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約束の樹②

原作に合流します。

翌日。


今日も、フレアは約束の樹へ向かっていた。

その手には、きれいにラッピングされた手作りのクッキーが、大事そうに抱えられている。

そう、今日は、誕生日なのだ。

今もあの樹の下で彼女を待っているだろう、エンの。


ーー喜んで、くれるかな。


少し、形は歪んでしまっているが

大好きな少年のために作ったもの。

フレアは、少女なだけあって

エンよりも先に気付いていた。

この感情の、名前に。


これは、『恋』だと。


お礼を期待して作った訳ではないのだけれど

どうしても『ありがとう』の言葉と笑顔を想像してしまって

思わず、笑みが零れそうになる。

そんな、フレアの前に。


「ーーーーフレアちゃん」

「あ、こんにちは」


市場にいた村人達が、一斉に近寄ってきた。

まるで、示し合わせたように。

フレアは若干の疑問を感じながら

全員の顔を見渡す。

すると、苦々しい表情で

村人達が口を開いた。


「もう、あそこには行かない方がいい」

「え?」


もう何十回も聞いた警告に、フレアの目が悲しげに伏せられる。


ーーどうして、皆、エンを悪く言うんだろう。


それでも、フレアは何度警告されようと約束を破る気など毛頭ない。

いつも通り、にっこりと笑顔を作って躱すことにした。


「私、大丈夫ですよ。

自分の意思で、エンに会ってるんだから……」

「ーーもう、やめた方がいいんだ。

あいつは、危険過ぎる」

「、なんで、そんなこと」


だが、珍しく村人達は食い下がってくる。

いままでは、『大丈夫』と言えば見逃してくれたのに。

嫌な予感が、フレアの脳内によぎった。


ーーエン……?


何か、あったんだろうか。

私に、言えないようなことが。

あの樹のところで。

そこまで考えて、フレアは一旦思考を止める。

そして、村人達に向かって言った。


「何か、あったんですか?」


村人は、答えない。


「エンに、何か、したんですか?」


村人は、答えない。


「、……退いて下さい。

もうすぐ、日が沈んじゃいますから」

「我々は、君のために言ってるんだ。

少なくても、今日は、」


その言葉を聞いて

咄嗟に、フレアは村人達を押し退ける。

早く、エンに会いたい。

会って、無事を確かめたい。

その思いだけが、彼女を突き動かした。


「フレアちゃん!」

「ごめんなさい、後でちゃんと話します!」


なおも引き止めようとする手を丁寧に振り払い

フレアは、駆ける。

どれだけ急いでも、約束の時間に間に合うとは思えないが

そこに、エンが居てくれることを信じて。

やっと諦めたのか、村人達は

追いかけてこなかった。

ーーーーこの時点で彼女は、気付くべきだったのかもしれない。


背の高い草を掻き分けて

必死に丘を登っていく。

冷たい風に晒された彼女の体は、とうに冷え切っていた。

が、約束の樹の下で、エンが迎えてくれれば

疲れも寒さも、消え去るはずで。

だからフレアは、ひたすら前に進む。


けれど、そんな少女の淡い願いは


儚く崩れ去る。


「……え、ん……?」


そびえ立つ約束の樹の下

村を見渡せるその場所に

エンは、居なかった。

居た形跡も、ない。


二人で過ごした日々の

全てが、夢だったかのように。


くしゃり、と

フレアの手からこぼれ落ちたクッキーが

地面にぶつかって砕け散った。





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