【神話生物】事件 後編 4
side 安倍怜音
命の刻限が近づいてくる。
どう足掻いても明日死ぬ。
でも、どこか清々しさすらあった。
ーーようやく解放される、このくそったれな運命から。
そんなことを考えながら、会場を歩く。
悪意の見落としが無いように、ゆっくりと。
だからだろうか、悪意以外は見落としていた。
「やっ! 元気?」
底抜けに明るい声だった。
顔を上げると、今一番見たくない顔があった。
「……時晴」
【陰陽王子】安倍時晴。
安倍家の天才。須藤与一に負けた、一回戦負けの男。
「どうしたのさ。俺にこんなところで会うなんて想定してないみたいな顔して」
「……いや。なに、無理やり高校デビューで一人称俺にしてるお坊ちゃんに言われたくねぇだけだし。その癖たまに本性が出て僕呼びする。キャラブレ王子こと安倍時晴さんに用事がないないだけだ」
「disえぐくない?」
ちょっとだけしょんぼりした時晴。
かつては幼馴染の関係性だった二人だが、既に目に見えない壁があるようだった。
「んで、なんだ。用がねぇなら帰ーー」
「明日死ぬ気かい?」
「--!?」
それは。
ある種の納得感があった。
【観測拒否】の予測以外の行動ができるのは、天才以外いないだろうと。一瞬の期待、だがダメだろう。予測の最終地点、結果が変わらなければただのサブイベントにすぎないのだから。
「……明日? 何の話だ」
「ーー【観測拒否】では、俺は死ぬのかい?」
「!? てめぇ、何処まで知ってやがる……?」
サブイベントにすぎない、はずだった。
「全部かな。……はぁ。ま、仕方ない。僕は負けたからね。彼の言う通り動くさ」
「?」
「君の張ってた伏線、全部教えてもらうよ」
須藤与一が、起死回生の一手で全てをぶち壊すまでは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、次の日。
決戦当日。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side 須藤与一
別にすごいことはない。
埋め尽くされた観客。
浴びせられる怒号のような歓声。
高校生の陰陽師の中で、全国のベスト4が出そろっている。
【スケベハーレム】須藤与一
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
【流星の魔法少女】如月 桐火
四人の人間だけが、ステージの上に立っている。
2回勝てば、優勝。
だが、俺はもはや優勝が眼中にない。
【流星の魔法少女】如月 桐火。
こいつをどうにかしないと、ヤバいという話だ。
「……」
ニャルラトホテプが、ステージ入場口に見える。
腕を組んで、こちらをじっと見つめている。
ーー残念なことに、起死回生の一手ではアイツの目的が、俺には最後まで分からなかった。
だから、こう考えるしかない。
「--お前のシナリオ、全部潰してやる」
それ以外、ない。
実況席から大きな声が聴こえる。
「さて、本日も快晴、風速はほぼなし、地場はちょっぴり安定。昨日ほどではありませんが、良好な陰陽対決日和となりました明晴学園フィールド。実況は明晴学園放送部、青葉土筆が行わせていただきます! まずは最後まで残った4人の代表に健闘を称える盛大な拍手を!」
会場から大きな拍手が送られる。
音の雨が降り注ぎ、実況席が続ける。
「それでは、この4人の試合を始める前に各選手から意気込みをーー」
「すいません! 少々よろしいでしょうか!」
声が上がった。
それは、俺の反対側に立っていた、女。
【流星の魔法少女】如月 桐火だった。
「変身!」
そう言って、彼女の体は光に包まれた。
会場が困惑に包まれる中、変身を終えた彼女は……。実況者よりも大きく響く声で話し始めた。
「陰陽師の皆さん! お願いがあります! 死んでいただけないでしょうか!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
