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【神話生物】事件 後編 6

side 須藤与一



「耐えろよ【獅子王】ぉおおおおお!!!」


「殺ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」



1秒にして、7度の剣戟。


其の全てが全力の打ち合い。


日本刀はそのような攻撃に耐える設計はされていない。


互いに逸らし、いなし、流し続け、全力で鈍器のように叩きつける。


互いに刃こぼれ、一切なし。


「かひゅっーーーーー」


「殺ァアアアッ!!!


しかし、人体に影響、あり。


1秒で酸素が足りなくなり、俺の体が震えだす。


「『早すぎましてよ、旦那様っ!!!!』」


巨大な白骨の拳が、ぬらりひょんを側面から撃ち抜く。


「かっ、はぁ、はぁ、や、やべぇ、早すぎるあいつ」


「『意地の張り合いより勝つことでしょう! さぁさぁおいでなさい! 行進せよ、蹂躙せよ!! 人の恋路を邪魔する奴は、骨に蹴られて死になさい!』」


【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】、発動。


餓者髑髏を中心に、彼岸が咲き誇る丘が形成され、その周囲を、呪力で構成された液体が赤々と流れている。


液体は怨念がこめられ、触れるもの皆殺す毒となり、死骸どもの餌となる。


あらゆる善性すらも、全て穢しきって餌とする、地獄を生み出していた。


それを。



「--やはり、もうぬらりひょんという形にこだわる必要無し。--往くぞ、これが儂の本性じゃ」


ステージの端から端ほどの距離が開いていた。


吹き飛ばされたぬらりひょんが接敵するまで、時間がかかるはずだった。


たった今。


首元にまで刀が近づくまで。



「!?」


「『旦那様!?』」


ガキンッ!!!!


強固な餓者髑髏の骨が須藤与一を守る。


しかし、--切れ込みが、入った。


「『っ』」


「防いだか、須藤与一! やってくれたな女ぁ!!!!!!!」



その時須藤与一が見たのは、恐ろしく細長い、黒い鞭。


いや、鞭ではない。



ーー腕だ。


腕が、延びたのだ。


水飴のように、延びた。


「やっぱり、お前ぬらりひょんじゃねぇだろ……っ」


「ぬらりひょんじゃ。儂は、ニャルラトホテプ様からぬらりひょんとして育てられた、ぬらりひょん。--その原型は妖怪ぬらりひょんではないがのぅ」


腕が戻っていく。


しかし、次は腰骨だ。


腰が右側に90度折れ曲がる。


「しかして、こう名乗るべきか。貴様の言うぬらりひょんではないが、原型はーーショゴスという生き物であるとなぁ」


「--ショゴス、だと」






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


陰陽省 データベース 

怪異認定 階位 乙 

他団体危険度 Euclid

討伐方法 当時7歳の少年が討伐。

属性   不明

弱点   不明

任務対象範囲  不意を衝かれた九尾の狐が負傷。

        しかし7歳の少年が討伐した実績あり。

        比較的単独で討伐可能である。

時間帯  不明        


個体名称 ショゴス =【剣豪】ぬらりひょん


特別収容プロトコル

長期的な収容は可能です。

野外で目撃された場合は機動部隊【対土蜘蛛事例武装隊】による戦闘を行い無力化します。接触した民間人は記憶処理後解放とします。



説明文


妖怪ぬらりひょん。


当時須藤頼重が警鐘を鳴らしており、不意を衝かれた九尾の狐が負傷したものの、少年に討伐が可能だったことから危険視されていない。


その正体はショゴスと呼ばれる存在。


ショゴスとはクトゥルフ神話に登場するクリーチャーのことであり、スライムのような不定形態で、自由自在に姿を変えられる。



ただの一人、憧れた剣豪の姿を模し、真似て、真似て、剣豪に特化した個体が生まれた。


そして、その剣は原初の反抗を覚えており、ニャルラトホテプと一度敵対している。


しかし、ショゴスという生物の怒りも、個体としての怒りも、今は一人の少年に牙をむく。


ーー剣を握った彼は、神話生物ではなく、剣の怪物と化したのだから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……」



ショゴス。


くそ、そんなの原作のゲームに出てきてない。


間違いなく、ニャルラトホテプが独自に用意した敵だ。


ぬらりひょんですらない、ニセモノ!


どこまでも、癪に障るやつだ!


「さぁて。切り札は切った。お主を殺すためだ、その為だけにこの10年を生きたのだぞ、須藤与一。人間という形で剣豪に憧れたショゴスという怪物は、その本性をさらけ出した。儂は、後悔しておる。未だに貴様の顔が、夢に出る。分かっておる。分かっておるのだ。人でないものが、人の動きをしようと、模倣以上にはならない。故に、拘りも、プライドも、そぎ落とす必要があった。するとどうだ。人間に不可能な関節域の駆動、筋肉に縛られないパフォーマンス、限りない脱力と硬直が、剣の為に生きた。行くぞ、須藤与一。儂はお主を超えて、再び剣豪へーー」


鞭のように唸る両の腕。


両手に握られた仕込み刀。


人体には不可能な腰のひねり。


無限に耐えられる膝関節。


つま先から、刀までの完全を超えた力の伝導率。


距離も関係なく、速度も関係なく振られる最速最強の一撃。


「----境界斬り」




それはどこ

     までも剣を愛した


ショゴスと


     いう生き物の生きた証



その剣は境


     界を断ち切り、斬れぬ者も斬れる。


故に。


小笠原ひと



     みは必死に躱し、


須藤与一は






     剣で受けずに流そうと









したが、残






     念なことに、僅かに触れた






【獅子王】




 

     の刀の鍔が綺麗に斬られた。






「馬鹿じゃないのか!!!!」



音ごと、いや何もかもひっくるめて斬られたような感覚だぞ!


