【ひとこいし ■■■■■■■】事件 10
「その時、ジャージと、お茶をくれて、指が重なった感動は……、いっ、一生忘れません……、ずっと、ずっと見てたんですよ? 貴方が初めて恋をしたときも、貴方がおねしょをした時も、貴方が何気なく読んだネットニュースのフィラデルフィア実験も、貴方が自慰を始めたのも、貴方が興味本位で見た透明人間のえっちな漫画も、貴方が今まで見てきたエッチな本も映像も、貴方が目覚めて眠るまでの全てを」
「えっぐううううううう!?!?? おま、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! プライベート全部バレてんじゃねぇかよぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!! しゃ、しゃーないやん!!! あるじゃん性欲はさぁ!!! ねぇ!!!!!!」
「--でも、あぁ、イライラする。あの死穢れを纏った餓者髑髏がぁ、ふざけてる……マーキングのつもり……? あんないっぱいこすりつけて……ふざけやがってぇ……っ」
がりがりと、彼女の力が入っていく。
やばい、腕が、折られ……。
「--そして、私。我慢がどうしてもできなくなってしまって」
首に、ぽたりと、彼女の涎が落ちた。
「--食べたい」
「……、えっ」
「今まで人間を食べても満たされなかったお腹が、貴方なら、満たせるような気がして、貴方が近くにいただけで、こんなにもお腹いっぱいだったのに、あ、はは、あはぁ、貴方を食べたい、取り込みたい、--一緒に、なりたい。もう、もう気持ちが抑えられなくてぇ!!! 食べ、食べさせて、ください、もう、もうお腹が空いて、わかんない、満たされてるはずなのに、た、食べたくて、食べたくてぇ!」
「っ」
「だから、ごめんなさい……。いただきます」
そう言って彼女は、顔と顔が触れ合う程度に接近した。
「ごめんな」
俺は呟いた。
「俺は、食べられたくない」
彼女は鼻で笑った。
俺は続ける。
「……そうか。誰もお前のことを知らない、だから誰も認識しない。ひどいもんだ。んで俺は今体を動かせず、陰陽術も使えないから詰みの状態。はぁ。本当にひどい」
「……」
「でもよ、見てたなら知ってるだろ? 俺さ、才能無いんだけど」
俺は、恐慌状態になりながら、無理やり笑った。
「この状況でも何とかできそうな式神と最近契約しましてねぇ!!!」
「えっ、あ、あぁっ!?」
彼女が飛び退く。
「おい、呼んだら急いでくるんだろ?」
俺は心臓を右手で押さえた。
「さっさと走ってこいよぉ!!!来い、【餓者髑髏の花嫁】」
どぷりと、赤い液体が世界から零れ落ちた。
「『あは、あははははは。ふふふふふふふふふ』」
全ての言動が、呪言。
悪意に満ち溢れた、死穢れの塊。
「『ふふふふふふふふ。妻使いの荒い旦那様ですこと。あぁ、あぁ! ようやく知覚出来ましたわぁ!! この、泥棒猫がぁッッッ!!!!!!!!!!!』
世界が割れる。
赤い液体が地面に広がり、彼岸花が一面に咲いていく。
空が割れて、赤い液体が黒々と流れていく。
”彼女”、いや、にんしきのとりが叫んだ。
「が、餓者髑髏ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「『人の男を奪おうとする女には、骨の髄まで教えてあげましょう。私の恋心は、骨太だということを』」
血が付着した白無垢。
左手が白骨化した花嫁。
顔の半分に、骸骨の仮面。
全身から噴き出る呪詛。
「『旦那様、須藤与一の式神【餓者髑髏の花嫁】、ここに』」
世界が、夜に染まっていく。
「すまん、助かった。……その衣装で来るの?餓者髑髏の状態じゃないんだ」
「『ふふふ、どちらも愛してくださいませ。さて。私の異界化でようやく雌猫を認識できているわけですが、--困りましたね。異界化が進みません』」
「どういうことだ?」
「『安倍菫子様の言い分によれば、異界化とは呪力による世界の上塗り。呪力が高い方の世界が塗り替えに成功します。今、彼女の異界と衝突し、お互い50:50でぶつかっています。呪力は対等とお考え下さいませ』」
「うっそだろおい」
ゲームではほぼ即死モンスターだったにんしきのとり、まさか下手したら世界を滅ぼせる餓者髑髏の花嫁と、呪力が対等!?
