表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憑神探偵  作者: 104
『死亡宣告』編
3/40

起:捜査乃始

如月弥生の通う大学は、県境に位置する都会より少し離れた場所に建っていた。

都会から通うには遠く、かといって大学近くに住むには勿体ないと言った実に中途半端な距離だった。


「大学は潜入するのが楽でいい。いくぞ」


この男にとって潜入とは、日常的な出来事らしい。

高校や小学校に潜入する際には、どういった手段を取るのか。

未夜は興味を持ったが、犬崎がさっさと歩き出していくので考えるのをやめた。


「姉ちゃんの彼氏の名前は、なんつーんだ?」


「顔は知ってますが、改めて自己紹介もしなかったので、名前は知らないです」


「チッ、使えねーなぁ」


その犬崎の言い草に、未夜は少しカチンときたが


(落ち着け! 落ち着け私……!)


深呼吸を数回行う事で、怒りを胸奥に飲み込む。


「とりあえず、姉ちゃんの写真はあるんだ。しらみつぶしに聞いていくぞ」


未夜が先程渡した姉の写真をペラペラと振りながら、犬崎は言った。


「はいぃ、かしこまりましたぁ」


怒りは抑えたつもりだったが、未夜の作り笑顔は、ひどく引きつっていた。


「ちょっといいか? 彼女の事について尋ねたいんだが」


犬崎が大学に通う生徒に声をかけていく。

しかし早々、有力な情報など手に入る訳はない。地道な聞き込みが、実を結ぶのだ。

犬崎が、そう考えていた矢先、


「あぁ、これって……例の人だよね」


あっさりと如月弥生を知る生徒に巡り会う。


「例の? 何か知っているのか?」


女性2人組に尋ねてみると、2人は顔を見合わせる。


「知ってるっていうか、ねぇ?」


「うん。大学内では結構、噂になってるよね」


「それは、どんな噂だ?」


犬崎が聞くと、2人の女性は少し困った顔をしながら答えた。


「噂っていうか、都市伝説みたいな感じなんですけど……聞いた事ないですか?

深夜、全てのテレビ番組が終了してから流れる【死亡宣告】の話……」


「死亡宣告……? なんだ、それは」


「4時44分44秒に、テレビから流れるみたいなんですけど。それを見た人は、近い内に殺されちゃうらしいんです」


「私が聞いた話だと、テレビに自分が殺される様子が流れるとか!」


キャイキャイと盛り上がる2人を尻目に、犬崎は溜め息をはいてみせた。


(バカバカしい。そう何回も不可思議な事件が重なる訳――)


「その写真の人より前に、死亡宣告を見て死んだって人いたよね」


「そうそう! 確かその人って、写真の彼女の親友だったっけ?」


(なんだと?)


ただの都市伝説だと思っていたが、実際に死人が出ていると聞けばただ事ではない。

ましてや、被害者が如月弥生の親友となれば……


「……犬崎さん……」


その時。顔色を真っ青にした未夜が犬崎に話し掛けてきた。


「確かお姉ちゃん……留守録でテレビがどうとかって……」


確かにそんな事を言ってたかもしれない。


「死亡宣告……調査の必要があるな」


犬崎は懐からガムを1枚取り出し、それを口に放り込んだ。


――聞き込みを開始して2時間が経過した昼時。

犬崎達はやっとの思いで如月弥生の彼氏の情報を得る事が出来た。

その男が現在、校内の食堂にいると聞きつけた犬崎達は、すぐに現場へと駆け付けたのだった。


「どれが彼氏だ?」


時間帯もあってか食堂は混み合っていた。

犬崎は如月弥生の彼氏の顔を知らないので、未夜に目標を探させる。


「えっと」


キョロキョロと辺りを伺う未夜。そして、


「……あ! いました!!」


見事発見する事に成功。

犬崎と未夜は、その男のいる席へと向かう。


(コイツで間違いないんだろうな?)


