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【ひとこいし ■■■■■■■】事件 2

(現実世界)





俺の名前は須藤与一!


幼馴染ちゃんの蘆屋の策略によって部屋の玄関前で抱きつかれてしまい。


小笠原ひとみに目撃され、目が覚めたら。


小笠原ひとみが餓者髑髏になってヤンデレになってしまった。


普通に学校も始まって、謎に高速転校してきたし、なんならこれ以上夜這いされても困るので保護者に相談し小笠原ひとみは部屋から追放、するとひとみは隣の部屋の住人を餓者髑髏パワーで追い出し、部屋の隣人という形に落ち着いた。落ち着いたのか? 落ち着いた。


だけど部屋に鍵はかかっていたのに、夕飯の時間になるとなんか居るぞ!


今日のご飯は彼女が作ったおにぎり(塩)とたくわんだ!


見た目高校生、頭脳は転生。


迷宮入り待った無しのチート無し。


鬱すぎる和風同人ギャルゲーで平和を謳いこの手は握るものではなく繋ぐモノ、それとこれとは別にクソみたいな怪異を殲滅だ!


君も一緒に【ハナサキ】世界に転生しよう!


Fu●k you all!!!!!!





そんな感じの人生なんですけどね。


ここはどこだろう。


なんかふわふわして、ぼーっとして……。


花が、そこら中に咲いているような……。


誰かが、見ている気がする。


誰だ……。誰が……。









『繧医≧繧?¥莨壹∴繧九?縲らァ√?蜈峨?』












「おーい須藤、授業中だ寝るな」


「ぐえっ!? え、い、今何が……さっきまで感じていた名探偵みたいなメガネは!?」


「何を言っとるんだお前は」


わはははは、とクラスで笑いが起きる。


……しまった。授業中やんけ。疲れてたのか豪快に寝てたわ。


隣でクスクスと笑い声が聞こえる。


制服着用拒否勢の小笠原ひとみだ。


こいつは意地でも和服で来る異常者だ。


令和の価値観で大正のファッションをする生物兵器と言っても過言では無い。


こうやってモンスタースチューデントに屈する教育現場でいいのでしょうか先生。


ちなみにこの前先生に聞いたら「面倒クセェから全部家庭の事情ってことで」と素直に言われた。


まぁ腕とか骨見えちゃうし、スカート苦手らしいし、でもズボンも上手く歩けないらしい。


全部これ教育係の安倍菫子さんが原因だろ慣れさせたれよ。俗世に。


安倍菫子さんのことだ。

「和服美少女ちょーかわいっしょ。属性〜。チェケ」


で済ませたに違いない。


「まぁまぁ。お寝坊さんですこと」


「違う、俺は夢の世界で元気よく過ごしていただけだ。夢はいいぞぉ? 草冠に目が寝そべってるんだ。さぞ気持ちのいい草枕に違いない」


「いえいえ。夢は「寛容」の寛に夕ですわ。神官の女性が夜に眠る様子を描いたとかなんとか」


「賢そうな会話やめてくれよ眠たくなる……」


「仕掛けておいてその仕打ち、あぁっ、でもそれが……良いですね!」


小笠原ひとみ、あの日に餓者髑髏になってはっちゃけ始めた。なんかこう、おしとやかさの裏にしっとりとした感情が潜んでいる気がする。


……周囲から声が聞こえる。


「ま、マジであいつ、小笠原さんと付き合ってんだな……嘘だろ……」


「うぅ……、俺、小笠原さんを一目見てから……うぅっ!」


なんかBSS(僕が先に好きだったのに)イベ発生してるって。


おかしいだろ。まだ夏休み明けてから1週間も経ってないのにスピード感あるな。


「ふふ、ふふふ。注目されてますね与一さん。およよ、下卑な目線で見られてしまい悲しさで涙がはらはらほろり」


「やめろマジで授業中に机寄せて肩に頭乗せるなマジで……っ。マジでっ!!」


「はい不純異性交遊、須藤与一あとで職員室~」


「横暴だろうがっ……! 横暴……っ!」


担任……っ! お前だけは……っ! 倒すっ……!