初見殺しモンスターではなく、実力もまた、異常ってことかよ。
「『かまいません。正妻の制裁を見せて差し上げましょう。--どうやら、向こうも準備を進めているようですし、悠々と、真正面から折って差し上げます。……私を受け入れてくれた旦那様。どうぞ、無条件に信じてくださいませ』」
「……。分かった。頼んだぜ。あいつとはまだ話さないといけない気がするからさ」
「『お優しい方。では、その優しさに勘違いしたおバカさんを窘めてまいりましょう』」
”彼女”は見当たらない。
いつの間にか、存在ごと消滅してしまったような錯覚すら覚える。
しかし、忘れることなかれ。
”彼女”は、放置すれば世界を滅ぼせる力の持ち主である。
――突然、空が飛びたくなった。
でも飛んではいけない。飛んでしまえば”彼女”のテリトリー。無条件で死を迎えるのみなのだ。
あぁ、聞こえる。
あの夕焼けより赤い空から、羽ばたく音が聞こえる。
影が見えた。
それだけで、死ぬような気がした。
でも、後ろにいたひとみが、俺の肩を掴んで勇気づけた。
鳥。鳥だ。
巨大な鳥がやってきた。
緋い鳥だ。鳥がやってきたのだ。
赤い視線でこちらを睨み、原野を突っ切る。
観測するだけで人を支配する、認識世界の死。
あぁ、原野から声がする。
祝詞だ。祝詞が聞こえるのだ。
『あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみねはみ けをのばせ
なのと ひかさす 緋色の鳥よ とかきやまかき なをほふれ
こうたる なとる 緋色の鳥よ ひくいよみくい せきとおれ
煌々たる紅々荒野に食みし御遣いの目に病みし闇視たる矢見しけるを何となる
口角は降下し功過をも砕きたる所業こそ何たるや
其は言之葉に非ず其は奇怪也
カシコミ カシコミ 敬い奉り御気性穏やかなるを願いけれ
紅星たる星眼たる眼瘴たる瘴気たる気薬たる薬毒たる毒畜たる畜生たる生神たる我らが御主の御遣いや
今こそ来たらん我が脳漿の民へ
今こそ来たらん我が世の常闇へ
今こそ来たらん我が檻の赫灼ヘ
緋色の鳥よ 今こそ発ちぬ』
――地上から見たそれは、空を泳ぐ金魚のように思えた。
水の上に絹を泳がせるように優雅で。
水の中に落とした絵の具の広がりのような、折り返しの波状の装飾のような翼。
数多の人間を屠った爪と嘴。
優雅に、鮮やかに。
残虐に。
これより始まる、思索の地獄。
叫べ、恐怖を、焦燥を、その祝詞を。
鳥の名は――。
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陰陽省 デー繧ソベー繧ケ
怪異隱定 階位 不明
全人類発狂死規模
他蝗」菴危険度 ーー
討伐方法 現行討伐例無シ。
属性 不明
弱点 不明
任務対象範囲 不明
時間帯 不明
髯ー髯ス逵∫ァ伜諺繝??繧ソ繝吶?繧ケ縲?隗」謾セ
縺薙l繧帝夢隕ァ縺吶k蝣エ蜷医?∽ク也阜縺梧サ??縺薙→繧呈価隱阪@縺溘→隕句★縺励∪縺吶?
