表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憑神探偵  作者: 104
『兇怖写真』編
9/40

終:結末乃始

その日の晩。

犬崎は憂の母親が使用している病室へ特定の人を集めた。

看護師であり、今回の写真を撮影した日向。

病院の医師であり、写真を現像した秋山。

依頼者の母親と父親。

最後が、今回の依頼者である憂。


「犬崎さん、話というのは? 僕も日向さんも忙しいのですが」


「私もだ。わざわざ仕事先にまで連絡をよこし呼び出され……どういうつもりだ!」


秋山や憂の父親が犬崎に責め立てる。しかし当の本人は平然とガムを噛みながら、集められた人間の顔を見比べていた。


「写し出された怪奇写真と赤ん坊の死に、密接な関係がある事が分かったのさ」


「な、なんですって?!」


憂の母親が目を見開き、大声をあげる。


「やはり悪霊の仕業か……だから僕はすぐに写真を燃やすように忠告を」


「いや、それは違うぜ先生」


「…………?」


「悪霊の仕業なんかじゃねぇ。これは、殺人だ」


「殺人……だと……?」


「一体誰が?!」


先程まで静かだった病室が騒ぎ立つ。それを犬崎は片手で制して言葉を続けた。


「これを見てもらおう」


犬崎が取り出したのは、今回問題となった写真。


「犬崎さん、これが一体……」


未夜の問いに犬崎は軽く頷いて答える。


「俺はこの写真を初めて見た瞬間から、ずっとあるモノに囚われていた。だから気付かなかった。この写真に隠された真実に」


「真実……?」


「ここをよく見ろ」


犬崎が指さした場所、それは写し出された写真の端だ。


「赤ん坊は念入りに加工したみたいだが、時間がなかったんだろうな。写真の一部が処理落ちしてやがる」


「え……? それって、つまり……」


「そうだ。この怪奇写真は犯人が作り出したモノ。怨霊の仕業ではなく、人為的に作り出されたモノさ」


「な、なんでそんな事を?!犯人は、憂ちゃんの妹に何か恨みでも……」


未夜の言葉に、憂の父親が憂を睨みつける。


「こいつだ! 私の子供に恨みを持つ奴は、こいつしかいない! 早く捕まえろ!」


指さされ、怯える憂。俯いた表情は青ざめ、身体は遠巻きから見ても分かるほどに震えていた。


「いや。犯人は別のヤツだ」


「な、なんだって……?」


「では他に、誰が赤ん坊に恨みを……」


「恨みなど、最初から持っていなかったのさ」


「???」


「憂達が写真撮影を終えた数日後に問題が起こった。犯人は憂の妹を抱きかかえた時、うっかり手を滑らせ、赤ん坊を床に落としてしまった」


「なっ……?!!」


その場にいた全員が息を飲み込む。


「赤ん坊を保管しておく新生児室、そこの床の一部から僅かだが血の臭いがした。その後、未夜に頼み、事務所からある道具を持ってくるよう頼んだ。それがこれだ」


犬崎が取り出したのは、小さなリトマス紙と液体の入った瓶だった。


「ドラマとかで聞いた事があるだろう。ルミノール反応。ルミノールは過酸化水素と反応して強い紫青色の発光を示す。血液は発光反応の触媒になるので、古くから血液の鑑識に用いられている」


「そんなすごいモノだったんですね」


未夜は感嘆の声をあげる。


「もう分かってんだろ? 床から反応が出たという事は、そこで血が流れたという事。その血が一体誰のものなのか、これはまた正式に鑑識を行わねぇと分からないが、憂の妹だろう。おそらく犯人は、憂の妹を床に落としてしまい殺してしまった。そして考えたのさ、隠蔽の手段をな……赤ん坊の頭蓋は柔らかい。床に落とした衝撃で変形か陥没をしたはずだ。このままでは外傷による死だという事がバレてしまう。だから犯人は都市伝説を見たてて、詳しく調べさせる気を無くすよう家族に恐怖を植え付けた」


「なるほど! あの心霊写真は、変形か陥没をしてしまった赤ちゃんの頭を隠す為の手段だったというわけですね?」


「その通りだ」


実際にその作戦は効果的だったと言える。怯える母親は亡くなった子供を触れる事すらしなかったのだから。

父親も、妻がそんな状態である以上はでしゃばった事など出来ない。心の傷が癒えるまで、そっとしておくべき……そう考えて赤ん坊の死に何も手をつけなかった。疑問を考えないようにしていた。


「そ、そんな……! わ、わたしの赤ちゃんが、こ、ここ、殺され……ッ!」


涙に伏してしまう憂の母親。そんな妻の肩を抱く夫。


「それで……犯人とは……」


憂の父親が尋ねる。残されたのは、女看護師である日向と医師である秋山……


「新生児室へ入るには許可がいる。書類に名前など記載しなければいけないのだが、病院内で唯一、この記載をせずとも新生児室に出入り出来るヤツがいる」


「それは……まさか……」


「さらに言えば、写真に加工を施そうとすれば当然、その写真を手に入れなければならない。そこの看護師はアンタから写真を渡されるまで1度だって写真に触れていなかった」


「………………」


「なにか言い逃れはあるか? 


