醜悪な正義。
村人編!
あの日、我々はエンを殺した。
『あの子』のために。
あいつはーーエンは、産まれてきてはいけない子供だった。
我らが守護神
『不死鳥』を殺した一族の生き残り。
災厄をもたらす忌むべき子供。
だからこそ、人の寄り付かない場所へ追いやって
我々は平穏を維持してきた。
それでも
あの子があいつに関わってしまったのは
不運だったとしか言いようがない。
フレアには、幸せになって欲しかった。
遊んで、学んで、結婚して、働いて。
ありふれた幸福の中で、生きて欲しかった。
なのに、あの子が選んだのは災厄の子供。
エンはきっと、我々を憎んでいた。
一族を滅ぼし、村から追い出した我々を。
心の底から、恨んでいるだろう。
その恨みが、怒りが
あの子に向くのが怖かった。
今は親しくしているけれど
もしも、何かをきっかけに
エンがフレアを殺そうとしたら。
傷つけたら。
そう考えた村人達は、非常に神経質になっていた。
フレアの行動一つ一つに、不安が募る。
そして、その不安が一気に爆発したのが
あの日ーー、フレアが、走って樹の元へ行った日。
いつも通りフレアを見送っていた村人の一人が、ポツリと呟いたのだ。
「フレアちゃんは、脅されているのではないか」と。
そこから
『エンに脅されて、約束をまもっているのでは。』
そんな、脈絡もない噂が広がって。
この村の村長である俺は、決断せずにはいられなかった。
醜悪で、最低な決断を。
「エンを殺せ。ーーこれ以上、生かしてはおけない」
その夜、俺たちは本当にエンを殺した。
あいつは、一切抵抗しなかった。
自分の罪を、噛みしめるように。
最期の最期まで、フレアの幸せを、祈って逝った。
……殺してしまって、村の倉庫に隠してから俺は
『エンは俺たちを恨んでいなかった。復讐なんて、考えていなかった。ただ、ただ、俺たちよりもずっとーー
フレアが、好きだったのだ』と思い知る。
それから、それから。
フレアは、樹の下でエンを待つようになって。
予想外の結果に、動揺した村人達は
フレアに、エンの死体を見せて
説得するなんて
赦しを請うなんて
暴挙に踏み切った。
俺が慌てて止めに行った時には、もう遅く。
フレアは、呆然と地面に座り込んでいた。
それ、から。
遂に、今夜
俺たちが、エンが愛した少女
フレアが
この村と、数百年に渡る永い約束に、幕を引くのだ。
自らの命と引き換えに。
少し残酷だけど
それが、悲劇の物語の、正しい終わり方。
その証拠に
『こんな世界、大っ嫌いだ』
フレアが呟いたこの言葉を
俺は、永遠に忘れられないだろうから。
さよなら、フレア。
幸せにしてやれなくて、ごめんな。
次は恋奏歌②です。