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【神話生物】事件 前編 3

「与一さんのお父様から連絡があったのは昨日です。生活の様子を伺う電話の時に、出てくれないか、と。あ、今日はトイレットペーパー1人2セットまでなので2つよろしくお願いします」


「あいあい。……親父、一体何考えてるんだか。詳しく聞いてないか? 俺には上司からゴリ押しされてとしか」


「私もそうですが……、私にはメリットも伝えられました」


「メリット?」


学校から帰る途中に、俺はひとみとスーパーに寄っていた。


2年生になって、ひとみはどこか大人びた様子になっている気がする。


須藤いろはといる時はそんな事ないが……、まぁ、彼女なりになりたい人間像を目指しているのだろう。


「えぇ。私に関しては与一さんと高校生活を送った後の進路として、どうしても餓者髑髏(わたし)がネックになってしまうので、そこをサポートして貰いながら働く方が良いだろうと。五星局でしか生きてこなかった身でもあるので。むしろそちら関連の仕事を探す場合、トーナメント出場はある種お披露目会として就職活動を有利に出来るやもと。正直戦闘自体は嫌いではないのですよ。ストレス発散の運動みたいなものですし」


「そんなテンションで戦ってたんだ。……就職かー」


そうか。俺も意識してなかったけど、そろそろ進路の時期だもんな。


彼女は先んじて考えてはいたのだろう。親父もそこを意識した交渉をしたに違いない。


「偉いよなぁひとみ。俺何も考えてないし。将来何するか全く分からん……」


「与一さんは、なりたいものは無かったのですか?」


なりたいもの……そんなもの、忘れたよ。……忘れたんだよ。


「今は、あんまりねぇなぁ。結局勉強は得意じゃねぇし、運動、に関しては陰陽術を学んじまったから制限かかってるしな。使えなくても陰陽術を疑われるし。……大学、も……行ったところでなぁ」


「まぁ。与一さんは大学に行くものかと」


「……行くだけなら、まぁできるけど。行って何をするかが、さ」


別に世間体とか気にする人間じゃないし、大学を卒業しないと就けない仕事を目指すわけではない。


正直、どうでもいい、が先に来てしまう。


俺は……何がしたいのやら。


「与一さんは、お巡りさんとか向いてますよ」


ひとみから突然そんな言葉を掛けられた。


「お、お巡りさん? なんでさ。一番向いてないだろそれ」


「だって、いつも誰かを助けようとして物事に突っ込んでいくではないですか。私たちを置き去りにしてでも人助け。……気付いたら、誰か救われてる」


「そ、そんなのなぁ。……偶然、だし。たまたま助けられただけで」


「私は、たまたま救えるのですか?」


にっこりと、ひとみが笑った。


「与一さん。与一さんの良いところは、私がしっかり見ていますから、そう悲観しないで一緒にやりたい事探しましょうね」


……なんというか、彼女の笑顔の前では、何にも勝てない気がするのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




須藤いろはは、気付いたら俺の部屋にいて待っていたらしい。


一度ひとみが部屋に戻ったことを受けて元気よく俺に飛びついてきた。


「うへへー。与一さーん。二人っきりですね。ご飯にします? ご飯になります? それとも、ご飯?」


「常に食される恐怖と戦うハメになる……」


「冗談ですよー冗談! ちゅんちゅん」


彼女が俺のペット宣言をしてから半年が経ったとは思えないほど馴染んできた。


彼女は最初こそ色んな面で困り感を持っていたが、12、3年間俺のことを観てきた成果もあり、徐々に人間社会に適応していった。


今では完全に、人間らしく生きている。


「でもトーナメントなんて大変ですよね。与一さんは戦えるんですか?」


「俺か?いや、無理だろうなぁ……」


無理というか、不可能だろう。


俺は小さい頃剣術を学び木刀を振り回すことはできたが、あくまでボッコ遊びだ。


陰陽術を使用した防御を一切破ることができない。これが致命的すぎたのだ。


「というかいろは。お前なんでトーナメントに参加を? 後ろ突っ立ってるって言ってたけど」


「あー! そうですそうです! 与一さんのお父様から「後ろ立ってるだけでいいよー。与一が勝ったら焼肉食べ放題」って言われたんです! 凄いですよね食べ放題! もうやるっきゃないなって!」


「ひどい」


ひとみには就活に有利と言い、いろはには焼肉をちらつかせる。


親父のやつ、完全に交渉勝つ気満々だったんだろうなと言わんばかりのことを言っている。


「でも与一さんが戦えないなら……、ひとみお姉様の餓者髑髏正妻パンチでボコボコにする戦法ですよね。すごいヤンママ路線待ったなし」


「拳一つで成り上がる花嫁怖すぎるだろ」


いや、全然あり得るが?


相手によってはパンチ1発で沈むぞ。


「ふふふ、でも私一番楽しみなことがあって」


「ん?」


「与一さんの実家に行けることですよ! もう私からしたら聖地巡礼ですよ聖地巡礼! あーここ観たことあるー!って言いたいんですよ絶対!」


「あー……そうね君はそうね」


本当にプライベート全部筒抜けだなこの鳥さん。


そうか。実家に戻らなきゃだもんな……。



……実家、かぁ。


元気してるかな。あの人。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2か月後。



須藤家 実家。



「ここが、与一さんの実家……ご、ごくり」


いろはが息を飲む。無理もない。彼女にとっては聖地巡礼なのだから。俺からしたらただの家だが。



「ふふ。緊張で動けないとは愚かな鳥ですこと。私はお土産を持参しました」


「ぴっ!? そ、そんな! お土産マウントを、高校生の時からできるなんて!」


ひとみはきちんと布で包んだお菓子をちょこんと両手でつまみいろはにアピールをする。彼女も些か……強かに育ったような気がする。


「はぁ。まぁいいや開けるぞ」


陰陽師の家は基本近代和風建築の借家が多い。俺の家も例に漏れない。


家は木造二階建てで、全面にガラス戸。


かなり広く、12メートルくらいはある長い廊下がある。噂によると、一枚板で作られているのではないかとかなんとか。詳しくはないが、陰陽術に関係のない建築技法と聞いた。


横開きの玄関の扉を右にスライドさせると、中で待っていた人が頭を下げた。


「長旅ご苦労様です、与一様。お連れ様も、ようこそいらっしゃいました。お荷物をお預かりいたしますので、こちらにどうぞ」


「あぁ、ありがとうございます。おい行くぞー。……。? おい、二人とも?」


餓者髑髏の連れが目を見開いて、がたがたと顎を揺らす。


そういえば、と鳥の連れがぽんと手を打った。いたなこんな人、みたいなニュアンスで。


ひとみが家のお手伝いさんを指さした。


「め、メイドぉおおおおおおおおお!!!!!???!?」


……。そうか。一般の家庭にメイドはいないもんな。慣れすぎて説明し忘れていた。

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