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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第30話 長引かせるな

 ゼルガとの戦いから3日。


 ルークたちは、ダリオたちと一緒に北西の旧街道を進んでいた。


 目的は再戦ではない。


 ヴェルガたち旧魔王軍の移動先を追うこと。


 捕らえた魔族から得た証言と、街道沿いに残った痕跡を照らし合わせると、この先に古い補給拠点があるらしい。


「足跡は?」


 ダリオがカレンへ聞く。


「ある。でも少ない」


「偽装?」


「多分」


 フィンが周囲を見る。


「わざと残してる感じもする」


「面倒だな」


 ルークが言う。


「賢い敵は面倒って前にも言っただろ」


「分かってるって」


「分かってる顔じゃない」


「最近そればっかりやん」


 エマが少し笑った。


 緊張はある。


 けれど、前みたいに勢いだけで突っ込むことはもうない。


 少なくとも。


 本人たちは、そのつもりだった。


 旧街道を外れ、森の中へ入る。


 しばらく進んだところで、ノアが足を止めた。


「前」


「何人?」


「……1人」


 ダリオの表情が変わる。


「距離?」


「近い」


 全員が武器へ手をかける。


 その直後。


「またお前たちか」


 声がした。


 木々の奥。


 黒い鎧。


 大きな角。


 ゼルガだった。


「何でここにいる」


 ダリオが聞く。


「それはこちらの台詞だ」


「ヴェルガを追ってる」


「そうか」


「知ってるだろ」


「知っている」


「どこだ?」


 ゼルガが少し笑う。


「教えると思うか?」


「思ってない」


「なら聞くな」


「一応だ」


 前と同じようなやり取り。


 だが。


 空気は違う。


 ゼルガの視線は最初からルークたち4人へ向いていた。


「前より少しまともな顔になったな」


「何それ」


 ルークが言う。


「褒めている」


「分かりにくいな」


「お前に分かりやすく褒める理由がない」


「それもそうか」


「納得するな!」


 ダリオが突っ込んだ。


「ゼルガ」


 エマが聞く。


「ヴェルガは何をしてるの?」


「知りたければ自分で探せ」


「魔王を戻すため?」


 その一言。


 ゼルガの目が僅かに変わる。


「……どこまで聞いた」


「それも教えると思う?」


 エマが返す。


 ゼルガが小さく笑った。


「少しは似てきたな」


「誰に?」


「29年前の連中にだ」


 ルークたち4人の表情が変わる。


 ダリオがすぐ間に入った。


「今日は戦いに来たんじゃない」


「俺もだ」


「なら道を空けろ」


「嫌だと言ったら?」


 空気が止まる。


「……」


 ダリオが大剣を抜いた。


「そうなるか」


「そっちがそうしたんだろ」


 ゼルガはまだ武器を持たない。


 だが。


 前回と違って。


 最初から構えていた。


「ルーク」


「分かってる」


「勝手に行くな」


「行かない」


 エマ。


 ミナ。


 ノア。


 3人も構える。


 ゼルガが見る。


「今回は」


 低い声。


「長引かせん」


 次の瞬間。


 消えた。


「右!」


 ノア。


 ルークが剣を上げる。


 ガンッ!


 受けた。


 だが。


 前回より重い。


「っ!」


 腕が沈む。


 2撃目。


 来る。


 分かっている。


 ルークが身体をずらす。


 その先。


 魔力弾。


「うわっ!」


 避けた場所へ先回りされていた。


 爆発。


 ルークが飛ぶ。


「ルーク!」


 エマが入る。


 ゼルガ。


 もういない。


「上!」


 ノア。


 見上げる。


 黒い影。


 落下。


「っ!」


 エマが受ける。


 カンッ!


 剣ごと膝が沈む。


「重……!」


 ミナ。


 魔法。


「《風槍》!」


 撃つ。


 ゼルガは避けない。


 腕で弾く。


 そのままミナへ。


「来る!」


 杖。


 構える。


 違う。


 ゼルガの狙いは杖ではない。


 足。


「え?」


 払われる。


 体勢が崩れる。


 そこへ掌底。


 ミナが転がった。


 速い。


 前回。


 途中から上がった速度。


 今日は。


 最初から。


「ノア!」


 ゼルガが来る。


「分かってる!」


 ノア。


 短剣。


 受ける。


 カンッ!


