約束の樹④
遂に、全てが繋がって。
「寒っ……」
吐いた白い息が、暗い夜空へと消えていく。
それをぼぅっと眺めて、フレアは自分の膝を抱いた。
遠くの方で、草木を掻き分ける音が鳴る。
ーー皆、迎えに来たのかな……
もう彼女は、しばらく村に帰っていない。
村人達が心配するのも、当然のことだろう。
彼らは、彼女を愛しているのだから。
ーー謝ら、ないとなぁ……
フレアは、エンの失踪に村人達が関係していると思い込み、このような強行手段に出た訳だが
改めて考えると、証拠など何処にも無いのだ。
ーー結局、我儘なんだよね。
村人が何かしたって決め付けたのも
エンが、約束破ってないって思いたかっただけで。
全部、私の我儘。
フレアは自分の膝に顔を埋めて
言い表しようのない、寂しさに耐える。
隣にない温もりを、再確認してしまうのが嫌だった。
そんな、彼女の元へ。
遂に村人達が訪れた。
「フレアちゃん」
名前を呼ばれて、フレアの肩がびくりと跳ねる。
急いで謝罪の言葉を考え、顔を上げると
「すまなかった……!!」
ーーえ?
フレアが言葉を紡ぐ前に、村人達は膝をついて頭を下げた。
いわゆる、土下座。
「ちょ、え、皆?謝らなきゃいけないのは、私の方で」
状況が飲み込めずにいるフレアに気付かず
村人達はひたすら謝罪し続ける。
それからーーーー真実を、告白した。
「あいつ、エンはもう……
この世に居ないんだ。
我々が、殺してしまったから、」
エンが居なくなった日
いまから丁度500年前
全ては、終わっていたのだ、と。
「何、言ってるの……?
だって、エンは、」
「本当に、やり過ぎだったと思ってる。
だけど我々には、こうするしかなかったんだ……!」
そう言って、一人の村人ーー確か床屋の主人だったはずだーーが、毛布に包んだ『何か』を持って進み出た。
その村人は呆然としているフレアの前で、静かに毛布を開き
中身を露わにしていく。
それを見た瞬間、フレアは
自分の体温が下がっていくのを感じた。
同時に
脳が、心が、『見てはいけない』と狂ったように叫び出す。
でも、もう、遅い。
「……エン、」
毛布の中身とは
体温を失い、モノと化した
エンの身体。
「すまなかった」
村人達の暗い声も、今のフレアには届かない。
「嘘……やだよ、こんなのっ!」
フレアは、慌てて毛布の中を覗き込む。
ぐったりとしたまま動かないエンの首には
鬱血して赤くなった
人の手の跡が、残っていた。
心臓の鼓動は、すでに止まっていて。
彼が死んでいるのは、誰の目にも明らかで。
「これ以上待っていても
こいつが、起きることは無いんだよ」
囁くように告げた村人の言葉に
フレアは、何も言わなかった。
何も、言わずにーーーーーーーー
冷たくなったエンの身体を、抱きしめていた。
フレアがどんな表情をしていたのか
それを見た者は、誰もいない。
次回!
約束の樹シリーズ一番人気の『恋奏歌』です!