めでたし、めでたし
かなり暗い話です。
読む際にはご注意を。
ずっと昔。
乞食をしていた。
それしか生きる方法を知らなかったから。
昔。
泥棒をしていた。
それが効率の良い生き方だと知ったから。
ちょっとだけ昔。
私は捕まった。
街の憲兵さんに。
「こいつにたくさんの物を盗まれた」
「今すぐに殺してくれ」
「生きる価値なんてないのだから」
「晒し者にしろ」
「首を吊るせ」
街の憲兵さんは皆の言葉を黙って聞いていた。
まるで、私の代わりに罰を受けるみたいに無言で。
「糞女」
誰かがそう言って石を投げた。
「やめたまえ」
憲兵さんは石を弾いて初めて口にした。
「あなたがたの役目は私に引き渡すまでだ。そこから先までの権限はない」
堂々とした言葉に石を投げた人はまるで自分が悪い事をしたかのように顔を赤くして顔を伏せた。
あの人は何で顔を赤くしているのだろう。
悪いのは私なのに。
そんなことを思ったのも束の間。
私は憲兵さんに連れられて人々の前を離れた。
牢屋の中。
繋がれた鎖が冷たく光る夜の中で。
憲兵さんは言った。
「罪を償うつもりはあるか」
言われた言葉は奇妙な響きを持っていた。
正直に言えば罪という言葉の意味も、それが悪いことだと知ってもいたけれど、それが償えるものだとは知らなかった。
「命を払っておしまいじゃないの?」
純粋な問を投げかけた。
憲兵さんは首を振る。
「それ以外にも方法はある。それとも君は死にたいのか」
「わかんない」
純粋な答えを告げた。
私が知っていたのは捕まれば死ぬということだけ。
憲兵さんは私の頬を軽く撫でて言う。
「生き残る方法がある」
生まれて初めてされた、優しい触れ方だった。
――だけど、何となしに嫌な触り方だった。
憲兵さんのごつごつとした指が芋虫のように気持ち悪く這っているのに。
それが、まるで私に心地良いものだと錯覚させようとしている意思だけが透けて見える。
憲兵さんの息が私の顔を無遠慮に撫でる。
憲兵さんの汗の臭いが私の鼻に侵入してくる。
憲兵さんの目が。
私の何かを欲しているのが分かる。
だけど、一つだけ分かった。
憲兵さんは私を助けようとしてくれているって。
だから。
「どうすればいいの?」
そう問いかけた時、私は安心していたんだ。
もう助かるって。
同時に諦めてもいた。
これは仕方ないって。
*
そして、今。
私は日々を生きている。
憲兵さんのお陰で。
今日も元気に。
私はいっつも憲兵さんのおうちに居る。
外に出ることは一回もない。
だって、外に出ちゃえば私が生きていることが街の人にバレちゃうから。
代わりに憲兵さんは美味しいものをくれる。
温かくて、ふかふかの寝床も用意してくれる。
乞食をしていた時よりも。
泥棒をしていた頃よりも。
ずっと、ずっと生きるのが楽だし、幸せだ。
時々。
少しだけ。
本当にちょびっとだけ。
これで良かったのかと思うこともある。
だから、私はいつだって自分に言い聞かせるのだ。
「めでたし、めでたし」
って。
お読みいただきありがとうございました。
正直、自分でもなんでこんな話を書いたのかよく分かりません。
事実として彼女は本来絞首刑となる人間でしたが、今は以前よりはずっと『幸せ』に生きています。
彼女自身もそれを感じていますが、時々何かに気づきそうになります。
だけど、それが何なのか私にもよく分かりません。