秋山先生……いや――


怨霊の正体と言ったほうがいいか?」


「秋山……先生が……?!」


全員の視線が、秋山へと向けられる。


「アンタはここの院長の息子なんだってな? 未来を嘱望されているアンタが今、自分の不手際で人を殺したと世間にバレてしまえばタダではすまない。アンタはそれを恐れたのさ。わざわざ写真に加工を施し、憂に怪談噺を焚きつけるまでしてな」


「僕が……人を殺しただと?! 証拠が、どこにある?!」


「アンタも知っているだろう? 新生児室に入る時には無菌服と帽子、そしてマスクと手袋が必要なのさ。さて、その手袋だが……憂の妹が死んだ前日に在庫を切らしていた事は知っているか?」


「そ、それが、一体どうした……と……!」


「つまり憂の妹が死んだ時、新生児室には手袋がなかった。消毒を行っても、赤ん坊に触れる事は出来なかったんだ」


「………………!」


「理由は分からねぇが、犯人は赤ん坊を抱いた。そして床に落として死亡させてしまった。証拠ってのはな、短時間で完全に無くすのは相当難しいもんなのさ。死亡した時に憂の妹が着用していた衣服、それを調べれば出てくるはずなんだ。殺人犯であるオマエの指紋がな」


「ぐッ……! うぅぅ!!」


「更に、そこの日向ほか、その当日働いていた看護師と医師全てのアリバイは成立している。秋山先生、アンタだけなんだよ。アリバイが立証出来ない人物は」


「アリバイ、だと……ッ!?」


「赤ん坊にプレゼントしたとされる帽子……体温調節がうまく出来ないと説明したらしいが、本当の理由は別にあるんだろう? 陥没した頭蓋を、他の人間に見られない為のカモフラージュとか、な」


