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4.女剣士とコンビニ海鮮丼(4) 微睡の中で絆は生まれて

 彼女は刀身を陽だまりに反射させて、煌めかせている。磨かれた剣の腕が奴の体に大きな傷を付けていく。

 懐に入りすぎた際の反撃を気にしたのか。すぐに距離を取った。

 まるで相手が見えているみたい。


「レディア……見えてるのか……起きてるのか?」


 訳が分からず、危機を脱した状況でもあるのに関わらず不安がる俺。そこに見かねた彼女が解説を入れてくれた。


「寝てるよ! 寝てても、風の動きや斬り応え……おなかすいたぁ……音や匂い、そんな感覚が今までの経験のおかげで動けるんだよっ!」


 格好良いセリフの中に一旦、寝言が入った気がする。

 つまるところ、眠っているらしい。眠りながらも潜在意識か、夢の中での感覚か、何かが彼女を突き動かしてくれているらしい。

 彼女は更に相手の首元を飾る花弁を切り落とす。破れた場所が少しずつ再生し始めているところも見逃さず、一発一発で切り崩していく。

 当然、もう片方の前足で弾丸が発射されようとも剣を何度か振って粉々にしてみせる。

 

「でも、何でそんなことができるんだよ……普段寝ながら戦ってんのか?」

「違うよー! 普段は全然動けない! 寝る時はちゃんと寝てるんだよー!」

「じゃあ、何で!?」


 俺の疑問に対し、彼女は少しうなされるような顔をしつつも応答してくれた。


「ショウちゃんの食べさせてくれた海鮮丼のおかげだね! ほら! マグロって寝ながら泳ぐでしょ?」

「はぁ!?」


 なるほど、納得といける訳がない。

 マグロが寝ながら泳ぐことに関しては理解はできる。けれど、レディアが寝ながら動ける理由になりはしない。レディアはマグロではないのだから。

 どういうことか。

 悩みまくる俺にヒントを与えてくれるかのように、彼女は叫び出す。


「海に沈む暗闇の覇者よ。私に力を貸して! 『ダークスラッシャー』!」


 彼女は目前に黒い物体を宙に浮かし、上に斬り飛ばす。その黒い物体に気を取られたのか、人食い花はレディアがいる位置とは全く違う場所に弾丸を打ち出した。

 その隙を狙い、彼女は剣を振るい、そして舞った。踏み込むと言うより、踊り込む。目にも止まらぬ速さで回転しつつ、一つ、二つと剣で直線を描いていく。彼女の斬撃が終わった時には、もう片方の前足が八回も切り裂かれていた。

 ウサギの前足部分全体が煙となって消えていく。これで最大の脅威であった前足の銃口はなくなった。恐ろしい花粉や種子の砲撃はもうできないのだ。

 彼女の力になっているもののことを俺は興奮しながら語っていた。


「八って……イカの足の数だったはず!」

「そっ、あれって、十本あるように見えるけど二本は手なんだよね」

「ってことは、黒いのは、イカ墨ってことでいいのか? 確かタコの墨は敵の鼻をくらまし、自身の姿を隠すけど……イカは墨を(おとり)にして、逃げるんだったよな? それを利用したってことなのか? 食べた、イカを……!」

「よく知ってるね! 私は食べたものからいろんな力を貰えるの!」

「そういうことっ!? だからマグロの力もイカの力も!?」


 イカやマグロの力を得て、ここまで強くなれる少女。ふと、もしも俺が海鮮丼を持っていなかったらどうなっていたのかを想像してしまう。だが、すぐに首を横に振って掻き消した。今以上に恐怖で体を冷やしたくないから。

 その間に恐ろしさが蘇ってきた。彼女は何度も剣を持って飛び掛かっている。攻撃をしているのだが、牙に邪魔されて、とどめの一撃がなかなか繰り出せない。それどころか、見ていて地獄に落ちていくような、生きた心地のしない感覚を味わった。

 ジャキンッと何かが払われた音がする。

 レディアが牙の猛攻に耐えれず、茂みに飛ばされたのだ。全ての衝撃は剣が受けてくれたようで、彼女自身は怪我はないのだが。


「ううっ……結構強いね……!」


 彼女はすぐに立ち上がり、飛び掛かる。しかし、衝撃を牙で跳ね返されるのは分かっている。だからか、切るふりをしてウサギの横を駆けていく。素通りされた敵は一瞬戸惑っているものの、背後から飛んできたレディアの剣に牙を激突させていく。

 それでも、レディアはその衝撃で宙に浮き、ウサギから見て右の地面に着地する。そして更に大きく跳躍。ウサギの背を飛び越えて、反対側から剣の一振りを浴びせてみせる。

 だが。花弁が破れるだけ。

 彼女の剣の振り方も段々とペースが落ちてきている。奴は牙を向けるだけで簡単にレディアの猛攻を受け止めてしまう。

 石を投げて気でも引ければ良いのだが。俺にそこまでのコントロール能力はない。万が一にでもレディアが石に当たってしまったら。当たらなくとも、眠っている彼女の感覚が狂ってしまったら。

 危機が迫る中、レディアはまたも唸り出す。


「うぐっうううううう……」


 本当に(うな)されているよう。


「毒が入ってたよ……まさか私のお弁当に毒が入っていたとは……ぐううう……く、苦しいぃいいいいい!」


 寝言なのか。それとも現実のことを言っているのか。

 その二つを分析して、更にとんでもない状況だと察知した。

 レディアは今、花粉の毒にも蝕まれているのだ。体の中を侵食する毒。それが夢の中にも影響して、悪夢になっているのだ。

 幾ら強い必殺技を繰り出そうとしても、悪夢が邪魔をする。

 このままではジリ貧か。

 なんて思っている場合ではない。レディアが切り崩したはずの前足が再生し始めているのだ。植物の再生能力をきっと、あの化け物自体が所有している。

 再度、花粉や弾丸の攻撃を喰らったら。

 今のレディアが対処できるか分からない。足は動かないが、「どうしよう! どうしよう!」と駆け回りたくなる。

 とにかく俺がしないといけないのは眠りを覚ますこと。


「……食べ物をモチーフにすることができる……ってことは体内に取り入れたものなら何でもいいんだよな……さっき深呼吸したの……風の力だし」


 つまるところ、彼女が起こすことができるポテンシャルのある食べ物。

 起こすイメージが強そうなものがあれば、いいと。


「レディア……!」

「どうしたの!?」

「起きればだいぶ強くなるよな?」

「まぁ、そりゃあ!」

「だったら、これを!」


 あるもののマジックカットをピリッと破る。そして彼女に投げてみせる。当たるかどうか分からない。と思っているものの、彼女は着地地点を予想して飛んでいた。

 これで……良いはずだ!

 彼女の能力が予想通りなら、俺は奇跡が起きるはずだと信じている。

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