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特技の跳躍で神様さえも殺してみせる!  作者: 安藤行灯
第一章―バカみたいな跳躍力しかないくせして高等魔術を使いこなす少女をぶっ潰す―
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1話「死亡した俺/神様である少女」

 目を覚ます。ぼんやりとした視界の中にクリーム色の空が見える。沼地一太郎は目をこすりながら上体を起こし、辺りを確認すると、そこにはものが何一つとしてなく、地平線の果てまでクリーム色の色彩が広がっているのみであった。


「ここはどこだ?」


 そんな感想を持ち、一太郎は今、自分のいる空間がどこなのか全く把握できていなかった。それもそのはず、一太郎は今朝、学校に登校して以来の記憶が全くと言っていいほどにないのだ。こんなことは今まではなかったし、一太郎に記憶に関する障害があるわけでもない。


 では何故このようなことになったのか。理由は全くもって不明で、どうしたらよいものか全く分からない。ただ、一番最後の記憶に誰かが一太郎の脳内でひたすらに、


 見つけた……見つけた……見つけた……


 との声を繰り返すのが聞こえたのみで、それを皮切りにして記憶がプッツンと途切れ、今に至るというわけなのである。あれが誰の声であったのか。あの言葉の意味はいったい何だったのか。未だによく分からない。


 考えても分からないことに脳みそを使うのは単なる徒労でしかないことに気付き始めた一太郎は考えることをやめ、再び仰向けになって寝転がった。


 ここがどこで、今の一太郎がどういう状況に置かれているか分からないが、おそらくこれは夢だ。そう、夢なのだ。だってそうとしか考えられまい。見たことのない色の空。一太郎以外誰もいないこの空間。そして、謎の記憶喪失。


 全てはおそらく教室の片隅で授業中に居眠りをしている一太郎の脳内で起こっている出来事に違いない。そうだ、そう言う風に考えればいいんだ。


 なに、考えることを止めたらそこで人生終了?こんなもの、どう考えればいいというのだ。この事について考えることは三億円事件の犯人は誰かということを考えているようなものである。そんなものは全く意味がない。


 また、一眠りすればきっとこれは夢で、目が覚めたら教室が見えるに違いない。俺の隣の席にいる悪友が俺の頬をつついて笑っているに違いない。俺の一個後ろに座っている幼なじみもきっと懸命に一太郎を起こそうと背中をつついているに違いない。そうだ、そうに違いない。


 そう考えて目を瞑ろうとしたそのとき、


「あら、お目覚めになったんですね」


 突如として真上から聞こえてくる女性の声、声のする方向に首を傾け、視線を向けるとそこには白いワンピースで身を包み、銀髪の長い髪をなびかせ、黄金色の煌々と輝く瞳でこちらを見下ろす可憐な少女がいた。


 唐突なる少女の登場に一太郎は驚きを隠しきれない。何回か瞬きをしながら、一太郎は目の前の銀髪の少女の顔をまじまじと見つめる。


 小さな顔はどこか幼い感じを彼女に与え、少し高めの鼻は大人らしさを彼女に与えていた。そこには子供である彼女と大人である彼女が同時に同居しており、年齢はそれに見合った十六、七歳といったところであろうか。


 長い銀髪が儚げな印象を与え、触れてはならない何かをそこに感じ、黄金色の瞳はトパーズを連想させ、違った角度でその瞳を見つめると万華鏡のように見る景色が一転してしまうようであった。一太郎がその少女の顔を吟味している中、少女は少しはにかみながら、自己紹介をし始める。


「ふふ、自己紹介をしときましょうか。私の名前はメダ。この世では三番目に偉い神様です」


 とりあえずその自己紹介に色々と突っ込みたいところはあるが、今はそれよりもその少女に忠告しなければいけないことがある。


「パンツ見えてるぞ」


「え?」


 そう言って一太郎が彼女のスカートの中を指差した。一太郎の目線からは彼女のパンツが見えるのは当然といっちゃ当然だった。何せ、かたや寝そべっている状態で、かたやその真上に立っている状態なのだ。相手がスカートであるならば目を開ければパンツが見えることは不可避だ。あっちなみにパンツの色は白でした。ドストライクでした。ありがとう。いい目薬です。


 一太郎の言葉に頬が林檎のように赤くなり、慌ててその場から後退りするメダ。


「見ましたね?」


「はい」


「何色でした?」


「白です」


 ありのままを答える一太郎。別段、嘘をつく必要はないだろう。何せ、見てしまったという事実を変えることはできないのだし、はっきりと記憶に刻まれてしまったからだ。ここで例え相手から制裁を振るわれようが、一太郎は構わない。自分に嘘をつくよりはましだからである。


