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憑神探偵  作者: 104
『分身娑婆』編
13/40

起:捜査乃始

犬崎達が訪れたのは、こっくりさんを行ったメンバーの内、梶という男子生徒の家だった。事前にリサの携帯で連絡を取り「今から向かうから」と伝えている。

玄関の呼び鈴を鳴らして数秒、梶はTシャツに短パンという姿で現れた。


「おぅ、リサ……って、誰だコイツら」


訝しげな目で後ろに立つ犬崎と未夜を見つめる。


「あの……この人達は、探偵の方達で」


「探偵だぁ? 探偵が俺に何の用だよ?」


「例の、こっくりさんの件で、少しお話を聞かせて頂きたいんですけど」


未夜が優しい口調で話すが、梶は「ケッ」と舌打ちをしてみせる。


「何も話す事なんざねェよ! 用件はそれだけか?! それならさっさと帰――」


今まで傍観していた犬崎が動いた。おもむろに梶の頭を掴み、力を込めていく。


「いてててててッ?!! な、何しやがる?! 離せッ!!」


「人が下手に出てれば、いい気になってんじゃねーぞガキ。オマエにも関係ある話なんだ。グダグダ言ってねーで、さっさと答えやがれ」


「痛ェ!! は、離せ! 分かった! 話すからッッ!!」


「犬崎さんは、下手に出てませんけどね……」


とりあえず近くの公園まで梶を引っ張り出し、話を窺う事にした犬崎達。


「オマエは、こっくりさんを行った後、不気味な女の声を聞いたらしいな?『地獄へおいで』だったか?」


「そ、そうっス」


「他に声を聞いたヤツは、いなかったのか?」


「いなかった……と思います。1人で家に帰ってる途中だったし……周りに誰かいた感じは無かったっス」


「それは確かに女の声だったのか?」


「それは間違いないっス! 気味の悪い、女の声でした!」


「なるほどな。あと、こっくりさんをしようと提案したのは、池田ヒカルっつー女だって話だが。ソイツとは仲いいのか?」


「仲、ですか……? それは」


初めて口ごもる梶。陰を落とす表情を、犬崎は見逃さない。


「ヒカルと俺は、前に付き合ってた事があるんス……半年もたなかったんスけど。

昔は可愛い奴だったんだけど、3年になってからかな。急に態度が急変して……

今じゃヒカルの事、ビビッてる奴も多くて」


梶はリサの様子を窺っている。そのリサはというと、ずっと俯いたままだ。


「何がキッカケで態度が急変したのか、分かるか?」


「それは分かんないっス。一方的に俺、フラれたし」


「学校に来なくなったアリサについては、どうだ? 連絡とかしてんのか?」


「アリサっスか? 正直、俺アリサとそんなに仲いいワケじゃないんスよね。連絡繋がらないって事は、リサから聞いてるし」


「じゃあ、亡くなった馬場についてはどうだ? 仲が良かったんだろ?」


「そうっスね……まさかアイツが死ぬなんて、思っても見なかったっス……あの時俺が、こっくりさんの紙を馬場に燃やさせたから……だから馬場は死んだんじゃないかって……そう思うと、俺……俺……!」


梶は俯くと、涙を零した。若者独特の軽い感じではあるが、なかなかに友達想いの熱い男なのかも知れないと犬崎は思った。


「事故に遭った、その日……途中まで一緒に帰っていたんだよな? 何か変わった様子とかあったか?」


「いえ、何も……ただ……」


「ただ、なんだ?」


「こんな事、本人目の前にして言うのもどうかと思うんだけど……馬場の奴、前からリサの事好きだったみたいでさ」


「……えっ……?」


リサが顔を上げ、驚いた表情を見せる。


「馬場君が……私の事……?」


「ああ。だからリサがいなくなった後、馬場はスゲー心配してた。告白も出来ないまま死んじまって……後悔してんじゃないかと思う」


「……そんな……」


「リサちゃん……」


未夜がリサの肩をそっと抱く。


「十分だ。情報提供、感謝する」


犬崎は簡単に礼を言うと、おもむろに立ち上がり歩きだした。

後から未夜達も、慌てた様子でついていく。


「探偵さん!」


大きな声で梶は犬崎を呼び止め、そして告げた。


「悪霊を祓ってくれよ! きっと天国で馬場の奴も、それを望んでるはずだから!」


振り返る事をせず、かわりに犬崎は親指を上に立てて答える。


「任せておけ」


――次に犬崎達が向かおうとした場所はアリサ宅。

少し離れた場所にあるので、バスに乗って移動しようと思っていた矢先の事。


「……あれ……?」


「どうしたの? リサちゃん」


未夜が声をかけると、リサは頭上より更に高い位置を指さしながら「あれ、ヒカルとアリサちゃんです」と告げた。


「えっ?!」


ファーストフード店の2階に、女子達が何やら険しい顔をしているのが見えた。


「あそこの2人って事?」


「そうです。右がヒカルで、左にいるのがアリサちゃんです……」


「好都合だ。店に入るぞ」


犬崎はファーストフード店の中へ入った矢先、未夜に適当なドリンクを3つ注文させて2階に上がっていく。共についてきたリサがヒカル達に近付こうとした際「隠れろ」と小声で命令する。