その言葉を含めて犬崎が見つめると、意味を汲み取った未夜はコクリと頷く。


犬崎は男のすぐ隣の席に座りこむと、間髪入れず尋ねた。


「アンタ……【渡部(ワタベ) 健吾(ケンゴ)】に間違いないか?」


突然の事に動揺を隠せないでいた男だったが、食事の手を休め尋ね返してきた。


「貴方は?」


「俺の名は犬崎ってんだ。コイツの顔に見覚えあるだろ?」


指で未夜をさす犬崎。


「君は……弥生の妹さん」


未夜は男に向かい、ペコリと頭を下げてみせた。


「アンタの彼女、如月弥生について聞きたい事がある。答えてもらおう」


男を見据えた犬崎の目がギラリと光る。

渡部健吾は茶髪に眼鏡、ジャケットを羽織り女性にモテそうな印象を受けた。


「弥生さんについて……? 弥生さん、戻ってきたんですか?」


「どういう意味だ?」


「ずっと連絡が取れないし大学にも顔を見せないので、心配しているんです」


丁寧な言葉使いから、渡部の育ちの良さが窺える。


「それは、いつからだ?」


「もう2、3日位になりますね」


弥生が失踪した時期と合致している。


「実は連絡が取れなくなる前日に、軽い言い合いをしてしまいまして……それが原因じゃないかと、心を傷めていました」


「ケンカの理由は?」


「デートの待ち合わせに遅れてしまいまして。随分待たせたようで、かなり怒ってました」


そんな理由か、と犬崎は溜め息をつく。失踪するには動機が軽すぎる。


「心配なら彼女の住む所に様子見に行けばいいだろ」


「行ってみました。ですが鍵がかかってて中に入れなくて」


「合鍵は?」


「持っていません」


渡部の言葉に、未夜も付け加える。


「お姉ちゃんは、プライベートと恋愛も別けて考える人だったので。合鍵も家族にしか渡していないと言ってました」


犬崎は、ふぅん……と呟いた後にガムを膨らませる。


「とりあえず、携帯番号だけでも教えといてくれるか? また色々尋ねる機会があるかもしれねぇし」


犬崎の言葉に渡部も快く承諾する。


「何か分かり次第、僕にも教えてもらっていいですか? お願いします」


彼女の安否が気にかかるのだろう。

犬崎は、わかったと頷いて渡部の携帯番号が書かれたメモを受け取る。


「邪魔したな」


一言そう呟いて、犬崎と未夜は食堂を後にするのだった。


「これからどうするつもりですか?」


未夜が尋ねてくる。


「次は死亡したとされる如月弥生の親友の事を知る人物と接触取るぞ」


「例の、死亡宣告のテレビを見たっていう……?」


「姉ちゃんの失踪と関係あるかは分かんねぇが、気掛かりは残しておきたくねぇ」


「でも、誰に尋ねるんですか? お姉ちゃんの親友の顔も名前も分からないのに……」


「その辺に抜かりはねぇよ。そろそろ調べがついているはず――」


その時、犬崎の携帯から着信音が鳴り響いた。どうやらメールが届いた様だ。


「……来たか。さすがだな」


犬崎は携帯電話を取り出してメール内容を確認する。


「死亡した如月弥生の親友の名前と顔が分かった。聞き込み開始だ」


「え?! 一体、どうやって……」


未夜の質問に歩きながら犬崎は答える。


「最近、この大学で死亡した人間といえば限られてくるだろう。情報屋に調べさせた」


「情報屋……」


「するべき事は、まだ山ほどあるんだ。チンタラすんな、行くぞ!」


犬崎に怒鳴られ、未夜は焦りながら、その後をついていくのだった。


「オマエの姉ちゃんの親友の名は、宍戸 亜紀」


犬崎が自身の携帯を未夜に向かって放り渡す。


「この人が……」


携帯電話の画面には1人の女性が写っていた。

髪が長く、えくぼの素敵な可愛いらしい女性だなと未夜は思った。


「宍戸は如月弥生が失踪する数日前に、この大学内で死亡している」


