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第三十一話 騎士の覚悟

 サリヴァンとアンドレアの剣が交わる。。

 二人の間に言葉は不要。ただ、仕える主の敵を排除するだけ。

 二人の忠義が、二人の矜持が、ぶつかり合う。


「ハァァァァアアアア!!」

「うぉぉぉぉおおおお!!」


 お互いに体重を乗せた強力な一撃が剣を打つ。

 魔力の光が瞬き、お互いの剣が弾かれる。

 反動を利用し、剣を構えなおし再び振るっては弾きあう。

 目にも留まらぬ速さで、二人の剣は交差する。


「は、速い――――!」

「あれほどの使い手だったか……!?」


 それを、見守る聖騎士隊の面々から、感嘆の声が漏れる。

 二人の戦いは、周囲の人間の心を飲み込まんとするほど、苛烈を極めた。

 弾き、弾かれ、互いの刃は相手に届くことは無い。

 互角の打ち合いが続くその時、サリヴァンにヴィヴィアンが語り掛けた。


『妾の魔力、使うがよい』

「承知!」


 サリヴァンの義椀に、水精霊の魔力が充填される。

 鋼造りの義椀の継ぎ目から、青白い魔力が水のようにあふれ始める。

 サリヴァンは、少し距離を取ると左腕をアンドレアにかざした。


「これでも、もってけ!」


 直後、掌から高速の水弾が射出され、アンドレアに飛来する。


「呪文無しでの魔法だと……!?」


 聖騎士隊の騎士が驚きの声を上げる。

 一方、アンドレアは極めて冷静に水弾をアスカロンで切り伏せた。

 切り裂かれた水弾が弾け、水しぶきが飛び散る。

 その中を、サリヴァンが駆け抜けた。


「せああああ!!」


 両腕で、空間さえも切り取るかのような攻撃はしかし、アンドレアの魔法が弾く。


暴風ストーム!」


 荒れ狂う風の波が、サリヴァンの剣をその体ごと押し戻した。

 再び両者の間合いが開く。

 疲労のためか、サリヴァンから荒い呼吸が聞こえてくる。


「はぁ……はぁ……!!」


 サリヴァンは、ミスリルの兜を脱ぎ棄てる。

 顔に纏わりついていた熱気が解放されたかのように清々しかった。

 もはや、彼にとって防具は拘束具でしかなかった。

 必殺の一撃を、速く、ただ速く放つこと念頭に置き、サリヴァンはアロンダイトを構えた。


「行く!!」


 地を蹴り、一気に加速する。

 体で風を切り、間合いを狭める。

 切先を前の向け、アンドレアの胸を狙う。


「これで!!」


 加速から放たれた高速の突きがアンドレアをまっすぐ捉える。

 それに対しアンドレアは、アスカロンでアロンダイトの剣身を横薙ぎから叩き、弾いた。

 弾かれたアロンダイトを、サリヴァンは腕の力で無理やり振るった。

 サリヴァンの追撃は、アンドレアを捉えるが腕の力のみの攻撃は容易くアスカロンに弾かれる。


「甘いぞ、サリヴァン!」


 アンドレアが反撃に移る。

 重い一撃を確実に、的確に振るうアンドレアに対し、サリヴァンは受け身に回る。

 アスカロンの刃こそ弾くものの、自身もその衝撃で押し出される。


「ぐぅ……!!」

「受けて見せよ!!」


 渾身の一撃が、サリヴァンを襲う。

 魔法により強化された衝撃が、サリヴァンの体を吹き飛ばした。

 後方に飛ばされたサリヴァンは、何とか受け身を取り事なきを得た。


「く……はぁ……はぁ!」


 サリヴァンの鼓動が早鐘のように打たれる。

 全身に血が回り、体の奥から熱が噴き出しているかのようだった。

 思考と呼吸が乱れ、疲労がたまる。


『落ち着け。気を張りすぎるな』


 サリヴァンを鎮めるかのように、ヴィヴィアンは言った。

 直後、サリヴァンの体に水精霊の魔力が駆け巡る。

 無駄な熱を冷まし、その体の疲労を癒した。


『“湖の騎士”は常に冷静さを求められる。その力を引き出すには心を乱さぬことが必定だえ』

「わかった……」


 それを聞き、サリヴァンはアロイダイトを下げた。

 構えを崩したサリヴァンに、周囲の騎士はざわめく。


(落ち着け。焦ったところで刃は届かない。攻めたてるだけでは勝てない)