「ぐ……ッ! ぐぐぐぐ……!!!」


「未夜、警察を呼べ」


「は……はい……」


犬崎は言うべき事だけを言い終えると、病室から立ち去ろうと扉に向かって歩きだした。その瞬間――


「ふ……ふざけるなぁァアアァアアア!!!!!!!!!」


秋山が怒りの形相をしたまま犬崎に向かって襲いかかる。

犬崎が冷静にそれを避けると、勢い余った秋山は床へと転がった。


「なんだ、先生。反論があるんなら俺ではなく、警察に言う事だ」


「うるさいッ! 俺の経歴をこんな所で……こんな事で汚されてたまるかッ!!」


犬崎は床に転がった秋山を見降ろしながら告げる。


「経歴だと? そんなモンが、人の命より大事だと言いたいのか」


「うるせェェエエェ!!!」


「きゃあぁぁあっ!!!」


秋山は飛び起きると、傍に置かれていた小さな棚を引っくり返す。そして床に転がったハサミを掴み、犬崎に向かって身構えた。


「犬崎さんッ!!!」


「口封じだッッ!! ここにいる全員ッ! 殺スッ! 殺してやるッッ!!!」


正気を保てていない秋山。その瞳は血走り、充血で赤く染まっている。


「かかったな……おい、未夜! 全員を部屋の隅にでも避難させておけ!」


「わ、分かりました! 皆さん、こっちへ!!」


未夜が憂達の手を引っ張り、部屋隅へと移動する。

そして犬崎も、口に含んでいたガムを吐き出すと、ガキン! と大きな音を立てて歯を鳴らした。


「死ネェェエエエェエッッッ!!!!!!!!!!!」


凶器を携えた秋山が、犬崎に向かって再び襲いかかる。

しかし、その刃物が犬崎の身体に突き刺さる事はなかった。

胸に突き刺さる刹那、犬崎は恐るべき速度でハサミをたたき落としたのだ。

床に転がったハサミの刃は、驚く事に直角に曲がっている。


「バッ……バカな…ッ」


秋山は我が目を疑った。

目の前にいた男の姿が、いつの間にか変貌していたからだ。


その髪は、銀。

その瞳は、紅。


恐怖からか、思わず秋山は思っている言葉を口に出す。


「……ぁ……悪魔……ッ!」


「あ、あれは憑神……" 瞬天動星大御神臥怨吏竜 " !」


未夜の呟きを聞きとるだけの心の余裕を持ち合わせた者は、いなかった。


「……ああぁ……わ、悪かった……許して……許してくれ……ッ!」


じりじりと後ずさる秋山。そしてそれを追い詰める犬崎。


「遅ェよ」


次の瞬間、目にも止まらぬ犬崎の蹴りが秋山の胴体を打ち抜く。

衝撃に耐えられず、秋山はそのまま病室の扉をぶち壊し、先の壁に激突して、ようやく動きを止めた。


「未夜、頼んでおいた物をよこせ」


銀髪がみるみる元の黒髪に戻っていく。それと同時に、部屋を覆っていた威圧感も薄れていく。


「ちょ、ちょっと待ってください! これでいいんですか?」


未夜はカバンの中を探ると、1台のポラロイドカメラを取り出して犬崎に渡す。

犬崎はそのカメラを設定すると、秋山に向かって照準をあわせ、撮影をした。

すぐさまカメラ下からポラロイド写真が現れる。


「いい出来だ。ほらよ」


犬崎は写真が浮かび上がったのを確認すると、満足そうな顔をして、壁に埋もれている秋山に向かって写真を放つ。


「秋山、残念だがオマエは……地獄におちました」


再びガムを口に入れながら、犬崎が尋ねた。


「未夜、警察は呼んでるんだよな?」


「は、はい。もうしばらくしたら到着すると思います」


「よし。だったら、さっさと退散するぞ」


犬崎は振り返ると、憂の両親を見つめた。


「「……ひっ……!」」


思わず硬直する両親。その2人に犬崎は話しかける。


「真相は、そういうワケだ。だが受けた依頼は、まだ終わっちゃいねぇ」


「…………?!」


「今のままだと、死んだ憂の妹もスッキリしねーんだよ。オマエ達が憂への態度を改善しない限りはな」


「……犬崎、さん……」


犬崎は憂の傍に近づき、その小さな肩を叩く。


「あとはオマエ達『家族』の問題だ。しっかりやんな」


「……は……はい……!」


憂の瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。それが悲しみから出ているものでない事は、未夜にも分かった。


「す、すみません! あのッ! 日向さん!」


犬崎と未夜が帰ろうとした瞬間、突如1人の女看護師が病室に入り込んできた。


「な、なにかあったの?」


「それが、303号室の宮田さんが急に産気づいて……!」


「な、なんですって?! 予定より随分早い……! でも宮田さんは帝王切開手術になるかもしれないのに、私達だけでは、どうしようも……」


「………………」


看護師達の話を聞いた犬崎は未だに意識を失っている秋山に近寄っていく。


「おい、先生。起きろ」


そして思い切り、その顔面を踏みつけた。


「ぐ……は……ッ! ……な、なんだ……? ぐっ、身体が……!」


「先生、仕事だ。さっさと支度しやがれ」


「し、仕事……だと……? 貴様……ふざけてるのか……?!」


秋山は口端から零れる血を手の甲で拭いながら、おぼつかない足取りで立ち上がる。


「フザけてなんかいないさ。アンタの手を必要としている患者がいる。アンタじゃなければ母親も、生まれてくる子供も救われない。だから仕事をしろと言っている」


「た、たった今、全てを失った俺に、モノを頼むのか……?!」


「全てを失ったワケではないだろ」


「どういう……意味だ……」


「アンタにはまだ、医師としての腕が残っている。それすらも放棄した時、アンタは自分の手で本当に全てを失う事となる」


「……くそっ……いちいち……腹の立つ奴だ……!」


「……先生……」


心配そうな表情で秋山に近寄る日向。


「……患者は誰だ……? 今どこにいる……? すぐに手術の用意をしろ」


「は、はいっ! 先生!」


――それから数分後、数台のパトカーが病院に到着。日向が一連の事情を説明し、納得した警察官は手術が終わるまで連行はしないという形を取る事に。

一方の犬崎達はというと、やはり警察と関わるのは御免だと、足早に病院を後にしていたのだった。


「さて。これにて一件落着、ですね」


「……まぁな」


「どうしたんですか? 浮かない顔をして」


犬崎は渋い顔をしながら、クチャクチャと口の中のガムを噛み続けていた。


「なんつーか……あれでよかったのかってな」


「?」


「依頼内容は妹をスッキリと成仏させてあげたいってモンだった。犯人も見つかり事件の真相も解けた。だが、本当に妹はあの世で救われた気持ちになってるだろうか」


「へぇ~」


「なんだよ、キモチ悪ィ」


未夜は表情をニヤニヤさせながら、犬崎の顔を覗き込む。


「意外と優しい部分があるんだなと思って」


「うっせーよ、バカ」


犬崎はそう言うと、未夜から顔を背けた。


「うーん……でも1つだけ言える事がありますよ」


「あ?」


「憂ちゃんは、犬崎さんのおかげで救われた気持ちになってるって事です」


ニッコリと微笑む未夜。その言葉に犬崎は「……どうだか」と答える。

世界を覆う夜の空を見上げると、今日はいつもより星が輝いてみえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