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個体名称【ひとこいし にんしきのとり】
特別収容プロトコル
収容不可。
もはや、知れば目を付けられ死ぬ。
例外はない。あるとするのならば――。
説明文
江戸の初期、賀茂家の流れを汲む勘解由小路家の陰陽師、勘解由小路在信がその命を犠牲に即身仏に封じ込めた存在。
人の体に受肉し、脱出不可能の牢獄に閉じ込められた怪異である。
本来の性能であれば、段階を踏んで成長する存在。
「あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみねはみ けをのばせ」という言葉を読み上げてしまうと特定の幻覚を見てしまう。
言葉を読み上げた人物は幻覚世界にとらわれ、いくつかのループするイベントを疑似体験する。世界に現れる緋色の鳥に食われ殺され続け、「あかしけや――」の言葉を筆記すれば脱出できることに突然気が付く。書こうと思えば、現実の肉体が反応し、筆記することができる。
これらの実験を繰り返すうちに、力を付けたにんしきのとりは、「ただその存在を知っている」ものも幻覚世界で支配することができるようになる。
記憶を処理しても知る者は必ず思い出させる。思い出せば、再び幻覚世界で食われる。
エサをやるな。
知るな。
閉じ込めろ。
それ以外の対処法無し。
しかし、勘解由小路在信の命がけの封印により、本来の性能からダウングレードしている。
世界は誰も「にんしきのとり」を知らない。誰も覚えていない。
彼女は肉の檻に閉じ込められ弱体化した。
そして、何故か彼女を知ってしまった一人の獲物に執着してしまったことで、封印後から人間を捕食せず力を付けていない。
また、その獲物は何故か意識の世界に連れてこれないことで執着を強めてしまう。
封印を自力で解除したことで、にんしきのとりとしての権能をほぼほぼ放棄。異界を発動しなければ、にんしきのとりとしての権能を十全に発揮できない。しかし、それでも十分すぎるほどである。
ただの一度でも力を付けるために動いてしまえば、止められるものなど誰もいない。
世界は、彼女の幻覚によって食われて終わるのだ。
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【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】と【幻想原野夕暮れに落ちる】が衝突する。
呪力が相殺され、世界が揺れる。
「『さぁ、おいでなさい。行進しなさい。あの勘違いストーカー女を蹂躙しなさい』」
その言葉に反応し、丘から、骸が大量に現れる。
骸が、花嫁行列をなし、原野へ行進を始める。
そして先頭の骸骨が原野に入った途端。
高速で飛来した鳥が頭蓋を砕き、その羽ばたきで周囲の骸は吹き飛んだ。
「『なっ』」
ひとみの動揺を無視し、ただ世界を二つに割る様に、にんしきのとりが飛んで、ひとみの頭蓋に嘴を合わせた。
バキンッッッ!!!
衝突の衝撃以外、ひとみは一切傷がない。
むしろ、にんしきのとりの嘴に、ひび。
「縺ェ縲√↑繧薙〒??シ----------」
鳥が鳴いた。
「『……私の白無垢は、骨でできているの。最硬のガードに突っ込んできてくれてありがとう』」
鳥が、”ナニカ”に掴まれた。
「『お返しよ』」
丘から、花冠と花のベールを纏う餓者髑髏が現れる。
餓者髑髏は、鳥を掴み、赤い液体の川に突っ込んだ。
しかし一瞬にしてその手を八つ裂きにして、脱出する。
それどころか、丘から湧き出る骸どもを、一度完全に殺しつくして。
「『……速すぎる、そして、正確すぎる』」
にんしきのとり、彼女のゲーム内での性能の影響か。
能力は、「捕食の為の確殺」である。
必ず殺す。
確実に殺す。
異界に入ったもの、影響を受けたもの、……目撃したもの、知覚したものを殺す、殺意の象徴。
しかし、ここに例外が生じた。
本来、小笠原ひとみにも確殺が適用されたはずだった。
しかし、同等の呪力を持っていた彼女の骨は、物理的に貫けなかったのだ。
そして、最悪の相性である。
「縺?≦縲√∪縺壹>縲ゆク榊袖縺??∽ク榊袖縺??∵漁縺???」溘∋繧峨l縺ェ縺???シ搾シ肴ョコ縺帙↑縺?シ」
(うぅ、まずい。不味い、不味い、拙い、食べられない、--殺せない!)
