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【神話生物】事件 前編 1

新章です

「かーれきーに、はーなをー、さーかせーましょー」


少女がいた。


灰を地にばら撒いて、花を咲かせる少女がいたのだ。


「かーれきーに、はーなをー、さーかせーましょー」


何も無い土地だった。


何も生まず、生まれず、ただ地面があるだけだ。


その地面ですら生きていない。


砂漠に近いような、紙の上を地面と言い張っているだけのような、ただ足をつけられる場所を、地面と形容しているだけな気がする。なにせ、そこに生きる虫も動物もいない。


死んだ土地なのだ。


特筆すべきものは一つもない土地だった。


ーー彼女が、灰を撒くまでは。


灰に呼応し、生命が生まれる。


生まれも、環境も関係なく、分け隔てなく、あらゆる種類の華が咲いていた。


そこから木も生え、果物が膨らみ、命が生まれた。


命が産み落とされる。


それはまるで、神の御技のようだった。


「……あ」


少女が声を上げた。


星だ。


星が先ほど流れるのが見えたのだ。


その星に、彼女は未来を見た。


それはかつて、勘解由小路在信が天性の才で使用した技であり、


彼女もまた、天性の才を持って使用した技である。


ただ生まれながらにして特別な彼女は、残念なことに現世を生きていない。


いや。言い方が悪い。


裏世界。地球上には存在せず、地球の影のような人間が認知できない世界に、彼女は唯一の人として立っていた。


裏世界は日本にしか存在しない。


それは、ある意味で悲劇だった。


日本の特色が、風土が、歴史が。


ありとあらゆる神話や歴史、物語、……童話。


それらを全て受け入れてしまったが故に、生まれた世界が裏世界である。


裏世界は本来、とあるものを閉じ込めるための世界だった。世界を使って閉じ込める結界だった。


ーー日本における、この世を終わらせる終末装置。


ゲーム本編における、ぬらりひょんの本当の目的。


「……倒せるのかな」


何かが泣いている。


すすり泣く音だ。


音が聞こえた瞬間、花も木も命も枯れた。


枯れて、枯れて、砂になる。それがまた、紙の上に砂漠を作ったような地面になっていくのだ。


枯れて、枯れて、途中で止まった。


じわじわと領土を奪い合うように、花が咲いている場所と枯れた大地がせめぎ合う。


「……さーかせーましょー」


そして再び、彼女は灰を撒いた。





ーー少女は、本編で本来であれば3周目に出てくる重要なキャラクター。


だが、彼女の姿を目撃した人間はいまだ一人もいない。


彼女は、子孫だ。


童話であり、歴史的事実の偉業を残した大英雄の子孫。


「花咲かじいさん」の、末裔である。







【厄モノガタリ〜花咲き月夜に滅ぶ世界~】

 

3周目第2章「花咲か爺さんが生んだハナサキ」より抜粋


その道は未だ、踏むものおらず。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ティンダロスの猟犬と呼ばれる不死の存在がいる。


それは名の通りの犬ではない。


異次元に巣食う上級の独立種族。


悪夢の具現化のような都市「ティンダロス」に住んでいるとされ、--人に近い知的生命体なのだ。


姿を見た者はいない。


なにせ、その姿を見て生きて帰ったものがほぼいないのである。


「体がない」「いや、体はあった」と記憶すら曖昧にさせる不確かな存在であることは間違いない。


いわゆる、クトゥルフ神話の生物である。


さて、クトゥルフ神話といえど実はこの存在はラブクラフト原作ではなく、その友人であるフランク・ベルナップ・ロング(以下ロングと表記)によって生み出された存在である。