 冷静に自身の力量とアンドレアの力量を見定め、サリヴァンは思考する。

 サリヴァンのその静かな闘志が、周囲の魔力を震わす。

 その雰囲気に、周りの騎士たちが飲まれかける、その時だった。


「サリー! 援護する!」


 ジル率いるマスケット小隊が到着したのだ。

 ジル達は、サリヴァンとアンドレアを囲む聖騎士隊を見て、サリヴァンが追い詰められていると錯覚する。

 そして、焦った銃兵の中から、勝手に銃を放とうとするものが出た。


「まて! 邪魔をするな!」


 サリヴァンの制止は届かず、一人の銃兵がマスケットの引き金を引いた。

 轟音と共に放たれたミスリルの弾は、アンドレアの右肩を打ち抜いた。


「ぐっ――――馬鹿……な……!」


 ミスリルの鎧を穿ち、その肉体に風穴を開けた。

 貫通したミスリル弾は、さらに後方の騎士の兜を貫き、その騎士をも絶命させた。


「貴様ら!」

「団長をお守りせよ!」


 アンドレアの負傷に、周囲の騎士たちが動いた。

 サリヴァンとアンドレアの一騎打ちは、横槍によって勝負のつかぬまま終わりを告げた。


「くっ……仕方ない! 迎撃だ!」


 サリヴァンは、悔しさを覚えつつも騎士たちを迎え撃つべく剣を構えた。

 ジルは、独断に走った兵士を一言咎めると、すぐに戦闘に移った。


「撃て!」


 ジルの号令の下、ミスリル弾が一斉に放たれた。

 ミスリル弾は、騎士たちの鎧を砕き、その命を奪い取った。


「馬鹿な……! 銃ごときが、ミスリルを破れるはずが……!」


 最高の守りを得ていた騎士たちに、死の恐怖が迫る。

 それは、騎士たちの思考をかき乱すのには十分であった。

 ジル達は、撃ち終わったマスケットを放り棄てると、背負った二丁目を構えた。

 再び向けられた銃口にたじろぐ騎士たちの隙を突き、サリヴァンは斬りかかる。


「でやああああ!!」


 青白く魔力の光を発するアロンダイトが、ミスリルの鎧を切り裂いた。

 最高の防御を失った騎士たちは、次々とその命を散らしていった。


 一方、肩を打ち抜かれたアンドレアは、部下によって無理やり後方に下げられていた。


「ぐ、放せ! わしはまだ戦える!」


 しかし、部下の騎士二人はそれを制して言った。


「団長は本隊とともに撤退を! もはや、これまでです!」

「すでに、本隊も甚大な被害が出ております! お退き下され!」


 その二人は、アンドレアが開戦前に会話した若騎士と壮年の騎士であった。

 二人は、アンドレアにそういうと、残った馬を引いてきた。

 それを見たアンドレアは、心中で苦悩する。


(戦に敗れ、部下を見捨て逃げねばならぬのか!? それは出来ぬ!)


 だが、そのそんなアンドレアの心中を変えたのは若騎士の言葉であった。


「戦いはこの一戦で終わりません! たとえ不名誉であろうと、団長には生きて、陛下を支える責務があります!!」


 それを聞いたアンドレアは、己の主が自身に語った決心を思い出した。

 そして、アンドレアは決める。

 たとえ罵られようと、主のためここは撤退する。


「すまぬ……」


 そういうと、アンドレアは手にしたアスカロンを鞘に納めようとする。

 その時、彼の肩から流れた鮮血が、アスカロンの刃に滴った。

 すると、アスカロンの銀の剣身が、紅に染まる。


「これは……」


 アンドレアは感じた。アスカロンから溢れ出さんばかりの魔力を。

 かつて、千の竜を斬ったと言われるアスカロンは、竜の血を啜り、吸収したことで膨大な魔力が封じられていた。

 その魔力が、アンドレアの血を通して彼と繋がる。


「ふ……ここにきて、こいつに認められるとは」


 アンドレアは、アスカロンを鞘に納め、騎馬にまたがりその場を去った。

 その後ろ姿を離れた位置から見たサリヴァンは言った。


「次は、次こそは、あなたを超える!」


 アンドレアの撤退と同時に、聖騎士隊も後退を始める。

 それを追撃するため、サリヴァン達は前に出る。

 しかし、それを阻むべく、先ほどの若騎士と壮年の騎士を筆頭とした聖騎士隊以外の騎士たちが立ちはだかった。


「アンドレア団長も、聖騎士隊も今後の戦いでは必要不可欠な存在! ならばここは、我らが引き受ける!」


 若騎士は、ミスリル剣を構えるとそう言った。

 そして、アンドレアらの撤退の時間を稼ぐべく、サリヴァン達に突撃しようとする。

 だが、壮年の騎士がそれを押しとどめた。


「貴様は若い。ここはわたしこそがふさわしい」


 それを聞いた若騎士は感動を禁じ得なかった。

 日頃、嫌味なことばかり言う年長の騎士が、その命を投げだそうというのだ。

 その決意を、若騎士は汲んだ。


「ご武運を……!」


 若騎士は、負傷者を引き連れ、その場から後退する。

 それを見送ると、壮年の騎士は言った。


「さぁ、覚悟せよ! わたしとて、王室親衛騎士団の一員! この命、容易く渡すつもりはない!!」


 彼は、剣を構えると、自身に続く騎士たちとともに突撃した。

 そして、壮年の騎士はその命を燃やし尽くした。



 この、グラスゴーを巡る攻防は同盟軍の勝利で幕を閉じた。

 壊滅的な被害を出したモルドレッド軍はロンデニオンへの撤退を余儀なくされる。

 この戦いで、不敗とうたわれた王室親衛騎士団は多数の戦死者を出すことになった。

 また、この敗戦によってスコットランドのモルドレッド軍は勢いを失い、降伏する者、寝返る者が相次いだ。

 スコットランドの覇権は、アルトリア率いる同盟軍の手に渡ることになる。

 そして、いよいよ王国の未来を駆けて、最後の決戦が幕を開けるのであった。


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