 そんな泰然自若とした態度で答える一太郎にメダの反応は……


「……正直でよろしい。あなたを許しましょう」


 と制裁を振るわれることもなく、案外あっさりと許されてしまった。不思議である。こんなんで許されてしまうなら、これからいくらでも見……いや、何でもない。


「一太郎さん」


 いきなり名前を呼ばれて、驚く一太郎。


「あれ?何で俺の名前……」


「当たり前じゃないですか。だって私はこの世で三番目に偉い神様ですよ?」


「その設定まだ生きてたのか」


「設定じゃないです!本当のことです!」

 

 そう言って地団駄を踏むメダ。何だこの生き物は、かわいい。素直な感想を心に抱き、メダに対して愛着を感じたところで、一太郎は率直な意見をメダに向かって言った。


「なあ、メダ。ここはどこだ?」


 一太郎が初めてここに来たときの感想をそのままそっくりメダに訊ねたのだ。メダは顔を地団駄を止め、顔をパアッと明るくさせる。おそらく一太郎からやっとまともな言葉が返ってきて嬉しかったのだろう。相変わらずかわいい。


「ここは天界ですよ」


「天界?天界って天使とか神様が住んでるような世界のことか?」


「そうですね。その解釈でだいたい合ってますよ。ただ、この世界はどの世界にも属さない極めて独立した世界なんです」


「おいおい、いきなりなんか話が難しくなってきそうな雰囲気だな」


 話の中に難しそうな単語が入ってくるのをひどく嫌がる一太郎は、その話の雲行きの怪しさに不安を募らせる。メダはそんな一太郎に対して、「あはは、大丈夫ですよ」と言って、簡単に説明することの旨を伝えた。


「言おうとしていることは簡単です。ここは地球でもなければその他の世界でもないということなんです」


「いや、待て。その他の世界ってなんだ?地球以外にも世界があるっていうことかよ?」


「はい、そうです。あっちなみにあなたにはこれから今、話の中心になっているその他の世界に行ってもらいますよ。分かりやすく言えば異世界に」


 何だか当たり前のように言っているメダだが、一太郎にとっては冗談ではない事態である。というかあまりにもふざけすぎている。やはり、これは夢なのかもしれない。


 こんな美少女のパンツが見れて、会話ができて、おまけに異世界にまで行ける。これは夢だ。そう、まだ覚めることのない夢。いや、どうせならもう覚めなくてもいいかもしれない。


 地球手の生活は毎日が単なる時間潰し、単なる退屈しのぎでしかなかったように思う。だから、一生このまま夢の中で暮らすのも悪くないかもしれないと一太郎はこのとき半ばそのようなことを考えていた。 

 

「何で勝手に俺の異世界行きが決められてるのかは知らねーけどさ、要はここ夢の中の世界なんだろ?全部」


「違います。現実です」


 速攻な否定。一太郎がここまで散々夢だと思っていた世界に亀裂が走り出した。


「え?じゃ、現実?」


「もちろんですよ。何を寝惚けたこと言ってるのですか?あなたは一度元の世界、つまり地球でお亡くなりになって、今ここにいるのですよ?」


「お亡くなり!? えっ?俺、死んだの!?」


 衝撃的な新事実。おそらくそこら辺の家政婦が隠れて見る出来事よりも衝撃的で信じがたいその事実。頭の中に稲妻が何回も落下し、まさに常時アハ体験状態と言っても過言ではない。


「はい、死にましたよ」


 笑顔で言うメダ。可憐な振る舞いは見る者の心を一瞬にして掌握してしまうことだろうが、このときだけは言っていることがひど過ぎるので、一太郎にとっては悪魔に見えるし、ハイドに見えるし、ブルートゥスに見えるし、明智光秀に見えるし、一周回って悪魔に見えるしで散々だ。


「笑顔で言う台詞じゃないんだが」


「だって、もう死んでしまったんですよ?過去のことを後悔しても仕方ないじゃないですか。前に進みましょう」


 レッツゴーというような感じで拳を前に突きだすメダ。まるで幼稚園の遠足の一番先頭にたって、園児たちを引っ張っていこうとする先生そのものである。だが、一太郎にとってそんな生易しい状況でないことは留意していただきたい。何せ、彼は夢だと思っていたことが急に現実だと告げられ、死亡宣告までされているのだから。


「いや、前に進むどころか死んだら前に進む機会すらないからな?てか、死んだの?えっマジなの?ねぇ、マジなの?」


「うるさいですね。しつこい男は嫌われますよ」


「そりゃ自分の生死のことなんだから誰でもしつこくなるわ!!」


 当然の答えだ。というか正論だ。一太郎にあった最初の時の余裕はもうない。色々と衝撃的事実を告白され過ぎて、脳がショートを起こしそうだ。


「死んだものは死んだのです。何せ、地球にあるあなたの肉体は今、別の人が使っているのですから」


「え?」


 またもや衝撃的な事実が告げられる一太郎であった。




 

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