約束の樹③
そろそろ中盤です。
その日から、フレアは一日中約束の樹の下で
エンの帰りを待ち続けることにした。
『明日も会おう』という
最後の約束を信じて。
ーー早く、帰ってこないかなぁ。そしたら、……
今日も、彼女は約束の樹に向かう。
「……遅いよ、エン」
案の定、そこには誰もいなかった。
樹の下まで近づいて、根元に腰掛ける。
見上げれば、枯れた枝に雪が積もっているのが見えた。
ーー雪、今年もエンと見たかったのにな。
太陽に照らされた雪が
フレアの気持ちとは反対に、きらきらと輝く。
それが何と無く不愉快で
フレアは樹に身体を預け、両目を瞑った。
思い浮かぶのは
村人達の、複雑そうなあの表情と
最悪な未来。
フレアとて、エンが自分の意思で姿を消したとは思っていない。
おそらく、村人達が何かしたのだろうと
予想した上での行動。
『彼らがフレアの幸せを祈ってしたことなら
自分が不幸になれば、エンは帰ってこられる』
そんな、一種の賭けのようなものだった。
今頃話し合っているだろう村人達を想像して
エンが、少しでも無事なことを祈る。
ーーもし、万が一にでも
エンが殺されていたりしたら。
「あー!もうっ!」
と、突然フレアは叫び声を上げる。
黙っていると、悪い想像に押しつぶされそうになるから。
勢いよく立ち上がり
村を見下ろして
再び、今後はもっと大きな声で叫んだ。
「エンの馬鹿ー!鈍感ー!」
ーー本当は昨日、告白するつもりだったのに。
最後の一番重要な言葉は飲み込んで
ヤケクソ気味に、フレアは叫び続ける。
「私の幸せなんて、何にもわかってなーい!」
気付けば、フレアの両頬には涙が伝っていた。
「ーー何百年たったって、私はここで待ってるんだから!……だからっ、」
「……早く、帰ってきてよっ……」
掠れる声で言ったその言葉が
眠る彼の元まで届いたかはわからない。
そして、その夜。
真実を伝える決意をした村人達が、樹の下でエンを待つ彼女に会いに行ったとき
物語は、急速に加速する。
誰も、望んでいなかった結末へと。