表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/42

【神話生物】事件 後編 9





須藤家。


俺は居間で正座していた。


「ってなわけで、全部の情報手に入れたぜ! ごふっ」


「「おバカ!!!!!」」


小笠原ひとみと須藤いろはに全力のパーで叩かれる。


痛かった。けど、申し訳なさが先に来て何も言えなかった。


……ちぇ。我慢比べに勝っただけでそんな怒ることないだろうに。


(何かあったような気がしたけれど、記憶が曖昧だった)


「まぁまぁ。とりあえず何とかなりそうな気配あるから、一緒に作戦考えてくれって」


「「はぁ……」」


二人を座らせて、紙を何枚か見せる。


「如月桐火は3人合体をすることで最終形態になるから体から無理やり引きはがさないとバッドエンド。剣豪ぬらりひょんは結界斬れるから結界に近づけた時点でバッドエンド。ぬらりひょんの核は今仕込み刀にあるからそれを壊せば勝ち。如月桐火が結界外に出て空を飛んだら流星モード突入して止められなくなるからバッドエンド。色々ルートあるんだな」


「じゃあ如月桐火が逃げないようにステージに立たせたうえで結界で封殺確定ですね。あとぬらりひょんを別の場所に行かせないと」


「あの、これについて相談です! 私、幻覚能力解禁しようと思うんです」


「え!?」


いろは、何を考えて……。


「ふと、とある人に相談に乗ってもらってる時に気付いたんです。この花の能力、幻覚能力は【にんしきのとり】としての能力じゃない。人として、生きる為に目覚めた能力なんじゃないかって。だから、私は人としてこの力を使おうと思うんです。この能力だけなら、誰も【にんしきのとり】って気付かないし、……二人の役に立てます!」


「いろは……」


「だから、さっき会場を回って花を咲かせておきました。ぬらりひょんを、いけるとこまで騙しきります」


「--ありがとう、いろは」


「えへへ」


「でも、どうやって3人を剥がすんです? 与一さん」


「そうなんだよなぁ」


そこで、チャイムが鳴った。


銀子さんが、誰かを部屋に入れた。


「たのもー! 須藤与一さんですね!」


「お、お前ら……」


それは。



【寺生まれのG】東 呉十郎。

【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人

【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和


の3名だった。



この3名の共通点は、安倍怜音と交渉した人間ということだ。



「実は安倍怜音が、僕と戦闘した後に、僕の戦闘技術を須藤与一さんに1時間分伝えてくれって言われたんです」


東が困惑したように話す。


「安倍怜音が? なんで?」


「あ、与一さん!」


ひとみが紙を指さした。


「安倍怜音シナリオってあります! どうやら【獅子強攻】安倍怜音さんは【観測拒否アルベレイター】っていうのを使って軽度の未来予知ができるみたいです! それで安倍怜音さんが選んだシナリオは、須藤与一に戦闘技術と禁術武器を渡すことでぬらりひょんと単騎戦闘をさせようとしていたんです!」


「えぐ」


「足止め時間3分くらいの成果らしいです!」


「しょっぱっ!!? いや、それくらいぬらりひょんも強いよな」


東が胸を張って伝える。


「とりあえず門外不出なんですけどね! でもとりあえず約束は約束ですから! 与一さん、暗殺術教えますから一時間で覚えてくださいね」


「えぇ……マジかよ」


「その後は俺だ」


常盤は地図を広げた。


「俺も戦闘技術を提供しろと言われた。だが、俺の本命は守る力だ。敵を倒す力じゃない。……要人守護の為だ。式神を用心に見立てるのであれば、活きてくる力だと思う」


「めちゃいいな……」


「くっくっく、そして我だ」


「中二病……」


「初対面でそんなこと言わないでよぉ!!!! えーと、最初は相手にデバフをつけるアイテムを貸すかなぁって思ってたんだけど。ちょっとその紙見せてよ。使えそうな禁術見繕ろうよ?」


