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【神話生物】事件 前編 9

ーーなんだこれは。


【陰陽王子】安倍時晴は叫んだ。


言葉は出ない。言語化できないおぞましい恐怖。


ただ叫ばなければやられる。それだけだった。


それは、踏まれたアリの絶叫のようだった。


人にそんな声が聞こえないような、純粋無垢な力の圧壊。


気付けばステージ端まで吹き飛ばされ、世界が一変していた。


そこは、丘。


彼岸花が咲き乱れ、空に穴が開き、赤黒い液体をだらだらと垂れ流す。


丘から骸が無数に生まれ、襲い、そして食われる。


忘れる勿れ。


それは怪異である。


それはある種の神である。


それは。


地獄である。


骸が列をなし、安倍時晴に向かい歩いていく。


第二次の禍根、帝国の象徴、或いは鎧武者の喧騒、残骸の寄せ集め。


童の大群、餓死の空虚な腑。


怨と恨の百鬼夜行。


――花嫁導く参進の儀。




世界は既に、夜に犯された。


忘れる勿れ。


彼女は、餓者髑髏であり。


餓者髑髏は、彼女である。


彼女が、餓者髑髏が織りなす数多の怨念が生み出す異界。


名を【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】。


最悪、再びーー。



「万象順天、陰陽よ廻れ」


安倍時晴は走馬灯のように思考を巡らせ秘儀を躊躇いなく発動する。


走馬灯、そう。安倍家から伝えられた情報が、彼の脳内をオーバーフローさせた。


ーー【餓者髑髏の花嫁】は、須藤与一単体によって討伐された。


「っ! 破神5号から10号全力稼働!!!! 我が身を守る守護霊獣、玄武よ、お力お借り申す!!!」



破神システム。


彼が五行の術をフルオートで乱射する為に作った陰陽術である。


5番から9番、火、水、土、金、木の術を一斉掃射し、10番に陰と陽の霊力を発射、五行の術をそれぞれ混ぜ合わせる力を発動し、相生、相剋の術をその場で生み出すランダム性を生む能力。


が、上手くいかない。


玄武の力は、陰陽の循環の活性。


それも、上手くいかない。


理屈を考えれば当然だった。


彼女という死の呪いは、陽に能わず。


全ての天秤を陰に傾け、全ての力が弱体化してしまう。


ーー天才の唯一の穴ともいえる。


陰陽のバランスを崩す。


どれだけ場を整え気を持ち直しても、彼女の世界が全てを塗りつぶす。


【ハナサキ】は、明らかに陰陽師の技を封殺する為に生まれたような気さえする。


しかし。


安倍時晴は諦めない。


「--1番から4番、日の稼働!!!」



破神1番から4番に、五行の発展形、七曜を適用する。


日、月、火、水、木、金、土。


その日の力のみを最大出力で放ち続けることで、陰陽の形を取りなそうとした。


空に月、地上に太陽。


これにより循環を生み出そうとした。


「『壊れなさい』」


太陽が壊れた。


突然、壊れた破神1号から10号。


彼女の言葉に誘われるように、術式が自ら死に絶えた。


彼女の言葉は、全てが呪言。


故に、命じただけで、呪いが発動する。


望まれただけで、術式は己の破壊を選んだ。


いわば、自ら滅ぶことを望む落陽願望の付与。


これに加え、彼女の持つ「時を止める」性質。これにより循環の強制停止。あまりの噛み合い方で、相性戦では小笠原ひとみの一強であった。


これによって、まず天才の術式が使用不可となった。


次の思考は接近戦。


銃と刀を使用し、式神の所有者である須藤与一直接に攻撃することだ。


しかし、既にその姿は見えない。


骸骨の軍勢が、常に襲い掛かり意識できない。


破神の影響で散らしていた敵も、全て集結する。


加えて。


圧倒的質量の餓者髑髏の一撃。


突然天が曇ったと思いきや、ただただ無慈悲な振り降ろし攻撃がやってくる。その手が、骸骨を掴み、捕食する。


「これが……これが【餓者髑髏の花嫁】っ!! す、すごい!!!  お見事です式神、いや小笠原ひとみさん!!! そして、これを単独初見で討伐した須藤与一、間違いない、これは偶然で倒せるものではない。何か一つ欠けても勝てる敵ではない!! み、認めるよ、間違いなく、君たちは僕を倒しうる!! --だけど」


