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【神話生物】事件 後編 4

須藤与一、8歳。



「お願いします!! 坊やの貞操を私に下さい!」


「帰りなさい!!!!!!」


「お尻だけでもいいんです!!!!!!!」


「帰れ!!!!!!!!!!!!」



自宅の玄関で土下座する九尾の狐。


かつて憧れたお姉さん。


美しかったし、優しかった。


だからすごく惹かれていた。


でも今はどうだろう。


母親に怒鳴られ、父親は俺をかばうように守ってくれる。


「そんな、い、一生の、一生のお願いです! それ以上は望みません!!! 一旦全部管理して頭の中を私に染めようと思ってるだけなんです!!!!!」


「8歳の子に何言ってんだゴルァ!!! このドスケベ狐がよぉ!!!」


母親が切れ散らかしている。


こんな姿見たことなかった。


「違うんです! ただちょっと、ちょっと式神契約してドチャクソえっちなプライベート(意味深)を過ごしたいだけなんです!!! い、いえ! それが叶わないのなら側にいるだけでいいんです!!! お願いします!! 契約させてください!」


「契約して最初にすることは?」


「舐めまぁす!!!!!!」


「帰れ!!!!!!!!!!!」


「違いまぁす!!!!!!そばにいるだけでいいんです!!!言い間違えただけです!!!!」


「言い間違えで舐められてたまるかってんだぃこん畜生め!!!!! 畜生め!!!!!!!!!!」


これが、九尾の狐。


かつて【淫虐】の名を欲しいままにしていた怪物である。


「貴女ね、契約したってウチの子が貴女と結婚するわけではないのよ! 貴女何歳よ! 年下の子に恋愛感情抱くにも限度があるでしょうこの四捨五入すれば〇〇〇〇歳! 8歳の子とねんごろになる時代はね、とっくに終わってんのよ! ついでに貴女は人間性が終わってるのよ!!! あ、人間じゃないか。この万年発情女狐!!!!!!」


「くっ! それでも私は……っ! お願いします!! 側にいさせてください! 何もしません!」


「側にいて最初にすることは?」


「爆乳お姉さんの淫語塗れ添い寝ASMR~お姉ちゃんなんだかムズムズするよぉ導入から形容できないすごいコンコン編 序章~」


「帰れ!!!!!!!!!!!」


「違いまぁす!!!!!! この口が勝手に、この口が勝手に動いてるだけなんです!!!!!!! 」


「口が悪いというならその舌斬り落としなさい!!!!」






「う、うわぁ……」


俺はドン引きだった。


憧れた人がこんな爛れた人だと思っていなかったし、普通に8歳にガチになる年上を見ているとなんだか辛かった。


本当に、辛かった。


その時の価値観でモノを申すなら、夕飯がハンバーグと言われウキウキで帰ったら豆腐ハンバーグだった時くらい嫌な気持ちになった。


父親が話しかける。


「とりあえず銀子さん。家庭の方針で契約は無しで」


「う、うぐぅぅぅぅぅぅ~~~~っ!!!!」





その日から三か月。


毎日玄関先で土下座された。


雨にも負けず。


風にも負けず。


すごいガンギマリの目でこちらを見つめ。


二手目土下座。


尊厳。


尊厳は。



こうして須藤家と銀子さんの間で、協定が組まれることとなった。


「息子が18歳になったら息子と式神契約を検討。まともな感性を持っていることを証明できればなお良し。色を使うのはNG、誘うのも無し。健全な関係が築けるか判断するのは家族で。家族が契約するかどうかを判断」


「ありがとうございます!!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!」


「えぇ……」



俺、怖かったんだ。


8歳でガンギマリの目で見られるの。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ということなんだ。ひとみ」


