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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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28/53

第28話 29年前を知る敵

 ゼルガの名が出たその日の夜。


 村へ使者が走った。


 内容は短い。


 旧魔王軍四天王。


 “黒将”ゼルガ。


 生存を確認。


 北の監視所を単独で襲撃。


 騎士30人を戦闘不能にした。


 死者はなし。


 そして。


 “魔王殺しの4人”へ。


 まだ生きているなら、俺の前へ来い。


 翌朝。


 ルークたち4人とダリオたち4人は。


 村にいた。


「ゼルガか」


 バルクが腕を組んだ。


「生きてたんだな」


「知ってるの?」


 ルークが聞く。


「そりゃな」


「四天王だったんでしょ?」


「ああ」


「強かった?」


「強かったぞ」


 即答だった。


 ルークの目が少し輝く。


「どれくらい?」


「その顔やめろ」


 ダリオが止める。


「何で?」


「楽しそうだからだ」


「してないって」


「してる」


 エマたち3人まで頷いた。


「……そんな分かりやすい?」


「かなり」


 アルドが紙を読みながら言う。


「でも、変だな」


「何が?」


 ミナが聞く。


「30人倒して、1人も殺してない」


「わざと?」


「多分」


「先生たちを呼ぶため?」


「それもあるだろうな」


 レイが腕を組んだ。


「昔のゼルガなら、必要がなければ殺さない」


「優しいの?」


 ノアが聞く。


「違う」


 レイは即答した。


「無駄が嫌いなの」


「敵を倒したなら殺す必要がない」


「伝言を運ばせるなら、なおさら」


 ダリオが眉を寄せる。


「面倒な相手ですね」


「そうね」


「頭も使う?」


「かなり」


 アルドが答えた。


「ヴェルガより上?」


「指揮官として?」


「戦闘も」


「比べるの難しいな」


 少し考えて。


「ただ」


 アルドは言った。


「29年前、俺たちが魔王城へ行くまでに戦った相手の中じゃ」


「間違いなく上の方だった」


 少女の顔が少し強張る。


 魔族側の兵士だった彼女にとって。


 その言葉の重さは。


 ルークたちとは少し違った。


「先生たちは戦ったことあるの?」


 エマが聞く。


「ある」


 レイが答えた。


「勝った?」


「倒しきれなかった」


「え?」


 4人の弟子が止まる。


 バルクが笑った。


「逃げられたんだよ」


「先生たち4人で?」


「いや」


 アルドが首を振る。


「あの時は途中で戦場が分断された」


「俺とバルクが別の部隊へ回った」


「ゼルガとまともに戦ったのは?」


 エマが聞く。


「私とセリア」


 レイが答えた。


「途中で撤退されたけど」


「……」


 エマがレイを見る。


「レイから逃げたの?」


「そうね」


「すご」


「だから四天王だったのよ」


 少女が呟いた。


「で」


 ダリオが本題へ戻す。


「どうします?」


「何が?」


 アルドが聞く。


「何が、じゃないでしょう」


「ゼルガがあなたたちを呼んでるんですよ」


「ああ」


「行くんですか?」


 4人の英雄が顔を見合わせた。


「面倒だな」


 バルク。


「面倒ね」


 レイ。


「畑もあるし」


 アルド。


「今日は洗濯したいのよね」


 セリア。


 ダリオが両手で顔を覆った。


「相手、四天王ですよ?」


「知ってる」


「あなたたちを名指ししてます」


「知ってる」


「じゃあ!」


 アルドが紙を折る。


「だからって、言われた場所にそのまま行くの?」


 ダリオが止まった。


「……罠?」


「可能性はある」


「ゼルガ自身は?」


「いると思う」


「なら」


「本人がいることと」


 アルドが言う。


「他に何もないことは別だろ」


 ダリオが黙る。


 ルークも。


「まず調べる」


「場所」


「周辺」


「他の魔族の動き」


「それから」


 アルドが4人の弟子を見る。


「お前らも絶対に勝手に行くなよ」


「行かないって」


 ルークが答えた。


「本当に?」


「本当」


「四天王と聞いて目が光ってたけど」


「それはちょっと戦ってみたいなって」


「行く気あるじゃねえか!」


 ダリオが叫んだ。


 その日のうちに。


 ギルドと騎士団が調査へ動いた。


 ゼルガが指定した場所は。


 北の監視所からさらに山へ入った場所。


 古い峡谷。


 かつて戦争中にも使われた道だった。


 だが。


 ゼルガは。


 そこにずっと待っているわけではなかった。


 翌日。


 ルークたち4人は町へ戻っていた。


 ダリオたちと一緒に。


 ゼルガの足取りを調べる。


 戦うためではない。


 あくまで。


 周辺の異変確認。


「本当に戦わないからな」


 ダリオが歩きながら言う。


「何回言うんだよ」


「お前が信用できないからだ」


「最近ちゃんとしてるだろ」


「最近な」


「またそれ」


 エマが笑う。


「でも今回は本当にやめようね」


「分かってる」


「四天王だよ」


「分かってるって」


 ミナも言う。


「先生たちが昔戦った相手なんでしょ」


「だから分かってる!」


 ノアが前を見ながら言った。


「……止まって」


 空気が変わった。


「何?」


 ダリオがすぐ剣へ手をかける。


「誰かいる」


「何人?」


「1人」


「場所?」


 ノアが右を見る。


「森の奥」


 ダリオが合図。


 全員。


 広がる。


「気づかれてる?」


「……多分」


 ノアが眉を寄せる。


「多分じゃない」


 声がした。


 木々の奥。


 ゆっくり。


 男が歩いてくる。


