心臓が止まるまで
過去から未来へ
老いない体。
死なない体。
そんなの、全部嘘で。
僕は死んだから
あの樹の下で、フレアは笑ってくれているって。
信じたかった。
信じていたかったのに。
「……フレア、」
目を覚ました僕が見たのは
『王国』になった村の姿だった。
人の数が倍くらいに増えて
見たこともないような建物が立ち並ぶ。
あの丘はそのまま残っていたけれど
そこに、約束の樹はどこにも無かった。
「……ごめん」
君が
そんな決断をしなきゃいけなくなったのは
死を選ばなきゃならないくらい追い詰めたのは
きっと、僕だ。
本当なら、今すぐ君の元へ行きたい。
でも、それは許されないらしい。
『僕』は、『俺』に作り変えられたようだから。
心臓を貫かれても
首元を引き裂かれても
『俺』は死なない。
老いることすらしないんだ
不死鳥の使徒に作り変えられた、この体は。
「君がいない世界に、生き返りたくなんてなかったのに」
きっとこの言葉も
君に届くことはないんだろうな。
いっそ、『僕』が『俺』ですら無くなって
原型を留めてさえなくなっていれば
作り変えてくれれば
こんなに、苦しくはなかったんだけど。
中途半端に残った
『僕』じゃない『俺』は
今更、後悔して。
どうしてあの時
「好きだよ」って簡単な言葉を
口に出来なかったのかって。
「一緒に居たい」って言ってしまえば
フレアは死なずに済んだのかな。
いや、それじゃ駄目だったんだよ。
『僕』だろうと『俺』だろうと
君を不幸にしてしまうことに
変わりはないんだから。
……あぁ、もう、わからないや。
何が、正解で
何が正しくて
何を間違えていたのか。
「フレア、僕は……どうすればいい?」
頬を、涙が静かに伝っていく。
苦しいだけの思い出も
一緒に消えてしまえばいいのにと。
そう、思った。
そして、それから幾千の時間が流れて。
僕は、ただ呼吸を繰り返して。
止まるはずのない心臓が止まる日を待ち続けた。
僕は何一つ変わらないけど
世界は何度も姿を変える。
戦争してみたり
平和になってみたりして。
いつの間にかこの村は、王国から国になっていた。
市とか街とか、地名も増えた。
……僕だけが、変わらないから
世界に取り残された気分だ。
「今日も、雨か」
泣き出しそうな空を見上げて
今日もまた、『俺は』心臓が止まるのを待つ。
次回から最終章に入ります!




