第三話 顕現する魔王
アルビオン王国の首都であるロンデニオン。その王城内の、王城と城下町を区切る城壁の通用門付近にて、激戦が繰り広げられていた。
十人の騎士と約二十人の兵士の集団が、たった二人を相手に苦戦を強いられていた。
「あり得ない……!」
「化け物か!」
兵士たちの口から発せられる言葉はある意味的を射ていた。たった二人で数十人を相手にしながら、近寄らせることすらさせなかった。
「本当に……無茶苦茶ですよ、殿下」
「この程度、物の数ではありません」
アルトリアの語った策とはこうだった。暴れる。ひたすら暴れて、敵を引き付ける。ただ、それだけだった。
アルトリアの策に期待を寄せていたサリヴァンだったが、聞けばただの無謀な行為であった。
これだけの人数にたった二人で立ち向かうなど常軌を逸している。そう思っていたサリヴァンだったが、アルトリアの戦いぶりを見て、その考えを改め始めていた。
アルトリアの強さは常識外れだった。
「くそっ。増援は!?増援はまだか!!」
アルトリアの動きは単純であった。斬る、避ける、また斬る。ただそれの繰り返しだ。
しかし、その一挙手一投足すべてに無駄がない。グリフォンのように早く、竜のように勇ましく、精霊のように美しい。サリヴァンは、その動きに目をとらわれる。
さながら、ここは月下の舞踏会。主役はアルトリアで、他はすべて引き立て役次々とダンスを申し込むが、一蹴され地に伏せる。アルトリアが、“騎士姫”と呼ばれる所以が理解できる。
対してサリヴァンは、その補佐に徹していた。アルトリアの邪魔をせずさせず、それだけだ。だが、アルトリアがいかに強かろうと、傷一つ負うことのない現状にはもう一つの理由があった。
「隊長!発砲の許可を!撃たせてください!」
「ならん!姫は殺さず、捕えよとのことだ!撃つな、姫に当たる!」
そう。敵はアルトリアに手心を加えねばならない。マスケットは撃てず、武器としての意味をなしていなかった。
攻めあぐねる敵に対してサリヴァンが動く。
「いくぞ、雑兵!」
マスケットを鈍器代わりに振り回す兵士に一気に近づいた。
振り回されたマスケットをかわし、銃身を左手で掴み取る。腕を斬り付け、マスケットを強引に奪い取り、斬りつけた動作の延長で剣はそのまま地面に刺した。
「良いマスケットだ。撃たないのは勿体ないな!」
サリヴァンの狙いは騎士、重装甲のプレートメイルは剣では貫けない。
火皿の火薬を確認し、撃鉄を起こす。火縄を使わないホイールロック式のマスケットは構造が複雑で高価な銃だ。手早く準備を済ませると、構え、狙いをつけた。
「鉛玉を喰らえ!!」
サリヴァンが引き金を引くと、撃鉄が降り装着された火打石から火花が散り、火皿の火薬に引火し薬室内の火薬につたわる。
直後、爆音とともに銃口から鉛玉が飛び出し、吸い込まれるように狙われた騎士の胸に命中する。
「――――――――――――――!!?」
一撃で重厚な鎧に風穴を開けた。矢尻や刃すら受け付けぬ鋼鉄の鎧も、マスケットの前では無力であった。
「よし!!」
サリヴァンはわずかな高揚感を覚えた。彼の同僚が夢中になるのもうなずける、すさまじい威力だった。
しかし、当然ながら欠点もある。
「今だ!装填の時間を与えるな!この隙を狙え!!」
そう、装填である。マスケットの鉛玉は銃口から装填する。発射後はまず、銃身の中の残りカスを掃除してから火薬を入れ、布切れを被せその上から鉛玉を押し込む。火皿に火薬を入れ撃鉄を起こし、射撃準備完了となる。
到底、敵の目の前で出来る作業ではなかった。マスケットの弱点はまさにこれであった。
「では、お返ししよう!」
空になったマスケットを襲いかかる敵兵に投げつける。
「ぐあっ!!」
鉄の銃身が兵士の頭を強打し、兵士は衝撃で仰向けに倒れこんだ。
