」
「そんな事見れば分かる。だが、やりたい事はやりたい時にやりたいようにする。
それが俺の心情だ。そして今は家に帰りたい」
「えと、うん。でも今そっちには魔物が来てるの。危ないよ」
心底面倒そうにしてる少年に、困惑した表情を見せた少女だったが、
急に合点がいったという表情になり
「もしかして君、すごい魔法が使えたりするの?」
「は? 俺は魔法は使えない」
「なら君のその態度はどういう事なの? さっきも言ったけど魔物が来てるんだよ。なんでそっちに突っ込んで行きながらそんなに余裕なの?」
さらに困惑した表情の少女に対し、少年はかったる気に応じる。
「追われてるのはお前だろうが。俺は関係ない。お前の面倒事に俺を巻き込むな。迷惑だ」
その言葉に愕然とする少女。
「私だって君を巻き込むつもりはないよ。でも私は君が危ないと思うから助けようとして言ってるの。あの魔物は魔法を使うんだよ。君は魔法使えないんでしょう。ね、だから私と一緒に逃げよう」
散々身勝手な言い分を聞かされたにもかかわらず、なお少年を守ろうとする少女。
「しつこいな。魔法を使うことくらい、さっきの爆発音から想像できる。それを承知の上で俺は大丈夫だと言ってるんだ。どうでもいいからとっとと家に帰してくれよ。それに」
一度言葉を切り、少年は視線を少女の後ろに移す。
「一緒に逃げるって、何処にだよ。もうとっくに追いつかれてるけどな」
少年の言葉に、少女があわてて振り返る。
そこには、見上げる程巨大な体で、片手には杖を持ち、頭には山羊のような角が生えている魔物がいた。
その魔物は、少年達だけでなく、辺り一面を破壊出来るような、大きな魔力の塊を頭上に集め、今にも少年達に攻撃しようとしていた。
「しまった! 君は私の後に隠れてなんとかするから」
少年を庇おうとする少女に向けて、ついに魔物からの攻撃が放たれる。
小さい太陽を思わせるような魔力の塊。
人1人が頑張った所で防ぎようがないような質量が襲いかかってくる。
せめて少年だけは守ろうと必死に思考をめぐらす少女だったが、面倒そうな声がその思考に割って入る。
「なんとかするって、どうすんだよ」
「今、考えてるとこ!」
「面倒だな。下がってろ」
有無を言わさず、少女の肩に手を置き、後ろに下がらせる少年。
「ッチ。 しゃらくせえ」
ぽつりと面倒そうに呟くと、少年は魔力の塊を殴り飛ばした。
比喩でもなんでもなく、文字どうり、魔法を殴って霧散させた。
「失せろ、そこは俺の歩く道だ」
全身が総毛立つような声。
魔物は恐怖に戦き、去っていく。
少女は何が起こったのか理解出来ずに、呆然と少年を見ている。
「もう俺を邪魔する理由はないだろ」
少年は面倒そうに言い、その場を離れていく。
しばらく茫然自失としていた少女は、ハッと我に帰り少年を呼び止める。
「待って」
「んだよ。まだ何かあるのか」
心底面倒そうに応じる少年。
「いや、ありがとう。私の方が助けてもらっちゃった」
少女は微笑み、感謝の言葉を口にする。
少年はどうでもいいと言いたげに、言葉を返さずにそのまま歩みを進める。
「君、名前はなんて言うの」
そんな少年の背中に、少女が言葉を投げかける。
「は? なんだよ急に」
「名前くらいいいでしょ」
一瞬思案した少年だったが、素直に質問に答えてくれる。
「月導 司」
答えるだけ答えると帰路につく少年。
「ありがとう。私は紅 月夜」
少女の言葉には振り返らずに、少年の姿はそのまま闇に消えていった。
はじめまして、ソムクです。こんな拙すぎる物を読んで頂いてありがとうございます。
全部でなくても一部でも目を通してもらえたのなら、ありがたいです。
一応続きも書いていくつもりなので、気が向いたらまた読んで頂ければ幸いです。