職員室。


担任がくたびれたスーツであごに生えてる無精ひげをなでた。


「あのさー。一応よ、腕や足の傷を隠しつつ体の動きをやんちゃできないように和服で制限してるとは聞いてるし、校長とか死ぬほど俺に詰めてきてるからすごい力で和服オッケーにさせてるのは知ってるんだわ。でもやっぱアイツ目立つじゃん? お前と仲いいんだろ? 彼女の事気を遣ってやってくれ」


「せ、先生……っ」


「ま、長年やりたくもない仕事やってると分かるんだけどよ。あの子、割と世間離れしてるだろ? お前が導いてやりな。あの子の目は愛も恋も分かんないくせに雛鳥みたいにお前にくっつく赤ちゃんみたいだ。善も悪も今から見分けようとする迷子みたいだ。……お前なら、助けられると思うんだ。だから頼むわ」


「――先生ぇっ!」


良い人かよっっ!!!!!!!!!


この、おま、良い人かよっっ!!!!!!!!!


この拳の行く先はどうすればいいんだよぉ!!!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「行く先はお前だぁ!!!!!」


「ぐえーっ! 死んだんごーっ!」


とりあえずクラスメイトを拳で吹っ飛ばす。


教室に帰ってきた直後に「お、おっふ、小笠原たそ、コミケのコスプレイヤーに興味はないでごわすか?」と勧誘活動してるやつがいたら流石に見過ごせなかった。


濃いんだよ全てがさぁ!!!


「……大丈夫か?」


彼女を直接見ないように、頭を無意識に掻いてしまう。


席に無造作に座ると、くすくすと笑い声が聞こえる。


「なぁんだ。私のこと、そんなに好きなんですね。まったくもう」


「ほぉらそうなるから嫌なんだよ……」


「ふふふ、くすくす」


そんな声を無理やり聞き流して机に突っ伏すと、ちょうどよくチャイムが鳴る。


担任が教室に入る。


「はいそれじゃ。来月の学校祭についての話するぞー。このクラスの屋台はたこ焼き、教室展示は10分間の宝探しな。準備期間始まるから必要なもんあったら言えよー」


こてんと首をかしげるひとみ。


「がっこうさい?」


「あぁ。あれだよ。学校でお祭りするんだよ。生徒主導で教室を宝探し会場にして、屋台でたこ焼き作ったりするんだよ」


「……。知らない世界です」


「あぁ良いじゃん。これを機に友達いっぱい作れると思うぞ」


「……友達、……ともだち、ですか」


何か諦めたようなニュアンスで、彼女は溜息を吐いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~



学校祭というイベントに関して俺はたこ焼き担当でぼちぼちたこ焼きをくるくる回す役になった。


任せてほしい。こう見えても俺はたこ焼きの火加減は中々の腕前を持っているのだ。


五代屋敷の一角、賀茂ヨハネ在人さんという賀茂家当主の奥方である賀茂伊塚さんが大阪から嫁いでおり、ゴリゴリに鍛えられているのだ。


かかあ天下みたいな人だけど根はやさしい人なのだ。賀茂ヨハネ在人さんと仲睦まじい様子を見せているのも、その証拠だろう。


在人さんゲームだと悲惨だからな!!


脳みそくちゅくちゅイベントとかいうクソイベ用意されてるし、いろんなルートで死亡フラグが立っている。


ちなみに彼が死んだら大抵次の日に攻略ヒロインが死ぬので「時報」と呼ばれていた。


惨劇バッド入りまーすみたいな合図みたいなもんよ。


死んだら死んだでちょっとワクワクしてしまうんだよな。えー次どうなっちゃうのーみたいな。


でも流石に現実では死なないでほしいわ……。今がゲーム本編でいうところのどの辺かさっぱり分からないし……。餓者髑髏の花嫁とか初見です。もうチャートがばがばですわ。RTAだったら泣いてるね。


そういえば脳みそくちゅくちゅイベントって発生条件あった気がするな……。なんだっけ。




思考をあちらこちらに回しながら、部活棟(部室がいっぱいある場所)の倉庫から指定された道具を取り出し、学校に向かおうとしていると、「ちりーん」と風鈴の音が聞こえた。


もうこんな時期かぁ、そう思いながら足を進めると、風鈴の音とともに「がっしゃーん!!!」と大きな音が聞こえた。


え、と首を音の鳴る方に向けると、……部室の一つから物音が鳴ったようだった。あそこって使われてたっけ? 