「やりますね、我が騎士よ」
「姫様程では」
この段階で、すでに敵の半分は沈黙していた。このままいけば、敵を全滅させれるのではないかと思えたが、そうはいかなかった。
本命のお出ましであった。
「オーガスタス卿!」
王室親衛騎士団副団長、オーガスタス・リッチモンドである。数十人の騎士を引き連れ、城内より姿を見せた。引き連れている面々も並ではなく、先程まで相手していた奴らとは違う、全員が王室親衛騎士団の所属騎士だ。言葉通り、格が違った。
「聖騎士隊……!」
王室親衛騎士団聖騎士隊、別名をパラディン・グングニールという。
かつて、弓も銃もない時代。戦場の主役は槍であった。戦場で、相手より一歩でも有利に立ちたかったらどんな武器を持つか?答えは簡単である。リーチの長い武器を持てばよかったのだ。
その時代、最強の武器は剣ではなく長い槍。敵より早く、遠くから攻撃できるのはそれだけで有利なことである。パラディン・グングニールの由来は、そのかつて最強の武器であった槍の名前からとられていた。
時代とともに、最高の武器を与えられてきたこの騎士たちはまさに王国最強の部隊で、その戦力は小隊規模でありながら二個中隊に匹敵するといわれている。その強さの所以は個々人の能力もさることながら、先程の説明にあった通り装備が大きな要因である。
魔法との親和性が非常に高い金属、ミスリルを主原料としたミスリル合金製の武器、防具を装備していたのだ。加工と精製が非常に難しいミスリルであるが、それによってもたらされる恩恵は大きかった。
「くっ!!これでも……もってけ!!」
サリヴァンは、倒れた兵士のそばに転がるマスケットを拾い上げ、現れた騎士たちに向け、鉛玉を放った。
先程、鋼鉄の鎧をたやすく貫いた鉛玉が、ミスリル製の鎧を貫くことはなく無残に砕け散る。
そう、ミスリルの特徴はこの硬さ、鉛玉も鋼剣も跳ね返すこの強度だった。通常、硬い金属はそれと同時に脆くなるものだ。純ミスリルは非常に硬いが、急激な衝撃を加えると崩壊してしまう。そのため、他の金属を混ぜ合金とすることで強度と靭性を両立した金属となる。
「効かんよ。これは、お返しだ!」
ミスリル鎧の騎士の一人が、ロングボウを構えると矢をつがえた。ミスリルの矢尻に、魔法の組み込まれた矢であった。
放たれた矢はまっすぐ、ではなく、緩やかなカーブを描きながらサリヴァンに向かっていく。
「魔法強化した矢か!」
サリヴァンを狙い、彼を追尾する矢は容易には躱せない、それに対してサリヴァンは一つの行動に出た。しゃがみ込み、倒れ伏せる兵士を持ち上げたのだ。
「倒れた兵士を盾にしたか!しかし!」
矢はサリヴァンではなく、盾にされた兵士に命中する。
命中した瞬間、矢は当たった個所から発火し、一気に兵士の体に燃え広がった。
火炎魔法であった。サリヴァンはすぐに兵士を離し、事なきを得る。
ミスリルを触媒にすることで、魔法はその威力を高める。ミスリルの特性のひとつである。この特性を活かし、武器には強力な魔法術式を、防具には対魔法術式を組み込むことで、攻防に優れた最強の武具となる。王国は、このミスリルの力によって、他国と渡り合い、その権能を維持してきた。
「くっ……」
今は攻撃を凌げたが、敵の数は多く、装備においてもサリヴァン達を圧倒していた。
「無駄な抵抗は止めよ!サリヴァン卿。これ以上は無意味である」
オーガスタスの言葉と同時に、周囲を囲む聖騎士隊がミスリルロングボウを構えた。
サリヴァンは、彼らにはアルトリアの命を奪うことなく制圧できるだけの技量があることを知っていた。
「殿下……」
「剣を捨てなさい。もはや、ここまでです」
それを察したアルトリアは、剣を手から放した。
「それでいい。命は大事にすることだ」
剣を捨てたサリヴァンは、冷静に周囲を見渡した。