「し、死亡……? 一体、何故……どうして……」


「自殺だ。夜中に大学に忍び込み、目の前の校舎が見えるか? そこから飛び降りたんだ」


そう言われて、未夜は校舎を見つめる。

3階の、よくある感じの建物だった。

そこから1人の女性が飛び降りて自ら命を絶ったかと思うと、未夜の背中にゾクリと冷たいモノが走った。


「高さが足りず、即死にはならなかったみたいだ。情報によれば宍戸は死ぬ直前まで、ある言葉を呟いていたらしい」


「ある言葉……?」


未夜から携帯を奪い取り犬崎は答えた。


「聞いてから後悔すんなよ? 最後の言葉は――」


『ワタシハ


  テレビニ


      殺サレル』


「テレビ……それって……例の死亡宣告……!」


「間違いないだろうな。とりあえず――」


昼食を終えた学生が何人も外を闊歩している。

それらを眺めながら、犬崎は未夜に向かって言い放つ。


「宍戸と仲のよかった人間を手分けして探すぞ。何か見つかったらすぐに……」


サラサラと自身の携帯番号をメモに書き、未夜に渡す犬崎。


「連絡しろ。1時間経過したら、この宍戸が自殺した校舎に集合だ。いいな?」



嫌な所を集合場所にするなぁと未夜はゲンナリする。しかし文句は言えないので、


「わかりましたぁ……」


渋々、承諾するのであった。


――1時間後。

特に目新しい情報も手に入れられなかった2人は集合場所に顔を揃えていた。


「ダメだ! 宍戸亜紀は交遊関係が希薄だったのか?!」


たいした情報が手に入らず、犬崎は多少苛立っている様子だった。


「どうやら、死亡宣告の噂は大学内に広まっているみたいで、その話をしてると次に呪われてしまうと考えて、口を閉ざしてるみたいです……」


「バカバカしい……とは言え情報が入らねぇと、どうしようもねぇ。ここで時間を無駄にしてるヒマはねぇしな」


「そうですね……こうしてる間にも、お姉ちゃんは危険に晒されているかもしれませんし」


うなだれる未夜と、頭をバリボリと掻きむしる犬崎。


「次の現場に向かうぞ」


「次ですか? 一体、どこに」


新しいガムを口に含めながら犬崎が答える。


「まずは姉ちゃん家に行くぞ。部屋に失踪原因に繋がる何かがあるかもしれねぇ。合鍵、あるんだろ?」


その言葉に、未夜が激しく反応する。


「お姉ちゃんの……部屋、ですか……?」


「そうだ。さっさと行くぞ! 案内しろ!」


――この時、如月弥生の部屋に行くと聞いて、明らかに未夜の様子が急変したのだが、犬崎自身、あまり気にかけてなどいなかった。

――しかし

如月弥生の部屋に入ってすぐ、犬崎は未夜の様子が変わった理由を知る事となる。


大学より徒歩10分程の場所に、如月弥生の住むマンションはあった。


「ここか。さすがお嬢様だな、いいトコに住んでやがる」


セキュリティ万全、高級感漂う6階建てマンションの最上階に弥生の部屋はある。

入口扉のセキュリティを解除してエレベーターで6階まで上り、弥生の部屋の前に来るまでの間、未夜は一言も発しようとしなかった。


「鍵を貸せ。中に入るぞ」


犬崎が手を差し出すが、未夜は鍵を渡すのを躊躇する様なそぶりを見せる。


「本当に……入るんですか?」


「ここまで来て帰れるか。姉ちゃんを探したいんだろ? だったら、さっさと鍵を開けろ」


「そう、ですよね……お姉ちゃんを見つける為だし……」


何か独り言を呟きながら未夜は犬崎に鍵を渡す。


(なんなんだよ、全く)


犬崎は受け取った鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。


――ガチャリ


鍵は一周し、開錠を知らせる金属音が小さく響いた。


「入るぞ」


そして犬崎が扉を開けた瞬間


(……? この臭いは――)


