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近くて遠い距離

【夏樹】

 初めて会ったのは、新人研修で同じ班になったことがきっかけだった。

 ぶっきらぼうな口調で「早瀬修一はやせしゅういち。よろしく」とだけ、面白くもなさそうに言った。

 私も夏海なつみも同じ班だったのだけど、夏海に「怖そうな人…」と第一印象を耳打ちした覚えがある。

 実際の修一は、細かいところに気が付き、私たちのフォローも良くしてくれた。後日、修一にそのことを話したところ、「人見知りするんだよ」と恥ずかしそうに話してくれた。



 私はどうやら、修一に取り付いているみたいだった。

 修一から10m以上離れることができないので、間違いないのだろう。

 私の葬式からすでに3日ほど経っている。

 私の目の前では、修一が死んだように眠っている。その周りには、酒瓶や缶ビールの空き缶が、足の踏み場がないほど転がっている。

「修一…」

 私の呟きが聞こえたわけではないのだろうが、修一がムクリと起き上がった。そして、すぐそばにあった焼酎の瓶を手にすると、中身を一気に飲み干す。

 焼酎が空になると、部屋の隅に空き瓶を放り投げ、今度は、日本酒の一升瓶に手を伸ばす。

「もうやめてよ!修一、もうやめて!やめてよ… や…め…て…よ。ねぇ…しゅう…い…ち…」

 もう何度目になるだろうか?5回や10回ではすまない制止の声を上げるが、私の声はどうしても届かない。

 修一は、この3日間この調子だ。葬式の後に、大量の酒を注文したかと思うと手当たり次第に飲み干していく。飲んでは飲みつぶれて意識を失うように眠り、目が覚めると、つぶれるまでひたすら飲み続ける。その繰り返し…

 私はただ見ていることしかできない。壊れていく修一を……ただ、見ていることしか…

 そんな私の前で、修一が自虐的に冷笑を漏らした。

「この悲しみで、夏樹なつきのところに逝けたら良いのに…」

 そうつぶやくと、修一は倒れるようにして寝てしまった。


 ねえ、修一。こんなの嫌だよ。修一がそうしているのを見るのが一番つらいよ。修一。

 涙があふれる。私は眠る修一のそばで泣き続けた。




【修一】

 霊安室の扉を開いた。中には夏海が一人座っていた。

「修一」

 夏海が振り返る。能面のように無表情な夏海。

 部屋に入ろうとするが、足が動かない。夏樹がそこにいる、たった数m…その数mが果てしなく長い。

「飲酒運転の車に轢かれたって…」

「あ、ああ」

 夏海に返事するが、やはり足が動かない。自分の右手で自分の右頬を打つ。

「修一!」

「大丈夫、大丈夫だ、夏海」

 俺の様子を見て、イスから立ち上がった夏海を手で制す。俺はゆっくりと霊安室に踏み込む。そして白い布をかけられた夏樹の横に立つ。白い布をめくるにも精神力を振り絞る必要があった。

 夏樹の顔には、まったく傷はなかった。昨夜、別れた時の姿とまったく変わらない。まるで寝ているようで、今にも目を開いて「冗談よ」って言ってくれそうで。

 俺はいつまでも夏樹を見つめ続けた。



 のどが渇いて目が覚める。ヒリヒリとしてのども痛い。

その辺に酒が転がっているはずだ。手探りで探すが手には何も触れない。

 アルコールのせいで、うまく力が入らない身体を起こすと、部屋の中に酒瓶や空き缶、まだまだあるはずの酒はきれいさっぱり消えていて、部屋はいつものように片付けられている。

 夢?そんなわけはない、酔っ払っていてもその辺の記憶は鮮明だった。それに喪服も着たままだ。もし、夢だとして、どこまでが夢だろうか。

 一旦起こした身体を、再度ベッドに沈める。

 頭の中がぐちゃぐちゃして考えがまとまらない。考えることさえ億劫だ。

「夏樹…」

 会いたい人の名をつぶやく。そのとたん空腹で腹が鳴った。

「悲しくても、腹は減るんだなぁ…」

 苦笑する。しかし空腹はともかく、のどの渇きだけは我慢できないほど強くなっていた。

 俺はふらつく身体を支えながらキッチンに向かった。しかしそこで見たのは、俺に背を向けなにやら料理をしている女性の姿。

「夏樹!」

俺は思わず、死んだはずの女性ひとの名前を叫んでいた。


第二話投入です。

プロットは無事完成しましたが、本文を埋めるのに悪戦苦闘中です。

ファンタジー系を書いてると、キャラが勝手に動き出すことが多いので書きやすいのですが、この話はキャラが動いてくれません。どうしよう…

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