 1撃。


 2撃。


 3撃。


 どれも重い。


 治癒を使う余裕がない。


「後ろ!」


 ルークが戻る。


 斬る。


 ゼルガは下がらない。


 剣の内側へ。


 拳。


「それ前にも――」


 ルークが腰を引く。


 かわす。


 だが。


 ゼルガの肘。


「っ!」


 肩に入る。


 ルークが崩れる。


「同じに見えたか?」


 ゼルガが言う。


「……ちょっと」


「ならまだ甘い」


 ダリオが動こうとする。


 ルークが手を上げた。


「まだ!」


「でも」


「まだやれる!」


 ダリオが止まる。


 ゼルガは。


 それを見ていた。


 前回。


 様子を見た。


 戦わせた。


 覚えさせた。


 今日は違う。


 同じことをさせない。


 最初から。


 経験で潰す。


「ノア!」


 エマが叫ぶ。


「見える?」


「少し!」


「少しでいい!」


 エマが前へ。


 剣。


 ゼルガ。


 受ける。


 次。


 わざと左を空ける。


 エマは入らない。


「同じ罠?」


「違う!」


 ノアが叫ぶ。


「下!」


 地面。


 魔力。


 エマが跳ぶ。


 そこに。


 見えない衝撃。


「っ!」


 空中。


 逃げられない。


「ミナ!」


「任せて!」


 風。


 エマの身体を横へ飛ばす。


 衝撃を回避。


「助かった!」


「まだ!」


 ミナの杖。


 そのまま火球。


 ゼルガへ。


 避ける。


 その先。


 ルーク。


「おおっ!」


 剣。


 ゼルガの肩。


 浅く。


 届く。


 ザッ!


「……」


 血。


「当たった!」


 ルークが笑う。


「喜ぶな!」


 ゼルガ。


 即座に反撃。


 腹。


 拳。


 ルークが飛ぶ。


「前回より早い」


 カレンが呟く。


「何が?」


 フィンが聞く。


「あいつら」


「対応が?」


「うん」


 前回。


 通じた攻撃。


 今回は。


 最初から警戒している。


 ゼルガも変えてくる。


 それでも。


 少しずつ。


 追いつき始めている。


「ノア!」


 ルークが立つ。


「次どこ!?」


「まだ分からない!」


 ゼルガ。


 殺気を消す。


 魔力も。


 動く直前まで流さない。


「……」


 ノアが目を細める。


 見えない。


 なら。


 別を見る。


 足。


 肩。


 視線。


 呼吸。


「……左!」


 ゼルガ。


 動く。


 本当に左。


「見えた!」


 エマが入る。


 剣。


 ゼルガ。


 受ける。


「ミナ!」


「うん!」


 土壁。


 右。


 逃げ道を塞ぐ。


 ルーク。


 正面。


 ゼルガ。


 後ろへ。


「ノア!」


「そこ!」


 風弾。


 背後。


 ゼルガが身を捻る。


 エマ。


 下。


 ルーク。


 上。


 2方向。


 ゼルガが腕で受ける。


 カンッ!


 ガンッ!


 黒い鎧。


 火花。


「……」


 僅か。


 押された。


 ゼルガの目が変わる。


 まただ。


 最初。


 見えていなかった。


 なのに。


 数分で。


 対応してきた。


「長引かせるな」


 自分へ。


 言い聞かせる。


 速度。


 上げる。


「来る!」


 ノア。


 今度は読めない。


 ゼルガがエマへ。


 エマ。


 剣。


 受ける。


 次。


 ルーク。


 間に入る。


 その瞬間。


 ゼルガが後ろへ引いた。


「え?」


 誘われた。


 ルークとエマ。


 並ぶ。


 正面。


 魔力。


「ミナ!」


「分かってる!」


 水壁。


 防ぐ。


 だが。


 ゼルガは撃たない。


「また!」


 ミナが気づく。


 遅い。


 水壁で視界が切れた。


 横。


 ゼルガ。


「ミナ!」


 ノア。


 ミナが杖を捨てる。


 剣。


 カンッ!


 受ける。


 ゼルガの眉が動く。


「また剣か」


「使えるって言ったでしょ!」


 ミナ。


 左手。


「《火弾》!」


 至近距離。


 ドンッ!


 ゼルガが顔を逸らす。


 頬。


 火傷。


「……」


「当たった!」


「しゃべってる場合じゃない!」


 エマの声。


 ゼルガ。


 前。


 ノア。


「治癒役を潰せば終わると思ってる?」


 ノアが短剣を構える。


「普通ならな」


「僕たち」


「ちょっと普通じゃないみたい」


「やっと気づいたか」


 ダリオが遠くから叫ぶ。


「今!?」


 ルークが振り返る。


「戦え!」


「はい!」


 ゼルガが一瞬だけ。


 笑いそうになった。


 だが。


 消す。


 ノア。


 治癒術式。


 半分。


 保持。


 短剣。


 ゼルガと打ち合う。


 カンッ!


 カンッ!


「ルーク!」


 光。


 飛ぶ。


 腹の傷。


 塞がる。


 ゼルガの目が僅かに開く。


「戦いながら?」


「先生に教わった!」


「誰だ」


「言わない!」


 ノア。


 風。


 足元。


 一瞬。


 止める。


「エマ!」


「行く!」


 剣。


 肩。


 ゼルガ。


 かわす。


「ミナ!」


「左!」


 土。


 逃げ道。


「ルーク!」


「おおっ!」


 正面。


 剣。


 ゼルガが避ける。


 その先。


 エマ。


 さらに。


 ミナ。


 ノア。


 4人。


 逃げ道を削る。


 ゼルガは。


 前回と同じ感覚を覚える。


 違う。


 前回より早い。


「……」


 左。


 塞がる。


 右。


 エマ。


 後ろ。


 風。


 なら。


 前。


 ルーク。


 剣。


 ゼルガが身体を捻る。


 避ける。


 はずだった。


 ザシュッ!