「ありがたい!」


「まず僕からですよ!行きましょう!」


「あぁ!」


俺は東と修業を始めた。




いろはは、銀子を呼んでひとみも混ぜて相談した。


「与一さんが修行パートをしている間に出来ることやりましょう」


「そうね、でもどうしたら」


「まず与一様のお父様に情報共有。使える人間はどんどん使いましょう。幼馴染ちゃんとメスガキママに連絡を取りませんか?」


「分かったわ」


ひとみが幼馴染ちゃんとメスガキママとの連絡用の式神を取り出す。


「幼馴染ちゃんが安倍時晴に連絡をすると。それ経由で安倍怜音と接触して仲間にしようと思ってるそうです」


「なんと!」


銀子が驚く。


いろはは常盤と忍坂に相談を持ち掛ける。


「警備上の事は任せてほしい。後は、そうだな。同学校の選手にも声をかけよう」


「あ、じゃあ僕も……んっ、我も同胞に声をかけようぞ」





「分かった。やろう」


「任せてくださいな。妹分がいるんですもの。協力しますわ」


安倍、時晴、小笠原雹香が承諾。


「嫌ですわ~~~! 私の花道がちょいださになってしまいますわ~~~! え? 最後まで戦って立ってたら優勝譲る? やりますわ~~~~~!」


「ごめんなさい。神様、ダメージが深くて。蘆屋さんすごいね。今度お話させてほしいな。手伝えることは言ってね。手伝うから」


「むぅ。難しいお話なら切る。ん、ケーキ? 分かった。今そちらに向かう。


【現代魔女】シルク・ストロベリ―

【祟神サーの姫】姫川 杏子 

【トゥス-クル】松前 鈴鹿

協力関係成立。


「私も弟子に明日めいれ、相談しましょう」


【夢幻現の如し】伏見 遊星 なし崩しに計画に埋め込まれる。






「どう、いうこった」


安倍怜音が、呟いた。


須藤家に、今回の選手たちが集まっているではないか。


「こんな光景、一度も……」




「大会中止はダメなんですの?」

「駄目ですわ~~~~! 私が優勝できなくなってしまいますわ~~~!」

「日輪様来てるし、難しいかも」

「くっくっく、メンツか」

「大人が何処まで介入してくれるかじゃない?」

「でもみんな戦闘要員じゃないよね。陰陽師の訓練受けていても」

「どの道パニックが発生する可能性あるのか」

「負けた方が悪いくらい言われますわね」

「警備上の不備は付かせたくない。上手い案は無いか?」

「客にも説明して結界張るの手伝ってもらう」

「きつくねぇか?」



「こんばんはー。うわーみんないっぱいいるねー! 与一くんの家に人がいっぱいいるの、うれしいなぁー」


「おっ二回戦ガールだ!」

「言ったなー!」

「薙刀を出さないでくださいまし!狭いですわ!」


【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋 来訪。



「どうだい?この光景」


安倍時晴が怜音の肩を叩いた。


「……は、お前の力ってか。……羨ましいよ、天才は」


「違うさ。僕じゃない。須藤与一の力だよ」


「……須藤、与一が」


「……僕が声をかけても、こんな光景見れなかったよ。悔しいよ、安倍家として」


「……」


「君の能力を聞いた時は、血の気引いたよ。君は見えないところで、世界を救ってたんだろ? 僕には無理だよ」


「……そんな」


「ありがとう。次は僕らが君を救いたい。だから、一緒に。力を貸してくれ、怜音」


「--今更、そん、な。そんなこと言われてもっ!! 俺みたいな、落ちこぼれをっ!!」


「うるさい! 手伝え!」


ズバっと、時晴が切った。


「ーー本家ってやつはいつも勝手だ! 畜生! ……、ちくしょう……っ!」


「少々失礼」


急に銀子が電話を掛ける。


「夜も遅いです。保護者連絡といたしましょう」






【宮内庁】小笠原おがさわら 遊里ゆうり


「えー? そんな動きするぅ? こっちはごたごたして大変なのに。もー現代っ子はアクティブだなぁ。……九尾の狐。やりなさい。学生たちが蹴りをつけるというなら、しっかりつけさせなさい。我々陰陽師の意地を見せましょう。小笠原雹香がいるんです。我が家の誇り、存分に味わわせなさい。……一斉攻撃しちゃダメなの? そっちの方が楽じゃない?」