部屋の入口の様子を調べる犬崎。

ドアノブ、鍵穴を見てみるが無理にこじ開けた様子などは見当たらない。


(玄関に弥生の靴は一足もなし、か……)


とりあえず靴を脱ぎ短い廊下を歩いて部屋の扉の前へ。

そして扉を開けた瞬間――


「――これは……」


そのあまりの異様な光景に声を出す犬崎。

部屋は10畳程の広さ。ベッドが置かれ、普段のこの部屋は可愛いらしいぬいぐるみ等が並び、女性らしい部屋だったに違いない。しかし今は……

棚の上に置かれていた物は全て床に叩き落とされ、ぬいぐるみが何かの刃物で切り裂かれ、中の真綿が空を漂う。

コンポやテレビ、電話といった家電製品は鈍器で叩き壊された様な跡があり、そして何より犬崎の目を引くのは……壁中に、血の様な赤い液体で書きなぐられた――


タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ


助けを求める文字だった。


犬崎は壁の文字に触ってみる。

すっかり渇いているが、これは如月弥生の血文字なのだろうか……?

しかし壁一面に己の血で文字を書くとなると致死量に至る。


「……未夜」


声をかけるが、未夜は俯き、部屋に入ろうとせずガタガタと廊下で震えていた。


「隣の住人や近所から、この部屋から大きな物音を聞いたとかって話はないか?」


「ないです……隣の人も大学生で、夜までバイトがあったから部屋にいなかったそうです……近所の人からも何も……」


「警察に、この部屋は見せたのか?」


「お姉ちゃんの部屋が、こんな状態になったのは――」


未夜は異常な程、体を震わせている。


「警察が捜査に来てくれた……次の日……なんです……」


つまり、こうなる。

弥生の姿も連絡も消え、失踪だと判断した未夜は警察に通報。

部屋は荒らされた形跡がみつからなかった為、警察はすぐ引き返してしまった。

そして次の日、再び未夜が弥生の部屋を訪れると……今の異常な有様になっていた。

再び警察に通報する未夜。しかし昨日の今日なので警察は未夜の言葉など信じず、電話受け答えのみで捜査に本腰を入れてくれなかった。

だから、犬崎に依頼したのである。


(なるほど……)


外部から無理矢理侵入された形跡はない。

一応、噂で持ち切りのテレビも調べてみる。

何度も叩きつけられたのだろう。画面は割れ、四角い形は無惨に変型されていた。


(それにしてもおかしい、"あれ" が無いなんて)


しばらく部屋をくまなく探し、その後、腕を組んで考え込む犬崎。


(深夜に流れる、死亡宣告の番組か……)


「次、行くぞ」


「あの……どこに……」


「とりあえずテレビ局だ。4時44分に番組が終了していたテレビ局を、片っ端から洗う」


既に疲れ果てていた未夜だったが、姉を救いたいという一心で気力を奮い起こし、何度か、つまづきそうになりながらも犬崎の後をついていくのだった。


――犬崎が調べあげ、向かった場所。それはNCLテレビという最も一般視聴者に人気のないテレビ局である。


「まずは、ここのテレビ局から探るんですか?」


「探る、か。それっぽい言葉を使う様になったじゃねぇか。だが探るのは、ここのテレビ局だけだ。他には行かねぇ」


首を傾げる未夜。


「4時44分。その時間枠に番組を終了されていたのは、ここだけなんだ」


「そ、そうなんですか?」


「文字ニュース、天気予報、朝まで続く討論番組、古くさい洋楽放映……他局は何らかの番組を放映していた」


「な、なるほど」


「何らかの情報を掴めればいいがな……行くぞ」


2人はNCL局内へと足を踏み入れる。


「アポイントメントは?」


受付の女性が、ぶっきらぼうに言い放つ。


「えぇっと……そ、その……」


未夜は受付女性相手にすっかり畏縮していた。

しかし、それでいい。ほんの少し、目を向けさせられれば。

未夜が相手を引き付けている間、犬崎はその目を盗んで局内奥への侵入を果たした。


(ナイスだ、未夜)