(さて、状況を確認しよう……)
サリヴァン達がいるのは、城外へ出るための出入り口の一つである北門前の広場である。周りに隠れられるところはない。
敵の数は四五人、内チェーンメイルのマスケット装備の兵士が八人、プレートメイルの騎士が二十二人、ミスリルメイルの弓騎士が十四人、ミスリルメイルの副騎士団長が一人。城壁を押さえられ、上から弓で狙われている。怪しい動きをすれば、簡単に射抜かれる。包囲も完全であり隙は無い。
それらを確認し、サリヴァンは結論を出す。
(詰みだな)
「さて、アルトリア王女殿下。我々と来ていただきましょう」
城壁の上から、アルトリアを見下ろしながらオーガスタスは言った。副騎士団長ともあろう男が不敬な行動であった。もっとも、不敬罪どころか反逆罪を犯している彼らではあるが。
「断ります。と、言ったら?」
試すようなアルトリアの物言いに、オーガスタスは言った。
「お勧めしませんな。我々も、若い命を摘み取りたくはありません」
断ればサリヴァンの命はない、の意であった。
「同感です。私のために命をかけてくれる、数少ない忠臣を無駄死にさせるなど出来ません」
「姫様……!」
「私を連行する前に、一つ質問に答えなさい」
追い詰められていようと、うろたえることなく毅然とアルトリアは言った。
「なんなりと、殿下」
恰好だけは恭しく、頭を下げるオーガスタスである。
「なぜ?このような事を?」
そう問われ、一瞬考えるようなそぶりを見せこう答えた。
「では、代弁しましょう。我が主の真意を」
オーガスタスは、主という言葉を使った。それを聞いたサリヴァンは思考する。
(主、ということは首謀者は騎士団長とは違うだろう。ならば、今回の黒幕は……)
そして、オガースタスは語り始める。
「全てはこの国のためです」
王族に弓引き、従わぬものをだまし討ちをした男たちの台詞とは思えなかった。
「大陸では、神聖ヴァイマル帝国がその勢力圏を広めんと、虎視眈々と各国の隙を狙っています。ガリア王国でもまた、そんな帝国に対抗するための力をつけんと動いています。ウィトゥルス聖教国ではアヴァロン教の布教を名目に各国に接触し、その影響力を高めています。イスパニア王国では、新大陸開発や東国貿易に力を入れている。そんな中、我が国では何をやっているか?我が国は、亜人族、移民、新大陸、貿易、宗教。さまざまな問題を抱えているというのに、貴族、民衆、王族の意思はバラバラで、どこにも良い顔をする為政者は問題を解決するどころか、逆に問題も不満も増える一方だ」
サリヴァンとアルトリアにとって耳の痛い話ではあった。
建国以前から、魔法に頼り切った軍部、ガリアへの対抗意識に執着する民衆、自身の利益と伝統に固執する貴族。この国には問題が多すぎたのだ。
「我が主はこの現状を憂いておられる。だからご決断なされた。この古き国を壊し、新たな国を起こすと。それが、我が主のお考えである」
サリヴァンの想像以上だった。その言には一理あるとも思ったが、承服できるものではなかった。
(簡単に言ってしまえば、皆が好き勝手言うなら、自分以外の意見を言う奴らを黙らせ、自分が正しいと思う正義のもとに政治をさせてもらうと。つまり、そういうことだろう。簡単に許せることではない)
オーガスタスの言に、アルトリアははっきりと言った。
「身勝手ですね」
「そうかもしれません。しかし、全ての者の勝手を聞いていれば国はいずれ破綻します」
それは事実であった。否、貴族の反乱に加え、今回の事件。もう破綻は始まっているのだ。変革は始まっているのだ。
「その通りですね。私もそう思います」
頷くアルトリアの様子をみたオーガスタスは、安堵の笑みを浮かべる。しかし、それはすぐに否定される。