【陰陽庁 審議官】 蘆屋あしや 道斬どうざん


「緋恋がやると言っているんだろう? 任せる。娘を傷つけたら蘆屋がお前を殺す。分かったか?」


【陰陽庁 戦闘部 部長】安倍あべの 邑楽おうら

【陰陽庁 戦闘部副部長】安倍あべの 寺門じもん


「時晴と怜音ちゃんをお願いします、狐様」

「すべて、お任せいたします」


【陰陽庁 教育式神】土蜘蛛

「おぉ~~~! 良いじゃねぇか! 若いやつらは血の気が多くていいぜぇ!!! やれやれぇ!!!!」


【京都 寺院連盟】あずま 喜左衛門きざえもん

「確実に敵を殺すようにお伝えください。でなければ破門とも。……しかし、あの子もまだまだ伸びそうでしょう。頑張っていましたから。えぇえぇ。本当に、かわいい子ですよ。だから旅をさせたくなってしまってねぇ」


【西洋魔術学会 代表】リサ・ストロベリー

「あのバカ娘の頭のねじを締めておいてください。本当に、馬鹿で……。あぁ……心配です。心配です」






【内閣総理大臣】上野うえの さとし


「私から大臣に伝えておこう。護国への尽力感謝している。我々は動くことができないだろう。伏して願う。どうか、この国の未来たちを――救ってくれ」







【五星局 現代怪異科助手】安倍あべの 董子すみれこ


「りょっす~。そっかぁ。ひとみちゃん、頑張ってるんすねぇ。あざます。教えてくれて。……。無理しないでって、伝えてください。あの子は、優しいくせに、つんけんしてるから気付きづらいんですけど、すごく無理して頑張ろうとするから……死なないで、って……おなしゃす」









こうして。


包囲網が完成していく。


一人の力じゃない。


全員の力が、合わさっていく。






神話生物事件を、解決に導くために。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




時間は、試合に戻る。




「だからなんだって言うんですかぁ!!! 私は、それでも負けない……あの時の魔法少女のように!!!!!」


苦悶の表情を浮かべながら、マーテル・キリカは立ち上がる。


いくら金〇を責められようと、何度でも立ち上がる。


しかし、精神は確実に蝕まれていた。


痛みが、彼を苦しめるに十分だった。


嫌だ、もうやられたくない、その気持ちだけが積み重なっていく。


そして、子供たちの決死の作戦は。



「……出番だよ、二人とも」


間に合った。


蘆屋緋恋が一瞬、結界を豆腐のように切り裂き、二人の人間を結界内に入れた。


「!? なんなんですか、そっちだけ結界斬れるなんてーー」









「卑怯とは、言わないでね」


来た。


来てしまった。


魔法少女の死神が。


感情を弄ぶ天才が。


賀茂モニカが!