「あいつ、何を言ってるんだ?」
「急に何を……準決勝なんだぞ!?」
「おい! あの女を即座に退場させろ!」
「とんでもないことを! 元々いけ好かなかったが陰陽師として失格にもほどがある!」
「学園の教えはどうなっているんだ教えは!」
「死んでください、陰陽師の皆さん! 蘆屋緋恋さんを私が殺すので、その後は須藤与一さんを頑張って殺します! 面倒なので皆さんで自殺してください! 殺し合って、嬲りあって、慈しむように刃を、弾丸を、術をその肉袋を舐めるように動脈になぞってください! 心配はいりません! 私が赦します! ですので、『死んでください!』」
ぐさり、と。
どこかで小さく音が聞こえた。
妙に会場全体に響く音だった。
「え?」
それは、会場にいた一般客から発せられた。
小さい女の子が、フードを食べていたのだろうか。
その手に握っていたプラスチックのフォークで、隣に座っていた父親の首を刺した。
首から、ホースに出した水みたいに噴き出た血液を身にまとう周囲の人間。
「わ、わぁ!」
驚いた男が、反射的に手に持っていたカバンから、陰陽札を纏わせた特殊警棒を振りかざし、小さな女の子の首がひしゃげた。
思わず飛び出た目玉が、顔に当たった女性が「ひぃやっ!?」と小さく悲鳴を上げて、突如客席の椅子を渡り、勢いよく飛び降り、地面に赤い花を咲かせた。
「わっ」
「きゃっ」
「ひっ」
「うおっ」
「う、うわあああああああああああああああ!!!!?」
会場はワインを零したような色に染まっていく。
赤い染みが徐々に広がっていく。
骨が、髪が、引きちぎれては空に飛ぶ。
年齢も性別も関係ない。
全てが、真っ赤に染まっていく。
それは。
それはそれは。
綺麗な花が咲いたように。
「あはははは! 綺麗! 良かった、何も恐れることはなかったんです! 最初からこうすればよかった! トーナメントなんて茶番なんかより、人の命こそが最も尊いんです! 命こそ、----奪われるほどにキレイに、あっ!?」
【流星の魔法少女】如月 桐火の胸に穴が開く。
「ようやく、正体を現したね……」
「あなたは、安倍時晴さん?」
ぐるりと首と目玉を回し、魔法少女は敵を見据える。
ーー【陰陽王子】が、破神システムを起動させ、万全な戦闘態勢で彼女の前に立つ。
まるで、効いていない。
それは、どろどろと黒い液体がこぼれ、再び修復されていく姿。
「……呪言。小笠原ひとみさんよりは強力じゃないけれど、拡声の術で耐性の弱い人から徐々に呪いを強めていったのかい? なるほど、こうやって会場の人たちを皆殺しにしようとしたのか……」
「どうしてここにいるんですか? 一回戦ボーイの癖に」
「それを言うならこっちのセリフさ。君は、邪法に頼っても土御門松陽に本来は負けていた存在だろ? 一回戦レベルの魔法少女が俺にモノをいう権利があるのかい? この人でなし」
「けひっ」
その笑い声は、まるで本性が漏れ出したような音だった。
「それで? どうするんですか? 耐性がある貴方は動けても、もうみんな動かなくなっちゃったじゃないですか」
「--」
時晴が地面に転がる3つの死体を見る。
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
【スケベハーレム】須藤与一
「え!? うそ、弱っ!?!?」
如月桐火が想像するより、須藤与一は弱い。
もっと大切に育てなければいけない。残念なことに、須藤与一の物語はここで終わりだ。
「……与一くん」
時晴はわずかに視線を下げる。
「--順番変わっただけか。まぁいいや。そうそう、私一人では盛り上がりに欠けるじゃないですか?」
「?!」
「もう一人、ゲストをお呼びしているんです」
【それ】は、ゆらりと歩いていた。
【それ】は、刀を持っていた。
別段その行為自体に特別な意味はない。
人を斬るため。
技術を磨くため。
ーー或いはもっと神聖なもののため。