未だ、【陰陽王子】は諦めない。


「--僕は、もう誰にも負けたくないっ!!!! 青龍、玄武、概念武装発令!! 安倍家の最高傑作を舐めるな、くっ、決勝で使うはずだった、僕の最終奥義で迎え撃つ!!!!」


そして、大きく息を吸い込み。















ーー安倍時晴は吐血した。


「がっ……はっ……っ!?」


「『彼岸花から流れる紅い液体は、全てが呪詛。いかな才能も神聖な結界も、体に取り込み過ぎれば呪いに転じて侵されますわ。』」


そしてそこに追い打ちをかけるように、小笠原ひとみは大きく腕を振りかぶって、その巨体の拳を安倍時晴に打ち下ろした。


「『ごめんなさい。私弱い者いじめするつもりはありませんので。棄権してくださいな』」


寸止めだった。


安倍時晴は、虚ろな目でその指の骨を見つめ、手のひらをひらひらと揺らした。


「無理ですこれ~……。対策しないと無理。降参です。なぁにこの初見殺しオンパレード。やってらんねー」














「な、なんということだあああああああ!!! 突然結界内が真っ赤に染まったと思いきや、突然見えるようになり、【陰陽王子】安倍時晴が、しゅ、瞬殺されているぅううううううう!!!! あの式神が何かをやったのかぁ!!!! 序盤の不意打ち以降、誰も見ることが叶いませんでした!!! 試合時間わずか20秒!!! 勝者、須藤与一ぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」




「「「「「「「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」










えぇ……?


ちょ、えぇ……。


えぇ……。


えぇ…………?


「ふぅ。中々足掻かれましたが勝ちました。酷いですよね2秒で倒すとか失礼です。ぷんぷん」


しまった、ぷんぷんモードだったのか。


このモードに入ったら俺といろはは夕食抜きの可能性が高まる。


……いや。


えぇ……?


俺すんごい悩んでたのにすんごいパワーで一掃されちゃったからこの感情の行き場どうすればいいんだろうくらいしか思ってないよ俺。


いや。ひとみ強くね?


いや確かに強かったよ。


俺みたいにすんごい呪い耐性とかが強かったり、装備とか術式とか普段持ってないからこそ自壊させなかったとか、相性戦はあったかもしれないけど……あ、えぇ? つ、強いっすね。


なんか、ボスキャラって基本味方になったら弱いとかありますけど、君、強いね?


むしろ前より強いね?


「……あら。周囲も殺気だってしまいましたか」


言われて気付く。


周りを見渡すと、あまりに一方的な虐殺劇だったからか……いや、結界でなにも見えなかったから、【陰陽王子】が訳も分からないやり方で勝手に沈んでいるからヤバいと思ったのか。


ーー、【餓者髑髏の花嫁】への脅威度が上がったからか。


特に強い敵意を感じるのは、特別貴賓室。


全員が、彼女を脅威と感じたのだろう。


その中で、一番、殺気を感じるのは……。


安倍家の、いや。


教育式神の【九尾の狐】だった。




「与一さん」


ひとみが、微笑んだ。


「楽しくなってまいりましたね」


どこが?