「あの、大丈夫っすかー!」


返事はない。しかしガサゴソと暴れるような声が聞こえたので、危ないかもと思い扉を開けた。


「あの! だいじょ―――――」






窓が開いていたのか、カーテンが風でなびいていた。


積み重ねられていたであろう机やいすが崩れており、見るからにぶつかってしまったのだろうと推察できた。


部室の真ん中に、少女。


――全裸の、少女がいた。


「どぅわっちゃぉああっおあ!?」


俺も動揺してしまい、持っていた荷物を落とした。


本来ならすぐに部室を出るべきだったのだが、その女の子と目が合ってしまった。


「--、っ、ぁ」


絞りだしたような声で、必死な顔で手を伸ばしたものだから……、観察してしまった。


髪は伸び切ってぼさぼさな金髪。


きれいな肌で、白っぽかった。


どこか栄養不足のように、がりがりな体つき。


……すぐに今の状態に少女は気付いて、声にならない悲鳴を上げて、体を隠そうとする。


髪で隠れてしまうほどのきゃしゃな体は、ハリネズミを想起させた。


「……、あの、服ある?」


少女は後ろを向きながら、しゃがみこんで、首を横に振った。


「……あー、その。ちょっと待ってな」






「こんなんしかないけど、まぁ貸すよ」


教室に走って、自分のジャージを渡した。


今日はまだ使ってないし、汗関連は大丈夫だと思うが……。


彼女は困惑したように、眼差しだけを送る。


「あー。ほら」


ジャージを手の届く範囲まで持っていく。


近づきすぎたら、迷惑かなと思って。


彼女は、震えながら、おそるおそる、手を伸ばして。


ジャージを、触った。


びっくりしたように、指が跳ねて、ゆっくり生地を撫でるように触れて、ちょっとだけ、俺の指と彼女の指が重なった。


「……ぁ、ぁの、ぁ、……っ。ぁ……ぃが、とぅ……」


小さな声だった。


のどがカサカサしているようだった。緊張で声も出ないのだろう。


「ほい、お茶置いときます。あの、一年生じゃないすよね? ……いじめ、っすか?」


ペットボトルの蓋を回して、いつでも飲めるようにして近くに転がっていた椅子の上に置いた。


彼女は、俺の発言をなぞるように口で何かを呟いて、首をまた横に振った。


「マジでその、そのジャージ貸すんで着てください。身ぐるみはがされるとか最悪ですよね。くそ、この学校でそんなことする奴がいるなんて。今先生呼んでくるんで……。怖かったですよね? もう大丈夫ですから」


俺はどうしたらいいかわからなくて、ジャージを渡して、すっと離れる。


その時――。


彼女は、俺の手首を捕まえて。


ひどく弱弱しい力で、ぎゅっと手首を握って。


涙を、ぽろぽろと流した。


彼女の肌が、見えてしまって目を背けてしまったけど。


「--ぁ、ぁーーー、ぁ……っぁぁ」


小さな声で、泣いていたのだ。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~



俺は彼女が泣き止んだ後、職員室で事情を話し、学校の先生と一緒に部室に入った。


しかし、そこに彼女はいなかった。


職員室で在校生のアルバムを見せてもらったが……見当たらなかった。


「金髪の女の子だったんですけど」


「……、もしかしたら、不登校の子かもしれない。ほらこの子、浅木夢さん。浅木さんは確か……、2年の時に女子同士のいざこざで不登校になってから、学校に来ていないな。今は……3年か。……もしかしたら久々に学校に来て、何かあったのかもしれない。ご家庭も忙しくて連絡が取れないけれど、一応取ってみるか」


「うっす」


一応は、大丈夫だと思うのだ。


だって、お茶は持って帰ったみたいだから。


きっと大丈夫。そう思った。

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