理由はおそらく凡百のそれと何ら変わらない。
しかし、それはおそらく天文学的確率で起きた奇跡であり、理解できないことであったことから、ニャルラトホテプは今おも嗤って見つめていた。
「ほう、ニャルラトホテプ様。どうしてここに?」
「いえネ? 貴方がこの先どのような運命を辿るのか見たくなりまして」
「--、成程。どうぞ、ご照覧くだされ。きっと、良きものを見せられるかと」
「えぇ。愉しみにしていますよ」
「……酷いお方じゃのう」
ぬらりひょんは、苦く笑った。
分かっているのだ。
ーーこの邪神が、芯から自らを応援することはないのだと。
つまり、この先に待つ展開こそが自らの最大の試練なのだと理解していた。
「須藤与一に逢いに逝きます」
「ほう? しかし貴方は【魔法少女】に呼ばれていた筈では?」
「えぇ。……ですが、のぅ。おそらく彼女に逢うことは今生ない、そう思えるのです。儂は、須藤与一に逢うのでしょう。理由は分かりませぬ。ですが、貴方様の顔を見るとそう思えるのです。きっとあのクソガキは、儂の想像を超えるでしょう。儂の想像を超えて、動いたのでしょう。だからこそ、儂の過去が疼くのです。あぁ、斬りたい、斬りたいと。ニャルラトホテプ様、それでは御機嫌よう。儂は……貴方に逢えてよかった」
「--ご武運を! 異形のサムライよ! 喜ぶがいい、貴様の武は、武によって保証される!」
そう言って、ニャルラトホテプは消えた。
……あと10歩。
あと10歩でぬらりひょんは、魔法少女の待つステージにたどり着く。
安倍時晴が見える。
魔法少女もその姿を見せている。
ーーなのに。
なのに、違う。
違うのだ。
「儂はのぅ。待っておった」
独り言のように呟くぬらりひょん。
その声に、誰かが息を飲んだ。
「油断したのじゃ。あの時、儂の力は九尾の狐を超える武があった。それも、人の形を保ったまま、技術だけで。しかし、……その技術を、術理を見ただけで見破られ、身体操作のみで上回られたあの日の事を、今でも覚えておる。--悔しかったのぅ。でも、嬉しかったのぅ。あぁ、斬れる。まだ斬れる。上がある。驚いたかクソガキ。儂は、齢いくつもの子どもに、猛烈に憧れたーー」
その言葉を聞いて、誰かが、足音を鳴らした。
「そこか。舞台に降りるには早すぎやしないか?」
「--お前が、ぬらりひょんなのか?」
男の声がした。
おそらくそれは、須藤与一の声らしかった。
「--やはりのぅ。よくここまでこさえた。大規模な、会場全てを巻き込んだ幻覚の術か!!!!」
「えっ」
如月 桐火の目が覚めた。
いや、眠っていたわけではない。
だが、一瞬視界がぶれたと思えば。
ーー結界がステージを包んでおり、会場の人間たちは、だれ一人死んでいない。
一瞬、ステージの端で花が咲いているような気がした。(でもそれは気のせいだった)
(とても鮮やかな、一輪の極楽鳥花が、咲くなんてありえないことだから)
「台本通りですわ~~~~~! お~っほっほっほ! 素晴らしいですわ~安倍時晴!! やるではないですか! すべての条件が整いましたわ~! これであの忌々しいきっしょい技を使う魔法少女とかいうパチモンを合法的にしばけますわ~~~~~~!!!」
大きく下品な、貴族的な笑い声。
それはステージ上に立つ、一人の挑戦者の女帝の鳴き声。
「お~っほっほっほ! 【魔法少女】如月 桐火!! 私は見ましたわよぉ~~! 呪言で会場の人間を鏖にしようと計画、実行したことを! 私たちの策が無ければ、とんでもないことになっておりましたのよ~~~~! 見ましたわね、運営の皆様!!! こいつ、やりましたわ~~~~!! ママ~~~~!! こいつしばいたりますわ~~~~~~!!!」
幻覚は全員見ていた。会場全体を巻き込む、最悪の幻覚だった。
しかし。
幻覚で、済んだとも言えた。
【現代魔女】シルク・ストロベリ―。彼女はさも”こうなることを全て知っていた”と言わんばかりに叫んでいた。