「この性犯罪者未遂を殺しましょう」


「ひとみぃ!」


思わず名前を叫んでしまったが、そりゃそうなる。ごめん、常識の範囲内のツッコミだわ。


「ち、違うんです。あの時はたまたま、たまたま自制が効かなかっただけで」


ひとみが唸る様に呟く。


「この後すぐに契約できるとしたら最初にすることは」


「なめっ、なっ、ば、バナナっ!」


「殺しましょう」


「ひとみぃ!!!!!!!」


ひとみ、銀子さんはもう駄目なんだ。


最初こそ清純派っぽく見えたことだろう。


この人は、もう、頭の中がピンクに染まっているんだ。


「はぁ。もういいよなんか。とりあえず、動いてみようと思う。こうなったら覚悟を決めていくぜ。……ところで、いろはは?」


ひとみが首をかしげて「さぁ?」と言って、俺たちは一度、貴賓室に向かうことにした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



side 須藤いろは





「ここは……」


須藤いろはは、明晴学園を探索していた。


試合は明日に延期になっている。


いろはは捕食者として、無意識に感じ取っていた。


明日は、狂気じみたナニカが行われると。


しかし何もわからない。


彼女には分からないのだ。


ーー何故、須藤与一が会ったことのないニャルラトホテプを知っているのか。


彼の生誕から今の今までを観測していたはずなのに、どうしてもニャルラトホテプを今まで感じることは出来なかった。


何時出会ったのかも定かではない。


何処で会ったのかも理解できない。


須藤与一は、彼女の知らない出会いをしていたのだろうか。


須藤与一が学んでもいない知識があるのが、分からなかった。


ニャルラトホテプは、自分の理解を超えた存在なのだろうかと、初めて彼女は恐怖していた。


まるで、自分が捕食される側になったような、そんな錯覚だった。


そんな彼女は導かれるまま明晴学園の中にある、とある部屋に入った。


「--教会?」


教室の中に、教会の礼拝堂があったのだ。


「おや。……君は?」


そこにいたのは。


同じように導かれるまま歩き、先に礼拝堂にたどり着いていた男。娘と一緒に、試合を観戦しており、隠れキリシタン同盟にいる賀茂の人間とあいさつを交わすために来ていた賀茂家当主。


ーー賀茂ヨハネ在人であった。







「あ、その。すいません、ちょっと探索してて……」


「ふむ。そうですか。……すいません。たまたま私も礼拝堂を見つけて祈りを捧げていたところだったんです。……失礼、レディ。あまりご時世的にもよろしくは無いのですが。……何か、悩んでいらっしゃるようで」