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【五星附属術浄学園】選手控室。


本来であれば、選手控室は共用スペースだったが、飛び級の子がいることで特別な配慮をと運営側が用意した専用控室だ。


しかし、本来ならそのような優遇はあり得ない。


安倍家であっても、そのようなことはしない。


現にそのことに違和感を覚えた【獅子強攻】安倍 怜音は普通に共有スペースに行き、そちらで過ごしていた。





【流星の魔法少女】如月 桐火は緊張していた。


「うぅ、どうしよぉ~~。い、一回戦なのにレベルが高いよぉ~~~」


ぴえんと言わんばかりに半べそをかいて控室のベンチに座り込む如月だったが、肩をポンと叩かれる。


「大丈夫。貴方だって訓練を重ねた戦士じゃない。普段通りの力を出せば問題ないわ」


【聖伐執行】犬鳴 響だった。


彼女のなぐさめが上手く伝わらなかったのか、それでも気持ちが沈む魔法少女。


「いいじゃーん別に。こんなんさっさと終わらせてさー、観光でもしようよー。めんどくさいしさー」


【宴夜航路】迫野 小登里はベンチの上で寝転んで微笑む。


その姿を見て犬鳴は驚いた。


「あ、あなた次試合でしょ!! もうちょっと気合をいれなさい!」


「えへへー。面倒くさくてさー。疲れちゃうじゃんー」


そんな3人の会話に割って入る様に、ドアのノックが聞こえた。


ドアが開き、入ってきた人を見た瞬間3人が一斉に立礼する。


「せ、先生! お疲れ様です!」


如月の声に、【先生】と呼ばれた男は微笑んだ。


「あぁ、みなさんお疲れ様です。今回のトーナメントはレベルが高いですね。でも、みなさんなら必ず勝てます。自信を持ってくださいね!」


「「「はいっ!先生!!」」」


「それと……次の試合は、迫野さんですね?」


「あ、その、はいー……」


迫野が物怖じするように受け答えすると、先生が彼女の頭を撫でた。


「貴方はとても面倒くさがりですが、本当は人への思いやりが強い子です。自分がリラックスしている態度を見せれば如月さんが落ち着くとも思ったのでしょう」


「うぇっ!? いや、その」


「小登里ちゃん……」


如月がまた涙をこぼしそうになる。


「でもここから、貴方が頑張った分みんなの気持ちも変わります。いつも通り、精いっぱいの気持ちをバトルでぶつけてください」


「--はいっ!」


迫野の返事に満足した先生は、3人に向けて言葉を放った。


「それじゃ、みなさん。気合を入れて頑張っていきましょうネ!」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




2試合目。


俺は試合が終わって、客席から胡乱な目で見られながら退場した。


幼馴染ちゃんは手を振って、「やっぱり勝ったねー」と言った。


なんだよそれ、と思ってたら「これで決勝まで行けば戦えるね」とも、彼女は言った。


酷い話だ。両想いじゃないかと、なんとなく肩の力が抜けた。


ひとみもウキウキしているし、ことりはぽけーっとしている。


やれやれ、これじゃあスケベハーレムなんて言われてもしゃーないのかな。


そんなことを考えていた。


その時、すれ違った選手がいた。


【宴夜航路】迫野 小登里である。


原作ヒロインの、中学生の姿。


その後ろに、スーツを着た大人がいた。


その表情は、とても楽し気で。


ーーとても、怖かった。


俺が、その大人の背中を目線で追っていると、彼は振り返ってこちらを見た。


「なにか?」


「……え、あぁ、いや。……」


俺は、何を思ったのか、失言してしまった。


「アンタか? 原作のシナリオ壊したの?」


言ってしまって、自分が何を言っているのか理解し、俺は何を言っているんだと動揺した。


突然、本当に自分が変わってしまったように言ってしまったのだ。


すると、その大人は、その笑顔を深めて、こちらに向き合った。


「面白いことを。先に壊したのは貴方じゃあないですか。ネ? 須藤与一さん」


「えっ」


なんでこの人は俺の名前を知っているんだろうと思った。


すると、【宴夜航路】迫野 小登里が大人を呼び掛けた。


「先生ー! ニャル先生! もう行くんですけどー!」


「はい。今行きますよ。……それでは、また」



彼は、ニャル先生と呼ばれ会場に入っていった。


俺の脳が、その名前を知っていた。


先生、ではない。


ニャル。


そう呼ばれるであろう存在を、俺は知っている。


俺は、知っているのだ。


「--まさか」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「さて、一瞬で幕を閉じた第一試合! 間違いなくこのトーナメントは下馬評通りにはいかず、イレギュラーの印象と、新世代の台頭を感じさせます!!! 次の試合は【五星附属術浄学園】から登場、飛び級の才能をここでお披露目だ!! またも天才、戦術スタイルは魔法少女と呼ばれる新しい陰陽師の戦い方。一度見た術式をコピーし、上位互換の術式のミサイルを即席で作り、質と量で圧勝する人の心を折り戦う。生まれるのは荒野。巨大な才能の戦車に押しつぶされる恐ろしさ! しかしついた二つ名は【宴夜航路】迫野 小登里!!!!!!!!」