「むぅ。体よく巻き込まれた気しかしない。でも仕方ない。死対死のようなもの。殺意には殺意で返す。共存できないなら絶やした方がいい」
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
死体になっていた筈の二人が、安倍時晴の隣に立つ。
「な、なんで!? どうして!!?」
「--どうして? 貴方がそれを仰るのですね、魔性の者よ」
「え? きゃっ!?」
如月桐火の足が凍らされる。
「私も混ぜてくださいまし?」
ーー【永弓凍土】小笠原雹香が、如月桐火の後ろから現れる。
「くっどうしてここに!?」
「どうして? 不思議なことを。観客の皆様を殺そうとしたのです。陰陽師の矜持を捨てたものを、小笠原は許しませんよ。そして安心してください。まだまだいますよ」
「!?」
「ん~。ここまですれば、私の出番はいらないと思うんだけどなぁ~」
「……」
ステージの中央から、突然現れた二人。
まるで、今の今まで幻覚が彼らの姿を隠していたような錯覚。
「どうしてここに、【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋!!! 【獅子強攻】安倍怜音!!!!!」
名前を呼ばれた安倍怜音がつぶやいた。
「本当に、どうしてこうなったんだ?」
「それはねぇ~」
笑顔で、それはもう笑顔で蘆屋緋恋が囁いた。
「私の好きな人が、今も頑張ってるからだよ」
「……。【観測拒否】は決して外れてくれない。だから、俺はまだ信じてない。須藤与一をどうしてそこまで信じられる? 俺は怖い。これは【観測拒否】が選ばなかった未来だ。本当に、本当に信じてよかったのか?」
「いいさ」
安倍時晴が怜音の隣に来て肩を叩いた。
「全部やった。全部やってダメなら、ま、笑って誤魔化そう!」
「はぁ? お前がそんなぬるいこと言うから俺が……、ちっ」
「良いじゃないか。君が動かした人も、機能してるんだから。そして、……観客も、大人たちも僕らの味方さ!」
会場の人間たちは、全員がステージに向けて手を翳していた。
僅かに呪力を吸い取られながら、それでも全員が真剣に笑っていた。
「おいおい、思った以上に面白くなってきたじゃねぇか」
「事前に上の人間から通達があった通りじゃねぇか!! あいつ、敵だったのかよ!! ただのヤバいやつかと思ったぜ!」
「最近はいなかったからな。正面切って挑んでくる敵も、--自分の意思を突っ張って戦おうとする若造も!」
「あぁ、なら俺たちも!」
「私たちも!」
「「「「「「「命という名の、盾になる価値がある」」」」」」
貴賓室で【宮内庁】小笠原 遊里が鼻で笑う。
「何故高校生に解決させるの? もー。若いってすごい。一斉攻撃じゃダメ?」
「やめておけ」
【陰陽庁 審議官】 蘆屋 道斬。
蘆屋緋恋の父親だ。
「娘が拒否した。なら、意味がある。そう、それが……あの、あの、す、すど、ぐ、ご、がはっ!!!?」
【陰陽庁 戦闘部 部長】安倍 邑楽が目をそらした。
「あぁ、そういえば須藤与一に全力で陰陽師の道じゃない道を提示してたのって……」
「当たり前だ!!! 娘をあんな、才能ゼロの、う、うごっ、がっ、畜生!! 不死鳥かあいつは!! 気に食わん!! だが、あのクソガキもそう判断しているのなら」
【警備部長】須藤頼重。須藤与一の父がステージを見つめる。
「じぃじさんの例があります。邪神が干渉している可能性が高いです。息子の考察では、邪神は息子に関わらないシナリオを絶対に許さない。そしてお気づきでしょう。我々は、誰かに”視”られている。干渉に積極派の日輪様は避難がてらじぃじさんの看病。見守りましょう。それを、あの子どもたちが決めたのだから」
「一斉攻撃……」
小笠原 遊里がしょぼくれた声を出すが、がっはっはと一蹴する笑いを出す存在がいた。
【陰陽庁 教育式神】土蜘蛛だ。
「やめておけぇ!!!! 明らかに上位の存在だ! 俺も勝てん! この視線は呪いだぁ!! 警告してんだろうよぉ!! まぁいいじゃねぇか!!! これは、高校生最強の陰陽師を決めるトーナメントじゃねぇか!!!」
