第3話 ツンヒロイン
窓際に外を眺める女の子を見つける海。
なんと一目惚れをしてしまう。
しかし話してみれば…。
黒髪だが一部金色のメッシュが少し入った髪色。
腰ほどに伸びた長い髪は月明かりに照らされところどころキラキラと輝いていた。
窓際に立ち外を眺めていたその女の横顔は実に美しいものだった。
その女はふとこちらを振り向くと話しかけてきた。
「こんな時間に何か用??」
その言葉につい固まる海。数秒の沈黙が続くがすぐに言葉を発した。
「扉があきっぱなしだったから誰かいるのかと思って」
「そう、ところであなたは?」
この時海は思った。この子が幸荘の最後の1人の住人かと。
にしてもほんとに綺麗だと改めて思った。
「人の話聞いてるの?」
「あぁっ、すみません」
「あなた、何歳?」
「15歳です。今年で16歳に、なり、ます」
「そう、今年高校2年生になるってわけね」
「まあ、そう…なりますね」
「なら敬語はやめてもらえるかしら。私と同い年なのだし、ぎこちなくてなんだか気持ち悪いわ」
唐突な美少女の気持ち悪い発言に内心めちゃめちゃ傷つく海。頭の上に大きな盥が落ちてきたかのような衝撃を受けた。
「初対面の人間にいきなり気持ち悪いはないだろ!!」
思わず反論してしまう海。
「いいから。あなたは誰なの」
「人に名を聞くときは自分からが普通だろー?」
彼女の態度に思わず素直に名乗るのを拒んでしまった。
「あなた今の状況を分かって言ってるのかしら?いい?こんな夜中に女のこの部屋に来て名を尋ねられて何も答えずに居座り続けているこの現状。私があなたを泥棒か変態か不審者何かだと思って大声を出したらどうなるかを考えてごらんなさい」
海は思った。「確かに」と。物理攻撃特化の幸先生に明先輩。多分ただじゃすまない。さらに入寮初日に女子部屋に無理やり入り込んだなんて噂を流されてみろ。俺の高校生活は確実にお先真っ暗だ。彼女どころか友達すらいないまま高校を卒業。社会に出て友人、彼女ができたとしても卒アルなんか見られてみろ。完璧に「え…?」って顔されるにきまってる。写真で一緒に写ってる人はいない。後ろの空白のページにみんなでいろいろ書く卒業定番のあのページも見渡す限りの白紙。そんなの悲しすぎるだろ。等の状況を思い浮かべていると彼女が口を開いた。
「あなたのおかれている状況が分かったかしら」
「はい…」
「で、あなたは?」
「水城 海。今日この寮に引っ越してきたんだ。よろしく」
「あんまりよろしくはしたくないものだけれど、私は九縞 海夕」
(顔かわいいのになんでこう素直じゃないんだよ!普通によろしくでいいじゃん!)
ムカッと来るよけいな一言にこれ以上くらいついても面倒だと思いこらえる。当の本人はというと、また窓から外の景色を眺めていた。ハァ…とため息をこぼしながら海は尋ねた。
「ちゃんと飯食ったか?」
予想外の言葉にハッと顔をこちらに向ける海夕。
「ええ。幸さんと二宮姉妹は料理が上手ね。美味しかったわ。サラダは誰が作ったか一目瞭然だったけど」
海夕に出されたサラダにはご丁寧にハートに切り抜かれた魚肉ソーセージを明先輩が入れていた。
「今日は、おれも作ったんだぞ」
その発言に目を丸くする海夕。
「あなたが!?ほんとに言ってるの??ありえないこの世の男たちなど料理なんてできるわけがない」
「世界中の料理をする男性方に謝れ」
と笑いながらツッコミをいれる。
「少しは使えそうな人が入ってきたわね」
「何使えそうな人って!!俺に何させる気だよ…!おい…!なんとか言えよ…」
海夕は何も言わない。必死な抗議も無に帰す。
「それはそうと、あなたのその前髪はペンキででもついたの??」
急な変化球を彼女は何気なく投げてきた。海の髪色は全体的に黒。そこまで長くも短すぎもしない髪型。ワックスなんかつければつんつんしたイケた髪型にできる長さだ。ただ右前髪だけ白に近い水色のメッシュが入っている。