「えっ」


「良ければ、お話をお聞きしますよ。何せ、私も神父のようなものでして」



賀茂ヨハネ在人は、須藤いろはを席に座らせて、目を合わせるように膝を着いた。


いろはは、どうしてこんな状況に、と思いつつも。


何故か、この男には話してもいいんじゃないかと思い始めてきた。


理由は分からない。


なんとなく、本当に何となく、懐かしいと思ったのだ。


薄れた記憶の果てに、どこか、誰かの面影を感じて。


「--悩み、ですか」


「はい。深刻そうな顔をしておりましたので。……それも、娘と同じ年代の子で。肩の重しが少しでも取れたらと、思うのです」


いろはの思考に廻ったのは、全てを話してしまってもいいかという感情だった。


しかしそれはいけない。


にんしきのとり。


知られてはいけない。聞いてはいけない。言ってはいけない。


知ってしまえば、彼が死んでしまうから。


聞いてしまえば、彼は壊れてしまうから。


言ってしまえば……。


自分が、壊れてしまいそうだったから。


「あの、……その」


「はい」


賀茂ヨハネ在人は、優しい瞳で彼女を見続けた。


だから、思わず自分が子どもに戻ったような錯覚になって。


「--怖いんです。全部」


今抱えている荷物を、彼に見せた。


「私、その。……昔色々あって。その、えっと、大切な人が、出来て……。でも、それが壊れそうで。私が、なんとかしないと、明日にでも、……嫌な予感が止まらなくて」


「それは……」


賀茂ヨハネ在人は、気付いた。


彼女は、須藤与一の式神だと。


娘のモニカから話を聞いていたし、試合の会場に、あまりに希薄な存在感の彼女にすごみを感じていた。


そんな彼女が、明日にでも嫌な予感がすると言っていた。


ふと、【流星の魔法少女】を思い出す。


あの邪法の極みのような存在もトーナメントに混ざっている。


おそらく、無意識になにかとんでもないことが起きることを予感していたのではないか。


試合終わりに隠れキリシタン同盟 副代表 賀茂 アウグスティヌス 一郎に会おうとしたが、貴賓室もパニック状態になっていたので後に回そうと考えていた。


もしや、本当に何かが起きる前兆なのかもしれないと、神経を張り巡らせた。


「--罰、なんですかね」


「えっ」


須藤いろはが、沈んだ顔で呟いた。


「昔、言われた気がするんです。もう覚えていないけれど、私は、こうやって生きる前に、人を、殺してしまったことがあって」


「……っ」


陰陽師の業界で、よく聞く話だ。


自身の呪力の暴走や、家庭環境によって人を殺してしまう子どもがいる。


彼女もその犠牲者の一人なのだろうと、彼は考えた。


「誰かに言われたんです。ゆめ忘れるな。お前は人を殺した怪物だ。決してその罪からは逃れられぬ。しかし、お前が、人として、人の理に混ざるというのならば……」


その言葉は、直接聞いた気がしない。


きっと、どこかでチャンネルが接続され、たまたま耳に入った言葉なのだろう。


でも、その言葉は、自分に言われている気がした。


「そこから先の言葉を、思い出せません。でも、……どうしようもないじゃないですか。どうしようもないことを、謝れないじゃないですか。償うなんて、できないじゃないですか。でも、……私が、悪いのかなって。大切な人と一緒に過ごしたいと願ったから、……今こうやって生きることすら、ダメなことなのかなって。ーー私は、一生許されないし、幸せを運命が、許さないんじゃないかって。最近、ずっと思ってました」



それは。


懺悔だった。


須藤与一にも、小笠原ひとみにも伝えたことのない、心の深いところにあった、彼女だけが知っている痛みだった。


「--私は、幸せになるべきじゃなかったんでしょうか」


「幸せになるべきです」


「……えっ」


ふと、いろはの手が、彼の両手で包まれる。


「おそらく、既に償えない過去なのでしょう。結果が出ている以上、もう取り返しのつかない罪であり、今そのように考えていることが、罰なのでしょう。--ですが。それでも、人は過ちを犯した後に、許されないというのは、とても悲しいでしょう」


「--たとえ、人を殺しても、ですか」


「……。「父よ、彼らをお赦しください。彼らは、自分が何をしているのかが分かっていないのです。」」


「え?」


「……主のお言葉であり、祈りです。指導者が、民衆が、兵が、主を磔にして害しようとした時に、恨み言ではなく、神様に自らを殺そうとした人たちへの赦しを願い出たのです」


いろはにその教えはいまいちピンと来ていない。


しかし何処かその言葉は、今の自分が求めていたものに近いような気がしていた。


何も知らなかった。だから、人間を食べていた。


でも、今ならそれが忌避的なものだと理解できているから……。


人間の、いろはを学んでいる最中だからこそ。


「人を殺してはいけない。その通りです。人は、人として生きるのであればルールがあるからです。……聖書にも人として、クリスチャンとして生きるための行動原則や戒律があります。ですが、……人は、愚かです。有史、ルールを作っても……人はそれを守り続けることが難しいし、生きること自体が難しいと感じる人もいます」



賀茂ヨハネ在人の手が、徐々に熱を帯びていくような気がした。


「私の話をします。私は、任務を達成するために、部下をむざむざ死なせてしてしまったことがあります。今でも後悔しています。もっとやり方があったんじゃないかと。作戦や、計画が甘かったのではないか。……私が殺したも同然だと、夜も眠れませんでした」


「……」


「ある時、私は一度陰陽から離されて、一般職に就きました。教誨師の仕事でした。……刑務所で教えを説く仕事です。全国を転々と、巡りました。そこで様々な実態を知ることとなります。人を殺した人がいました。ある人は今まで家庭の影響で教育を受けられなかった。自然と歪んだ認知能力を入所後に改善していくと、素直な謝罪ができるようになった。また、ある人はキレやすく、カッとなって包丁で人を刺した。逮捕後の診断で、発達障害があることに気が付いて、投薬治療を開始した後に世界が変わり、どうしてこんなことをしたのか深く後悔していました。……復讐をしたと言って人を殺す人がいました。父を借金苦に追い詰めた人間をどうしても許せず殺してしまった。冗談で人を殺した人がいました。ふざけて突き落として、命を落とした人がいた」