「実況は明晴学園放送部、青葉土筆が行わせていただきます! まず、本作戦の立案者は須藤与一と【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人の連名! 今回の下手人は、【五星附属術浄学園】の上層部を乗っ取った、教師、若流 夏!!!!」
熱の入る実況に、聞くものが皆高揚していく。
「先ほど、明晴学園の生徒、今回のトーナメントを辞退していた賀茂モニカが魅了の術で電話越しに上層部を洗脳し口を割らせました! 【五星附属術浄学園】の学生の内、如月桐火、犬鳴響、迫野小登里3名は下手人の手先であり、妖怪と認定されました!!!」
「分かった? 今すぐ仕事やめて最寄りの陰陽庁直轄の病院に行きなさい。そうね、全部若流 夏が悪い。全部悪いから治療費は全部若流 夏持ちと言いなさい。いいわね」
「は、はひぃぃぃぃぃ♡ も、モニカしゃまの、仰る通りぃいいいいいいいいいいい♡」
「はい」
電話を切って、一つため息が出る。
「大の大人が、みっともない」
「えー!?♪ しょうがないじゃん♡ モニカちゃんの魅力にメロっちゃわない男なんていない、……あごめん」
「いいの。私にそうやすやす靡かないところが与一くんの良いところなんだから。それじゃ、私たちはまだ動くわよ」
「え? どこに?」
「--まだまだ働く価値のある馬鹿がいるってことよ」
「この瞬間、如月桐火の選手としての資格はありません! しかし、選手たちは全員共通の気持ちでした! これは【高校生陰陽道最強決定戦トーナメント】! ここで如月桐火を高校生で倒すことに、意味と意義があると!! 故に!!!」
青葉土筆が叫ぶ。
「ここに陰陽庁と共に宣言します!! これより、【高校生陰陽道最強決定戦トーナメント】史上初の、エキシビションマッチを開催します!!!!!」
「エキシビション!? なんですかこれ!! 一体何が!!?」
如月桐火が吠える。
「分からないかい? 君は残酷なまでに俺たちに嵌められたんだ」
安倍時晴が宣言する。
「俺たちが何の対策も取っていなければ、全滅していただろう。誰かが犠牲になってでも、命を守ることに必死になっただろう」
怜音が口をつぐんで目を泳がせた。
時晴は”敵”に指を刺した。
「だから、頼った。ーー会場全員に結界を貼ってもらって、決して君を逃させないように。その計画すら打ち破るであろう、結界を完全に切り裂くことができるぬらりひょんを、別の場所に移動させて、君を孤立させるために!!!」
「なっ!?!?!?! なんでぬらりひょんさんがここに来て暴れる計画も!!! というか、なんでぬらりひょんさんが結界を斬れるって知ってるんですか!? そんなの、そんなの誰も知らないはず!?」
「隙アリです!」
「え? ぎゃっ!?!??!?!?」
突然、心臓をぶち抜かれる感覚を得た少女。
しかし、心臓の方がまだよかった。
ーー体から、抜き取られたものは。
「ぁ、ぁ」
「ころ、して」
「なるほど。生首の状態で埋め込まれてる癖に生きているとは! 外の人たちは本当に奇怪です。ですが、隙さえいただけるのであれば僕はこれくらいできます!」
【寺生まれのG】東 呉十郎。
東寺が生んだ天才が、如月桐火に宿っていた二つの取り込んでいた人間を一瞬にしてはぎ取った。
「--破ッ!!!!!!!!!」
掌底を二つの頭に当てると、二人の頭が消し飛んだ。
「あっーー」
「よかっーー」
ぐしゃり、と音を立てて。
「ぃ、ひびき、ちゃん……ことり、ちゃん……」
「魂喰いの化け物め。僕らが成敗してくれる」
東 呉十郎が拳を構えた。
それに合わせて、その場にいた全員が武器を構える。
姫川はただただ無力に苛まれながら、ステージを見つめていた。
「ごめんなさい……神様、まだ回復できてなくて」
『助け給え』
「仕方ないでしょう。今は出来ることをするのが吉です」