「アーニャ。やるわよ」


「はいな~~♪」


突如彼女の隣に現れたサキュバス。


二人は手をつなぎ、その手をマーテル・キリカに向けた。


「貴女、男なんですってね。じゃあ、なおさら諦めなさい。--これ、馬鹿でアホでかっこいい鈍感男以外は効くんだから」


「詠唱開始! ビンビンな気持ちに乙女パワーフルドライブ! 日本の神様ごめんなさい! 真心全部狙い撃ち! 信仰よりもち〇こ見せろ!」


「絶歌、捧ぐ心は既に無し。愛より秀でて愛より憎し。言解れ(ことほつれ)、心縛こころしばり、呪詛に秘めしはいとし影。禁忌術式第3号-----言紡ぎ橋姫の縛、改」


ハートのビームが、正確にマーテル・キリカにまとわりついた。


「なに、これ」


「残念だけど」


マーテル・キリカが、賀茂モニカを見た。


「貴女もう終わりなのよ」


「ひ、ひぃぎぃいぃいいいいいいいいいいいいいいい//////////////////////////////!?!?!?!?!?」



それは、初めての責め苦だった。


恋心の過剰暴走。


今までニャルラトホテプへの信仰が全てだったのに、其の全てが強制的に賀茂モニカへの恋愛感情に移行される。


それもサキュバスが術式補助をしている、原典以上の威力を持った、最悪の呪いである。


そしてこれは、思い人がいればいるほど効果が高まる。


ニャルラトホテプへの過剰な信仰をうわ塗る恋心によって、元の信仰を求めてしまい、されにそれをうわ塗られる。


其の恋の病は、脳みそを確実に壊していく。


その効果により、感度、3000倍に達する。


「はい。スキができた。向こうもこれで楽になるでしょ」


時晴が叫ぶ。


「ナイスだモニカさん!! みんな聞いてくれ! こいつの金〇を蹴り続けて分かったことがある!」


「えぇ! 金〇! モニカちゃん今イケメンが金〇って言った! 金〇って言ったわよ!」


サキュバスのアーニャ、テンションが上がる。


「おそらくこの外套に特殊な効果がある! この黒い液体みたいなのから作られている外套を全部剥がした上で、致命の一撃を加えないと勝てない!!」


「イケメンが金〇を蹴って編み出した弱点!!!」


アーニャ、楽しい。


「--適任がいるわね。行きなさい、似非日本語魔法使い!!」


「似非ではありませんわ~~~~!!! でもまぁ」








「私を差し置いて、星を名乗る不届き者を懲らしめたいと思ってましたの~~! お~~っほっほっほ!」


シルク・ストロベリーが取り出したのは、禁術用の道具。


勿論、とある生徒からの借りパクである。


「光の心臓よ」


それは、無制限の魔力生成を可能とする唯一無二の禁術。


素材は光の中から生まれる精霊の心臓と言われているが、詳細は不明。


代償は、今ある魔力全てを捧げなければ止まらないというブレーキ不在というクソ仕様である。


「ーー魔法を使いたいのでしょう。では見せてあげます。【現代魔女】の、最強の魔法を。賀茂モニカに見蕩れる時間はないですわ~~~! 竜の喉笛、ハイルカンの爪、ジンジャードールの関節球体、混ざれ、混ざれ、火の中に、花の血潮、海辺の大口。混ざれ、混ざれ。光の中にーー」



それは一種の錬金術のようだった。


唱えた素材が彼女の持っていた素材カバンから飛び出し、光の心臓に取り込まれていく。それは、禁術と魔法を組み合わせたような、とびきりのーーーーー。


「会場全員で作った結界、ぶち壊して差し上げますわ!!!!!! 【光の巨人の涙(Canon a 3 Violinis con Basso c. / Gigue)エクストラバージョン!!!!】行ったれぇええええええええええええ!!!!!!」


「馬鹿それはやば」


安倍怜音の言葉をかき消すほどの光量。


光の心臓という禁術を炉にした、極限のレーザービーム。


それは神話における、竜の咆哮すら上回る。


「が、ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!??」


剥がれる。


彼女を取り巻いていた黒い外套。


ーーショゴスが、剥がれていく。


「っ、まけない、負けないぃ!!! 私は、負けない、響ちゃん、小登里ちゃん、はじめての、ともだちの分まで……負けない、負けないぃいいい!!!! 【星零れの狂気山脈アヴァランチ!!】」


それは「山」を具現化したような盾。大自然を盾に見立て、決して揺るがぬ壁が生まれた。



はずだった。


「ぶち抜け【光の巨人の涙(Canon a 3 Violinis con Basso c. / Gigue)】!!!! 私はこれで優勝してぇ~~~~~!!! ママに褒めてもらいますのよぉおおおおおおおお!!!!!!」


バカの一撃は、山を抜いた。


「--まだです! これは、越えさせない!!!!!【一河威卿ラブカ・ラブカ!!!】」



黒く触手の生えた魚が二匹。ぐるぐると周り、彼女の前に7枚のシールドを貼る。


一枚目を破壊して、止まる!


「ぐ、ぬぬぬぬ~~~~!!!! 皆様、続いてくださいまし!!! この無理筋は、長くはもたないですわ~~~~!!」



その言葉に反射されるように、小笠原雹香が瞬時に跳躍する。


永弓ボン・アヴァン


シールドの、2枚目を砕く。


松前鈴鹿が大鹿に乗って鉈を振りかざす。


「復讐鉈【ウェンプリコロ・ピッ】」


3枚目のシールドが、爆ぜる。


安倍時晴が右手に太陽を生成する。


「青龍、玄武、概念武装発令!! 最終奥義!!【極点天照大神】」


シールドが4枚、いや5枚目まで割れる!