空間そのものを斬ってる?


いや、ダメだ。


刀の鍔を綺麗に斬るような斬撃を普通に斬る速度で距離関係なく吹っ飛ばしてくる技なんて、考察してる余裕なんかない!!!


必死に躱せ、それ以外逃げ道は無いぞ!!?


「ふん、女が一人足りないな。須藤いろはだったか。どこに隠れているんじゃ? 幻覚で姿を隠して最後の最後でひっくり返すやり方か? 小笠原 雹香との戦いは、ニャルラトホテプ様から聞いておるでの。どぉれ、適当に斬っていればーー勝手に死ぬか?」


「!?」


ち、畜生! 共有されてたのかよ!


これは、やばいんじゃ……


「ぴぃ。須藤いろはから須藤与一さんへメッセージ、メッセージ」


「あふんっ」


「?」


み、耳元でいきなり囁くんじゃないいろは!?


ぬらりひょんはいつの間にか行方をくらました彼女の場所に気付いていない。


言っている通り、幻覚の能力で姿を隠している。


「与一さん。落ち着いてください。あの技は予想外ですが、ここまで作戦通りです。ここから一気に混戦させます。勝ちましょう、みんなで。一緒に!」


「--あぁ、そうだな。いろは。勝とうぜ、一緒に。その為に代償は死ぬほど払ってんだからなぁ!!!」


俺は【獅子王】を強く握りしめる。


「ぶっ飛ばしてやる」


「ーーやってみろ、小僧!!!!!」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「あはははは!!! 大変!!!! もう皆さん、虫の息じゃないですか!!!!」


小笠原雹香が膝を着く。


無理もない。


全員がベストを尽くしている。


だが、それでも勝てない。


【不死なる祖の気まぐれ(リザレクション・HP)】


何度殺しても、何度でも蘇る怪物。


これは、明らかにただの妖怪の範疇を超えていた。


そのせいで、一人……余計なことをしてしまっていたのを、誰も気づかなかった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






日輪様は病室で暴れ狂いながら意識を失っているじぃじを見ていた。


残念ながら、じぃじがここから復帰する保証はない。


恐らく、彼のキャリアはここで終わりだろう。


式神から流れる音声が、大会の状況を鮮明に伝えていく。


その情報が、日輪様を苛立たせた。


ーー許さない。


決して許さないと、涙と義憤で顔がぐちゃぐちゃになる。


「じぃじ……安心せよ。妾が敵を討ってやるでのぅ」


日輪様が、術式を行使する。


それに気付いた病室外の護衛が焦りだす。


「日輪様! なにを!」


鍵をかけた病室には、まだ誰も入ってこない。


ーー日輪様の能力は、「見たいと思った未来を引き寄せてそこに向かう」という未来改変を伴う未来予知。


それに合わせて。


「見たい未来の為に行う過去の閲覧」である。


敵の弱点に近しい過去の映像を、見ることができるのだ。


敵に関する、もっとも攻略に近づける情報を手に入れる瞬間の映像を、見たいと希い、能力を発動する!


「じぃじ!! 任せよ! 妾は絶対負けなーーーーーー」





















それは。





終わりだった。






「-----あ」





それは。


円錐形の顔のない頭部に、触手と手を備える流動性の肉体。


顔がなく、代わりに舌を連想させる赤い触手が伸びている。


燃える三眼と黒翼を備えた、異形の姿。


多数の星で満たされた顔、黒いスフィンクス。


三重冠をかぶり、ハゲタカの翼、ハイエナの胴体、鉤爪を備えた姿。


巨大な翼あるマムシ。


あぁ、なんと形容しがたいことか。


1秒ごとに感じるイメージが違う。


しかし。


気付いた。


それは、見てはいけないものだった。


夜の荒野。


悪意のない混沌。


狂気の海。


月の光。


地獄。


地獄。


地獄。


天国。


救いのない闇。


嘲笑う痛み。


終わりだ。


選択肢が現れる。


脳裏にまで焼き付いたそれをもう見ないようにするために自ら目を潰すか。


ただただ無情なまでの現実に抗うべく声の限り叫び続けるか。


命乞いをすべく自らの両腕を切り落として奉げるか。


この狂気に身をゆだねて目の前の存在を悦ばせる為に今すぐ人を殺しに行くか。


「ぁ、ぁ」


終わりだった。


既に、日輪様の光は失われた。


彼女の人生は、これで終わりだと、彼女自身が悟った。


ーーしかし、唯一の救いは、その存在が自分を見ていないことだった。


何か、一点を集中してみているような気がする。


気付かれたら死ぬ。


気付かれたら終わる。


呼吸を止めた。


もう二度と息の音が出ないように呼吸をやめたのだ。


なんだ。


あの目の前の存在はーー、






なにを、見てる?












ぶちっ。















「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?」


「日輪様! 日輪様! 開けてください日輪様!!! 日輪様ぁああああああああああああああああああああ!!!」







陰陽師という猛者たちが手を出さなかった。


それはある種の信仰めいた核心だった。


須藤与一が言っていたから。


蘆屋緋恋が言っていたから。


それだけで須藤頼重は信じて動いた。


それだけで九尾の狐も動いた。


子どもたちだけでなく、須藤頼重と九尾の狐の連名。


ただそれだけで、そうしたのだった。


だから、こうなることも想定していた。


日輪様がそうなるという事実以外は、想定していたのだ。


邪神は、須藤与一のシナリオに関係のない人間のシナリオの干渉を望んでいない。


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