「――だから、どうすんのって! マジで!」


アリサの方が、ヒカルに向かって声を荒げている。


「馬場君に至っては死んでるんだよ!? 私達だって、どんな目にあうか!」


「黙れっつってんだろ?! 熱くなってんじゃねーよッ!」


2人共、かなりヒートアップしている様子。

店内には、そこそこ客がいるのだが、まるで気にしていない感じだった。


(直接問い詰めても聞き出せない情報が引き出せそうだな)


犬崎は懐からボイスレコーダーを取り出すと、2人の会話を録音し始める。


「ヒカルだって人ごとじゃないんだよ?! そうだよ、ヒカルこそ1番に祟られるべきなんだよ! ヒカルが、あんな事やろうなんて言い出さなければ――」


「黙れっつってんだろッ!」


ヒカルはアリサの口元を押さえ、そのまま思い切り床に叩きつけた。ガタンッ! という大きな音と共にアリサは床へ転がる。周囲の人間は、そんな事になっているというのに、横目でチラチラと様子を窺うだけで、知らぬ存ぜぬを決め込む始末。


「うっうっう……!」


ついに泣き始めるアリサ。そんな彼女を見下しながら、ヒカルは告げた。


「何の為に、私がリサなんかを誘ったと思ってんのよ。呪い? 祟り? リサを盾にして、私は逃げおおせてみせるっつの」


「………………!」


その言葉を聞き、犬崎の隣にいたリサがカタカタと震えた。


「あまり私を怒らせんな。2度と学校に行けなくしてやろうか?!」


「……うっ……うっ……!!」


アリサに向けて唾を吐き、ヒカルはカバンを持って店から出て行く。


その時、トレイにジュースを3つ置いて、未夜が現れた。


「お待たせしました! どうなりましたか?!」


「未夜、ちょうどいい。リサと共に、あのアリサってガキに聞き込みしておけ」


「えっ? えっ?! け、犬崎さんは、どうするんですか?!」


「俺はヒカルってガキを追う。連絡を入れるから、それまで待機だ」


「な、何を聞けばいいんですか?!」


「んな事は、自分で考えろ!」


犬崎は、そう言ってヒカルを追う。


「ちょっと、いいか?」


追いつき、声をかける犬崎と、振り返り、睨みつけるヒカル。


「……んだよ、テメーは」


「山城理沙の知り合いでな。アイツの悩みを解決する為に、協力を頼まれた」


「悩み……? 何? テメー、霊媒師? そうは見えねーけど」


ピキ、と犬崎のコメカミに血管が浮き出る。


(耐えろ……! こんなガキに本気でキレるワケには……)


軽く深呼吸して、犬崎は話を聞く事に集中する。


「ちょっと詳しい話を聞かせてくれよ。時間は取らせない」


「マジウゼー。消えろよ」


ピキピキピキッ!


(落ち着けッ!! こういった輩は普通に頼んでも絶対に口を割らねェ……ならば)


犬崎はコホンと軽く咳払いをしてみせると、懐からある物を取り出す。

犬崎が取り出した物、それは……サイフ。


「情報提供料は、弾ませてもらうぜ?」


一言。それだけでヒカルの態度は急変した。


「へぇ、分かってんじゃん。いいぜ。そこまで言うなら、答えてやんよ」


思惑通りである。しかし犬崎はヒカルに一円たりとて差し出すつもりはない。そもそも、今チラつかせているサイフの中には、初めから1円も入っていない。


「んで、何に答えりゃいんだよ」


「まず聞きたいのは……オマエ、リサをイジめてんのか? あぁ、大丈夫だ。それに対して、とやかく言うつもりはねぇ。正直に答えてくれ」


ヒカルは、チッと軽く舌打ちしてみせる。


「イラつくんだよ、アイツ見てるとよ。人の顔色うかがって、いっつもビクビクしやがって! 呪い殺されてしまえばいいんだよ、あんなヤツ!」


「死んだ馬場という少年については、どう思う?」


「死んだ奴の事なんか興味ねーよ。下手にリサを救おうとすっから、自分に呪いが振りかかんだよ。バカが……」


「アリサとは仲がいいのか? 梶と昔、付き合っていたと聞いたが」


「チッ、なんでも知ってんだな……アリサとは小学校からの付き合いってだけだ。仲間とも思っちゃいねー。梶の奴もだ」


「一方的に別れを切りだしたそうだが」


「……関係ねーだろ」


「確かに。じゃぁ最後の質問だ。3年になって、オマエの態度が急変したと言う話があってな。一体、何があったんだ?」


その質問は、急所だったようだ。ヒカルの表情に明らかな動揺の色が見える。


「関係ねーだろ……ッ! んな事ァいいんだよ! さっさと金出せよ! こっちは質問に答えてやっただろうが!」


「金か。今、現金の持ち合わせがなくてな。金目のモンでいいか?」


「あぁ?! 何ホザいてんだよ! いいから、さっさと出せよ!」


犬崎は、近くのゴミ箱から溢れ出ようとしているスチール缶を1本手に掴むと……

ベキベキ、グシャッ!……と、片手で丸めてしまう!