彼女は人の肉を食った。
骨は、食えない。
魂は食えた。意識の中に住まう鳥だから。
しかし、全て怨霊。
全てが、毒。
加えて。
「縺医?√$縲√$繧上≠縺ゑシ?シ溘??縺ェ縲√↑縺ォ縺薙l縲∽ス薙′縲?㍾縺??√?縲∝瑞縺阪◎縺」
(え、ぐ、ぐわああ!? な、なにこれ、体が、重い、は、吐きそう)
赤い液体に触れたせいで、呪いが積み重なる。
その呪いは死穢れ。
いつか死に至る病。
命を犯す、死への誘い。
「――――――」
鳥が鳴いた。
花が揺れる。
かの世界に咲き誇る極楽鳥花が、美しく。
骸の一つが、行列の骸を襲う。
「『……幻覚? 魂ごと汚染する幻覚剤を、花粉にこめているのですね?』」
鳥が羽ばたくたび、骸が乱れる。
花のゆらぎに、魂ごと壊される。
小笠原ひとみにこれが効かないのは織り込み済みだ。どうせ効かない。
鳥にはもう一つ意図があった。
この花粉を、【須藤与一】に吸わせ、餓者髑髏のコントロールを奪おうとしたのだ。
所詮は人間の式神、須藤与一の指示で混乱させることは可能だったはず。
しかし、ここにまたもう一つの例外が生じる。
「大丈夫だ、ひとみ! 俺に精神汚染に関する幻覚は効かない! 耐性がある!」
「『どういうこと、貴方本当に耐性が強すぎる。生まれつき?』」
「……生まれつき強かった。けど、とある事情でさらにパワーアップしちまって、何も効かなくなったんだよ」
鳥だけは、その過去を覗いていたので覚えがある。
――12歳の頃だ。
陰陽師見習の少年少女たちは、術式を覚えていく。
覚えた術式を訓練でも使うのだ。
しかし、術式の才能無く、肉体のみで勝利できる須藤与一を妬んだ少女がいた。
名を、賀茂モニカという。
「えー! 蘆屋さん、与一くん倒せないの~? ざぁこざぁこ♡」
そう蘆屋の幼馴染を煽っていた彼女だったが、内心は苛立ちを抑えられていなかった。
蘆屋の天才に負け、無能の須藤に負ける。
努力を重ね、賀茂の為に尽力しても、まだ届かない。
それで彼女は、邪法を覚えた。
「食らえ与一くん、好き好きビーム!!!!」
「ぐわあああああ、あ、あ、賀茂、しゅ、しゅき、しゅき♡」
「や、やった! やったぁ!!! 勝ったぁ!!!」
「与一くぅうううううううううん!!!」
術式によるNTRである。幼馴染ちゃんの脳が破壊された。
しかし。
「ぐっ♡ ふんっっっ!!!!」
「うそ、なんで解除できたの!?」
「き、気合いだぜ……うう、胸が高鳴るぅ……」
「与一くん……♡」
何故か幼馴染ちゃんの語尾に♡がついた。
賀茂モニカは腹が立ち暴走した。
「食らえ! 中級好き好きビーム!!!」
「ふんっ!!」
「食らえ! 上級好き好きビーム!!!!」
「ふんっ!!」
「うおおおおお食らえええええ!! 最上級好き好きビーム!!!!!」
「ふんぬぅううううう!!!」
賀茂モニカの術式をことごとく打ち破ったことで、徐々に精神汚染耐性が付いていく与一。