「ただ、やはりみすみす捕まるつもりはありません。私は、あなた達の正義は否定しません。ですが、黙って従うつもりもありません。私は、自分の正義に従い行動します」
「自分も、お供します」
アルトリアの語った、自分の正義という言葉に、感じるところのあったサリヴァンはそれに賛同する意を伝えた。
「ありがとうございます、我が騎士サリヴァン・カルヴァート」
オーガスタスは、二人の返答を聞くと決断を下した。
「残念です……。弓隊構え!!」
号令とともに、ミスリルの矢が二人に向けられる。
「騎士は殺せ。姫は足を狙え!」
もはやこれまで、誰が見ても進退窮まったかに見えたが、二人はまだあきらめていなかった。
「う――――!」
オーガスタスの命令が下されるその瞬間、突然の咆哮によってそれはかき消された。
「グゥォォォォォオオオオオオ!!!!」
オーガスタスの命令がさえぎられる。竜の咆哮によって。
「なんだと……!」
オーガスタスは、突然のことに動揺が隠せなかった。
「来ましたね」
「お待たせしました、殿下!ジル・エンフィールド只今参上!遅参お許しください!」
闇夜を切り裂く絶叫が響き渡る。ジルは、その叫びの主とともに現れた。
「馬鹿な……ワ……翼竜だとぉ!?」
そう、翼竜の背にまたがって。
古今東西、空を支配する生物があった。何よりも強く、誇り高い王者。その末席に位置するのが翼竜である。翼を持ち、空を駆ける二足の竜。飛びトカゲの蔑称で呼ばれる翼竜は竜種ではあるが、四足のドラゴンに劣る生物と言われている。
しかし、使役が困難なドラゴンと違い、翼竜は各国においては空中戦の主戦力として重用されている。ドラゴン程で無いにせよ、硬い鱗と強靭な肉体は人など簡単に吹き飛ばす。末席とはいえ、大空の支配者の一種。ジルは、その翼竜に乗っていた。
「竜への騎乗などいつ振りだろう!ましてや、実戦など!」
サリヴァンら、王室親衛騎士団は翼竜への騎乗訓練も行うことがある。しかし、普段の任務で騎乗するのは珍しく、ましてや竜に乗って実戦など滅多にあるものではなかった。
だが、やるしかなかった。これしか手は無かった。そう、これがアルトリアの策だった。
「ええい!竜舎の奴らは何をしていた!」
オーガスタスは焦りの声を上げた。
彼らは戦力を裂きすぎていた。サリヴァンたちが暴れれば暴れるだけ、そちらに兵力を回す必要があった。さらに、城内には制圧すべき個所はいくらでもあり、その全てには手は回らない。
ならば、誰でも使える武器の詰まった武器庫と、騎乗できるものの数が少ない竜舎。どちらが手薄になるなど、判り切ったことだった。
「姫様!」
「ええ、行きましょう!」
二人が、翼竜の登場によってできたこの隙を逃す訳がなかった。剣を拾い上げ一気に駆けだす。
「いくぞ、サリー!」
「来い、ジル!姫様!!」
サリヴァンは体を屈めると、アルトリアがその肩の上に立った。サリヴァンがそのまま一気に立ち上がりアルトリアを空に打ち上げた。同時に自身も跳躍する。
ジルは、宙を舞うアルトリアを翼竜の頭に受け止め、サリヴァンは翼竜の脚で捕まえる。
「なにぃ!!?」
驚きの声を上げるオーガスタスに向け、翼竜は加速する。力強い羽ばたきは大気を押し出し、その巨体を前えと進める。
「行くよ!」
「グゥゥオオオオ!!」
翼竜が頭を縮め、一気に伸ばす。頭の上に乗っていたアルトリアは、射出機となった翼竜の頭によって一気に加速する。
竜をも超える速度となった彼女は、銃弾のように城壁上のオーガスタスに肉薄する。
「我が剣、その身に受けなさい!!」
「この速度は!?」
月光を切り裂く一閃。
指揮を執るため、兜をしていなかったのが仇となった。斬撃はオーガスタスの顔を両断する。
「――――――!?」