「――――なッ……?!」


その行動は、ヒカルをビビらせるには十分なデモンストレーションだった。


「鉄の拳は金目に入らねェか? 欲しいんなら、くれてやってもいいがな」


サイコロ大になった缶を地面に落とし、不敵な笑みを見せる犬崎。


「ふ……フザケんな! くそッ! 覚えてろよッ! ボケが!!」


悪党のような捨て台詞を吐き、ヒカルは走り去っていく。


「多少はスッとしたな。さて、未夜達の所に戻るとするか」


――犬崎がファーストフード店に戻ってくると、そこにいたのは未夜1人だけだった。


「リサとアリサはどうした?」


「あ、犬崎さん。お帰りなさい。それがですね……さっき、リサちゃんのお母さんが店に来て、2人を連れ帰ってしまったんです」


「あぁ? なんだそりゃ。なんでリサの母親が」


「買い物帰りに、たまたまリサちゃんの姿を見つけたらしくて。もう遅いし、夕御飯だからって」


「ふぅん。なるほど、な」


外を眺めると、確かに辺りは薄暗くなっていた。確かに女子中学生を遊ばせるには、遅い時間かもしれない。


「どうします? また明日、仕切りなおしますか?」


犬崎はガムを噛みながら、眉間にシワを寄せる。


「リサの実家の住所は聞いているんだよな?」


「え? ええ、それは聞いていますけど」


「よし。リサの自宅に向かう」


「今からですか?!」


「今からだ。急ぐぞ」


ズンズンと歩き始める犬崎の後ろで、未夜は深い溜め息をついた。


――リサの実家へと到着し、玄関のチャイムを鳴らす未夜。

しばらくすると、扉が微かに開いて30代半ばといった感じの、品の良さそうな女性が顔を覗かせる。


「何の御用でしょうか?」


「先程は、すみません。ちょっと、リサさんに話したい事がありまして」


「リサは夕飯を食べている最中です。伝言なら私が承ります」


「あ、いえ……あの」


「直接、話をさせてもらえないか? 時間は取らせない」


横から表れた犬崎に怪訝そうな目線を向ける母親。


「申し訳ありませんが。用件は、それだけですか? ならば失礼します」


母親が扉を閉じようとした瞬間、犬崎が手を割りこませた。


「ちょっ、な、なんですか?!」


「リサ! 聞いてんのか?! 出てこい! リサ!!」


大声でリサに呼びかける犬崎。しかし反応はない。


「け、警察を呼びますよ?!」


「犬崎さん!!?」


犬崎が手を離すと、扉は勢いよく閉じられてしまう。


「何してるんですか!? あんな事をしてもリサちゃんを困らせてしまうだけじゃないですか!」


「…………………」


「警察が来る前に、早くここを離れましょう。まだ調査は始まったばかりです。明日、また仕切り直しましょう」


未夜に説得され、犬崎はリサ宅を後にする。


――2人で帰路についている間、一言として会話はなかった。

未夜は何故、犬崎があんな行動を取ったのかという疑問と、言いすぎてしまったかなという思いが交錯して、うまく言葉を紡げない。

一方の犬崎は、何を考えているのか、何も考えていないのか。ただガムを噛むだけで未夜と目線すら合わせようとしなかった。

しばらく進み、ついに未夜の住む寮の近くまで来た時、未夜は足を止め、思い切って犬崎に声をかけた。


「あ、あのっ! ここまでで、いいです……それと」


犬崎は未夜を見ていた。それだけなのに、何故か未夜は激しく緊張する。


「あの……さ、さっきは、言い過ぎてしまって……す、すいませんでした!」


ペコリと頭を下げる。考えてみれば、未夜が謝る道理などないのだが。


「また明日、頑張って調査をしましょう! 私も協力しますから!」


「その必要はない」


精一杯笑顔をつくる未夜に、犬崎は告げた。


「必要ないって……ど、どういう意味ですか……?」


未夜は聞き返してみる。何故、そんな事を言うのか。その真意は、何なのか。


「それって……つまり……」


口に出すのが怖かったが、未夜は尋ねた。尋ねなければ、いけなかった。


「私……私が……もう……必要ないって事ですか……?」


未夜の言葉に、犬崎はガムを捨て、ゆっくりと答えた。


「事件は全て解けた。もう調査の必要なんざねぇって意味だ」


「――――えっ……?」


未夜の表情が、泣きそうな顔から驚きの顔に変わる。


「呪いの解き方が分かったと言うんですか?! 一体、どうやって!?」


「それを明かす為に、もう少しだけ俺に付き合ってもらうぞ。未夜」


「は……はいっっ!!」


犬崎は呟くように、ギリッと奥歯を鳴らしながら言った。


「犬歯が、疼きやがる……」

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