 黒い鎧。


 大きな角。


 武器は持っていない。


 少女から聞いた特徴。


 騎士が話していた姿。


 ダリオの表情が変わる。


「……ゼルガ」


「そう呼ばれている」


 男は。


 8人を見る。


 落ち着いている。


 囲まれていることなど。


 気にもしていないようだった。


「魔王殺しの4人は?」


 ダリオが答える。


「ここにはいない」


「そうか」


 それだけ。


「なら用はない」


 ゼルガが背を向ける。


「待て」


 ダリオが呼び止めた。


「何だ」


「何で英雄4人を探してる?」


「お前に話す必要はない」


「魔王が戻るってのは?」


 ゼルガの足が。


 ほんの少し止まる。


「ヴェルガから聞いたか?」


「答えると思うか?」


 ダリオが返す。


 ゼルガが。


 少しだけ笑った。


「なるほど」


「それなりの人間らしい」


 その視線が。


 ルークたちへ移る。


「子供まで連れているのか」


「冒険者だ」


「ランクは?」


「教える必要ない」


「そうか」


 興味を失う。


 はずだった。


 だが。


 ルークが。


 ほんの少し体重を移した。


 ゼルガの目が止まった。


「……」


「何?」


 ルークが聞く。


 返事はない。


 次。


 エマ。


 剣を抜くわけではない。


 ただ。


 ゼルガが一歩こちらへ向きを変えた瞬間。


 自然に。


 半歩だけ位置を変えた。


 ゼルガの目が。


 さらに細くなる。


「お前」


 エマを見る。


「何?」


「誰に剣を習った」


 全員の空気が変わった。


 エマは答えない。


「何で?」


「今の足」


「……」


「昔」


 ゼルガが。


 初めて。


 はっきりと興味を見せた。


「似た動きをする女を知っていた」


 エマの指が。


 剣の柄へ触れる。


 ダリオが前へ出る。


「それ以上近づくな」


「別に近づかん」


 ゼルガはルークを見る。


「そっちも」


「俺?」


「立ち方が妙だ」


「普通だろ」


「普通ではない」


 ルークが少し驚いた。


 ダリオが小声で言う。


「初対面の敵にまで言われたぞ」


「今それ言う?」


「大事なことだ」


 ゼルガの視線。


 今度はミナ。


 杖。


 構え。


 最後。


 ノア。


「……4人」


 小さく呟く。


 ダリオの顔が険しくなる。


「何だ?」


「いや」


 ゼルガは。


 ほんの少しだけ。


 29年前を思い出していた。


 若い人間。


 4人。


 最初は。


 誰も気に留めなかった。


 勇者。


 剣士。


 魔術師。


 治癒術師。


 それぞれ。


 荒かった。


 無駄も多かった。


 経験も足りなかった。


 だから。


 最初は。


 殺せると思った。


 だが。


 戦うたび。


 変わった。


 1度使った誘いが。


 2度目には通じない。


 見せた罠を。


 次には逆に使う。


 傷つけても。


 前へ進む。


 最後には。


 魔王軍の誰も。


 止められなくなった。


「名前は?」


 ゼルガが聞く。


「何で教えないといけないんだよ」


 ルークが答える。


「そうか」


 ゼルガが笑った。


「では」


 一歩。


 前へ。


 ダリオ。


 即座に大剣を抜く。


「止まれ」


「安心しろ」


 ゼルガの目は。


 ダリオではなく。


 ルークたち4人へ向いていた。


「殺す気はない」


「それを信用すると思うか?」


「思わん」


「なら動くな」


 ゼルガが。


 さらに一歩。


 その瞬間。


 ノアが叫んだ。


「右!」


 ルーク。


 反射。


 剣を抜く。


 何も。


 見えなかった。


 だが。


 ガンッ!!


 凄まじい衝撃。


「っ!」


 ルークの身体が。


 数歩。


 後ろへ滑った。


「何だ!?」


 いつ攻撃した?


 誰にも。


 はっきり見えなかった。


 ゼルガは。


 まだ。


 武器すら持っていない。


「避けたか」


「……」


 ルークが剣を構える。


「今の」


「攻撃?」


「ああ」


 ゼルガが答える。


「軽くな」


 ダリオが前へ。


「てめえ!」


「ダリオさん」


 ルークが止めた。


「大丈夫」


「そういう問題じゃ――」


「来る!」


 ノアの声。


 今度は。


 エマ。


「っ!」


 剣。


 抜く。


 カンッ!


 何かを受けた。


 見えない。


 魔力?


 風?


 違う。


「何これ!」


「次、ミナ!」


 ノア。


 ミナが横へ跳ぶ。


 地面。


 爆ぜる。


「ノア!」


 最後。


 ノア自身。


 身体を捻る。


 頬。


 浅い傷。


 血。


 4人。


 全員。


 ゼルガを見る。


「ほう」


 ゼルガが。


 初めて笑った。


「全員反応したか」


 ダリオの背中を。


 冷たいものが走る。


 今の攻撃。


 自分でも。


 最初の一撃しか読めなかった。


 なのに。


 4人は。


 全部。


 致命的な位置だけ外している。


「……何なんだ」


 ゼルガが呟く。


 その声は。


 まだ余裕に満ちていた。


 だが。


 ほんの僅か。


 興味の色が変わっている。


「もう1度聞く」


 ゼルガが言った。


「お前たち」


 ルーク。


 エマ。


 ミナ。


 ノア。


「誰に教わった?」


 4人は答えない。


 ゼルガが。


 ゆっくり拳を握る。


「なら」


 笑った。


「戦えば分かる」


 29年前。


 魔王軍四天王。


 “黒将”ゼルガ。


 その相手に。


 ルークたち4人は。


 初めて。


 剣を向けた。

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