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花が多すぎて何も見えなかった

作者: 春月もも
掲載日:2026/03/03

舞踏会の準備で、花が多いとは思っていた。

ただ、多いの基準を越えていた。


中庭に並べられた籠を見たとき、私は数えるのをやめた。

白い花、赤い花、よく分からない花。

香りが混ざって、もう一つの匂いになっている。


「これ、全部使うんですか」


私が聞くと、花係は少し考えてから言った。


「使います」

「全部?」

「はい」


理由は出てこなかった。


私は侍女で、仕事は単純だ。

立つ位置を覚える。

通路を確保する。

人が倒れそうなら支える。


舞踏会が始まるころには、花は天井近くまで積まれていた。


「落ちてきませんか」

「落ちます」


落ちる前提だった。


音楽が鳴る。

人が集まる。

拍手が起きる。


最初の花が舞った。


「あ、花」

「花ですね」

「聞いてないんですけど」

「私もです」


ひらひらとした花弁が視界を横切る。

私は反射的に通路をずらした。

滑りやすいからだ。


誰かが前に出た気配がする。


「静粛に」


声は聞こえた。

姿は見えなかった。


その瞬間、花が増えた。


「増えました?」

「増えましたね」

「今、何か聞こえました?」

「聞こえたと思います」

「何を?」

「大事なことだと思います」


さらに花が降る。


周囲がざわつく。


「今の見た?」

「ずいぶん溜めるな?」

「花しか見えなくなかった?」

「そういう演出じゃない?」


誰も確信を持っていない。


拍手が起きた。

遅れて、泣き声も聞こえた。


「感動的でしたね」

「ええ、おそらく」

「泣くところでした」

「どこで?」


答えは返ってこなかった。


花は止まらない。

床が白くなる。

靴が滑る。


「滑ります」

「お気をつけ下さい」

「もう気をつけてます」


誰かが何かを言い終えたらしい。

空気が落ち着いた。


花だけが残った。


「終わりました?」

「終わったみたいですね」

「何が?」

「全部です」


片付けが始まる。


「この花、どこに捨てます?」

「捨てません」

「じゃあ」

「まとめます」

「どこに?」

「後で考えます」


花は掃いても掃いても減らなかった。


帰り際、誰かが言った。


「今日は、大きな一日でしたね」


私は少し考えてから答えた。


「花が綺麗でしたね」


相手は満足そうにうなずいた。


舞踏会の後、城の中はしばらく花の匂いが取れなかった。

誰も改めて、何が起きたのかは話さなかった。


私は床を拭きながら思った。

見えなかったなら、


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