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3.女剣士とコンビニ海鮮丼(3) 流るるままに身を任せ

 わさびの袋だけが残った状態。袋の中に弁当の容器を入れて、わさびだけをポケットの中に入れていく。その横で少女はもう勝ち誇ったかのように鼻の下を伸ばしている。女性に使う表現ではないのかも、だが。


「いやいやぁ、もうそりゃあ、こんな敵なんて、簡単に倒せちゃいますよー! なんたって、剣士なんですからぁ」


 もう勝った時に話すべきセリフも喋ってしまっている様子。

 逆に勝てるのか、不安になる位だ。


「ちょい待ちちょい待ち。レディア……ご飯食べただけだよな? 逆に食べたばかりで大丈夫なのか!」

「うん! 沈没船に乗ったつもりでいなさいなっ!」

「えっ、沈んでない!?」

「これ以上、沈むことはないってことだよ! 今の私達には浮上するしかないっ!」


 あまりにも前向きで、そのひたむきな感じ。俺は信じることに決めた。

 後は魔物を探すだけ。あの魔物がいる場所が出口に近いと考えて。

 探索しつつも、彼女の攻撃について聞いていく。


「なぁ……。さっき魔法の剣、使ったよな。風の魔法が得意なのか?」

「いや、そういうのじゃないんだ。私の剣は魔法剣……魔法を直接出しても本職の魔法使いのようには戦えないから……剣に魔法を掛けて戦って強さを補ってるんだ」

「じゃあ、剣に炎を纏えばいいのか……? あいつ、華だし」

「ううん……草が炎に弱いとは限らないんだよ。樹に火を付けたとしても、いきなり燃え上がる訳じゃないでしょ?」

「……例えがやったことがないから、分からんけど……そういうもんか」


 なら、何を手に。そう考えている合間にレディアが不思議なことを口にした。


「それにさっきのご飯が熱々なら、炎のイメージが強いんだけど。海鮮丼だから冷たい感じの方が強いんだよね」


 まるっきり意味が分からない。


「何でさっき食べたものを……」


 聞こうとしたところで彼女の冷たい手のひらが俺の唇に触れた。どうやら「静かに」の合図らしい。小声で指示が飛んできた。


「あそこで……ほら、私達を探しているみたい……」


 奴は一つ茂みの向こうで何度も左右を確認している。こちらを探し、仕留めようとしているのだろう。あのとんでもない魔物ともう一度剣をまじえることになろうとは。

 俺が戦える訳ではないのだが。何だか緊張してしまう。

 レディアはその逆。「ふぁあ」と欠伸なんかして、口に手を当てていた。


「レディア……食べたからか、眠くなってない?」


 彼女はすぐ真顔になって、言い繕ってきた。


「な、なってないよ! 単にあの陽だまりが暖かったから、ちょいとね!」

「結局は眠くなってんじゃねえか……大丈夫かよ」

「バトル中は寝ないよ。終わったら……帰ったら寝るからね!」


 本当かと疑いの目を向けようとした。その前に地面に影が落ちる。何かと思って隣を見やり、森の主が接近していたことに気が付いた。

 レディアと共に咄嗟に後ろに飛んだ。

 ただいきなりの攻撃はしてこなかった。どうやらレディアが一回攻撃した時に体を痛めているよう。すぐ前足を出し、発砲準備をした。

 しかし、レディアは発射された弾丸を素早い剣の一振りで真っ二つに。

 いきなり反撃されたウサギは花弁を回転させてレディアに体当たりを仕掛けていく。ただレディアも剣を横に構え、そのまま突撃する。

 先程の動きとは見違えたかのよう。

 彼女は自身を守るための剣の構えの状態で突き飛ばす。そして奴を大木に衝突させた。そこをレディアが突こうとするも、ウサギの牙が伸びて対抗する。

 シャキンッと大きな音が響き渡り、辺りの鳥が一斉に飛び去っていく。

 牙だけはまだ抵抗できるのだ。その合間に前足がレディアを狙いつつある。レディアはすぐ後ろに飛んで回避しようとしたが。

 またもや花粉の攻撃だ。弾丸なら顔を後ろに逸らしている今のポーズで何とかできたはず。けれども、全体攻撃と言えるだろう花粉の攻撃は避けられない。


「レディア……!? あんだけ……あんだけ言ってたのに!?」


 彼女の顔を確かめた。すると、そこには眠りこけた彼女の姿があった。剣を持ったまま、鼻提灯を作っている。完全に寝ちゃったよ。

 今の花粉、飛んできたところで自身も少し眠気を感じ始めていた。

 花粉。毒や麻痺なんてのもあるけれども。時に人の眠気まで作用させようとは。

 なんて考えている場合ではない。レディアが大ピンチだ。あの状態で攻撃されたら、ひとたまりもない。何とかしなくてはと動こうとするも、こちらの足が動いてくれなかった。

 どうやら花粉は俺の方まで来て、足に作用してくれたらしい。おかげで足がピリピリして動けない。動かせるのは手と口だけ。


「レディア! 起きろっ! 起きろっ!」


 次の弾丸がレディアを狙っている。一発一発が重いためか、チャージのようなものが必要みたいだ。その時間だけ。その時間だけが助かる唯一のタイミング。

 眠っている彼女は逃げられない。

 真正面で打たれたら。

 ただどんなに「起きろっ!」と叫んでも、彼女の目は開かない。

 ならば、鼓舞するのはこちらしかない。


「動け! 動け動け動け! 俺の足っ! 動いて今すぐレディアを助けてくれっ!」


 ただほんの少ししか動いてくれない。痺れだした足を動かすのがとても重い。やっと動かそうとすると、まるで骨が折れそうな痛みを感じるのだ。

 走ったとしてレディアを逃がすだけの余裕はないのだ。

 だけれども。


「嫌だ嫌だ! このままじゃ、レディアが!」


 一緒に俺と美味しいものを食べてくれた人が。

 俺を助けてくれた人が。

 あんなに素敵な笑顔を見せてくれた人が。

 目の前で奴に狩られることになる!


「動けぇええええええええええええええええええええ!」


 砲撃の準備が完了した。

 奴の前足の銃口がレディアの眉間を狙う。

 神様、どうか助けてくれ。これだけ願っているのだから、何か一つは俺の望んでいることが起きてくれ。

 俺の足が動くか。レディアが目覚めるか。

 しかし、神様は無情。

 祈ったことは何一つ起きてくれなかったのだ。

 しかし、神様は退屈をしないことがお望みのようで。


「動けばいいんだよね……寝ながらでも」

「へっ?」


 誰かが言った。

 レディアが喋ったのだ。当然まだ鼻提灯は出ているし、目は閉じている。微かにいびきも聞こえているから、寝言だと思われる。

 発言の直後。

 彼女の額すれすれにあった前足の銃口が斬り飛ばされた。


「微睡の底に落ちようとも、命懸けで這い上がれっ! 進めっ! さながら、海に生きる魂のように! 『スリープランページ』!」

今回はやっと食育必殺技が出ました。「食育必殺技」とは一体何なのでしょうか……?


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