賀茂家ではパニックが起きていた。
「おやめくださいお嬢様! 最上級好き好きビーム(正式名称:禁忌術式第3号言紡ぎ橋姫の縛)ですら陰陽大学レベルの術式、これ以上あのクソガキを倒すために学ぶことに執着されては!」
「うるさいうるさい! 与一くんを倒せないなら意味がない!! そうだ、オリジナルの術式だ、それで、それであいつを倒さないと、倒さないとパパに褒めてもらえない!」
「お嬢様…‥」
そして、暴走した彼女は幼馴染ちゃんとの全ての縁を切り、ただ与一を倒すためだけの戦闘マシーンと化してしまった。
挙句の果てに、オリジナル術式に西洋の悪魔召喚、サキュバスの力を借りてしまった上に、強靭な精神力で耐えきってしまった与一のせいで、せいで? 呪詛返しが発動してしまった。
「……大丈夫か」
「な、なによこれ♡ え、え?♡ やば♡ どうして♡ なによこれぇ!♡」
語尾に♡がつくようになってしまったのだ。
空気を読まない与一は「メスガキじゃん」とつぶやき、今もなおあだ名として定着してしまったのであった。
幼馴染ちゃんはシュークリーム2個で仲直りできた。
なお、賀茂ヨハネ在人はこの呪詛を解除することができたが、反省を促すために放置している。
――鳥は、ずっと与一を通してそれを見ていた。知っていた。
「--縺昴≧縺?繧医?縲りイエ譁ケ縺ッ縺?▽繧ゅ◎縺?d縺」縺ヲ蠑キ縺上↑縺」縺ヲ縺?▲縺溘b繧薙?縲りヲ九※縺阪◆繧ゅs縲∝?縺九k繧医?ゅ□縺九i縲√□縺九i縺薙◎險ア縺帙↑縺??縲」
(ーーそうだよね。貴方はいつもそうやって強くなっていったもんね。見てきたもん、分かるよ。だから、だからこそ許せないの)
鳥が羽ばたく。
骸の乱闘を薙ぎ倒し、再び餓者髑髏の花嫁を襲う。
「遘√?縲√★縺」縺ィ隕九※縺溘@縲∫衍縺」縺ヲ縺溘?ょスシ縺ョ蜆ェ縺励&繧ゅ?∝宍縺励&繧ゅ?∬協縺励&繧ゅ?√°縺」縺薙h縺輔&繧ゅ?√°縺」縺捺が縺輔b縲√▽繧峨&繧ゅ?∵カ吶b縲∫函縺阪℃縺溘↑縺輔b縲∵э諤昴b縲∬シ昴″繧ゅ??裸繧ゅ?∵?縺励∩繧ゅ?∝?驛ィ縲∝?驛ィ蜈ィ驛ィ蜈ィ驛ィ隕九※縺阪◆繧薙□縺」縲√□縺九i縲√□縺九i蠑輔>縺溘?縺ォ縲∬ヲ九※縺?k縺?縺代〒繧医°縺」縺溘?縺ォ??シ?シ√??莠御ココ縺?縺醍衍縺」縺ヲ縺?k髢「菫よ?ァ縺?縺代〒縲∬憶縺九▲縺溘?縺ォ??シ?シ?シ?シ?シ?シ」
(私は、ずっと見てたし、知ってた。彼の優しさも、厳しさも、苦しさも、かっこよさも、かっこ悪さも、つらさも、涙も、生き汚さも、意思も、輝きも、闇も、憎しみも、全部、全部全部全部見てきたんだっ、だから、だから引いたのに、見ているだけでよかったのに!!! 二人だけ知っている関係性だけで、良かったのに!!!!!!!)
鳥が、泣いた。
「遘√?譁ケ縺悟?縺ォ螂ス縺阪□縺」縺溘?縺ォ??シ?シ」
(私の方が先に好きだったのに!!!)