「……」


「どうして、人は人を殺してしまうんだろう。状況が変われば、環境さえ違えば、もっと深く先を見通す力を人が見に付けていれば、殺さずに済んだ。……部下を殺してしまった時と、何ら変わらない。同じ悩みが出てきてしまったんです。主の教えは、本当に人を救い、助けることができるんだろうか。疑いが深まりました。まるで、どうして戦争は止まらないんだろうかと悩みを巡らせる中学生のような考えです」


「……」


「……ある時、知りました。出所後に居場所がない人はたくさんいること。誰も救おうとせず、再び犯罪に手を染めてしまう人がいること。冬の寒さに耐えられず刑務所に戻りたがる人。……刑務所以外に、居場所がない人。居場所がないと、人は、壊れてしまうこと。その居場所を作る為には……、心に、拠り所がなければいけないと」


「居場所がないと、壊れる……」


それは、あの閉じ込められていた部屋の中にいた自分ように。


「……あぁ、教えは必要だ。人は拠り所がないとダメなのだ。刑務所の中にいた人は、”犯罪者”ではあっても、”人”……。人間だ。人間なのだ。私も無意識に犯罪者というだけで石を投げていたのではないか。そうではない。そうではいけないのです。……罪に苦しみながら、命を奪った責任を果たすためには……心が守られなければ、赦しがなければ無理だった。主の言葉が、再び私の中に入ってくるようでした。自らを殺そうとする人間にさえ、主は赦しを祈った。であれば、私も祈らなければならない。……刑務所にいる人たちから、悩みを傾聴するようになったのはその時からです。あなた方のいる暗闇から、あまねく光を渡らせるには……、あなた方の心に寄り添い、立ち直るまで一緒に祈ること。そう学んだからです。……貴方は自分の自覚無き殺人に苦しんでいる。許しを求めている。ですが、相手はそれを許すことができないのでしょう。私は貴方に祈ります。きっと赦されると」


「……で、でも。所詮は、……。祈りじゃないですか」


「はい、祈りです。だから、祈ります。貴方が、……自分の事を赦せるようになるまで、私は祈りましょう。罪と向き合っているあなたは一人ではない。友達も、……たまたまいた私も、貴方の幸せを願っています。もし、誰もその罪を赦してくれないと感じるのであればーー」


一瞬、彼の顔がブレて見えた。


それはいつかどこかで、見たような顔だった。


どうしても思い出せないし、聞いた覚えもない声も聞こえた。




”しかし、お前が、人として、人の理に混ざるというのならば、学べ。人を、法を、規範を学べ。生きとし生けるものすべてが、お前を学ばせるであろう。学んだ先に、お前が素直な気持ちで罪を償おうとするのであれば。”


 


 

「私が、貴方の罪を赦しましょう」

”――我ら勘解由小路一同、お前の罪を赦そう。”




「----っ!」


「ですから、幸せになりなさい。それが貴女が生きる意味で、貴女が奪ってしまった命への贖罪です」


その言葉に何故か、心がふわりと軽くなった気がした。


須藤いろはに宗教的知識は無い。


それでも、どうしてか。


この男の言うことは、信じられた。


「……、少し、語りすぎましたね。申し訳ないです。ですが、もしご縁があればまたお話を聞かせてください。モニカに言えば、きっと繋がれるでしょう」


モニカ、という名前を聞いて、ようやくこの目の前の男が何者かが気になった少女。彼女は椅子から立ち上がり、そっと手を放して出口に向かった男を呼び止めた。


「あ、あのっ、……お名前は」


「? あぁ、伝えそびれてましたね。賀茂ヨハネ在人と申します。娘がいつも須藤与一くんにご迷惑をかけてます。ではまた。流石に、これ以上待たせると娘に怒られてしまいますので、失敬」


そう言って男は立ち去った。


ーー違う名前だ。


なんとなく彼女は思った。


勘解由小路ではなく、賀茂。


だからこの話は、それで終わりだ。


「……祈り」


なんとなく、両手を握りしめて、目を瞑った。


……でも、ダメだった。


浮かんだのは、自らの罪ではなく、須藤与一の顔だった。


ーーあぁ、私の幸せは彼だもの。


ーー絶対、死なせない。


「……ありがとうございます。賀茂さん」


そう呟いて、彼女はその場を離れた。


行き先は、たった今。


足元に咲かせた花の赴くまま。

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