ある日の午後
問責決議だとか衆議院参議院の法案問題だとか、いわゆる政局レースでテレビが賑わいを見せ始めた八月の午後、僕は蜘蛛男に出会った。
昼食にレタスとベーコンとトマトを挟んだサンドウィッチを食べ、食後にカップアイスを食べながらテレビを無感動に眺めていた時だ。蜘蛛男がベランダから窓ガラス越しに僕を見つめていた。
蜘蛛男は「スパイダーマン」のようなスタイリッシュな様相ではなく、ぼてっとした横腹にテープで固定された張りぼての足を携えた、学芸会でよく見るレヴェルの姿をしていた。頭には蜘蛛の被り物をしていて顔を窺い知ることは出来なかったが、僕は直感的に蜘蛛 男だと確信した。
「やあ」と蜘蛛男は言った。
「やあ」と僕は返事をした。
「ちょっとあげてもらってもいいかな、外はとても暑いんだ」
そういえば朝の天気予報で最高気温が三十五度になると言っていた。確かに灼熱世界をそのような被り物をしていては、立っているだけでも汗の洪水は必死だろう。
「いいよ、ちょうど退屈してたところだったんだ」
先ほどは遠近感で解らなかったが、近づいて注視すると蜘蛛男は身長(体長と言うべきなのか)が百二十センチほどの小柄な男であった。と、分析は後にして蜘蛛男をこのエアコンの効いた部屋へ入れてあげよう。
がらがら
「どうぞ」
「ふう、どうもありがとう」
蜘蛛男がそう礼を言いながら室内に足を踏み入れた。それにしても、まるで国民的人気アニメのネコ型ロボットを思わせるシルエットと存在感と身のこなし。蜘蛛男なんて名前を、直感的ではあったけれどつけてしまったことが少し申し訳なくなる。これは自身のネーミングセンスの問題ではあるのだけれど、まあそんなことは大した問題ではないような気もする。