「いやこれはほら、高校生にもなると髪なんて染めてみたいなーって思うじゃん。うちの学校髪染め禁止じゃないし。んで青色が好きだけど黒に真っ青は暗く見えるから白に近い水色にしたわけよ」
「チャラ男??ヤンキー??変人??変態??」
海夕の連続の言葉がグサグサと音を立てて見えないハートに突き刺さる。
「そうそうそう。お姉さんこれからお茶しな~い?いいカフェ知ってるからさ~15分だけ!ね?」
そう言った後、前髪をかきあげて眉間にしわを寄せて
「何見テンダテメーコラァ??」
と巻き舌で言った。
「「……」」
「っておい!!俺はチャラ男でもヤンキーでもねーよ!!つーか、最後の二言はただの罵声じゃねぇか!!」
深夜にもかかわらず大声でツッコミを入れる。
クスッと笑ったように見えた。「何だ笑えるじゃん」とそう思った直後
「シーーーッ!!あなたさっき言ったこと忘れたの!?」
海のほうに指をさしそう言った。そういえば幸先生がコミュニケーションとるの苦手な子とか言ってたけど、普通に会話してるし何がダメなんだろうと思いつつも、余計な詮索は今はやめておこうと思い言葉に出すのを踏みとどめた。
「ていうかお前もその髪ヤンキーじゃん。その髪色」
海夕の黒と金のメッシュの髪を指さし言った。
「お前じゃない九縞。ちゃんとそう呼んで。それとヤンキーじゃないから。お洒落だから。そんなこともわからないの??これだから男は」
(ほんとひとこと余計なんだよな)
という思いを飲み込む。
「それはどうもすみませんでした」
どうも九縞は口調が強いことが多いみたいだ。幸先生の言っていた件はもしかしたらこういった点がある故に本人に話す気があっても周りが距離をとってしまい次第に自分からは話に行くのはもうやめようという風にでもなってしまっているのだろう。
「1年の時は何組だったんだ?」
「B組」
ひとことそう答えた。
「二宮と同じクラスか。二宮とは仲いいのか??」
「私はあんまり自分の話はしないのだけどやたら懐かれてるのよね。彼女クラスの中心的な人だから周りに話したことのない人も寄ってきて昼食の時とか休み時間とか机の周りが騒がしくてしょうがないわ」
その場にいることを想像しているのか煩わしそうに手をめのまえでひらひらさせながら話す海夕。だが海は察した。これも強がりで実際はいてくれるのは嬉しいのだ。だって聞いてもいないのに1年生の時の昼食時間や休み時間、行事などの話を次から次へと話すのだから。そして必ず話には二宮 夢の名前が出てくる。こりゃ相当仲いいぞと思いいつつも言わないでおこうと海夕の話を聞き続ける海であった。するとふと海夕が不機嫌な顔をしながら言った。
「こっちばっかり話させていろんな情報をはかせるなんてあなた夢のストーカ
ー…」
威嚇のまなざしを向けられる海。
「いやいやいやいや、なんでそうなる!というか九縞が自分からいろんなこと話してきたんだろうが」
と笑いながら言うと九縞はジト目でジーっとにらみつけるとこちらに指さしこういった。
「水城 海。あなた今日から私の犬になりなさい」
「なんでやねん!!!」
ついツッコミを入れてしまう。
「暇つぶしとパシリくらいにはなりそうと判断したからよ」
「いや、理由になってないんだが」
「「……」」
二人の間に沈黙が流れる。海はすっとその場を立ち上がると
「そんじゃ俺そろそろ寝るから」
「ちょっと待ちなさい、犬にしてあげるのよ?」
「とんだいかれ変態だな九縞、かわいい顔してるくせに言うことはドSの女王様だな」
「かっかかか、かっ」
明らかに様子がおかしい。
「どうした…?」
「……」
「もう寝るからなおやすみ」
そう言って階段を降り始める。それを追うかのように足音が後ろから近づいてくる。なにかと振り返った瞬間だった。目の前には大きな白い塊が急接近し、顔面にボフッっと直撃する。そのままバランスを崩しドダダダダダダダダダッと大きな音を立てて海は海夕の目の前から姿を消した。
海夕は自室の扉をバタンッとわざとらしく音を立てて閉めた。
とりあえず半年位書いてなかったけど
久しぶりに創作意欲掻き立てられて頑張りました。