東が拳に溜めた闘気を、最大まで放出する。


「我が肉体は爆発する! 【零断ち】」


シールドが、6枚割れた。


「--まだ、まだぁああああああ!!!」


如月桐火の召喚した魚が、加速する。


シールドが、増える。


再度、7枚に!


「--【観測拒否アルベレイター】ぁああああああああああ!!!」


バシャンっっっ!!!!!!!!!!!!!


魚が、突然爆ぜる。


いや、違う。


ーー安倍怜音が選んだ未来の中に、魚が限界を迎える未来があっただけだ。


「ありがとー。怜音くん。間に合ったねー。じゃあ、いくよ」




それは、舞のようだった。


ゆっくりと矛先を構えただけだった。


それだけで、神聖な空気を感じさせた。


「これ、二つ名じゃなくて技名なんだよー。土筆ちゃん。【今毘沙門天】」

















それは、奇しくも。


【剣豪】ぬらりひょんと同種の技。


彼は、「境界斬り」と言った一太刀。




それを、都度17回同時に発動するだけの技だ。




「が、っ」



シールドは全て消えた。


全ての黒衣が、剥がされた。


制服だけになった、マーテル・キリカ。


「は、はは」


マーテル・キリカは嗤う。


「い、きてる。生きてる! 殺せなかった! みんな、私の事殺せなかった! 勝った! ここからでも、私はまた元の力を戻せる! 万事休すだ、勝った、勝ったんだ!!!」


飛び散っていた黒い液体が、再びマーテル・キリカの元に集う。


しかし。


足りた。


残念なことに、手は足りていたのだ。


「馬鹿ね、忘れたのかしら?」


強烈な関心。


意識が強制的に彼女に向けられる。


そう。


賀茂モニカの元に。


「幼馴染ちゃんはね、2人ともって言ったの」


賀茂モニカに肩を貸されて立っている人間に、マーテル・キリカは今気付く。


「縁があったのよ。本当に小さな縁。たった少しだけ、昨日言葉を交わしただけ。でもね、そのおかげで私は彼の事を覚えていた。彼の力も覚えていた。聞きなさい魔法少女。貴方が敵にしたのは、陰陽師なのよ」











「--あんがとよぉ。賀茂の、モニカ。よぉ時晴。なんてザマだ。蘆屋もふざけるな。手抜くな。その他天才どもも腑抜けすぎだ。なら任せろ。俺も、……陰陽師なんだよ!!!」