 脇腹。


 黒い鎧が裂ける。


 血。


「……!」


 ルークの目が開く。


「入った!」


 エマも笑う。


「今のは深い!」


「まだ!」


 ノアが叫ぶ。


 ゼルガ。


 傷を見る。


 答えない。


 ただ。


 構えが変わった。


 低い。


 完全な戦闘姿勢。


 ダリオの表情も変わる。


「おい」


 フィンが言う。


「今までと違う」


「分かってる」


 カレンも剣を握る。


 ゼルガの中で。


 判断が決まった。


 これ以上。


 続けるな。


 遊びでも。


 確認でもない。


 潰す。


 踏み込み。


 消える。


「見え――」


 ノア。


 間に合わない。


 ルーク。


 腹。


 掌底。


 ドンッ!


 崩れる。


 エマ。


 横。


 剣。


 ゼルガは。


 わざと肩で受けた。


「え?」


 傷。


 そのまま。


 懐。


 肘。


 エマが落ちる。


「エマ!」


 ミナ。


 杖。


 いや。


 剣。


 ゼルガ。


 手首。


 弾く。


 武器が飛ぶ。


「っ!」


 最後。


 ノア。


 3人。


 見る。


 治す。


 誰から。


 一瞬。


 迷う。


 ゼルガ。


 目の前。


 掌。


 首元。


 止まる。


「終わりだ」


 静かになった。


 ダリオがすぐ入る。


「そこまで!」


 ルークが起き上がろうとする。


「まだ――」


「終わり!」


「でも!」


「ノア取られてる!」


「……」


 ルーク。


 止まる。


 エマ。


 ミナ。


 3人も息を切らしている。


 勝てなかった。


 やはり。


 今はまだ。


 ゼルガの方が上。


 だが。


 ゼルガの脇腹。


 血。


 肩。


 頬。


 複数の傷。


 前回より。


 明らかに多い。


 フィンが見ていた。


「……あれ」


「何?」


 カレンが聞く。


「最初から本気寄りだったよな」


「うん」


「それでも」


 カレンも。


 ゼルガを見る。


「前より傷増えてる」


「ゼルガ」


 ルークが聞く。


「何だ」


「もう1回やったら」


「やらん」


「まだ言ってない!」


「聞かなくても分かる」


「次ならもっと――」


「だからやらん」


「何で!」


「面倒だからだ」


「何それ!」


 ゼルガは背を向ける。


 その時。


 エマが聞いた。


「ヴェルガは?」


 足が止まる。


「まだそれ聞くの?」


「今日はそれで来たから」


「……」


 少し間。


「北ではない」


「え?」


「それ以上は自分で探せ」


 ダリオの目が変わる。


「何で教える」


「教えていない」


「十分ヒントだ」


「なら忘れろ」


「無理だろ」


 ゼルガが歩き出す。


「待って!」


 ルーク。


「今度は何だ」


「先生たちと戦った時も」


 少し間。


「こんな感じだった?」


 ゼルガが止まる。


 振り返らない。


「……違う」


「違う?」


「もっと荒かった」


「先生たちが?」


「ああ」


「でも」


 ゼルガの声が少し低くなる。


「もっと嫌だった」


「何で?」


「戦うたびに」


 間。


「別物になった」


 それだけ言って。


 ゼルガは森の奥へ消えた。


 誰も見えなくなった場所。


 ゼルガは木へ手をつく。


「……っ」


 脇腹。


 血。


 思ったより深い。


 最初から。


 長引かせないつもりだった。


 前回より。


 速く。


 強く。


 経験も使った。


 それでも。


 傷は増えた。


「……冗談ではない」


 まだ。


 勝てる。


 今なら。


 だが。


 次は?


 さらに次は?


 29年前。


 その答えを。


 自分は知っている。


 帰り道。


 ルークたちは珍しく静かだった。


「悔しい?」


 エマが聞く。


「うん」


「私も」


 ミナが頷く。


「最後、全然追いつけなかった」


「でも」


 ノアが言う。


「最初よりは近かった」


「うん」


 ルークが空を見る。


 勝てない。


 今のままでは。


 あと少し。


 でも。


 その少しが遠い。


「……先生たちなら」


「勝てるんだろうな」


 誰も答えない。


 29年前。


 アルドたちは。


 ゼルガより先へ進み。


 最後には魔王まで倒した。


 ルークは自分の剣を見る。


「何が違うんだろ」


 その問いに。


 今はまだ。


 誰も答えを持っていなかった。

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