フィールド内。


30m×30mという限られた、或いは広い空間。


結界は既に覆われ、逃げることはかなわない。


面倒くさそうに彼女は首をぽりぽりと掻いている。


目の前の敵なんか相手ではないと言わんばかりの動きだった。


それを、鋭い目で睨む少女がいた。


「対する相手は小笠原家の天才。家の歴史が紡いできた陰陽術に加え、五行の水を氷結の呪いに特化したさせた最前線の陰陽師。その才能は10代にして破格の性能を持ち、妖怪討伐数はこの世代最高! 誰が呼んだか、戦闘力だけならば蘆屋の天才すら上回るだろうと! 遂にその才能がこのトーナメントにて比較されます! 【永弓凍土】小笠原 雹香!!!」



「悪いんだけどさー」


ジャケットで萌え袖をつくって幽霊のように手を揺らす迫野。


そのグレイの髪色が太陽に光り、よりその灰色が目立つような気がする。


無理もない。


相対するのは氷の女王。


蒼と白を基調にした制服に、白い長い髪。


まるで、雪そのものの彼女に対し、灰色の雲がかかるような対称さがあった。


「負けられないから、すーぐ勝っちゃうよー」


そういって彼女は構えた。


「そうですか。では」


女王はスカートの裾を持ち、一礼した。


「御機嫌よう」




「それでは参りましょう!! 高校生陰陽道最強決定戦トーナメント一回戦第二試合!!!! 【宴夜航路】迫野 小登里vs【永弓凍土】小笠原 雹香!!! レディィィィィ!!!!」








その時、狂気的な笑顔で、迫野小登里は詠唱した。





「『てけり・り』」






















ーー漆黒の玉虫色。


タールでできたアメーバの如く粘液のような塊。


表面に啓く無数の瞳。


女の足元に描かれた魔法陣から、彼女に憑りつくように存在を塗りつぶしながら纏われにいく。


Tekeli-li, Tekeli-li


声が聴こえる。


飼いならされた悪意。


古のものたちによる創造物。


宇宙的根源に連なる恐怖。


それは生きる姿ではなく/それは意思の疎通は不可能であり


それは嫌悪の象徴であり/それは悪夢の中で蠢くだけに留まらず


生命/晴明に対する冒とく的な、狂気の発露。


「変身」


その黒く生きたものは、彼女の素肌、衣服、全てに巻き付き、姿を変容させていく。


それは見るも無残で神々しい。


何かに魂を売ったような、何かに力を求めた顛末のような、生きた地獄のような、変身。


装いは華やかだ。


グレイの髪に合わせて、白と黒を基調にした魔法少女衣装。


フリルも豪華で華やかで、見る者を全て夢中にさせるだろう。


だが、本質は別である。


ーーカフカの『変身』という小説がある。


あれは、目覚めると自身が巨大な芋虫になっていたという話だが。




須藤与一の眼には、彼女がそう映っていた。


(--なんだ、あれは)


須藤与一の記憶には、彼女にそのような姿は登場しなかった。


(……なんなんだ、あれはっ)


須藤与一の全てが否定した。彼女の姿は、既に原作ヒロインのそれではない。美しく擬態した、芋虫のような、ナニカだ。


「--なんなんだよ、あれはぁ!!! ニャルラトホテプゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!」










彼の声は、邪神/先生に確かに届いていた。


「初めまして、須藤与一くん。そして、どうぞお楽しみいただきたい。さぁこれより始まる奇怪な舞台。主役は貴方、語り手は私、世にも不思議な陰陽師の、憧れの先の成れの果て。しかしいましばらく座席にて、観劇のままどうぞお待ちなされ。なにせ役者はいざ知らず、未だそろうこと能わず、故に、先にお伝えしよう。この先のシナリオは私が描いた。既に賽の目は振られたのだ。さぁクソほど踊れ人間ども。私は貴様らが狂気にして混沌に溺れる姿が見たい。正気を保つな、欲に走れ。自ら未来を否定しろ」


邪神/先生は、両手を広げて喝采した。


「それでもなお、足掻く者のみこそ、私の前に立つことを赦される」










「ファイッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」













次回、【神話生物】事件 中編。

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― 新着の感想 ―
やっぱりニャルはこうじゃないとね!!
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