タイムパラドッグズ
ラスボスは、3つの頭と尻尾、1つの胴体の、チワワだった。
つぶらな瞳、愛くるしい顔、可愛いふさふさの尻尾。
仲間が拍子抜けだと侮る中、
勇者は絶望していた。
「タイムパラドッグズだ。もう終わりだ」
勇者の言葉に、仲間の一人が笑う。
「何言ってるんだ?あんな小さな犬の怪物一匹。
早く倒して、世界を救うぜ」
彼は、鎖のついたトゲ付きの鉄球を、
敵に向けて放った。
次の瞬間、投げた時の放物線と
全く同じ軌道を逆に通り、彼の顔を強打した。
怒った彼は、鉄球を振り回しながら、敵に向かって行った。
次の瞬間、彼は鉄球を逆に振りながら後ろ足で戻って来て、
「ゼウクスヲイカセ、テシオタクヤハ。
キピッイツブイカノヌイナサイチナンア
?ダンルテッイニナ」
と勇者に言って、後ろ足で去って行った。
他の仲間は、あっけにとられて勇者に尋ねる。
「いったい何が?」
「あの犬の力だ。時間を操るんだ。
彼はもう自分だけ時を遡り続ける。彼の25年の人生を」
仲間達はショックを受ける。
しかし、一人が気を取り直し、言う。
「つまり、あの敵を倒して、力が失われたら、彼も元通り。
そういうことだろ?」
戦士は、彼女の岩をも砕く巨大な剣を、
鍛え抜かれた筋肉で持ち上げ、構えた。
回転しながら、あっという間に敵の目の前に。
遠心力と、自身の全身の力を合わせて、
巨大な剣が、敵を斬る。
そう思った瞬間、
剣は彼方へ飛んで行った。
戦士は、自分の手が、
赤ん坊のぷくぷくした手になっていることに気付いた。
ショックを受けて泣き出した戦士は、
赤ん坊の姿になっていた。
その戦士の姿に、勇者と仲間は、衝撃を隠しきれなかった。
勇者が頭を抱えた。
「たけもと…いや、3Zいぬいぬ…
いや、違う。かいわれ…いや、これでもない」
脂汗をかきながらブツブツ言う勇者に、僧侶は聞いた。
「どうしたの?何があったの?」
勇者は、絶望し、
犬を見ながら、告げた。
「奴に、全セーブデータを消された」
僧侶には、何の話か分からなかった。
しかし、勇者の様子から、とんでもないことが
起こっていることだけは分かった。
「くそっ。
それどころか、
もしもの時のために、
最も原始的方法、
復活ための呪文を残しておいたメモを
机の引き出しから引っ張り出して、
今見たが、
それも消されている。
白紙になっている。
あんなに長い文字を幾つもメモに書いたのに。
それが…」
勇者は、恐怖に震えた。
「今までの、全ての努力も水の泡。
思い出も消えてなくなる。
もう…」
その瞬間、勇者は僧侶の悲鳴を聞いた。
僧侶の手が、薄くなって消えかけている。
僧侶は、子供の時の自分が、犬に殺されたのを知った。
「じゃあ、今の私は?」
勇者の目の前で、僧侶は消えた。
勇者は剣を取り、犬に向かっていった。
勝算はなかった。
ほんのわずかな抵抗だった。
真ん中の犬の頭に、勇者の剣が突き刺さった。
犬の鳴き声と共に、勇者は消えて行った。
その時、気付いた。
自分の存在と共に、このゲームの存在も
消される。
なかったことにされる、ということに。
そして、何も見えなくなった。
青年は居間で目を覚ました。
ゲームをしていた気がしたが、
何のゲームをしていたのか覚えていない。
何か、無くしたような気がしたが、思い出せない。
見ると、机の引き出しが開いていて
机の上にメモ用紙がある。
何も書かれていない。
青年は、不思議に思いながら、引き出しを閉める。
その時、
窓の外で
犬の鳴き声がした。




