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憑神探偵  作者: 104
『分身娑婆』編
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『分身娑婆』編

「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら、私達の前においで下さい」


夕方の教室内で声が聞こえた。

1つの机を囲うような形で、男子生徒2人、女子生徒3人が何かを念じている。

机には [あ] から [ん] までの文字や数字などが並んだ紙、その上には十円玉が置かれており、全員が通貨に人差し指を乗せていた。


「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら、私達の前においで下さい」


何度目の合唱になるだろうか? 1人の男子生徒はウンザリした感じで呟く。


「いつまで続けるんだ? もういいだろ、何も起きないって」


「梶、もっと集中しろよ! リサ! テメー、ちゃんと本気でやってんのかよ?!」


「や、やってるよ……ヒカル」


リサと呼ばれた女子はヒカルに睨まれ、肩を震わせた。


「つーか今時、こっくりさんて。俺達、来年は高校生よ?」


(カジ)】はカバンからタバコを取り出し、それを咥える。


「教室内で喫煙はヤバい」


「ひゃっひゃっひゃ! 外でもダメだろ、未成年っ」


変わった笑い声をあげている隣の男子生徒。制服の胸には【馬場(ババ)】と書かれたネームプレートが見える。


「私、飽きてきたんだけどぉ。ヒカル、帰りにどこか寄って帰らない~?」


「コレ終わったらな。金はリサが払えよ? 分かってんだろ?」


「う……うん……」


「キリがいいから、17時まで続けるよ。オラ、梶! さっさと指置けっつの!」


「うぇ、まだやんのかよ」


渋々といった感じで、梶は再び十円玉の上に指を乗せた。


「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら、私達の前においで下さい」


「ってゆ~か、マジで祟られちゃったりしたら、ど~する?」


「おもしれぇじゃん。俺がブッ飛ばしてやんよ!」


「ひゃっひゃっひゃ!」


「そん時はリサを生贄にすっからいいんだよ」


「ヒカル、極悪~」


「………………」


――時刻は16時55分。異変は突然訪れた。

なんと、全員が指で押さえていた十円玉が……カタカタと動き始める。


「……え? ちょ……マジで?」


「リサ! テメーが動かしてんじゃねーのかよ?!」


「わ、私……何もしてない」


「うっそ……じゃぁ」


その場にいる全員の顔色が変わる。危険だと察知した梶が、指を離そうとするが……


「や……やべぇ……! これヤベェんじゃねぇのかよ!?」


ザリザリザリザリザリ……!


十円玉は、ぐるぐると紙の上を動き回り続けた。


「ちょ、丁度いい……! せっかくだから、質問に答えてもらおうじゃない……!」


ヒカルは生唾を飲み込んだ後、訊ねてみた。


「こっくりさん、お答え下さい……私は将来、どんな仕事に就いていますか……?」


……ズズッ……ズズッ……ズズッ……


すると十円玉は、まるで導かれるように動き始める。


「動いたッ! 動いた!!」


騒ぎ立つ教室内。十円玉は、ゆっくりと文字の上を進む。

そんな中、リサの様子が、明らかに豹変していた。

顔を青白くさせ、唇は紫。微かに身体を震わせながら、目に涙を浮かべている。


「ど、どうしたの? リサ」


心配になったアリサが声をかける。


「う、うん……ちょっと……身体の調子が……苦しいって……いうか」


「マジかよ……どういう風に?」


「よく……分からないけど……背中に、何かが乗っかってるような……重い……!」


「静かにしろよッ! テメーら、ちょっと黙ってろッ!!」


ヒカルの怒号が飛び、静まり返る教室。ただ、十円玉の擦れる音だけが静かに響く。



[せ]……[″]……[ん]……[い]……[ん]……



十円玉は時折、数秒ほど文字の上に止まり、そして再び動き始めてを繰り返す。

その止まった文字を、ヒカルは片方の手で器用にメモに取っていた。


「……[ぜんいん]……全員って事か?!」


「黙れっつってんだろッ!!」


ズズッ……ズズッ……ズ…………


動き続ける十円玉が、ついに動きを止める。


「………………!」


書きなぐった文字を読み返し、思わず絶句する一同。

紙には、こう書かれていた。



『ぜんいん 


    ここで


        しぬ』



「う、うわぁあぁああッッッ!!!!!!」


梶の絶叫が轟く。驚きの余り、思わず椅子から転げ落ちてしまう。


「なんなのよコレ! どういう意味よ?!」


そんな中、ブツブツと何か声が聞こえた。

小さな、呟くような声……

一瞬、こっくりさんの声かと思い緊張が走るが、リサの声である事に気付く。


「テメッ! 驚かすんじゃねーよッ!!」


リサの胸倉を掴むヒカル! リサはポロポロと泣きながら囁いた。


「……見える、の……! 聞こえる、の……!

こっくりさんが……! 霊が……私達を……呼んでるの……!!!」


「――ッザけた事ヌカしてんじゃ――!」


怒りの形相で、ヒカルはリサを叩こうと手を振りかぶった、その時――


「アアアァアアアァアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」


リサが突然、大絶叫を起こしたかと思うと、教室内を転げ回り始めた。

そして、そのまま教室からどこかへ行ってしまう。


「おい! マジでヤバイって! いなくなっちまったぞッ?!」


「リサの事なんか知った事じゃねーよ! 私は帰るッッ!!」


ヒカルは、カバンを持って足早に教室から出て行く。


「お、おい。ヒカルまでどこか行っちまったぞ! ど、どうすんだよ……!?」


困惑している中、今まで何も言葉を発しなかった馬場が口を開く。


「……リサを探そう」


その言葉に、梶とアリサは怯えながらコクリと頷いた。


「でも、どこに行ったんだろ……?」


「手分けして探そう。何かあってからだと遅いし……」


「えぇえ……私、1人なんて無理ぃ……!!」


「じゃ、じゃぁアリサは俺と来い! 馬場! 何かあれば、すぐに連絡な?!」


「分かった」


こうして3人は、2手に分かれてリサを探す事にした。


――学校中を探しまわって1時間。3人はリサを見つけ出す事が出来なかった。

携帯で「とりあえず教室に戻ろう」と連絡を取り合い、合流する事に決める。

途中の廊下でかちあい、3人が揃って教室に入ると……

先ほど、こっくりさんを行った席に……リサが座っていた。

意識を失っているようで、頭を垂れて身動きをしない。


「リサ! 起きて、リサッ!」


アリサが肩を揺らすと、リサはゆっくりと目を覚ました。


「……あれ……? ここは……」


「よかった……心配したぜ」


安堵する3人。どこに行っていたのか尋ねてみるが本人は覚えていないと答えた。


「とにかく、無事でよかった」


「今日は遅いし、帰ろうよ」


「これ、どうする?」


馬場が差し出したのは、こっくりさんで使用していた紙。


「気持ち悪い……燃やせ燃やせ、そんなもん」


「俺、ライター持ってっから……馬場、燃やしてくんね?」


「梶、ビビッてんしょ?」


「ばッ、バカじゃねーの?! ビビッてねーし! ただ、こんな役割くらい馬場にやらせてやろうと思ってだなッ」


「んじゃ、燃やしとくから」


馬場は紙をポケットに入れて、梶からライターを受け取った。


「帰ろうぜ、マジで疲れた……」


「なんか色々あったよね~」


「………………」


「じゃ、また明日」


4人は、そう言って解散する。

……しかし物事は、これだけで終わらなかった。

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