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約束の樹①

画像の都合上

携帯閲覧の方は、携帯を横にして見て下さると全体が映ると思います(笑)

お試しください!

この村で唯一、賑わう市場を走り抜ける

少女の姿。

少女ーーーーフレアは、焦っていた。

すれ違う村の人に、挨拶する暇もないくらいに。

理由は単純

『待ち合わせに遅れそう』だから、だ。


ーーどうしよう。間に合う、かな。


万が一にも、間に合わなかったら。という

最悪な事態が頭を過ぎり

フレアは、少しだけ速度を上げた。

『彼』なら

間に合わなくとも怒ったりはしないのだろうが

『彼』を待たせるという事実が

『彼』と一緒に居られる時間が減ることが

フレアは、嫌だったのだろう。


「フレアちゃん、今日も行くのかい?」

「あんまり走ると転んじゃうよー」


次々と呼びかけてくる村人達には

軽く手を上げて返し

絶対に足は止めない。

立ち止まると、引き止めに来るのはわかっているから。

今のフレアには、村人達に付き合っている余裕などない。


市場を抜け、森を進み

丘の上にある、大きく立派な樹を目指す。

まだ、太陽は沈んでいない。


「良かったぁ……間に合った、」


丘を登りきったフレアは、目の前にそびえる『約束の樹』の根元に視線を移す。

そこには

『彼』が、樹を見上げるように立っていた。

フレアは内心ほっとして、彼の名前を呼ぶ。


「エンっ!」

「……ん、フレア」


挿絵(By みてみん)


振り返った『彼』ーーーーエンの左目は

光を映してはいなかった。

義眼。

エンのこれを見るたびに、フレアは悲しくなる。

村人(みんな)が彼を傷つけた』という

確実な、証拠だから。


「?」

「あ……なんでもないよ。

ごめんね、遅れちゃって」


慌てて誤魔化したフレアを不思議そうに

見つめながら、エンはゆっくりと口を開く。


「日が沈むまで、二時間以上あるけど」

「え、あれ!?」

「だから、謝らなくても」


たどたどしく話すエンに、フレアは時間を間違えたことに気づいて、照れ笑いを返す。

すると、そんなフレアに釣られて、エンが僅かに微笑んだ。

これが、二人の日常。



『太陽が沈む時間、丘の上の樹の下で会う』

二人は、そう『約束』していた。

もう、何百年も前からの約束。


「そろそろ雪が降る季節だよねー。

去年は何してたっけ?」

「風邪引いてた。……フレアが」

「……そーだっけ」

「ん。今年は、気をつけて」

「はーいっ」


何気無い会話をかわし

付かず離れずの、微妙な距離感を保つ。


エンは、村人達に嫌われていた。

フレアは、村人達に好かれていた。

どちらも、異常な程に。

そんな二人が、堂々と会える訳もなくーー

唯一、人目を気にせず会える場所。

それが、この『約束の樹』の下だった。

ここは、エンが出歩くことを許された場所だから。


「ねぇ、エン」

「何、?」

「……辛く、ない?こういう、生活」

「別に。

慣れたから、そうでもない。かな。

フレアに会うようになって、殴られることもほとんどない、し?」


首をかしげて聞き返すエンに、フレアが苦笑をこぼす。


ーーマイペースっていうか、天然っていうか……


ぼーっと空を見上げているエンを

衝動のまま抱きしめて、フレアは思った。

と、その瞬間

フレアの腕の中で、エンの体が硬直する。

それは、当然

動揺と羞恥によるもので。


「フ、フレア?あの、離し、」

「……こっちの方があったかいでしょ?」

「いや、そういう問題、じゃあ」


あぁもう。

エンはそうつぶやくと、諦めたように

抵抗を止める。

そんなエンが、どこか可愛らしくて。

フレアは抱きしめる腕に力をこめた。

いくら子どもといえど、腕力には差がある。

本気で振り払われれば、フレアのささやかな腕力では抑えきれないのだけれど。

エンが、そこまでしないことを

フレアはよく知っていた。


「……苦しい、よ。フレア」

「私、エンがいい人だって知ってる」

「え、」

「ずっと、一緒に居たい」

「……それは、駄目だよ。

君と僕は、何もかもが違うから。


きっと、君をーーーー」


エンは、続きを言わなかった。

言えなかった、のかもしれない。

フレアはエンの首元に顔を埋めたまま

あふれそうな涙を必死で抑える。

悲しくはないのに

苦しくもないのに

何故だか、胸の奥の方が痛かった。

申し訳なさそうな表情のエンに、フレアまで申し訳なくなる。


ーーエンが、悪いんじゃないのに。


「ご、ごめんねっ!変なこと言って」


あはは、と曖昧に笑って、顔を上げる。

さっきまで明るく輝いていた太陽は

もう、地平線の彼方に沈んでいた。

それに気付いたフレアは、離れがたそうに呟く。


「……そろそろ、帰らなきゃだね。

明日も、会ってくれる……?」

「ん。……俺も、会いたいから」


『会ってはいけないのに、会いたい。』

そう言ってしまって少し複雑な表情のエンに、フレアは微笑んだ。

滅多に表に出さない彼の感情を

真っ正面から感じられることが、嬉しかったのだろう。


「うん。ありがとう、エン。

明日も絶対、会いにくる」




ーーこれが、最後の会話になるなんて

この時はまだ二人とも、予想していなかっただろう。






もうちょっと明るくするはずだったんですけどね。

次回は、原作にはない内容になります!

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