慟哭 そして…
【夏樹】
修一に告白されたのは、去年のクリスマスの前だった。
入社以来、私と夏海、修一の三人でよく遊びに行ったし、いつのまにかお互いを呼ぶときも呼び捨てになっていた。そんな関係が数年続いていた。
修一の告白はすごくうれしかったが、私は即答できなかった。私自身修一に好意を抱いていた。ただ夏海も修一のことが好きだということを知っていたから…
でも、戸惑う私の背中を押してくれたのは夏海だった。でも、「お姉ちゃんって、馬鹿?」はないと思う。
「夏樹!」
修一が私を呼ぶ声が聞こえた。だがそこにいるのは私ではない。修一は振り向いた女性を見て目をそらした。
「夏海か…」
「夏海かはないでしょ。心配して様子を見に来たのに」
修一は無言で冷蔵庫をあけ、缶ビールを取り出すと一気に飲み干す。
「ちょっとやめなさいよ。いくらなんでも飲みすぎだよ」
「それより、どうやって部屋に入った?」
夏樹がテーブルの上を指差す。それは私が修一かもらった合鍵。
「それよりも、あの部屋の様子じゃ、お酒ばっかりで何も食べてないでしょ。もうすぐ出来上がるから食べてよ」
ガスコンロの上には、鍋がかけてあって、おいしそうなにおいがする。夏海の十八番のクリームシチューだ。
「鍵、置いて帰れよ。俺のことは放っておいてくれ」
そう言うと、修一は残りのビールを煽った。
「なら、無茶な飲み方はやめて」
修一が、新たに開けようとしたビールを夏海が奪い取る。
「なにすんだよ」
修一が夏海に詰め寄り、ビールを奪い取ろうとしてもみ合う。
「なによ。おねえちゃんがいなくなって悲しいのは修一だけじゃないのよ」
「うるさい。うるさい。うるさい」
いつの間にか、修一が夏海を床に押し倒し押さえつけていた。
「そいつ渡して、帰れ」
「嫌!」
「いい加減にしろ、犯すぞ。」
修一が、夏海のブラウスを乱暴に引っ張ると、ブラウスのボタンが簡単にはじけとんだ。
その瞬間、私は叫んでいた、届かない声を張り上げて。
「修一!もうやめて!もう何も届かないの? 私の声も、夏海の想いも、なにも届かないの? ねえ、修一!」
【修一】
夏樹の葬式まで、いや、葬式の後も涙さえ出なかった。こんなに悲しいのに、とても苦しいのに。
病院で、夏樹の死に顔を見てからの記憶も曖昧でまるで夢のようで…
思い出すのは、夏樹の笑顔だけで…
でも、でも、こんなに苦しくて、悲しくて、辛くて…
夏樹…
夏海は抵抗しなかった。ただ目を閉じてそのまま…
「なぜ、抵抗しない。簡単に振りほどけるだろうが…」
夏海を押さえつけるのに、さほど力をこめてはいない。その気になれば簡単に振りほどけるはずだ。
「簡単に逃げられるだろう? 逃げろよ」
「私が逃げたら、修一はどうするつもりなの?」
質問に質問で返す夏海。
「また酔いつぶれるまで、お酒飲むの?」
そのつもりだったが、答えることができなかった。そのままの姿勢でお互いに無言。
どのくらい時間が経っただろうか、5分以上経った気もするが、ほんの数秒の気もする。先に口を開いたのは夏海だった。
「良いよ。それで修一が楽になるなら… いつもの修一に戻ってくれるなら… 好きにしても良いよ」
夏海は、目を閉じたまま動かない。本気で抵抗しないつもりだ。
俺はただそんな夏海を見つめていた。そして、その目の端に光るものを見つける。
「馬鹿野郎。じゃあ、なぜ泣いてる? 俺なんかの為に、嫌なことをするな。放って置けば良いのに…」
指で、夏海の涙を拭ってやる。
「嫌じゃない。嫌じゃないよ。修一が、私やお姉ちゃんが好きだった修一に戻ってくれるなら、嫌じゃないよ…」
「強情だな。でも、こんなのは嫌だろう? こんな無理矢理…」
夏海から手を離し、そのすぐそばに座り込む。
「修一?」
「ごめんな。俺、夏樹にも夏海にも、ひどい事してるな。俺の傍で笑っていて欲しかっただけなのに…」
背後から抱きしめられた。背中越しに夏海の体温を感じる。何か知らないが安心できる暖かさを感じた。
「ごめんね、修一。私が甘えてしまったから、私を励ましてくれたから、修一は苦しいままだったのよね。ごめんなさい修一」
不意に涙がこみ上げてきた。
「夏樹…なぜ、なぜお前なんだよ… 夏樹ぃぃ…」
声を上げて激しく泣く俺を、夏海はずっと抱きしめていてくれた。
仕事が忙しくて更新遅れました。
次回も、早くて来週末ごろになりそうです。
しかし、この小説はキャラが本当に動いてくれない。内容の割には執筆に時間が…
タイトルの「慟哭 そして…」は、良いのが浮かばなかったので、昔の同名ゲームからのパクリですww(仮タイトルは「慟哭」でした)
ゲームとは、内容がぜんぜん違いますけどね。
よろしければ、またお付き合いください。
また、アドバイス、ご意見がありましたらお願いします。