悲しみを帯びた叫びが、世界をつんざく。
「豁サ縺ュ縲∵ュサ縺ュ蟆冗ャ?蜴溘?縺ィ縺ソ??シ√??縺雁燕縺ェ繧薙※縲∵ュサ繧薙〒縺励∪縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺茨シ?シ?シ?シ 霑斐○縲∫ァ√□縺代?荳惹ク?縺上s繧偵?∬ソ斐○縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺茨シ?シ?シ」
(死ね、死ね小笠原ひとみ!! お前なんて、死んでしまえええええええええええ!!!!返せ、私だけの与一くんを、返せえええええええええええええええ!!!)
鳥が、再びひとみの頭蓋を狙う。
「『何を言っているかさっぱり。でも、同じ女として分かります。だから、私からは一言』」
彼女は拳を振りかざす。
呼応して、餓者髑髏も拳を振りかざした。
人間「小笠原ひとみ」と餓者髑髏。
この二つは、別人だけど、ずっと一緒にいた、同じ存在。
だから分かっている。
(餓者髑髏が動けば私も動く)
(私が動けば餓者髑髏も動く)
(――やっぱり、私は餓者髑髏で、餓者髑髏は私なのだ。ずっと、ずっと一緒だったから分かるのだ)
それを受け入れてくれたのは、心優しい、彼だった。
「『恋は、行動ッッッ!!!!!』」
餓者髑髏の拳とにんしきのとりの嘴が、火花を散らしてぶつかり合う。
「『女はっ、度胸ッッッ!!!!』」
餓者髑髏の拳が、前に進んだ。
驚異の二言目である。
「!?」
鳥が驚く。今まで、鳥は戦闘というものを認識したことがない。
勘解由小路在信との戦いすら、エサが歯向かったとしか認識していない。
対等な呪力、対等な威力、対等な異界の相手など、今まで存在しなかった。
戦いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!!!
故に。
怒涛の三言目。
「『貴方が彼を見続けてきた10何年と、私が彼と出会って1、2か月でも紡いだこの気持ち、誰が負けると決めたッッッッッ!!!!!』」
「――――――っあ」
何かが鳴いた気がする。
でも、誰も聞き取れなかった。
その拳は、鳥を打ち抜いた。
鳥は、宙を舞い、地に落ちる。
それ以外の認識を、誰もすることはできなかったのだから。
鳥はまだ生きていた。
生きていたし、立ち上がるつもりだった。
でも、……動けなかった。
理由は、分からない。
でも、動けなかったのだ。
――羨ましかった。怪異なのに。彼に受け入れてもらった、彼女が、どうしようもなく、羨ましかった。
ああ。私は……。
見ているだけだった。
それ以外の思考が、無かったのだ。
俺とひとみが、横たわる鳥の下に駆け寄る。
鳥は、ゆっくりと光に包まれ消えていき、……”彼女”だけが残った。
「『私の勝ちです。今なら生かしてあげます。彼から手を引いてくださいな』」
その声に反応するように、”彼女”は笑った。
「……はは、は……っく、……ぐすっ……そう、だよね……まk、負けちゃって……そりゃ……もう……彼の……っひっく……もとにはぁ……いられぇ……」
泣きじゃくって、地面をたたいた。
「いゃだぁぁぁ……っひっく、ばだれだぐだいぃいぃいいいい、じゅっといっじょじゃなぎゃやだぁあああああああああああ!!! びえええええええええええええええええええええええんん!!!! じゅっどずきだっだのぉおおおおおおおお!!!! いやいやいやぁあああ!!! じゅっどいっじょがいいいぃいいいいいいいいい!!!!!!」
思わぬ、駄々っ子。
「えぇ……?」
「『そ、そんなことあるのね……。いや、えぇ……?』」
「じゅっど、ごどぐでぇ、ざびじぐでぇ、でもあなだがいだからいばばでいぎでごれだのにぃいいい」
「えこれなんて言ってる?」
「『深爪が痛いとか、そんなところじゃないかしら……』」
「びえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんっっっ!!!!」
「えぇ……」
いやいや期を迎えた赤子のように、”彼女は泣いて、泣いて、俺の足に縋ってきた。
「ぼでがいじばずぅうう、ぼうびどりはいゃでずぅうぅぅぅうぅ、ひどりはぁ、一人は嫌なんでずぅうううううううううううううっ、うええええん、うええええええええん、あああああん、うわああああああああん」
「……」
それは。
500年の孤独に耐えた少女の残酷な結末だった。
人でなければ、壊れなかったケダモノの心が、人の体を得たことで壊れた物語。
「『……はぁ。でも私、愛人NGですから。ハーレムエンドとか狙うタイプの人じゃないでしょ旦那様は。諦めなさい。私の夫よ』」
「いや承認してないが」
「『ダメです旦那様。この女は隙あらば閨を共にし、一瞬のスキをついて食べにくる不埒ものです。今までみたいな対等な関係とかだと碌なことがありません。放置安定です。こういうやつが会社の既婚者に「えー奥さんひどくないですかー、私だったらそんなことしないのになー」みたいなことを言うんです』
「だーいぶ俗世に染まったね君」
「『ふんっ! なれても奴隷かペットです。全て言うこと聞いて首輪つけて支配されると言うなら話を聞いてやらないこともないでしょう!』」
――小笠原ひとみは、失言した。
「……ぺっと」
その言葉に、希望を見出してしまった馬鹿がいたのだ。
「ぺっと、ぺっと、なります、ペットになります、貴方のペットにでも、なんでもなります、だから、この人の近くに置かせてください、お願いします、お願いします」
「……。えぇ」
「『えぇ……』」
「……、はい。責任取ったれ」
「『……いやです』」
「おいこっち向けよ。お前が言ったんだから責任取れよ」
「『……。ぐっ、鼻水垂らす女を奴隷にするわけがないでしょう汚らわしい!!! 旦那様のペットになりなさい!! 私の言うことにも絶対服従!!! あーもう!! いいです!! 妥協します!! こんな駄々っ子相手にする方がしんどいです!! せめて気持ちよく殴れる敵にしてください!! なんですかペットでもいいですって!!! もー腹立たしい!!! ぷんぷん!!!』」
しまった、ぷんぷんモードだ。
彼女から”彼女”に話しかけることはもう今日はないだろう。
……お許し、っていうか。
まぁ、助けてやれと暗に言われているのだろう。
「まぁ、ペットかどうかは置いといて。……。そうだなぁ。でも俺ら以外彼女の事を知らないから、生活は困るよな。結局これどうすればいいんだ」
「『……。にんしきのとり、以外の言葉で彼女を縛ればよいでしょう。人間として、彼女を縛るのです。人間、何某と定義づけることで、にんしきのとりとしての認識を避けるのです。本来ならそれだけでは不可能でしょうが、彼女は受肉し、極限まで力を落としている。なら、……、まぁ。失敗したら捨てればいいだけです。万が一にもあり得ません。ですが、……奇跡が、起きるなら』」
「じゃ、奇跡にかけてみっか。言葉で縛る、……そういえば、俺、君の名前知らないな」
”彼女”は首を横に振った。
「名は、ありません」
「じゃあ、俺が名前つけてやるよ。えーっとそうだな。元々浅木さんって呼んでたけど……浅木、あさき」
浅木夢。
あさきゆめ。
……あさきゆめみし。
「……よし!」
そうして、俺は彼女に名前を付けて、式神としての契約を結んだ。
上手くいけば、彼女は人間としての生を謳歌することもできるだろう。
好きなものを食べて、飲んで、生きていけるはずだ。
それはもう、人を食べなくてもよい、素敵なことのはずだ。
異界が崩れる。
現実に戻っていく。
長いようで短い夢が覚めていく。
――願わくは。
奇跡が、彼女を彼女らしく生き永らえさせてくれることを、祈るばかりだ。