現代と蜘蛛
ソファに腰を下ろすと僕と蜘蛛男はテーブルを挟んで向かい合った。ソファが大きいのか、はたまた蜘蛛男の体が小さいのか、が解らなくなる、アンバランスな部分のない自然な体の小ささだ。
「何か飲む?」
「ありがとう、じゃあアイス・コーヒーをもらえるかな?」
「オーケー」
コーヒーを作る間、蜘蛛男は部屋を物珍しそうに見回していた。僕の部屋はこれといった珍しい物は置いていないのだが。引っ越して以来動かしていないテレビ棚とその上に置かれた薄型テレビ、近くのリサイクル・ショップで安売りしていた木製の本棚、友人に貰ったソファ・セット、そういった生活最低限の家具と少しの雑貨が置かれているぐらいのものである。
ごくごくごく。蜘蛛男は一気にアイス・コーヒーを飲み干す。何かを飲むというのは日常的に何気なく行っている動作であるけれど、蜘蛛男の手にかかると何か人間が行うそれとは違う趣がある。
「あんな場所で何をしてたんだい?」と僕は蜘蛛男に尋ねてみた。
「さあ、何をしていたのかな?」
彼は指を唇に当て、その質問に真剣に悩んでいるようだった。その様子は、彼の頭の中はどこか別の場所へ飛んでいってしまっているように見えた。
「必然的結果としてあそこに居た」
「ただそれだけのことだよ。そういうのってわかる?」
「なんとなくわかる気がする」と僕は相槌を打った。
テレビでは相変わらず野党の代表者が大臣の責任問題の追及を行っていた。外では蝉がその主活動であるみーんみーんという鳴き声をあげている。窓の水滴と太陽の光が綺麗な工芸細工のような作品を作り上げる。
睡魔が僕に襲いかかろうと遠目から僕をじろじろと見ている。僕はいささか疲れていた。大半の30代前半が抱えているような疲労だ。