【神話生物】事件 前編 4
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。お初にお目にかかります。須藤様のご自宅にて家事手伝い、所謂使用人をさせて頂いております。……「銀子」とでも、お呼び頂ければ」
須藤家の家事手伝い、というかメイドの銀子さんは俺が7歳ごろから家を手伝ってくれるようになったのだ。
なので小学から中学くらいまでの付き合いとなる。
個人的には知り合いのお姉さんくらいの認識だ。
銀色の長い髪をまとめ、眼鏡をつけている。
身長も172cmと大きく、胸も大きいというあらゆる意味で性癖ブレイカーみたいな見た目だった。
転生を意識してから、「えこんなビジュの人いたんですか?」というくらい衝撃的だったのを今でも覚えている。
「し、しまった……メイド、メイドですか……。くっ、与一さんの近くに、メイドぉ……? こんなのもう100%惚れてるに違いありません。隙あらば狙ってるんです。くっ、これ以上ハーレムの要素が増えてしまうと私のメンタルが……メンタルが持たない……」
ひとみはよくわからないが独り言でぶつぶつと何かを言っているみたいだ。
「可哀そうにひとみお姉様。この中で与一さんニワカオタクだったばっかりに」
いろははよくわからないマウントを取って満足しているようだった。
「皆様は、与一さんの式神であり、共に学び舎で過ごすご学友ということは聞いております。至らぬことはあるかもしれませんが、ぜひお寛ぎください。部屋のご案内もさせていただきますが、ご自由にお過ごしいただければ」
そつなく完ぺきにこなす完璧超人メイドの銀子さんのことだ。
おそらく準備ならば万全なのだろう。……いや、ぱっと見人間の二人見て式神扱いするの大分心の準備すごくない?
さて、荷物を置いて全員で居間に集合する。
銀子さんはお茶を淹れてくれるそうで、おいしい饅頭も用意してくれるとのことだった。
「ところで与一さん。結局のところ高校生陰陽道最強決定戦トーナメントってなんなんでしょうか。ググっても出てきませんわ?」
「うんググって出てくるなら陰陽師やってないんだわ」
ひとみの質問に対して、俺は適当に取り出したメモ帳にボールペンで色々書きこんでいく。
「改めて説明すると、4つの学校から4人の代表選手が来るから、トーナメントして誰が一番強いかを決めるっていう話な」
トーナメントにおける勝敗は、敵を制圧できたかどうかが問われている。
審査員は3名。
その中の2名が勝負ありと決した段階で試合終了。
フィールドは横30m、縦30mの範囲で戦う。フィールドには結界が張られており、雌雄を決するまで出ることはできない。外から干渉することもできない。出来るのは審査員3名だけだ。
対戦者はあらゆる戦闘方法が赦される。
俺で言うところの式神を使用してもいい。陰陽術、五行の法を使ってもいい。
真剣を使用しても、呪術を使っても。
現代怪異を使っても、審査員を買収しても。
果ては、マシンガンやあらゆる現代兵器を使ってもよいのだ。
なんでもあり。
それで死ぬなら死ね。
妖怪退治や、怪異の撃退に手段はいらない。
死んだら終わり。死なない備えをした者だけが勝ち。
そういうシビアなトーナメントなのだ。
もちろんギリギリまで審査員は守ってくれるし、人を積極的に殺そうとするやつがいたら制限もかけられる。
だから安心……? そんなわけがない。
この大会を見る人間たちが良くない。
宮内庁の象徴、日輪様をはじめ、陰陽庁の重鎮、京都神道の神主たち、寺の住職連合、国会議員や内閣、果ては西洋魔術学会、隠れキリシタン同盟、五星局を含めた現代怪異学会の人間たちが一斉に集うのだ。
そして、トーナメント参加者のスカウトを主に行うのである。
もちろん16人だけがスカウトの対象じゃない。
ボランティアで来た生徒たちがそれぞれ役割の中で行う「治療貢献度」を見たり、「警備能力」、「リーダーシップ」、「言われたことをしっかりやりきる下っ端」など、あらゆる観点から使えるかどうかを見るのだ。
まぁやる気のある人はここでポイントを稼ごうとする。就職活動に直結するからマジで3年生とかがすごい気合い入れて動くのだ。
なお戦闘職希望の場合はこういうトーナメントで大活躍して道が開ける幹部候補生コースと試験を受けて雇われる一般陰陽師戦闘員コースがあるぞ。どちらも公務員なので食いっぱぐれないぞ!