チラリと未夜の方を伺い俺は親指を立ててみせた。

エレベーターに乗り込む瞬間、各階のセクションを調べる。


(放送部……ここか)


目的の階は4階。俺はボタンを押して移動を開始する。


あっという間にエレベーターは4階へ到着し、犬崎は辺りを窺う。


(結構色んな部署があるな……さて、誰に話を聞くべきか)


そんな事を考えていると、数人のスタッフを引き連れた1人の男がこちらに向かってやって来る。


「――では、その様に行います。プロデューサー」


「まぁテキトーでいいからよ。チャッチャと終わらせて打ちに行こうぜ!」


「また麻雀スか。【八木沼(ヤギヌマ)】さんと打つと朝までだからなぁ~」


騒ぎ立てる男達。その会話内容を盗み聞き、犬崎はニヤリと笑う。


(プロデューサーか。都合がいい)


犬崎は味のなくなったガムを銀紙に包み、男達に歩み寄っていく。


「お疲れ様です、八木沼さん」


丁寧な喋り方で相手の男に話し掛け、頭を下げる。


「その節はお世話になりました」


犬崎の言葉にプロデューサーは首を傾げている。

傍にいる男達も「誰だろう?」と小さく話をしている。


「……失礼ですが、貴方は?」


「これは失礼。以前『先生』がお世話になりまして。私はその『先生』の側近に当たる者です」


「先生……?」


八木沼と呼ばれていた男は腕を組んでしばらく考えると、


「もしや代議士の……八田先生の?」


「はい。思い出して頂き、何よりです」


「これはこれは! よくおいでくださいました!」


ちなみに、犬崎は八田と言う代議士の知り合いなどいない。先生などと言っていたのも全て出まかせだ。

しかし相手は信じ込んだ様子で態度を一変させてきた。


「それで、今日はどうされました?」


「先日、先生がテレビをご覧になっていた時、この局の番組で謎の映像が映ったらしく……気味が悪いので八木沼様に、あれは何だったのか聞いてこいと」


「……すみませんが、詳しい話をお聞かせ頂けますか?」


八木沼の目の色が変わったのを、犬崎は見逃さなかった。


「2、3日前の深夜4時44分頃です。何か映っていませんか?」


犬崎が尋ねると八木沼は「調べてみましょう」と番組のモニタールームへ案内した。

薄暗い室内に様々な機械が並び、何台ものモニターから番組が流れている。

その中のスタッフの1人に八木沼は、その日その時間、変わった放送が流れていなかったかチェックさせる。だが……


「何も映っていませんねぇ」


八木沼の言う通り、2日前の4時44分も3日前の同じ時間も番組が流れた形跡はない。


「どこか他局の番組と混線したとか、そんな所じゃないですかね」


確かにその可能性もなくはないが、大学内で噂されていた内容は、あくまで[全番組終了後]と言っていた。


(もしかしたら、俺は何か……とんでもない勘違いをしているんじゃないのか?)


大学内で流れている噂……

死んだ弥生の親友……

タスケテと書かれた部屋……

そして異常など起こっていないテレビ局……

犬崎は、ある引っ掛かりを抱いていたが、とりあえず八木沼に礼を言ってテレビ局を去る事にした。


「よう、お疲れさん」


すっかり暗くなった外で待っていた未夜を、犬崎はガムを噛みながら軽々しく挨拶してみせる。


「本当に、疲れたんですけど……」


どんよりといった感じでしゃがみ込んでいる未夜。


「疲れついでに、もう1つだけやってもらいたい事がある」


「まだ何か……? いいですよ、こうなれば最後まで付き合います」


犬崎は未夜の隣に同じくしゃがみ、耳打ちで話をし始めた。


「――に――を……」


その話を聞き終えた未夜は目を大きく見開き、きょとんとした表情を作ってみせる。


「それに何の意味があるんですか?」


「後々分かる。とにかく任せた」


勢いよく立ち上がった犬崎は未夜を指差しながら再度「頼んだぞ!」と告げて去っていく。


「なんだって言うのよ、もう……!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