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憑神探偵  作者: 104
『兇怖写真』編
8/40

起:捜査乃始

目的地である病院に到着した犬崎達3人は、さっそくこの写真を撮影した女看護師に話を聞く事にした。


「悪いな、ちょっと話を聞かせてもらいたいんだが」


看護師は首を傾げていたが、すぐに憂の姿を見つけて笑顔を作った。


「憂ちゃんの知り合いの方ですか? お話というのは……?」


看護師の胸にはネームプレートが付けられており、そこには【日向(ヒムカイ)】と書かれていた。


「この写真についてだ」


そういって犬崎が例の写真を見せた途端、看護師の顔色が変わった。


「アンタがこれを撮影したんだろ? 間違いないか?」


「え、ええ……そうですが」


「撮影したカメラってのは、まだあるのか?」


「お借りしたカメラだったので、私の手元にはありません」


「その貸してくれた相手の名前を教えてくれ」


「ありませんでした……綺麗に写ってました。その写真だけが、そんな事に……」


「秋山先生です。撮影が趣味のようで、立派なカメラを快く貸してもらいました。更には行きつけの写真屋があるので、現像に持って行ってくださると」


「秋山っつーと……」


犬崎はチラリと憂を窺った。憂と仲良く話をする『先生』……そして写真にまつわる怪談を教えた人物、それが確か――


「……分かった、邪魔したな。未夜、いくぞ」


「え? もういいんですか?」


困惑する未夜と憂をほっておいて、犬崎は次の場所へと向かった。


「アンタが秋山先生か?」


回診の途中だった秋山に犬崎は話しかけた。


「あなたは?」


「犬崎という。コイツの知り合いだ」


犬崎は後ろに佇む憂を指さした。


「憂ちゃん、心配していたんだよ。妹さんの件……辛かったね」


「……はい……」


秋山は憂の頭を撫でながら優しい言葉をかける。


「ところで例の写真、もう破棄したかい?」


「あの、それが……」


「その写真の事なんだが。ちょっとアンタに聞きたい事があってな」


犬崎は写真を取り出して、秋山の目の前でペラペラと動かしてみせた。


「まだ捨ててなかったのか……はやく燃やしなさい。そして君も家族の人も早くお祓いに。そうしないと」


「悪霊に殺されてしまいますか、先生」


秋山は犬崎をチラリとみて、嘆息まじりに話す。


「医師として、こんなバカげた事は言いたくないが……彼女の妹さんは悪霊に殺されたに違いない」


「その怪談噺を先生は、いつどこで聞かれたんです?」


「学生だった頃の話だよ。誰から聞いたかまでは、悪いが覚えていないね」


「撮影した看護師にカメラを渡し、ついでに写真屋へ現像してもらいに行かれたと伺いましたが」


「その通りです。行きつけの写真屋へ持っていきました。自宅への帰り道ですし、憂ちゃんのお母さんが写真が出来るのを非常に楽しみにしているのを知っていたので」


「写真の中身を確認しなかったのですか? 撮影したカメラは、今どこに?」


「その時は急いでいたので確認しませんでした。カメラは写真屋へ預けたままです」


「なるほど。それにしても先生は随分とお若いですね。学生のようにさえ見える」


「背も高いし、モテるんじゃないですか?」


未夜が横から秋山に対して話しかける。


「モテないですよ。恋人もいませんし。僕はこの病院の院長の息子でしてね。海外の医大を卒業してすぐここへ勤めさせてもらっているんですよ」


苦笑する秋山の口から白い歯が覗いた。


「いわゆる七光りってヤツですか」


「犬崎さん! 失礼ですよ!」


「あはは、いいんですよ……おっと、話しすぎてしまった。まだ回診が残っているので、失礼」


秋山は軽く会釈すると、3人の前から立ち去ってしまった。


「いい先生ですね。憂ちゃんが憧れるのも無理ないなー」


「そ、そんな……そんなんじゃない、です」


そう告げる憂の顔は、真っ赤に染まっていた。


「犬崎さん、これからどうします? 写真を撮った看護師さんからも、秋山先生からも話を窺いましたが」


「まだ話を聞いてないヤツがいる」


「え? 誰ですか?」


犬崎は歩き始めると、ある病室の扉をノックした。


「ここって……」


「そうだ。まだコイツの母親に話を聞いていない」


母親の病室に入るなり、犬崎に向かって怒号が飛んできた。


「だ、誰よアンタ! 何を勝手に入って……! ゆ、憂……ッ!?」


母親は憂の顔を見て、忌々しいという表情を作る。


「突然悪いが、この写真について聞きたい事がある」


犬崎が写真を見せると母親は眼を見開き、物凄い勢いで布団をかぶったかと思いきや背中を向けた。


「そんなモノ見せるんじゃないわよッ! おぞましい!!」


布団の中から吠える母親。かすかに体が震えているように見える。


「アンタのお子さんの死に、何か関係あるかもしれないんだ。知ってる事があれば話を聞かせてもらう」


「知らない! 私は何も知らない!!」


このままでは話にならない、犬崎がそう考えていた時。


「――ょ――」


母親が何やら小声で囁いているので、聞き耳をたてる。


「あたしの赤ちゃん……アンタが死ねばよかったのよ……アンタが……アンタが殺したんでしょ……? 返しなさいよ……あたしの……あたしの赤ちゃんッ!!」


「――――ッ!!」


その呟きは3人の耳にも届き、憂は病室から走り去ってしまう。


「憂ちゃん!!」


憂を追いかける未夜。病室には、犬崎と母親の2人だけが残された。


「アンタの心中は察する。だがな、あのガキ……憂も苦しんでんだ」


