恋奏歌②
恋奏歌ラストです!
「……始めよっか」
いつまでも動こうとしない自分の体を
無理矢理動かして、私は木の枝を手に取った。
ゆっくり、ゆっくりと
地面に線を刻む。
……今私は、悲しんでいるんだろうか。
これが現実っていう実感があんまりないから
そんなに悲しくはないのかもしれない。
「ねぇ、エン。気付いてた?」
樹を囲むように大きな丸を描いて
丸暗記している記号を書き込んでいく。
昔、本で見た陣。
不死鳥の紋章を。
丁寧に、思いを込めて。
「私ね、ずっと
エンのこと好きだったんだよ。
初めて会った時から、ずっと」
そして、最後に『REBORN』の文字を刻んで
火をつける。
私たちの約束と、もう動かないエンの体に。
……これは、儀式なんだ。
御伽話の不死鳥が
炎の中で、また生き返るための
不老不死の、儀式。
あと足りないものは、歌だけ。
不死鳥のための子守唄。
昔、エンと出会う前から教え込まれたこの歌が
空の向こうまで届くように
私は大きく息を吸って、歌い出した。
あぁ、祈り御よ
何処へ行く。
千羽の鶴に誘われて
舟を漕ぎ漕ぎ、お国へ行った。
あぁ、祈り御は
空のお国へ。
仏の治めし幸なる都に
幾千の年を、超え行った。
あぁ、祈り御よ
炎に酔いて。
再びこの世へ産み落ちて
永遠なる夢を、生き急げ。
あぁ、祈り御よ
いつの日かまた
巡り会おうと
君を思いて、今は眠ろう。
後半は涙で声が掠れたから
うまく歌えた自信はない。
それでも、ちゃんと最後まで歌い切った。
瞬間
ぐらりと、体に力が入らなくなる。
立っていることすら出来なくて
地面へと倒れ込んだ。
「あ……」
目の前で燃え盛る炎が、異常なほど紅い。
これが、エンを死なせた神様の化身。
不死鳥の炎。
「うん、わかってるよ。
『罪には罰を、罪人に死を』
きっとこの結末が、正解なんでしょう?」
私は笑う。
泣きながら笑う。
もう、多分私は壊れてしまっているんだと思う。
だって、すごく、すごく
悲しい。
悲しいよ。
「エン……
御伽話の不死鳥はね、炎の中に入ると生き返るんだよ。
だから君も
目を覚まして、くれないかなぁ……」
心にもない言葉を吐いて
私は、力を振り絞り立ち上がる。
そして、精一杯の笑顔を作った。
もう、いいんだ。
充分生きたよ。
これ以上、君のいない世界で生きていたくないんだ。
「大好きだったよ、エン」
あいしてる。
そう呟いて、私は炎の中へ足を踏み入れた。
炎はあっという間に私を飲み込んで
勢いを増していく。
……あぁ、すごく、眠い。
もう、眠っちゃおうか。
どうしようもない睡魔に身を委ね
私はゆっくりと目を閉じた。
次に目を開けたとき
何が見えるのだろうか。
わからない。
わかんないな。
少しだけ、楽しみにしておこうか。
意識が途切れる瞬間
死んでいるはずのエンが、私を抱きしめて涙を零していたのだけど
それはやっぱり、幻なのでしょう。