腹に穴が開いて、緊急治療でまだ治り切っていない男が。


彼は血の気の多いタイプである。


それこそ安倍時晴に喧嘩も売るし、賀茂モニカにも喧嘩を売るし、蘆屋緋恋にも喧嘩を売る。


須藤与一だって、倒したい人間の一人にカウントしている程度に、血の気が多い。


だが、悪の道は進んだ覚えは一つもない。


彼は陰陽師だ。陰陽師なのだ。


土御門家の人間としての役割を果たそうと、必死なだけの陰陽師なのだ。


だからこそ許せない。


目の前の狂人を、彼は決して許さない。


誰も覚えていない。


誰も覚えていないのだ。


彼の右腕には陰陽装甲のガントレットがある。


これを使うことでパイルバンカーのように術式を相手の体内にぶち込むことができる優れものだ。


そう。


あの時の戦いで、彼は。


腹に一撃を当てている。


誰も知らない。


腹に穴が開いても、術式を一切止めず、意識を保ち、痛みに苦しみながら、麻酔を拒否し、一晩一切寝ず、陰陽師の責務を果たそうとした男の意思を。


賀茂モニカだけが、それを認識していたことを。





右手を突き出し、彼は叫ぶ。


【土蜘蛛の弟子】土御門つちみかど 松陽しょうよう


これまでの全ては、この一瞬の為に。


「ぶち抜け、【勾玉獣華激戦デストロイ・ダイナマイト】!!!!」





爆ぜた。


制服しかまとわぬ、マーテル・キリカの腹が、爆ぜたのだ。


「--あっ」


黒い水が、砂になって落ちる。


マーテル・キリカは、膝を着き、荒く乱れた息のまま、血を流し、びしゃりと地面に倒れた。


何度も立ち上がろうとして、そして。


最後は、気絶するように倒れた。


マーテル・キリカ、戦闘不能。


勝者ーー。






「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」


男が吼える。


腹に穴を開けながら、血みどろの包帯をまとって吼える。


それは。


天才たちによってつくられたレールの上を走っただけなのかもしれない。


それは。


天才たちが最後まで追い詰めた結果を、かすめ取ったと言われるかもしれない。



それでも、男は吼える。


陰陽師として、一矢報いたその事実に、ただただ吼えていた。



















「いいとこ取られましたわ~~~~~~」


シルク・ストロベリーが倒れて不貞腐れる。


体力は既に無い。あの一撃に全てを込めていたからだ。


「でも山に穴を開けて追加でシールド一枚破るのはおかしい火力ですわね」


小笠原雹香も座り込む。


「でも、僕らでケリを付けれて良かった。これは高校生の大会だからね」


安倍時晴が笑って倒れる。


「おう時晴。お前不甲斐ないだろ。天才なんだから俺がいなくても解決しごふっ」


血を吹いて倒れる土御門松陽。


そこに静かに、涙をこぼす男がいた。


東 呉十郎がその男の元に行く。


「大丈夫ですか! もう終わりましたよ。大丈夫です!」


「あぁ」


安倍怜音が手元を見る。


スマホが壊れていた。


観測拒否アルベレイター】は、今まで観測するだけの術式だった。それを、怜音は吹っ切れたように未来を選んだ。


自分の望む幸せを掴むために。


世界の為ではなく、自分の為に。


彼はもう未来を予測しなくていい。


未来は、自らで掴むものだと、この戦いで気付けたから。


「あぁ」


スマホを抱きしめるように、彼も膝を着いた。


「生きてる、俺……生きてる……」


ぽろぽろと溢す涙は、何故か拭う気になれなかった。











「緋恋」


賀茂モニカが蘆屋緋恋に話しかける。


彼女だけが、戦闘態勢を解いていないからだ。


「終わったよ、緋恋」


「……残念だけど、終わってないんだなーこれが」


「え?」


「--来る」







「痛っ」


安倍時晴のほっぺから血が流れる。


「ん? どうした天才、痛っ!?」


土御門松陽の肩から血が噴き出る。


「なんですの~? 今更怪我ですの? ダサいですわ~」


シルク・ストロベリーが立ち上がり、土御門の方に歩く。


「ダメ」


いつの間にかいた蘆屋緋恋が、シルク・ストロベリーの襟を強く引っ張って押し倒す。


「ぎゃん!?! ちょ、一体何を」


ガリッ。


「……What?」


地面が、割れた。


刀傷だ。


「……かまいたち?」


東がぼそりと呟く。確かにそれであれば納得できる。


しかし、違う。


蘆屋緋恋だけが、理解している。


「--みんなぁ、逃げてぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」










会場の全員が手を翳して作った結界。


強度は九尾の狐が全力で抗っても30分保てるもの。


其の全てを揺るがすように。


結界が、”真っ二つに斬れた”。



「「「「「「「うわああああああああああ!?!?!?!?!?!」」」」」」」



阿鼻叫喚になる会場。


拡声術式で声が響く。


「皆さん落ち着いてください! 警備を担当している【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人です!!! マーテル・キリカは倒しましたが何かトラブルが発生しています! 警備の言う通りに避難してください!!」






「くっ、緋恋!!!!」


「モニカちゃんは行って。……はぁ。与一くん苦戦してるなぁ」


「与一くん!? これ、もしかして」


「うん。だから、逃げて。そして伝えて。ぬらりひょんは、裏世界越しに現実に攻撃することができる。で、これは偶然漏れ出した剣戟。意図的にやられたらみんな死ぬよ。だから、私が裏世界の攻撃を全部流す」


「!? な、そんなことが」


「出来るよ。えいっ」


突然薙刀を振りかざしたと思えば、強烈な金属音が鳴り響く。


そして、ステージが半分に割れる。


「任せてー。みんなが逃げるまで時間くらいは稼ぐからさー」


「--、はぁ。与一くんと闘いたいだけじゃん。いいよ、私会ったらおかしくなっちゃうし。助けてあげてよ。私たちが大好きなバカを」


「うん。私たちが大好きなバカを助けるよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