なお、このイベントは2日開催、その後学校祭が2日間あるのだ。
今回の場合、明晴学園がホスト校なので、イベント2日やったらそのまま学校祭が始まるので大変そうだ。
初日に1回戦、2回戦まで行い、2日目に準決勝と決勝だ。
なんで学校祭をやるかと言うと……。まぁ、天才同士の戦いは、かなり長引く。普通に長引いて夜まで続くこともザラだ。
それを受けての2日開催なのだ。聞いた話によると、1回戦が途中までしか終わらず後日開催を行った例もあるそうだ。その後日を学校祭で行う。うーん合理的なのか? まぁ伝統らしいし、モチベ高めて学祭の方が良いんだろうか?
「んでなぜか俺が出ることになるんだけど……。もうなんとなく情報は出てんだよな。誰が出るか」
「えー! 良かったじゃないですか。ひとみお姉様が簡単にボコボコにできやすそうで」
「いろは、貴方は肉壁として活躍なさい」
「与一さんを抱きしめてでも守り通します」
「身内に妨害工作員がいたわね」
「ははは……。んで、おそらくこいつらが出る」
【明晴学園】から4名。
式神【守護霊獣】白虎を使役し、五行全てを収め、対魔薙刀、鬼夜叉を振り回す陰陽師版巴御前と称えられた天才。
蘆屋 緋恋
まごうとなき優勝候補の幼馴染ちゃんである。
特級呪言、言葉によって心を縛り、心によって敵を滅す、和洋折衷の独立陰陽道。情報戦の極致。国家から贈られる称号【傾国】の継承者。
賀茂モニカ。
まごうとなき優勝候補のメスガキママである。
安倍家の未来のホープ、式神【守護霊獣】青龍、玄武を使役し、五行も大学レベル、安倍家には珍しく、銃と刀を使い分け、妖怪【熊野の堕ちた八咫烏】を討伐したとされる、安倍晴明から晴の字を受け継いだ、……天才。
安倍 時晴
まごうとなき優勝候補である。
コネで来た一般人。(試験未通過)
須藤 与一
これは嫌われる。
「今回の件で本来4人目に選ばれる予定だった土御門家は本気でぶちぎれて学校に抗議したが、須藤与一の悪口を言った瞬間代表レベルの土御門家のご子息7人、1人以外全員幼馴染ちゃんによって病院送りになった。復讐や怨恨で動くことは極めて少ないけどここも用心だな」
「あの人イノシシかなにかなんでしょうか?」
イノシシかな? イノシシかも。
【六波羅学園】からは
・小笠原の氷の令嬢、小笠原雹香
・現役の神社の神主になった伏見家の次男。伏見 遊星
・平安陰陽道の再現者、現代六波羅探題本流の常盤家。常盤 夢人
・寺で英才教育を受け暗殺術を仕込まれた東家。東 呉十郎
全員天才だ。
【聖秋欧学園】からは
・現代魔女と呼ばれる西洋の魔術師、シルク・ストロベリー。
・神様に憑りつかれた特殊な村人、姫川 杏子
・トゥス‐クルと呼ばれる巫女、松前 鈴鹿
・陰陽師の下法だけを収集するコレクターの家系、忍坂 義和
これも全員天才だ。
【五星附属術浄学園】
よく分かんない。
どこそこ。みんな知らない。
「んで、これに勝たなきゃいけないんだわ」
「死にません?」
「死にますね」
「みんなそう思ってるよぉ~~~~~。そもそもマジで出たくなかったんだよなぁ。……。よりによって今回の16人、マジでレベルが高いと思うぞ。普通は五大屋敷の面々が出るんだわ。半分安倍とか。だから家につき1~2人しか出てないっていうのは……マジで一大事件だよこれ。土御門いないとか事故よ事故。小笠原も1人だけってマジ? そっか蘆屋も安倍も1人か……。もしかしたら親父……、もしくは宮内庁がなんか察したのか? やばいな。はぁ……マジで死ぬかも」
「まぁ、ご安心くださいな」
すっと、和服の令嬢が立ち上がる。墨を垂らしたような黒い髪が、ちょっとだけ揺れた。小笠原ひとみは微笑んだ。
「私たち、与一さん以外には負けませんので」
場の雰囲気が良くなったところで、すっと須藤いろはが手を挙げた。
「あ、私正体明かせないのでヨロです」
「「……あ」」
そりゃそうだ。みんな知ってたらお食事タイム(意味深)が始まってしまう。そうか、知られずに戦わなければいけないのか。じゃなければ人間全滅しちゃう。
「いや、私の事知ってるのは与一さんと不本意ながらのひとみさんだけで十分なので。レッツ愛の巣夢の国」
「すっげぇー私利私欲だった」
「自己主張が強いんですのよこのペット」
そこまで話が盛り上がってから、銀子さんがお茶を運んでくれた。
……餓者髑髏の花嫁だけで全員蹴散らさなくてはいけないのか。全部人任せでごめんだけどまぁなんとか、なんとかなんねぇかなぁ。