「なにを……! アイツは赤ちゃんが死んで清々してるわよ! アイツが……アイツが殺したんだから!!」


「俺は探偵をやっているんだがな。憂の依頼目的は、死んだ赤ちゃんを成仏させてあげたいってモノだった。自分が散々ヒドイ目にあってきたにも関わらず、な」


「………………」


「アンタは憂の母親になる事を選んだんだ。その責任ってのを最後まで果たすべきじゃないか?」


「責任、なんて……!」


「まぁ、俺も父親になった事が無いんで偉そうな事は言えないけどよ。ただ、これだけは言えるぜ」


犬崎は病室から出て行こうと扉に手をかけた。


「アンタは既に憂を見限ってしまったかもしんねーけど、憂は今だってアンタの事を母親だと思ってる」


「……………………」


母親は何も告げなかった。そして犬崎も、何か言葉が欲しいとは思っていなかった。だから静かに病室を出て、憂の後を追う事にした。


「おう、ここにいたか」


犬崎が向かったのは病院の屋上。ベンチに腰かける未夜と憂に声をかける。


「あれ? 携帯も鳴らしてないのに、よくここにいるって分かりましたね」


未夜の言葉に、犬崎はフフンと得意げに鼻をならした。


「俺の鼻は特別なんだよ。オマエの匂いを辿ってここまで来た」


「本当に犬化してますね……っていうか、私、臭い……?」


未夜は自分の体をクンクンと嗅いでみる。


「んな事はどうでもいい。おいガキ、どうすんだ? まだ調査を続けんのか? もし今やめるっつーんなら……キャンセル料なしでいいぞ」


「お金に汚い犬崎さんが!? 珍しいッ!!」


「うっせーバカ。……どうすんだ?」


憂はしばらく屋上から見える街の光景を眺めていたが、その内はっきりと答えた。


「いいえ、続けて下さい。妹の死が偶然だったとしても……はっきりさせたい」


「気持ちは変わらずか。いいだろう」


「私も協力するからねっ」


「ありがとうございます」


頭を深々と下げる憂。


「とはいえ、これからどうするんですか? 犬崎さん」


お世辞にも事件に繋がる話を聞き出す事は出来なかった。

憂のいう通り、やはり妹の死と写真は偶然にすぎなかったのだろうか?

それとも秋山のいう通り、悪霊の呪いというのは本当に実在しているのだろうか?


「とりあえず、こいつを現像に出した写真屋へ行って話を聞いてみるか」


まじまじと写真を見つめる犬崎。そして……


(…………ん?)


ある違和感に気づく。


(そうか。俺は中央の歪んだ赤ん坊ばかりに目を囚われ、写真全体を見ていなかった)


「おいガキ。死んだ赤ん坊は、死ぬ直前までどこにいたんだ?」


「無菌室があるので、生まれた赤ちゃんは全てそこに……」


「よし、行くぞ」


「い、犬崎さん?!」


犬崎は早足で屋上から離れ、無菌室へ向かった。


「ほぎゃぁ! ほぎゃぁ!!」


多くの赤ん坊が新生児室にて自分の存在を主張している。

犬崎達は看護師に頼み込んで、なんとか入室の許可を得た。


「必ず無菌服と帽子、マスクと手袋を着用してください」


「分かりました。……あれ? 手袋がないんですけど」


「え? 本当に? ……あ、そういえば在庫切らしてて、今発注しているんでした。すみませんが、手袋なしでお願いします。消毒をキチンとして、赤ちゃんには触らない様にしてください」


「はい、わかりました」


説明を終え、立ち去ろうとする看護師。それを犬崎が「ちょっと待ってくれ」と言って引き留める。


「その手袋が切れた日ってのは、いつだ?」


「よく覚えています。在庫切れに気づいたのが夜で、例の赤ちゃんが亡くなったのが翌朝でしたので」


「なるほどな……分かった」


看護師は首を傾げながら、今度こそ新生児室から出ていく。


「ここで何をするんですか?」


未夜の声が届いていないのか犬崎は返事もせず、ずっと新生児室の地面に這いつくばっていた。


(この人の行動って、たまに訳わかんないのよね)


寒々とした目線を犬崎に向ける未夜。憂は新生児室に入るのをためらい、ガラス越しから私達の様子を窺っている。


「さっきガキに聞いたんだが……赤ん坊は、そこのケースの中で死んでたのを女看護師が発見したそうだ」


「えっ」


未夜は現在何も入っていないケースを眺め、一瞬背筋がぶるりと震えた。


「元々、赤ん坊は身体が弱まっていたそうでな。謎の死と言ってはいるが、死因は心肺停止とされている」


「ではつまり、呪いどうこうが問題ではなく……元々赤ちゃんは長生きできない身体で生まれてきたと、そういう事ですか?」


「ああ。どうやらそれが『怨霊』の描いたシナリオらしい」


「……? それはどういう……」


「おそらく、ここだろうな」


犬崎は床の一部をなぞってみせる。


「未夜、怨霊をあぶり出す。協力しろ」


懐からガムを取り出して口に放り込み、犬崎は未夜へ告げた。


「勿論、協力はしますけど……怨霊を、あぶり出す?」


「赤ん坊が死んだのは怨霊のせいでも偶然でもない……殺人だ」


「い、一体、誰が!」


思わず大声が出てしまい、新生児達の泣き声が増す。


「それを告げる前に、オマエには用意してもらいたいモンがある」


犬崎はガムの包み紙にペンを走らせ、それを未夜に渡した。


「そこに書いてあるモノを準備しろ。急げ」


「わ、分かりました!」


未夜は急いで新生児室から出て行き、残された犬崎はクチャクチャとガムを噛みしめながら不適な笑みを浮かべた。


「フン……おもしろくなってきやがった……」

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