【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人が腕を組んで姫川と会話をする。
「でも、大丈夫かな。相手は邪法、っていうか、変なやつなんでしょ? シルクちゃんと鈴鹿ちゃん、無事だと良いんだけど……」
「--、万全を尽くしても、どうしようもないことはあります。私の目的は警護。貴方は、何もできない。ならば見守る。来場者に何かあった時に、動いて、手を伸ばす。それしか出来ない。それを徹底しましょう。でなければ、須藤与一の覚悟が無駄になる」
「……? 覚悟? 無駄って、須藤……さん? に何かあったんですか?」
「えぇ。それは……私にできることではなかった」
会話の最中に、ふと男がやってきた。
「くっくっく、待たせたか? 同志諸君」
「え?! 忍坂くん!?」
それは、姫川と同じ学校に通う【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和だった。
「なんでここに! 一緒に戦ってないの?! もしかして……さぼり!?!?」
「ぐぅっ!?!?!? いや、ちょ、サボ、サボりって表現はひどくない!? う、嘘でしょ? 同じ学校の友達からもこんな扱いを!? うぅ、違うんだよぉ~……。今回は安倍怜音くんに頼まれたから、たくさん準備してたんだよぉ……禁術」
「禁術の準備……?」
「え? うん。それっぽい呪詛を弾くものとか、シルクに渡しちゃいけないレベルのやばい武器とか。そして、須藤与一って人には裏世界転移の術式をね」
「裏世界?」
「ほら、都市伝説でもよくあるじゃん。現実に近いけどなんか違う世界へ行くみたいな。如月駅とか。あれあれ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side 須藤与一
幻覚が解かれる。
実況からネタ晴らしが始まったようだった。
それと同時にひとみが【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和から貰っていた裏世界転移の術式を展開する。
瞬きの間に、現実から裏世界に転移していた。
色が反転している。
現実ではステージ上で魔法少女と戦っているみんながいるはずだったが、裏世界ではステージ上に誰もいない。
「ほう。裏世界か。それは陰陽師にとって禁術では? これは妖が使う業だろう」
「良いだろ別に? ここなら、誰も斬られない」
「お主は斬られるがのぅ」
「へっ。そりゃどうかな。来いよ、ステージに。決着を付けようぜ」
「何を馬鹿な。既にここは戦場。ここで斬り合いをしても構うまい」
「--馬鹿。これは決意表明だよ。俺はステージから逃げない。隠れて攻撃もしないし、逃げもしない。それともなんだ? 真正面から俺と戦えないか?」
「--その意気や、心地良し!!!!」
ぬらりひょんが跳躍する。約30mほどの跳躍のち、ステージ中央に奴は立った。
「来い、クソガキ。斬り合いだ」
「……その前に、質問がある」
俺はステージに向かって歩き始める。
刀、【獅子王】を抜きながら、ぬらりひょんを睨んだ。
「お前誰だ?」
「小僧っ!!!!」
瞬間、妖気が膨れ上がる。
「忘れたとは言わせぬぞ。あの日、齢7つほどなる貴様に敗北した、あの屈辱忘れてなるものか」
「--あぁ、あの時のおっさんか。……でも、そっちじゃねぇ。そっちじゃないんだ、ぬらりひょん」
ステージに、一歩だけ入った。
「お前の顔だよ。俺はさ、ぬらりひょんってやつの顔を知ってる。【原作ゲーム】のぬらりひょんは、トラウマレベルのやつだったからさ。だから、訳が分からねぇんだ。お前は……誰だ? 原作のぬらりひょんと違う顔なんだ」
「--痴れたこと。儂が”今の”ぬらりひょんだ」
「今の、か」
様々な含みがある言葉だった。
残念だが、これ以上の情報は貰えなそうだった。
「与一さん。来ますよ」
ふわりと、小笠原ひとみが隣に立った。
