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憑神探偵  作者: 104
『兇怖写真』編
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『兇怖写真』編

今、お母さんのお腹の中には小さな命が宿っている。

両親と私との間に血の繋がりはない。本当の両親の顔など知らない。この世に生まれ落ちた瞬間、私は捨てられたのだ。

施設に育てられ、今の両親に拾われたのが小学生の頃。子供を産みにくい身体だったお母さんは、私の事を実の娘のように、それはそれは可愛がってくれた。お父さんも私を愛してくれていた。


……それが去年までの話。


昨年、お母さんに子供が出来た事を医師は告げた。

2人は歓喜し、涙すら流していた。私も嬉しい、はずだった。

次の日から私の人生は一変する。誰からも愛されなくなったのだ。

あんなに優しかった2人は、今や私を空気のように扱う。私だけ食事がない日もあった。鍵をかけられ、寒空の中1日中公園で過ごした事もあった。


私は、不要になったのだ。


お母さんはお腹をさすりながら、幸せな家庭生活を想像して胸を高鳴らせている。

お父さんは、お母さんのお腹に耳を当てて子供になんと名づけるか考えていた。

私は、そんな2人を病室の隅で眺めながら、ただニコニコと笑顔を作っていた。


「……何を見ているの? 目ざわりね、どこかに行きなさい」


冷たい目線を向けてそう告げられた。最近は名前ですら呼んでくれなくなった。

私は静かに扉を開けて、無言で病室から出ていく。


どこにいけというのだろうか? 私に居場所などないというのに。


それから数ヶ月後。ついに妹が生まれた。

我が子を愛おしそうに抱きしめる2人の姿。相変わらず、私は部屋の隅でニコニコと微笑んでいた。

そんな時、1人の女看護師がこんな事を言い出した。


「記念撮影をしましょう。皆で、家族揃って」


家族……それはきっと私も含まれているのだろう。

写る事を遠慮したが、看護師は半ば無理矢理に私を同じフレーム内へ移動させた。

さすがに他人の前だと良い格好をしたいのか、2人は私が近寄っても何も言わなかった。


「では、いきますね! ……はい、チーズ!」


若い女性が持つには随分と立派なカメラのシャッター音が切られ、撮影は終了した。

レンズ越しに、自分の偽った心まで見透かされ写ってしまうのではないかと思い……


すごく、怖かった。


撮影から、しばらく経っての事だった。お母さんは女看護師さんに尋ねてみた。


「あの時の写真、まだ出来ていませんか? 楽しみにしているんですけど」


写真を撮った日に、お母さんが売店でハサミを購入していた事を思い出す。写真に写る私の顔を切り抜く為だ。


「あ……写真、ですか……えっと……」


なぜか口ごもる看護師。どうしたというのか?


「あの写真、実はちょっと撮影ミスがあったみたいで」


「撮影ミス? どんな?」


「それは……あの」


「いいから見せて下さい。お願いします」


お母さんがあまりに頼むので看護師は渋々といった感じで写真を病室に持ってきた。


「……なに……これ……」


写真を見た瞬間、お母さんは怒り狂った。看護師に向けて罵声をあげ、息を荒げる。

看護師は何度もごめんなさいと頭を下げていた。


「そんな物! 早く捨てて!」


背中を向けるお母さん。私は床に落ちた写真を拾い、覗いてみた。


(……これは……)


私達4人が映し出されている写真中央……抱きかかえられた赤ちゃんの顔だけが


醜く、歪んでいた。


どうせ捨てるならと、私はその写真を持ち帰った。

目も、口も、鼻も輪郭も……まるで車にひき潰されたかのような赤ちゃんの顔。


「アンタの顔が潰れていればよかったのに!」


罵る声も気にならなかった。

初めて見る[心霊写真]という物に……正直、心躍った。


ある日、病院屋上で写真を眺めていると頬に冷たい感触が伝わった。


「――――っ!!」


振り向くと目の前に缶ジュースが差し出されていて、遅れて笑い声が聞こえた。


「あはは、驚かせて悪かったね。何を見ていたんだい?」


それは、この病院に勤める若い先生。いつもこんな私に声をかけてくれる優しい人。


つい先日も、生まれてきた妹の為にお洒落なニット帽を買ってきてくれた。

生まれて間もない赤ちゃんは体温調節がうまくいかないから、帽子を被せてあげるのがいいのだそうで、お母さん達も帽子を脱がそうとしなかった。

先生は私の隣に腰掛け、もう片方の手に持っていた缶コーヒーのプルタブを開ける。


「えっと……あの……」


隠そうとしたが、先生は素早い動作で写真を覗き見る。


「これは……」


眉根を寄せる先生。こんなに真剣な表情を見るのは初めてだ。


「この写真……捨てたほうがいい」


「でも……私にとって初めての家族写真なんです」


写真をしまいこみ、貰ったジュースに口につけた。


「そっか……でもね、さっきの写真には悪い"気"みたいなのを感じるんだ。持っている限り、君にも悪霊の魔の手が降りかかるかもしれない」


「悪霊……ですか? 魔の手って……どういう事ですか?」


「これでも学生の頃は、色んな心霊スポットに行ったりしてた。誰も信じてくれないような怪奇な出来事に遭遇した事もある。いわゆる[見える人]ってヤツだね」


私は黙って先生の話を聞いていた。


「赤ちゃんの顔が歪んでいただろう? こんな話を聞いた事がある。

とある夫婦が新婚旅行中、記念撮影をした。写真を現像すると妻の顔だけ潰れていて、その妻は数日後に謎の死を遂げた。

夫は写真になにか原因があるのではないかと思い、有名な霊媒師にお願いしてみる事にした。すると霊媒師は、写真を見るなりこう告げたんだ」


「……なんて……?」


「残念ながらあなたの奥様は


地獄に おちました。


……いいかい? 写真は捨てるんだ。君も御両親も一度お祓いにいったほうがいい」


先生は一気にコーヒーを飲みほして去って行った。

私はしばらく呆然としていたが、再び写真を取り出して赤ちゃんの顔を窺う。


(悪霊……魔の手……)


――そして、その日の晩。

生まれて間もない私の妹は


謎の死を遂げた。

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