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理由なんてそれで十分だ

Twitterの創作ワンライさまより、お題「理由なんてそれで十分だ」をお借りしました。

時系列的には本編始まったばかりの頃です。

午前零時を少し過ぎたか。

まだ少し寒さの残る四月の初めのこと。

雲間からぼんやりと月明かりの差し込む林の中、憂いを帯びた目の男がいた。背が高く、青年とも少年ともとれる端正な顔立ちは暗がりの中でもはっきり分かる。

ただ、その手の中には現代日本には似つかわしくない拳銃が一丁。江戸時代に伝わってきたような細やかな彫金が施されている。その足元には巨大な化け物が一匹、物言わぬ姿で転がっていた。


「おい、やり過ぎじゃないの」


千隼、と最後に付け足されるようにして呼ばれた男は振り返りはしなかった。

声の正体は木の濃い影に溶け込むように立っていた少年から発されたものだった。


「祥次郎か…今夜は少しばかり気が立っているんだ」


千隼の幾分か古風な話し方は昔からの癖だ。

いつもなら顔に似合わぬ残念な言動も出てくることがあるが今日はそれも鳴りを潜めているらしい。

しっとりとした夜気が心まで重くするようで小さくため息を吐く。

禍怪と呼ばれる化け物たちを滅し、祓う仕事人ー法術師。取り分けその中でも実力派と呼ばれる彼らは今宵、仕事の為にこのような人の気配もない森林の奥にまで来ていた。

昼間は学生、夜間は法術師。学生故に毎日ではないが時々こうして駆り出されることも多い。


「なに、なんかあったわけ?お前がそういう荒れ方すんのマジ面倒。普段アホみたいにやかましいくせに」

「酷いな相変わらず!俺だってこういう時くらいあるぞ。全くなぜ今日に限って一体だけなのか…」


足元に向けて引き金を引く。破裂音が夜闇をつんざくように響き渡る。普段ならあとは術で塵にするか、放置しても自然に霧散するだけなのだが。

千隼は視覚からの情報すらも煩わしくて瞳を閉じた。瞼に浮かんだのはある人の顔ー


「凜か」


祥次郎に見事思っていた事を当てられて、ぴくりと千隼の肩が揺れた。目を開ければ相も変わらず無残に風穴だらけになった化け物の亡骸が転がっている。


「わかりやすー。お前なんであいつのことなるとムキになんの気持ち悪いよ」

「っ!昔っからお前本当に俺に容赦ないな。慰めの言葉くらいかけてくれてもいいのではないか」

「お前慰めとかいるの?とうとうフられた?」

「お前からはいらんな!フられてない!」


凜と言えば二人と同い年程で、女性と見紛う程の美少年または美青年、という形容をしたくなるような女性である。決して誤字ではない。

彼女もまた同じような立場であり、実力者でもある。そんな彼女を千隼は好いていた。


「ただ、最近なにかあったらしいのに俺にはまだなにも教えてもらえていない」

「…あっそう」


祥次郎からしたら今のが一番まともな返しだっただろう。この時期は昼も夜も割と忙しい。連絡が取れていなくとも不思議はない。

ただ、祥次郎は薄々気づいていた。二人の間にはなにかがあると。千隼は単に声が聞きたいとか、そんな理由でわざわざ忙しい時期に連絡を求めるような奴ではない。


「お前、なんでそんなにこだわんの?初めて会った時はそんなでもなかったよな」

「そうだったか…」


いつだったか、ある日突然傷だらけで帰ってくると、ただ彼女に惚れたのだと言った。

何があったのか未だに千隼の口から聞くことはないけれど、あの時から何か枷が外れたように急速に強くなった。


「俺は、あいつを守りたい」


自分にしか聞こえないほどに小さく呟いた言葉だが、こめた想いは強い。

千隼の胸に浮かぶのは彼女の背負うものを知ったあの日、あの光景。一振りの刀と一人の妖を携えて、笑いながら頬を一筋だけ伝った涙を見た時にそう思った。


「理由なんてそれで十分だろう」


約束した。必ず自分が側にいると。

例え彼女が自分より強くとも、彼女自身が護る側にいようとも。その剣が折れぬための支えでありたい。


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