「ぴぃ。こんな奴がいるから私たちのデート回が省略されるんです。ぶっ潰しちゃいましょう」
反対隣りに、須藤いろはが立った。
「あぁ。ごめんなみんな。最後まで付き合ってくれ」
「お付き合いどころか」
「ゆりかごから墓場まで」
二人が笑った。
「儂は仕込み杖での」
ぬらりひょんはいつの間にか手に持っていた杖の先端を回し、抜くと、刃紋の美しい刀身が現れた。
「元々侍になるつもりで生きたつもりはなかった。しかしのぅ。儂はとある剣豪に出会って、刺激を受け、剣豪になることを誓った。名のない剣豪だった。佐々木……、なんだったか。刀身の長い刀だった。だが、儂には合わんかった。これくらいの刀がちょうどよかった」
「……」
「名刀ではない。数打じゃ。しかし、それでよかった。数打であれ、刀が人の斬り方を教えてくれた。……しかし、もう儂にプライドはない。貴様に負けたからじゃ。もう、儂は人の形を留めるつもりはない」
ぶん、と刀を振る大妖怪。
原作の、ラスボス格。
「人の理を捨てよう。これは、儂という獣の特性を用いた、我流の喧嘩剣術」
長い頭が、揺れた気がした。
「我が名は、ぬらりひょん。貴様を殺すもの」
老いた獣が、涎を垂らす勢いで歯茎を剥き出しにした。
「押して参ろう。最後だ。名乗れぃ小僧。添え物の小娘じゃない。お前だ。お主だ。儂にはもう、クソガキ、お前しか見えておらん」
俺は。
流石に自分でスケベハーレムを名乗る気はなかったので、こう言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは、決してあってはならない事件です。ですが、それを挽回しようと、高校生たちが動きました。私たちは、……いえっ、私は!!!! この場で抗う全ての人たちに、敬意を表します!!!!!
エキシビションマッチ!!!!!!
【流星の魔法少女】如月桐火
vs
【陰陽王子】安倍時晴
【永弓凍土】小笠原雹香
【獅子強攻】安倍怜音
【寺生まれのG】東 呉十郎
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
及び!!!!!!!!!!!!!
この場にいないけれど、あの大妖怪ぬらりひょんを倒さんと挑む人がいます!!!
その人は最初こそコネでここに来たのかもしれないけれど!!!!
闘い、無能の評判を覆し!!!!
今もなお、最後まで諦めず!!!!!!!
私たちを守る為に、単騎で、いえ、式神を連れて、誰かを守ろうとしています!!!
これはエキシビションにはなりません!!!!
敵は高校生ではなく、大妖怪!!!!
ですが、言わせてください!!!!
言わなきゃいけないんです!!!!
ーーもう貴方は、【スケベハーレム】ではありません!!
【剣豪】ぬらりひょん!!!!!!!!
vs
【餓者髑髏の花嫁】小笠原ひとみ!!!!!!!
【餓者髑髏の花嫁の妹】須藤いろは!!!!!!!!
そして!!!!!!!
それは須藤頼重の息子であり!!!!!!
それは餓者髑髏、九尾の狐単独撃破者であり!!!!!
ーー無能力でも戦えることを証明した貴方にふさわしい二つ名です!!!!!
貴方こそーー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「【陰陽師】須藤与一。やろうぜ、パチモン」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
会場の皆さんも一緒に叫びましょう!!!!
あの人にも聞こえるように!!!!!!!!
レディイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
「「「「「「「「
ファァアアアアアアアアアアアアアアアアアアイッッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」
EP13 くらいで 更新止まります
よろしくお願いします