当初は間接的な言及にとどめていたにすぎなかったが、79年に公開されたロングの小説や、TRPGの普及により設定が加え続けられたのである。


例えば、ティンダロスの猟犬は主人公が人狼化することで使役できる、とか。


ティンダロスの猟犬たちには、強力な「王」の個体がいることなどだ。


ティンダロスの猟犬たちは、とある条件を満たすことで追いかけてくる。


なんらかの「過去視」や「タイムトラベル」が発生したことを猟犬に捕捉されてしまうこと。或いは、猟犬の存在を知覚してしまうこと。


それこそが、猟犬に狙われる条件である。


例外としてこの世界では星見や易占は除外される。


スマホのない時代に「将来スマホと呼ばれるものができる」と極めて近い高度な未来の予測をしているにすぎないからだ。


直接的に見た、行った、知ったが特に危険だ。


例えば、そう。


ーー転生で、過去を知っていたり。


ティンダロスの猟犬について、認識してしまうことがあげられる。










ティンダロスの猟犬は非常に醜く、臭く、醜悪な姿とされているが、ある時、悪夢のような世界で美しすぎる個体が発生した。


王ですら霞む戦闘力、そして王をも取りまとめる風格。


女王個体と呼ばれていた。


隔絶された存在、それは通常の神話ですら生まれない、例外的誕生とも言えた。


ーー例えるなら、女王が生まれるほどティンダロスの猟犬が強大な存在になってしまったような。


彼女は時空を超える能力を有したうえで、男を見つけた。


初めて見つけた”それ”は、手出しができなかった。


周囲に強大な存在が多すぎたのだ。


圧倒的な悪意の塊も、全てを守る結界も、ありとあらゆる要素があらゆる猟犬を跳ね除けた。


ティンダロスの猟犬たちは激怒していた。


王たちも手出しができなかったのだから、憎んでいたといっても過言ではない。


そんな、”男”を知り、彼女の脳が刺激された。


知りたい、見てみたい、そして。


ーー殺してやりたい。


この偉大なる種族に並ぶ人間を、食らい、殺し、潰し、奪い、--辱めたい。


執念深く、彼女は男を追い続け、狙い続けた。


まるで、愛のような……錯覚をもって。


そして、詳細は省くが。


何故か強大な力によって、”男”を守る結界に穴が開いた。


彼女はティンダロスの猟犬の猟犬たちに命じた。


男を嬲れ。


男から簒奪せよ。


肉も、精神も、思考も、人格も、記憶も、行動も、明日も、未来も、存在も、空気も、全て食めと。


ーーこうして、事件は起こったのである。


全ては、あらゆる愛の為に。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「っていうシナリオもあったんですけどネ! いやぁー。頼んでよかった。ほらもうティンダロスの猟犬の女王個体もがんばって17分割されてしまえば息も止まるってことなんですねぇ。うわーくっさいなぁ! 」


牢獄の中。


暗く光の一筋もない空間。


不死の猟犬たちは、物理で殺されるはずがないにも関わらず、ただ美しく斬られ死に絶えていた。


それは単なる猟犬も、王も、女王も。


死体は混ぜっ返されたように散乱し、口にする事も憚られるおぞましい体液がまき散らかされている。


倫理観も、道徳も、この閉鎖的な空間には存在しない。


ただあるのは、髪の無く、長い頭をした老人が、日本刀を持って死体の上に座っていたことだけだった。


「なんだ……。年寄を酷使させて。72時間は斬り結んだぞ。ニャルラトホテプ、殺す気か? 俺を」


「滅相も。貴方様を酷く滑稽に冷徹に混沌の赴くまま死んでいただくのが私の使命。この程度の地獄で死ぬのであれば、死ぬ方が悪い。そうでしょう?」


「はぁ……。であるか。なら死体もこの臭い液体も全部処理したまえ。せめて牢屋の中くらい落ち着くひと時を過ごさせろ。これでも虜囚だぞ。あと労われクソボケ邪神」


「ほぉ怖い。……神刀、ですか。それを手に入れてからまぁ敵なしでしょうに。わざわざ牢に勝手に入って」


「--で? どうしてこいつを討たせた?貴様の手の物だろうに」


酷く歪んた笑顔で、ニャルラトホテプは応えた。


「嫌じゃないですか。一応高名なクトゥルフ神話ですよ? 人間と恋愛ラブコメよろしくラブラブちゅっちゅしている高位存在ってほら……気色悪くて。あぁおぞまじいおぞまじい。人間を貶めるはずが人間に誑かされ家畜のごとき発情を見せてくるなど、管理職的にアウトですアウト。……それに、このままだと間違いなくヒロインになるところだったのでネ! 最近、面白い存在を見つけましてね? なんと、(|縺ォ繧薙@縺阪?縺ィにんしきのとり)を捕まえた人間がいるのですよ」


「(|縺ォ繧薙@縺阪?縺ィにんしきのとり)を?」


老人の頭には、言葉が入らず、認識のできない概念が頭に埋め込まれた。しかしそれで老人は理解できたし、それがどういう結末を迎えるのかも心で分かった。


そして、何を捕まえたのか、すぐに忘れた。


反ミームと呼ばれるものを上手く使用した、意思伝達方法だ。


「有り得ぬ、だが、有り得たのか……? 誰が、誰が成した?」


「--。須藤与一」


「……。? ……え? だ、誰だ……?」 


「貴方でも知りませんか、ぬらりひょん。この世界を知り尽くしてしまった、イレギュラーの貴方でも」


「……。その者は」


遂に老人は、顔を上げた。


長い頭が、天秤が傾くように地面に向いた。


「良き人か?」


「えぇ。【ハナサキ】を2つ式神にしているモブ陰陽師です」


「……はぁ……? えぇ……ドン引きだが……」


初めて、ぬらりひょんに人間らしい表情が浮かんだ。


気の抜けた老人のような顔をして、和服の袖で汗をぬぐった。


「はぁ。もう訳が分からん。せめてもっと分かりやすくならんものか。ニャルラトホテプ。お前もシナリオとやらに一家言があるのなら、もう少しまともな筋書きにしてくれ。分かりにくい」


「……。えぇ。でも、賽は既に振られているんですよ。さぁ、老齢の英雄、日本大妖怪ぬらりひょん、そろそろこの牢から出てもらいましょう」


「……」


「世界を、美しく滅ぼすために」


「……。なるほど。で? どこで俺は動く?」


ニャルラトホテプは、指を上に刺した。


「こ、こ♡」

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