叫び声すらなく。王国最強の騎士団の副団長は倒れた。王国のために尽くし、主のために尽くしたこの男の四十五年の生涯に引導を渡したのは、まだ幼さも残る少女であった。
アルトリアはそのまま振り返ることなく駆け抜けるとそのまま城壁から飛び立った。
「姫様ぁ!!」
翼竜がその上を通り過ぎる瞬間、サリヴァンがアルトリアの手を取り、一気に引き寄せると、落下しないようにしっかりと抱き留めた。
「ご無事で!」
「当然です!」
アルトリアの顔についた血化粧は、月明りに映えていた。
眼下を見下ろすと騒然としている騎士たちの姿が見える。
「ざまぁみろ!」
思わず口に出た悪態。騎士らしからぬその言葉にアルトリアは苦笑する。
「口が悪いですよ」
「申し訳ありません」
彼らの上げた戦果は上々であった。指揮官を失った裏切り者達の動きは鈍るだろう。この隙に乗じて、城内の者たちも逃げ出せる可能性も出来、サリヴァン達を追う者たちの動きも鈍るだろう。
「民を見捨て、城を追われて逃げ出すというのは、心苦しいものですね……」
いつになく、弱気な口調で語るアルトリアにサリヴァンは言った。
「仕方ありません。このまま姫様を失うことのほうが、取り返しのつかないことになります。今は心苦しくとも耐えるのです」
コクっと、小さくアルトリアは頷いた。そこで、サリヴァンはあることに気付く。仕方ないこととはいえ、一国の王女を自身の腕の中に収めていたのだ。
(これは、いかんぞ……。や、柔らかい……。いや、この非常時に何を考えているか俺は!)
サリヴァンは湧き上がる感情を抑え込む。邪な考えを持つのは、騎士道精神にそむく。騎士が主に捧げるは純粋な畏敬の念である。騎士が騎士たらんのは騎士道に準ずるからである。
ただ力を振るうだけの戦士に非ず。主君に忠義を尽くし、勇気を持って敵に立ち向かい、慈愛の心で人に接する。騎士が騎士であり得るのは高潔な精神を持つからこそだ。
サリヴァンはそれを改めて心に刻み込むと、今後の事について思案する。
(まずは、どこかに身を隠すが先決。そのご、今回の事件の詳細を知れべ、必要ならば姫様を新たな王位につけることも考えねば……)
などと考えていると、アルトリアの様子がおかしいことに気づいた。いつもの堂々とした雰囲気は微塵も感じられなかった。
「あれは……まさか……」
目を見開いたアルトリアが呟いた。視線の先には、倒れたオーガスタスの隣に立つ、豪奢な服装の魔法師風の男いた。
「いけない……避けて!!」
アルトリアの焦った叫びがサリヴァンの耳に入る。
瞬間、黒い光が翼竜を貫いた。
時は少し戻り。
「―――――――!?」
オーガスタスが斬られた瞬間、一人の男が闇の中から現れた。装飾の施された杖を持ち、豪奢な服に身を包んだ魔法師風の男だ。何を隠そう、オーガスタスの語った主であり、今回の事件の黒幕である。
「残念だ、僕は失望したよオーガスタス。君は僕の信頼を裏切った」
そういうと、魔法師は手にした杖を動かぬオーガスタスの胸に突き刺した。
「せめて、残った魔力くらいは役にたってくれよ?」
すると、杖の持ち手に取り付けられた黒い宝石が輝きを放った。黒くて、暗い、見る者を永遠の闇に引きずりそうな妖しい光を。
「さぁ、愚妹よ。僕からの贈り物だ、受け取ってくれ!!」
杖を引き抜き、黒の宝玉を飛び去ろうとする翼竜に向け、呟くのだった。
「魔王の砲撃」
放たれた黒の銃弾が翼竜を貫く。苦しみの絶叫を上げた翼竜は羽ばたきを止め、そのまま地上に落下していった。
「フハハハハハハハ!!」
邪悪な笑みを浮かべ、笑い声を上げる男。周囲の屈強な騎士たちが無意識に一歩後ずさる。
「邪魔者は居なくなった!!さぁ、始めようか。僕の国造りを!僕が王だ!そうこの僕!」
そして、羽織ったマントを翻らせ言った。
「モルドレッド・モルゴース・ジェームズ・ルキウス・カストゥス・オブ・アルビオンが!!」